第148話 こんな世界になっても、俺は社畜なのか!?

 地下6階層に行くと、奏は暗くなったように感じた。


 それもそのはずで、壁に掛けられた松明の数が減っているからである。


 また、奏が気にする点は他にもあった。


「なんで武器が散らばってるんだ?」


「奏、落ちてる武器全部が悪魔系モンスターだぞ」


「え?」


「ウエポンデーモンっつー武器に憑依するモンスターだ」


 カタカタカタッ。


 バアルに正体を見破られた瞬間、ウエポンデーモン達は一斉に宙に浮かび上がった。


 当然、ただ浮かんでいても仕方がないので、すぐに奏へと突撃し始めた。


 しかし、奏が慌てることはなかった。


「【翠葉嵐リーフストーム】」


 スススススッ、スパパパパパァァァァァン! パァァァッ。


 金属製の武器だろうが、奏にとっては関係なかった。


 ルナが憑依し、INTの数値が異様に上がっている今なら、ちょっとやそっとの硬度なんて関係なく破壊できる。


 実際、たった1回の【翠葉嵐リーフストーム】でウエポンデーモン達は全滅している。


 ウエポンデーモン達は、魔石だけでなく、モンスターカードもドロップした。


「バアル、最近モンスターカードのドロップ率が高い気がするんだけどなんで?」


「そりゃ、奏とルナのLUKの数値が合算されてるからだろ。そうでもなきゃ、ドロップ率の低いモンスターカードがポンポンドロップするかよ」


「そういうことか」


「そういうこった」


 とはいえ、モンスターカードもバアルが神器だった時でなければ、奏にとっては大して必要なものでもない。


 天叢雲剣は、モンスターカードを吸収するような武器ではないからだ。


 使い道と言えば、紅葉が合成の素材にするか、【売店ショップ】の交換に使うか、いつ遭遇するかわからない千里との交換である。


 とにかく、今すぐに使うことはなかったので、奏はまとめて【無限収納インベントリ】に収納した。


 そして、回収が終われば、この階層では奏に用事はない。


「次行くぞ。【聖橙壊ホーリーデモリッション】」


 キュイン、ドゴゴゴゴゴォォォォォン!


 地下7階層へと続く穴をこじ開けると、奏とバアルはすぐに穴の中に入った。


 地下7階層に入ると、そこには黒山羊の頭部とカラスの翼を持つ悪魔系モンスターが待ち構えていた。


「バフォメットだ」


「俺でもわかる。確か、キリスト教で有名な悪魔だっけ?」


「そんなもんだ」


 奏とバアルが話していると、そこにバフォメットが割り込んだ。


「よくぞここまで来た。ふむ、良い体をしてるではないか」


「「は?」」


 突然、意味のわからない発言をしたバフォメットに対し、奏とバアルの反応がシンクロした。


「我の我が、お主の尻を求めておる」


「・・・下ネタじゃねえか」


「気を付けろよ、奏。あいつ、両性具有だから、両刀使いだぞ」


「あぁ、その引き締まった尻に、早く我の我を突っ込みたい」


「マジ引くわ。【世界停止ストップ・ザ・ワールド】」


 その瞬間、奏以外の全てが灰色になった。


 これ以上、バフォメットに何も喋らせないためには、必要な措置だった。


「【技能付与:スキルエンチャント<蒼雷罰パニッシュメント>】」


 バチバチバチバチバチィッ!


 奏が自らの貞操の危機を感じ、バフォメットに対する殺意を過剰に込めたせいで、天叢雲剣に付与された蒼い雷が普段よりも鋭い。


「死ね」


 スパパパパパァァァァァン! ズドォォォォォォォォォォン! パァァァッ。


 一刀両断するだけでは足りず、蒼い雷で伸びた刀身が、【刀剣技ソードアーツ】によって洗練された動きで、バフォメットの体をバラバラな肉片に変えた。


 そして、バフォメットだった数多くの肉片それぞれに蒼い雷が移り、黒焦げになって消滅した。


 すると、魔石とモンスターカード、宝箱が出現し、奏は【世界停止ストップ・ザ・ワールド】を解除した。


 奏のスーパー虐殺タイムが終わり、世界に色が戻るのと同時に、奏達の耳に神の声が届き始めた。


《奏は<悪魔滅殺師デーモンスレイヤー>を会得しました》


《奏の<竜滅殺師ドラゴンスレイヤー>と<悪魔滅殺師デーモンスレイヤー>が、<英雄ヒーロー>に統合されました》


 神の声が止むと、奏は地面に四つん這いになった。


「・・・やっちまった」


「おいおい、奏、すげえ称号を手に入れたのにどうしたんだよ?」


「こんな世界になっても、俺は社畜なのか!?」


「いやいや、社畜じゃなくて、<英雄ヒーロー>だからな?」


「この前言ったよな? 英雄と勇者=世界の社畜だって」


「あぁ、そういえば言ってたわ」


 奏が凹んだ理由に思い当たり、バアルは苦笑いした。


「<英雄ヒーロー>になんてなりたくない。1日中、ベッドでゴロゴロしていたい」


「まあまあ、落ち着けよ。考え方を変えてみろ。悠が物心ついた時、父親が<英雄ヒーロー>だって知ったら、きっと喜んでくれるぜ?」


「そりゃ、テレビがあった頃なら、ニチアサのヒーローに憧れてくれたかもしれないけど、そもそも今はテレビなんてないだろ?」


「テレビなんかのフィクションじゃなくて、マジモンの力を持った<英雄ヒーロー>だぜ? 悠もカッコイイって言ってくれるんじゃね?」


「そうか?」


 自分の性格からして、<英雄ヒーロー>なんてものじゃないと思っているので、奏はバアルの言い分に対して懐疑的だった。


「そうだよ。それに、既に<覇皇>持ちだし、皇族の血も引いてるってわかってるんだから、今更<英雄ヒーロー>を会得したって、影響は誤差みたいなもんだ」


「うぐっ、否定できねえ・・・」


 バアルに核心を突かれ、奏は<英雄ヒーロー>の称号の保持に抗うのを止めた。


 いつまでもうじうじしてたところで、非生産的なことこの上ないので、奏は気持ちを切り替えた。


「バアル、<英雄ヒーロー>の効果は?」


「竜系、悪魔系モンスターとの戦闘時に、全能力値が3倍になる。それに加えて、誰かを助けるための戦闘なら、更に全能力値が2倍になる」


「ぶっ壊れ称号だな」


「そりゃ、<英雄ヒーロー>だからしょうがねえよ。そんなホイホイ与えられる称号じゃねえんだ。帳尻はどこかで合わせられてるさ」


「そうだろうな」


「まあ、強いて言うなら」


「なんだよ」


「伊邪那美が狂喜乱舞してんじゃね?」


「Oh・・・」


 正直、伊邪那美の顔を見たこともない奏だったが、バアルに言われて天界のベッドを手に入れた時、伊邪那美からの手紙がセットで付いてくる気しかしなくなった。


 それから、奏は立ち上がり、魔石とモンスターカードを回収し、宝箱を開けた。


 そこには、頑丈そうな漆黒の大剣があった。


「アダマンタイト製だな」


「悪魔系モンスターに効くの?」


「オリハルコンやミスリルのように、苦手とする訳じゃねえな。けど、そもそもがめっちゃ硬い金属だから、悪魔系モンスターの体をバターを切る感覚で使えるぜ」


「そうか。使わないけど、貰っとく。【無限収納インベントリ】」


「そうしとけ」


 天叢雲剣がある限り、出番はなさそうだと思いながら、奏はアダマンタイト製の大剣をしまった。


「先を急ごう。【聖橙壊ホーリーデモリッション】」


 キュイン、ドゴゴゴゴゴォォォォォン!


 地下8階層へと続く穴をこじ開けると、奏とバアルはすぐに穴の中に入った。


 移動した地下8階層には、珍しくモンスターが待ち構えていなかった。


「あれ、なんで何もいないんだ?」


「さあな。他の階層とは、この階層だけ趣旨が違ったんじゃね?」


「そんなこともあるのか」


「あるんだろうぜ。俺様だって、なんでも知ってる訳じゃねえ」


「バルペディアなのに」


「おい、バルペディアじゃねえよ。俺様はバアルだ」


「そうだな。【聖橙壊ホーリーデモリッション】」


 キュイン、ドゴゴゴゴゴォォォォォン!


 話を中断し、地下9階層へと続く穴をこじ開けると、奏とバアルはすぐに穴の中に入った。


 今まで、地下3階層、地下5階層、地下7階層ではボス部屋に降りてしまい、すぐにボス戦をしていたので、奏はなんとなく地下9階層でもそうなんだろうと思っていた。


 その予測は正しかった。


 しかし、奏達が地下9階層で目にしたのは、奏の姿を見て怯える悪魔と竜を足して2で割ったような赤黒い体表のモンスターだった。


「なんかビビられてね?」


「そりゃ、<覇皇>で<英雄ヒーロー>な規格外が目の前に現れたら、ソロモン72柱レベルの奴でもねえと精神的に耐えらんねえって。ディアボロス程度じゃ無理だ」


「規格外って言うな」


「良いからとっととやっちまえ」


「そうだな。【天墜碧風ダウンバースト】」


 コォォォォォォォォォォッ、カキィィィィィィィィィィン! パァァァッ。


 哀れ、ディアボロス。


 怯えてガクブル状態のところに、【天墜碧風ダウンバースト】が上空から寝降り注ぎ、あっという間に倒された。


 魔石とモンスターカード、宝箱が現れたので、奏はそれらの回収を始めた。


 宝箱の中には、桃色の太刀が入っていた。


「これ、ヒヒイロカネの太刀だよな?」


「だな。ぱっと見ただけでも、名作だとわかるぜ」


「天叢雲剣がなきゃ、そうなんだろうな。【無限収納インベントリ】」


「比べる対象が間違ってるぜ、そりゃ」


 そう言われても困ると言わんばかりに肩をすくめ、奏はヒヒイロカネの太刀を収納した。


 そして、奏達はソロモン72柱の反応がある地下10階層へと続く階段に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る