第157話 発想が脳筋なんだよなぁ

 戦闘後、奏はルドラに一応注意することにした。


「ルドラ、建物内では炎の大技なんて使うなよ」


「すまない。戦闘に入ると、つい我を忘れて戦ってしまって・・・」


「あーあ。カーリー、お前もうちょっと手心を加えて育ててやれよ。このままじゃ、自分を省みない戦闘のせいで、お前が復活する前にルドラが死ぬぞ?」


『ぐぬぬ、仕方あるまい。私が復活する前に、ルドラに死なれても困る。善処しよう』


「バアル様、ありがとう」


 カーリーの育成方針が、少しだけ緩められたことに感激し、ルドラがバアルに深々と頭を下げた。


『おい、ルドラ。私のことは呼び捨てで敬意なんて示さないくせに、この女には示すってどういうことだ?』


「奏にも感謝する」


『ルドラ、私は? 私、ここまでたくさん助けたよな?』


 奏にも頭を下げたが、ルドラはカーリーに対して感謝を告げることはなかった。


 どうやら、本当に今日までの間、ルドラはカーリーに余程厳しく扱かれていたらしい。


「奏、連絡先交換」


「わかった」


 奏としても、外国に神器保有者の知り合いがいて悪いことはなかったので、念話機能でやり取りができるようにルドラと連絡先を交換した。


 それから、奏達は先へと進んだ。


 すると、少ししてからモンスターの大群が奏達の視界に映った。


 今までは、通路の地面にしかモンスターはいなかったが、今回は空中に飛んでいるモンスターもかなりいた。


 宙に浮いていたのは、奏が奈落タルタロスで遭遇したウエポンデーモンだった。


 大鎌、斧、剣、棍棒、チャクラムと多種多様なウエポンデーモンがいた。


 地上のモンスターは、スマートで筋肉質な狼男の軍隊だった。


「エリートライカンスロープか」


「ルドラ、俺が空中の敵をやるから、地上を任せた」


「任せろぉ! 【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】」


 グサグサグサッ! グサグサグサッ! グサグサグサッ! パァァァッ。


 ルドラのスイッチが切れ変わり、好戦的な雰囲気になったと思ったら、エリートライカンスロープを次々に串刺しにし始めた。


「やれやれ。【翠葉嵐リーフストーム】」


 スススススッ、スパパパパパァァァァァン! パァァァッ。


 奏はルドラの邪魔にならぬように、空中に群れているウエポンデーモンを一掃した。


 金属製の武器だろうが、奏にとっては関係なく、実にあっさりと空中の敵はいなくなった。。


「【透明腕クリアアーム】【無限収納インベントリ】」


 地上にドロップの雨を降らせぬように、奏は戦利品を素早く回収した。


「オラオラオラァ! 【斬撃突撃スラッシュブリッツ】」


 スパスパスパッ! ダダダダダン! パァァァッ。


 奏の受け持った分は終わったが、ルドラはまだ戦っていた。


 数は地上と空中で変わらなかったはずなのに、ルドラがまだ戦っていたのは、単にルドラの実力が足りないからである。


 それでも、決してエリートライカンスロープの大群を相手に劣勢ではなかったので、奏は加勢せずにルドラの戦闘を見守ることにした。


「無駄無駄無駄ァ! 【斬撃突撃スラッシュブリッツ】」


 スパスパスパッ! ダダダダダン! パァァァッ。


「クハハハハハッ! 【斬撃突撃スラッシュブリッツ】」


 スパスパスパッ! ダダダダダン! パァァァッ。


「なんというか、スイッチが入ったルドラは品性の欠片もないな」


「それな。二重人格を疑うレベルだぜ」


「「はぁ」」


 戦闘を終えるまで、ずっと見守っていた奏とバアルの溜息がシンクロした。


 ルドラがドロップの回収を終えると、奏はルドラに訊ねた。


「ルドラ、【斬撃突撃スラッシュブリッツ】と装備スキル以外にどんなスキルが使えるんだ?」


「【溜行動チャージアクト】だ。溜めた秒数だけ、その次に放つ攻撃にSTRもしくはINTが上乗せされる」


「それはまた、ルドラの戦闘スタイルとはマッチしてないな」


「そうなんだ。せめて、冷静でいられれば、開戦と同時に溜めた攻撃を使えるんだが」


「なるほど。確かに、今の状態じゃ無理か。せめて、戦える従魔でもいれば違うんだろうが」


「従魔?」


「従魔だ。ルドラにはいないだろ?」


「いない。でも、奏にはいるのか?」


「いるよ。ルナ、解除してくれ」


 そう口にした途端、奏の体が光を放った。


 光が収まると、ルナが【憑依ディペンデンス】を解除して奏の隣に現れ、奏にじゃれつき始めた。


「パパ~」


「よしよし。お疲れ様」


「え? どこから? 髪と目の色が? なんで?」


 突然、ルナが現れ、それによって奏が黒髪黒目に戻ったので、ルドラは困惑した。


「紹介しよう。こっちはルナ。俺の従魔だ」


「ルナだよ~。パパの従魔なの~」


「グリフォンが喋った。というか、パパ・・・」


 次々に新しい情報が出たせいで、ルドラは頭から湯気が出そうになった。


「ルナはまだ5歳だ。ワイバーンに襲われてたところを助けたら、懐かれた」


「そんなことが」


「まあ、その辺は話せば長いから今は話さない。俺が言いたいのは、ルドラも従魔を手に入れたらってことだ。そうすれば、突撃ありきのワンパターンの戦闘にならないだろ?」


「なるほど。一理ある」


 奏の言葉を聞き、ルドラは顎に手をやり考え込んだ。


 そして、思い出したように収納袋の中に手を入れ、ガサゴソと探し始めた。


「何やってるんだ?」


「使えそうな物がある。見つけた」


 そう言うと、ルドラは目当ての物を見つけたらしく、収納袋からカードを差し込む穴のある拳大のガラス玉を取り出した。


「ほう、珍しいもん持ってんじゃねえか」


「知ってるのか、バアル?」


「当然だぜ。こいつは呼び出し玉っつーレアアイテムだ。この穴にモンスターカードを差し込むと、そのモンスターが蘇る」


「そういうことか。じゃあ、ルドラはここに従魔にしたいモンスターのカードを差し込んで、蘇らせたいのか」


「正解。蘇らせて、力づくでも従魔にする」


「発想が脳筋なんだよなぁ」


 奏達は周囲にモンスターがいないことを確認してから、呼び出し玉で蘇らせるモンスターの選定作業に入った。


 ルドラの所有するモンスターカードから、最もルドラと相性の良さそうなモンスターを選ぶのである。


 ルドラは収納袋から、今持っているモンスターカード全てを取り出した。


「奏の意見も聞かせてほしい」


「わかった」


 ルドラが奏に見せたモンスターカードは、かなりの枚数があったので、ルドラはどれが良いかわからなくなってしまった。


 これも、カーリーを復活させるため、ルドラがひたすらモンスターを狩りまくったからだろう。


 その中から、奏はいくつかめぼしいモンスターカードを選んだ。


 アラクネ、オルトロス、ザントマン、ワイバーンの4種類である。


「奏、選んだ理由は?」


「アラクネは糸を使った敵の拘束、オルトロスは前衛兼移動手段、ザントマンは眠らせるとかの補助、ワイバーンは移動砲台として選んだ」


「ムムム」


 奏から選定理由を聞くと、ルドラは真剣な表情で考え込んだ。


 どのモンスターを選んでも、奏の言う通り確かに役に立つと考えたからである。


 アラクネならば、敵を動けなくさせたところに、自分が【溜行動チャージアクト】で強化した一撃を放てる。


 オルトロスなら、そもそも時間稼ぎに戦ってもらえるし、オルトロスに乗って移動できるのはとても楽である。


 ザントマンは、直接攻撃するようなスキルはなかったが、敵を眠らせられれば安全に自分が【溜行動チャージアクト】で強化した一撃を放てる。


 ワイバーンなら、移動砲台として役に立つだけでなく、空も飛べる。


 しかし、考えるべきは従魔にした時のメリットだけではない。


 召喚士サモナーと違って、必要な時だけ力を借りれば良いのではなく、助けてもらう代わりに食事の世話をしなければならないのだ。


 奏の場合、双月島にはモンスの実が大量にあるし、世界樹の果実もあれば、奏が【創造クリエイト】でルナの好きな食事を用意できる。


 従魔の主になるためには、パフォーマンスだけでなくコストも考慮しなければいけないので、ルドラは悩んだ。


 悩んだ結果、ルドラはアラクネのカードを手に取った。


「それで良いのか?」


「ああ。アラクネだって、移動手段になる。戦後でも、糸は色々使える」


「なるほどな。ルドラが決めたなら、俺がこれ以上何も言うつもりはない」


「ありがとう、奏」


 奏に礼を言うと、ルドラは呼び出し玉の穴にアラクネのモンスターカードを挿し込んだ。


 すると、呼び出し玉が光を放ち、奏達を光が包み込んだ。

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