第150話 最高かよ。世界が俺に寝ろって囁いてるじゃん

《おめでとうございます。個体名:高城奏は、奈落タルタロスのボスに完封勝利しました。その特典として、<伊邪那美の祝福>を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、奈落タルタロスのボスを倒したことで、奈落タルタロス内部のモンスターが消滅し、日本のモンスター討伐率が100%になりました。それにより、伊邪那美が日本にモンスター避けの結界を張ることに成功しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏は、伊邪那美の願い通り、日本のモンスター討伐率を100%にしました。その報酬として、双月島の神殿に天界製のダブルベッドが送られました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、ベリアルからソロモン72柱の情報を引き出しました。その報酬として、念話機能の対象範囲が世界に拡大されました》


 神の声が止むと、奏はバアルに訊ねた。


「バアル、俺の聞き間違いか? <伊邪那美の祝福>って聞こえたんだが」


「奇遇だな、奏。俺様にもそう聞こえた。というか、聞き間違いじゃねえよ。あいつ、マジで奏を気に入ってやがる。あいつが祝福を与えるなんて、ヤマトタケル以来だぜ?」


「・・・厄介事の臭いがプンプンしてきたぜ」


「それな」


 奏の意見に対し、バアルは完全に同意した。


「ちなみに、伊邪那美がくれた祝福には、どんな効果があるかわかるか?」


「任せろ。・・・えげつねえな、こりゃ」


「なんだ? 何がわかった?」


「日本にいる限り、全能力値が2倍になる。しかも、伊邪那美と直接話せるようになる。多分、前半の効果よりも、後半の効果を奏に与えたかったんだろうな」


「ん? なんで?」


「そりゃ、我が子と直接喋りてえって思ってるからだろ」


 その瞬間、奏とついでにバアルの耳にこの場にいない者の声が届いた。


『その通りだえ』


「この声、神の声じゃん」


「あっ、言い忘れてたな。日本人冒険者が聞いてる声は、伊邪那美のサンプリングされた声を組み合わせて流されてるんだぜ。しかも、違和感が生じないように、滑らかに話してるように再生してるんだ。すげえだろ?」


「無駄に洗練された無駄の無い無駄な技術だな」


「そう言うなよ。ちなみに、他の国だと他の国の神の声が再生されるんだぜ。すげえだろ?」


「はいはい」


 ドヤ顔のバアルに対し、奏はサラッと流した。


『そうだえ。今は此方が奏とお話する時間だえ。バアルは黙っておくえ』


「おい、伊邪那美。その言い方はどうなんだ? 奏は俺様が育てたんだぞ?」


「育てられてはない。力は借りたが」


「細かいことは気にすんな。それよりも、伊邪那美、ここまで俺が仕上げた奏を掻っ攫おうってのか?」


『そんなつもりはないえ。此方はただ、奏を労いたいだけだえ。だから、ちゃんと天界製のベッドは、奏の寝室に設置済みだえ』


「お、おう。確かに労ってるな、それは」


 奏が気にしている天界製のベッドを、奏の寝室に準備している辺り、伊邪那美が本気で奏を労っていることが理解できたので、バアルはたじろいだ。


「伊邪那美、ちょっと良いか?」


『何かえ?』


「天界のベッドって、どんな寝心地なんだ?」


「そこかよ!? 質問することはもっと他にあるだろ!?」


「ない! 俺が連日ダンジョンに挑んだのは、天界のベッドを手に入れるためだからな!」


「はぁ・・・。忘れてた。これが奏だった」


 全く迷いの感じられない目で、奏は言い切ったので、バアルは溜息をついた。


『寝心地かえ? 思わず、伊邪那岐と国を作ってしまうぐらい最高だえ』


「お前も真面目に答えてるんじゃねえぇぇぇぇぇっ!」


 バアルのツッコミが、ボス不在のボス部屋に響いた。


 普段、率先してツッコミをするようなキャラではないが、この場にツッコむ者がいないため、バアルがツッコむしかなかったのだ。


 その時、奏の体が光を放った。


 光が収まると、ルナが【憑依ディペンデンス】を解除して奏の隣に現れた。


「パパ~、勝ったね~」


「ルナ、お疲れ様。助かったぞ」


「エヘヘ♪」


 もう出て来ても良いと思い、この場に姿を現したルナが奏に頭を撫でられて幸せそうな表情を浮かべた。


『ふむ。奏よ、此方の声はルナには聞こえないえ。此方の代わりに、ルナに礼を言ってほしいえ。此方の感謝を伝えてほしいえ』


「わかった。ルナ、伊邪那美って神様もルナに感謝してるってよ」


「神様? バアル姉ちゃんと同じ?」


『バアル姉ちゃん? バアル、其方はそんな気やすく呼ばれているのかえ?』


「おう。ルナは怖いもの知らずだぜ。まあ、俺も畏れ敬われるだけよりも、砕けた感じで接してもらえた方が嬉しいから、このままにしてる」


『ふむ。それもまた、其方等の絆によるものだえ。此方は尊重するえ』


「そうかよ。そりゃどうも」


 傍から見ると、バアルが誰と喋っているのかわからないので、ルナは奏に訊ねた。


「ねえ、パパ。バアル姉ちゃんは誰と話してるの? エア友達?」


「エア友達じゃねえよ! 俺様をぼっちみたいに言うな! 大体、奏だって同じだろうが!」


「パパは良いの」


「良いのかよ!?」


 なんという理不尽な奏贔屓だろうか。


 バアルはガックリときてしまった。


『奏よ、昨日今日と此方の希望を叶えてくれて感謝してるえ。今日はゆっくりとベッドを堪能してほしいえ』


「言われなくてもそうさせてもらうさ」


『此方としては、楓とどんどん子供を作ってほしいえ。日本は今、1か月前の1/3にも満たない人口になってしまったえ。其方等の子供なら、大歓迎だえ』


「ま、前向きに検討する」


『うむ。楽しみにしているえ。では、今日は失礼するえ』


「ああ」


 まさか、伊邪那美から子供を増やせと言われるとは思っていなかったため、奏の顔は引きつっていた。


 奏としては、無理に意識することなく、自然に授かるのが子供であるという意識だったので、なんとも言えない表情になるのも仕方ない。


 きっと、伊邪那美と楓は、奏の子供をたくさん増やす点において意気投合するだろう。


 その機会は、今のところないはずだが、奏は伊邪那美と楓に話をさせたくないと思った。


 それから、奏はそんな考えを取り払うように顔を横に振り、宝箱を開けることにした。


 宝箱の中には、オルゴールが入っていた。


「バアル、これ何? ただのオルゴールじゃないよな?」


「へぇ、良い引きじゃねえか。そりゃ、マジックオルゴールだぜ」


「頭にマジック付ければ良いと思ってんの?」


「俺様に言われても困る。命名したのは俺様じゃねえんだからよ。そいつはな、使用者の脳波をキャッチして、使用者がリラックスできる曲を流してくれるんだ。しかも、使用者が眠ったら、ちゃんと曲の演奏が終わる優れものだぜ」


「最高かよ。世界が俺に寝ろって囁いてるじゃん」


「いや、偶然だから」


 自分のコメントがバッサリと切り捨てられたが、奏は大して気にしなかった。


 というよりも、マジックオルゴールを使って寝ることで頭がいっぱいで、バアルの言葉が耳に入らなかったという方が正しいだろう。


 それから、もうこのボス部屋には用がないので、忘れ物がないことを確認すると、奏達は転移陣の上に乗り、奈落ダンジョンから脱出した。


 奏達が外に出ると、奈落タルタロスが光を放ち、内部にいた冒険者達が一斉に外に放り出された。


 そんな中、奏は紅葉のパーティーを見つけると、騒ぎになる前に【転移ワープ】で双月島の神殿へと帰った。


 神殿に到着すると、楓が奏を走って出迎えた。


「奏兄様、おかえりなさい!」


「楓、ただいま」


「奏兄様、お昼の準備はできてます。その後はお昼寝で良いですか?」


「完璧だ! 流石は楓! 俺のことをよくわかってる!」


「当然です。奏兄様の奥さんですから」


 奏は段取りをしてくれた楓に対し、嬉しくなって抱き締めた。


 奏から抱き締めてもらえて、楓は満足そうに笑っている。


 その様子を見て、紅葉は戦慄した。


「楓、やるわね。嫁度が上がってるわ」


「紅葉、それは誰目線で言ってるの? 小姑?」


「はっ、しまった。無意識に小姑になってたわ」


「駄目だこりゃ」


 紅葉と響が喋っていると、バアルが2人に声をかけた。


「紅葉の姉ちゃん、響嬢ちゃん、早く行かねえと、奏達が昼飯を食い始めちまうぞ?」


「「え?」」


 バアルに言われ、周囲を見回した2人は、奏と楓の姿がないことに気づいた。


 そして、奈落タルタロス探索でお腹を空かせていたので、食べ損ねては困ると神殿の中に走って行った。


「やれやれ。これから奏が、寝放題ライフに入れるのかねぇ?」


 日本から、従魔や友好的な者を除くモンスターが姿を消したが、世界にはまだモンスターが跋扈している。


 その事実を理解しているので、バアルは奏が少しでも早く望みを叶えられるように心の中で祈った。 

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