第145話 こりゃ入口だ。大部分は地下にあるぜ
翌朝、奏達は朝食後に秋葉原に行く準備を終えていた。
今日は、昨日の大樹回廊の時とは異なり、冬音達を心配する紅葉のパーティーも奏と同行する。
「バアルさん、余計な雌豚がくっつかないように、ちゃんと見張ってて下さい。奏兄様、気を付けて下さいね。」
「おう。任せとけ」
「わかってる。今日中に終わらせて帰って来るから、悠のことを頼む」
「はい!」
奏は必ず帰ると約束し、楓を抱き締めた。
そして、新婚夫婦によく見られるいってきますのキスをすると、奏達は【
移動した先は、住宅街から20分歩いた場所にある一軒家サイズの黒塗りの正四角錐の建造物である。
「バアル、これが
「こりゃ入口だ。大部分は地下にあるぜ」
「あぁ、だから
「まあ、そんなこと気にしたってしょうがねえよ。行こうぜ」
「それもそうか」
いざ、
「おはようございます、紅葉先輩! 高城さん、新田さんもおはようございます!」
「あら、冬ちゃん。おはよう」
奏達に声をかけたのは、冬音だった。
「紅葉先輩、日焼けしましたね。南国でも言ってたんですか?」
「フッフッフ。甘いわね、冬ちゃん。これは日焼けじゃないわ。進化よ」
「「「「「進化!?」」」」」
冬音だけではなく、冬音のパーティー全員が驚きの声を上げた。
それを見て、紅葉はこの反応を待っていたと言わんばかりにドヤ顔を披露した。
「うわぁ、出たよ、秋葉原の聖女(笑)」
「そこ、うっさい」
紅葉がチヤホヤされるのを見ると、響はどうしても紅葉をからかわずにはいられなかった。
「紅葉先輩、何に進化したんですか?」
「
「
「そうね。でも、
「まあな。見た目の変化と言っても、耳だけだし」
「あっ、やっぱり高城さんが最初の
奏が
「そうよ。妹も
「
「マジでそれ」
「あれ、というか、妹さんはどうしたんですか?
「楓は今、育休中よ」
「育休ですか? えっ、高城さんとの間に子供が生まれたんですか? この短期間に?」
常識的に考えて、まず不可能なスケジュールなので、冬音は首を傾げた。
「それなんだけど、進化した先の種族によって、妊娠期間が変わるけど人間よりも短いのよ。1週間で生まれたし」
「1週間!? それ、妹さんの体は大丈夫なんですか!?」
「大丈夫よ。島には助産のエキスパートもいるから。母子共に元気よ。ね、奏君?」
「ああ。本当に助かってる」
ヘラのことは、言っても仕方がないので紅葉も奏も口にしてはいない。
「そ、そうなんですね。流石は日本のトップ冒険者です。ところで、今日は
「そうよ。昨日、奏君が大樹回廊を潰したから、日本に残ったダンジョンはここだけだもの。ここさえ潰せれば、日本のモンスター討伐率は100%。最終決戦に参加しない手はないわ」
「あれ、やっぱり高城さんの仕業だったんですね。掲示板の投稿からして、救出された冒険者を移動させるにしては、時間が短いと思ってたんですよ」
「移動させたのは、千里っていう冒険者よ」
「あぁ、千里さんですか」
「あれ、知ってたの?」
「あの人はあの人で、自由人ですからね。秋葉原にも来たことありますよ。同じ場所にじっとしていられないみたいで、あちこちに行っていますが」
意外な繋がりがあったため、紅葉は少しだけ驚いていた。
実際、千里は読み専のため、掲示板のやり取りに出てくることはない。
だから、書き込みもする冬音と千里が繋がっているとは思っていなかったのだ。
「さて、ここで長話しててもしょうがないから、そろそろ挑みたいんだけど、冬音達は
「情報ですか・・・。そうですね、ここは基本的にパーティー単位でしか挑めません。レギオンを組んでいても、入口でバラバラに転移されます」
「転移?」
「はい。私達もレギオンで動いていたんですが、先行したパーティーが、先に転移してしまい、今も中で彷徨っています。一応、ダンジョン内と外で掲示板を通してやり取りはできるので、安否確認はできていますが」
「厄介なダンジョンね」
「ええ。では、私達はこれで。先行したパーティーと合流しなければならないので」
「わかったわ。情報ありがとう」
「いえいえ。いつもお世話になってますから」
冬音達は、先に
それを見届けてから、奏は口を開いた。
「バアル、なんで姿を消してたんだ? というか、透明になれたのかよ」
「ん? いや、だってここで俺が姿を見せたら、面倒なことになりそうだろ? どう紹介するつもりだ? これでも、俺様は奏に配慮したつもりだが」
「そういうことか。いや、助かった。ありがとう」
「良いってことよ」
楓がいないのに、新しい女性が奏達と一緒に行動していれば、冬音達に余計な誤解をさせてしまうことになる。
それに、ここで神なんて存在が現れれば、質問攻めにされることは間違いないので、そんな面倒事を避けるため、バアルは姿を消していたのである。
そんな配慮をしてくれたことに、奏は素直にバアルに感謝した。
「じゃあ、俺達も行くか。まあ、転移陣までらしいけど」
「そうね」
「うん」
「ヤバかったら、念話機能で助けを呼べ。俺達は最短ルートで攻略するつもりだが、ピンチなら寄り道はしてやるから」
「ありがとう、奏君」
「奏ちゃん、ありがとう」
話を終えると、奏達も
すると、中には転移陣が床に刻まれているだけで、それ以外は何もなかった。
紅葉達が先に行くと、転移陣の前には奏とルナ、バアルだけになった。
「行くぞ」
「うん!」
「いつでも良いぜ」
奏達は頷き合い、転移陣の上に乗った。
それにより、転移陣が光を放ち、奏達は光に包まれた。
光が収まると、奏達は黒い大理石で構成されている通路にいた。
後ろは壁であり、前にしか道がなく、光源は壁に掛けられた松明だけだった。
そして、通路は狭く、通常サイズのルナに乗って移動すると、回避しにくそうであった。
「ルナ、早速だけど【
「は~い。【
ピカッ。
ルナがスキル名を唱えると、翠色の光がその場を包み込んだ。
光が収まると、そこには髪が翠色に、目は金色になった奏の姿があった。
「バアル、俺達は飛んで移動する」
「了解。ちゃっちゃと行こうぜ。いや、早速モンスターが来たな。ここにいるソロモン72柱が、奏を警戒してるらしい」
「大樹回廊でも気になってたんだが、<覇皇>の効果はどうしたんだ?」
「おそらく、ダンジョンボスがダンジョン内のモンスターの思考を完全に掌握してやがる。だから、奏に対して恐怖心を抱かずに攻めて来れるんだろうぜ」
「じゃあ、フィールドダンジョンぐらいじゃなきゃ、<覇皇>の効果って薄くね?」
「何言ってやがんだ。戦闘時に全能力値が3倍の時点で、普通にぶっ壊れた称号だろうが」
「それもそうか」
バアルの言い分に納得し、奏は頷いた。
そして、眼前に現れた槍を持った強面の悪魔系モンスターに対し、天叢雲剣を抜刀した。
スパッ、パァァァッ。
一刀両断とは、このことを言うのだろう。
槍を突き出した悪魔系モンスターとすれ違う瞬間、奏は【
「やるじゃねえか。グレートデーモンランサーが、稽古用の藁人形に見えたぜ」
「そりゃどうも」
魔石を回収すると、奏達は先を急いだ。
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