第154話 カーリーがカレーランプなんて、神器のチョイスはギャグ?

 奏達が秋葉原の支援を行った翌日、朝食後の食休み中に、紅葉に掲示板の世界交流スレを見てと言われ、奏はバアルと一緒に掲示板を見た。



◆◆◆◆◆


世界交流スレ@37


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◇◇◇◇◇


151.アメリカの舞踏家ダンサー

 もう、やってらんないわ!

 倒しても倒してもモンスターが減らない!

 グローステンタクルスなんて、大っ嫌い!


152.イギリスの騎士ナイト

 女性が触手にやられるなんてことは、許してはおけない

 紳士的に助けに行きたいが、こちらもインフェルノウルフに苦戦してて行けそうにない

 許しておくれ、レディ


153.エジプトの死霊術師ネクロマンサー

 ナイル川の上流に、俺にとって鬼門の滅茶苦茶強い悪魔がいた

 フェネクスは何度でも蘇る

 だから、殺して従魔にできない・・・


154.ドイツの狙撃手スナイパー

 ベルリンの壁が復活したと思ったら、ベルリンゴーレムってどういうこと?

 あれ、めっちゃ横にデカいんだけど


155.フランスの戦士ファイター

 凱旋門に張り付いた悪魔がマジで強い

 高い所から狙撃しやがるから、こっちはなかなか近づけねえ

 しかも、撃たれた部位が腐るから、当たったら回復するのも難しいしよ

 勘弁してくれ


156.中国の修道士モンク

 蛟が強過ぎて倒せないアル!

 ドラゴンなんて、簡単に倒せる訳ないネ!


157.ロシアの傭兵ハイランダー

 ジャバウォックに、同胞が皆殺しにされた

 クソッ、良い奴から先に死ぬ・・・


158.インドの弓騎兵ボウナイト

 ミノタウロスの背中に翼の生えた悪魔が、配下を連れてタージマハルをダンジョン化した

 タージマハルから、モンスターの大群が常に吐き出されてる

 殺された仲間は、骨すら残らず、悲鳴が止まない

 ここは地獄だわ


◆◆◆◆◆



 ここまで読んで、奏は世界交流スレを閉じた。


 正直、どの国の冒険者も酷い状況にあり、悪い情報だけが載せられていた。


 日本のように、スムーズにモンスターが討伐されるということは、国外ではないらしい。


「紅葉、読んだけど、何が言いたいんだ?」


「私が気になったのは、158のインドの弓騎兵ボウナイトの投稿よ。バアルさん、ソロモン72柱のザガンって、ミノタウロスの背中に翼が生えた感じじゃない?」


「言われてみりゃ、確かにそうだな。でも、それがどうしたんだ?」


「私、ソロモン72柱のこと調べたんだけど、ザガンって悪魔の王の1体よね?」


「そうだが、まさか、紅葉の姉ちゃんはザガンと戦いてえのか?」


「戦いたいとは言わないけど、どこの国に脅威となるモンスターがいるのかは把握しておくべきじゃない?」


「そりゃまあ、知っといて損はねえだろうな」


 その時、奏とバアルの耳に伊邪那美の声が届いた。


『突然ですまぬが、此方からも奏にお願いがあるえ』


「確かにいきなりだな、伊邪那美。そのお願いっていうのは、紅葉の話に関連するのか?」


 奏に伊邪那美のが話しかけたと理解すると、バアルが紅葉に手で黙るようにジェスチャーで指示を出した。


『バアル、感謝するえ。正確には、此方の頼みというよりは、ガネーシャの頼みだえ。ガネーシャが話をしたいそうだから、【売店ショップ】を使ってほしいえ』


「わかった」


『助かるえ。奏は素直で良い子だえ。では、失礼するえ』


 伊邪那美の声が聞こえなくなると、奏は伊邪那美に頼まれた通り、ガネーシャと話すことにした。


「【売店ショップ】」


 ブブッ。


 電子音が聞こえると、奏の前にガネーシャが映る画面が現れた。


『いらっしゃ~い。って、ことじゃないわね。ありがとう、奏。伊邪那美からの連絡を受けて、すぐに【売店ショップ】を使ってくれたのね』


「まあな。ガネーシャ、回りくどい話はなしにしてくれ。要件はなんだ?」


『端的に言うと、インドのタージマハルに巣食ったザガンを倒してほしいの』


「なるほど。だから、紅葉の話の途中で伊邪那美経由で話しかけて来たのか」


『その通りよ。タージマハルをザガンに抑えられてたら、いつまで経ってもインドはモンスターの脅威から解放されないわ。あそこを人類が取り戻せれば、神域は無理でも聖域にすることはできるの』


「・・・もしかして、俺にとってのバアルみたいに、インドにも神器を持った冒険者がいて、そいつのワールドクエストが進めば、タージマハルが聖域になる?」


『奏のような勘の良い子は好きよ。話が早くて助かるわ』


 ガネーシャがにっこりと笑うと、そこに楓が割って入った。


「駄目です! 奏兄様は私と悠のものです!」


『あら、ごめんなさい。別に、奏に色目を使った訳じゃないわ。事態はもう、かなり深刻な状態で、長話してる余裕がないのよ。だから、奏が話を端折らせてくれたから、感謝しただけ』


「・・・それなら良いです」


 そう言いつつ、まだ完全に警戒を解いておらず、楓は奏の腕をギュッと抱き締めた。


 今度は、今まで黙っていたバアルが口を開いた。


「ガネーシャ、インドの冒険者が手に入れた神器はどいつだ?」


『カーリーよ。神器はカレーランプね。今は、剣の姿になってるわ』


「カーリーがカレーランプなんて、神器のチョイスはギャグ? バアルのバール然り、ヘラのヘラ然り、迦具土の金槌トンカチ然り」


「『・・・』」


 奏の疑問に対し、バアルもガネーシャも無言で目を逸らした。


 ついでに言えば、この場で人型になっているヘラと迦具土も目を逸らしていた。


 どうやら、神自身も改めて指摘されると、目を背けたくなる恥ずかしさらしい。


「まあ、それは良いや。まあ、ガネーシャには、いつも【売店ショップ】で世話になってるから、そのお礼をするのは構わない。だが、インドで目立つのもなぁ・・・」


「奏、それは俺様が解決できるだろ? ルナに【憑依ディペンデンス】を使ってもらって、俺様と奏だけで行けば、ザガンを暗殺できるぜ?」


「なるほど。ガネーシャ、ザガンを倒すにあたって、何か制限とかはないよな? 後付けで抗議クレームが入るのは嫌なんだ」


『特にないわ。タージマハルがダンジョンになった今、ザガンさえ倒してくれれば、タージマハルは元通りになるから、壊してもらっても構わない』


「それを聞いて安心した。じゃあ、ガネーシャの依頼を受けよう」


『ありがとう。私からも、ちゃんと報酬は用意しておくわ。それじゃ、お願いね』


 ブブッ。


 電子音が聞こえると、【売店ショップ】が解除されてガネーシャの映る画面が切れた。


 話がまとまると、楓が心配そうな表情で奏を見上げた。


「奏兄様、無事に帰って来て下さいね?」


「わかってる。ベリアルと同程度なら、問題ない。夕食までには絶対に帰るよ」


「出た、奏君の絶対予告I'll be back


「紅葉、ちょっと黙っとけ」


「ブーブー。私がきっかけのはずなのに、扱いが酷いわ」


「紅葉お姉ちゃん、ハウス」


 紅葉が茶々を入れるので、楓が犬を躾けるように言った。


 ヤンデレ状態まではいっていないが、奏と2人だけの空間を演出しようとしたところを邪魔され、楓はムッとした表情だった。


 楓にヤンデレを再発されては困るので、紅葉はすぐにおとなしくなった。


「ルナ、行くから準備してくれ」


「は~い。【憑依ディペンデンス】」


 ピカッ。


 ルナがスキル名を唱えると、翠色の光がその場を包み込んだ。


 光が収まると、そこには髪が翠色に、目は金色になった奏の姿があった。


「用意できたみてえだな。奏、行けるか?」


「ああ。あっちに着いたら、バアルは認識阻害頼むぞ」


「おう、任せろ」


「よし。【転移ワープ】」


 奏がスキル名を唱えると、奏とバアルの姿が神殿内から消えた。


 そして、奏とバアルは瞬きする時間で、日本の双月島からインドのタージマハル上空まで移動していた。


 奏達が地上を見下ろすと、インドの冒険者達がモンスターの大群と戦っていた。


 インドの冒険者達は劣勢であり、徐々に追い詰められていた。


「駆け付け一発! 【聖爆轟ホーリーデトネーション】」


 ピカッ、ドガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァン! パァァァッ。


 轟音とともに、奏は冒険者達から遠い位置で待機していたモンスターの大群を一掃した。


 それに驚き、隙を見せたモンスター達に対し、冒険者達は反撃を開始した。

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