第141話 燃やせばあっという間なのに
奏達は今、白神山地にいる。
だが、そこは奏がテレビで見た白神山地とは違っていた。
「ここ、こんなでっかい樹はなかったよなぁ」
「大樹回廊っつー名前からして、まあ、この樹の中がダンジョンな訳だ」
「大きいね、パパ」
奏達は、双月島にある世界樹よりも遥かに大きい樹を見上げていた。
「バアル、一気に燃やしたいんだが、中に冒険者はいるよな?」
「おう。残念ながらいるぜ。だから、外側から焼却とかは駄目だ」
「はぁ。そりゃ面倒だ」
奏の力なら、本気を出せば大樹回廊を燃やして破壊することもできる。
しかし、その中に冒険者がいるとなれば、そんな大雑把な攻略方法は使えない。
それに、絵的にエルフが大樹を燃やすとか、ファンタジーに喧嘩を売っているとしか思えない。
「仕方ねえが、中に入って踏破しようぜ。ナビゲートは俺がしてやるから、最短ルートで進ませてやんよ」
「頼りにしてるぞ」
「パパ、ルナの背中に乗ってね」
「わかった。ルナも頼りにしてる」
「うん♪」
バアルに張り合うようにして、ルナは奏に自分の存在をアピールした。
奏はルナの背中に乗り、バアルは宙に浮きながら、大樹回廊の根元にある扉からその中に入った。
大樹回廊の中に入ると、木造の壁でできた迷路になっていた。
地面には雑草が生えており、壁からも花が咲いていたりする。
「奏、早速来るぜ」
「わかった。ルナ、警戒して」
「は~い」
バアルに声をかけられ、奏とルナは警戒態勢に入った。
そのすぐ後、地面に生えていた雑草が急成長し、地面一杯に広がり、雑草のじゅうたんから雑草で体を構成されたゴブリンのような見た目のモンスターが出現した。
「ほぉ、こりゃ面白いじゃねえか。ゴブリンウィードだぜ」
「ゴブリンウィード?」
「おうよ。ゴブリン並みの繁殖力を持つ植物系モンスターだ。しかも、地中の養分を吸収して、ゴブリン擬きを作って戦わせるんだぜ」
「ゴブリンの亜種じゃないのか?」
「生きたままのゴブリンを捕食した植物系モンスターと、別のモンスターが受粉して誕生したモンスターだ。だから、ゴブリンの亜種じゃねえよ」
「そうか。ルナ、やってみるか?」
「うん! 【
ゴォォォォォッ、ズバババババァァァァァン! パァァァッ。
轟音とともに、翡翠色の嵐を凝縮したブレスがルナから放たれ、ゴブリンウィードは一掃された。
ゴブリンウィードが消えると、そこには魔石とモンスターカードが現れた。
それを回収すると、奏達は先を急いだ。
だが、奏達が先に進むのを大樹回廊が嫌がるように、奏達の進む方向から濃い緑色の葉で構成された大猪が集団で現れ、奏達に向かって突っ込んできた。
「【
スッ、ブン、ブン、ブン! ドッシィィィン! パァァァッ。
敵の正体も聞かず、奏は自分にしか見えない透明な2本の腕を伸ばし、先頭の大猪の牙を掴んだ。
そして、そのまま後続の大猪を攻撃するための武器として振り回し、武器として使い終わったら地面に叩きつけた。
奏の能力値でそんなことをすれば、並みの冒険者にとっては脅威のモンスターでも瞬殺されるのは当然だと言えよう。
魔石をドロップして消えた敵のことを知るため、奏はバアルに訊ねた。
「さっき倒したのは何?」
「リーブスエリュマントスってモンスターだ。瞬殺だったがな」
「このダンジョンは、植物系モンスターしか出ないのかね?」
「そうだろうぜ。俺様の探知圏内には、少なくとも植物系モンスターしかいねえからな」
「燃やせばあっという間なのに」
「
手間をかけたくないので、奏は燃やしてしまいたいと思っている。
しかし、繰り返しにはなるが、ダンジョン内部に冒険者が残っている。
その時点で、奏が【
「しょうがない。先を急ごう」
「だな」
「任せて~」
魔石の回収が終わると、ルナは奏を乗せて先を急いだ。
バアルは余裕の笑みを浮かべ、ルナにぴったりくっついた位置を飛んでいる。
すると、少ししてから奏達は広間らしき場所に到着した。
そこは、雑草が生い茂っており、壁には蔓が大量に垂れていた。
奏達が広間の中に進むと、奏達の進んできた道が後方の壁から垂れていた無数の蔓によって塞がれた。
「逃がさねえってか。こりゃ面白くなってきたぜ」
「別に、面白くはない」
「まあまあ。ほら、敵が出て来たぜ」
突然、奏達の前方の地面の雑草が、足もないはずなのに左右に移動し、地中から竹でできたトーテムポールの群れが生えて来た。
「バンブートーテムだな。しかも、おまけ付きだ」
「趣味悪いな」
バンブートーテムの体には、冒険者の体が十字の形で磔にされていた。
それを見た奏は、敵の狡猾さに不愉快だと感じた。
奏には、正義の味方ぶるつもりはない。
何が不愉快に感じたかというと、この程度の方法で自分の攻撃を防げると思ったバンブートーテムの浅はかさに苛立ったのだ。
「【
その瞬間、奏以外の全てが灰色になった。
奏はルナから降りると、天叢雲剣を鞘から抜き、人質を解放して回った。
「【
助け出した人質をまとめ、邪魔にならない位置に移動してしまえば、奏が攻撃を躊躇う理由は何もない。
「【
コォォォォォォォォォォッ!
碧色の冷気が、天叢雲剣の刀身を伸ばした状態で、奏はそれをバンブートーテムの群れを一刀のもとに薙ぎ払った。
スパパパパパッ、カキィィィィィィィィィィン! パァァァッ。
バンブートーテムの群れを一刀両断すると、奏は【
それにより、奏の世界に色が戻った。
「パパ、ずるい。ルナも戦いたかったよ~」
「ごめんな。次は、ルナの番だから許してくれ」
「は~い」
「良い子だ」
「エヘヘ♪」
奏が頭を撫でると、ルナはすぐに機嫌を直した。
それから、奏達が魔石とモンスターカードを回収し終える頃には、進行方向の壁に穴が開いて道が出現し、進んできた方の壁も元通り道が現れた。
だが、奏の想像しなかった事態がその時起きた。
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
紅葉がいれば、きっとこう言っただろう。
「親方! 空から女の子が!」
「【
突然、天井に穴が開き、悲鳴と一緒に黒いマントに黒い眼帯、黒髪ボブの女性が頭から落ちて来たので、バアルは紅葉が言いそうなセリフを口にした。
それを奏はスルーして、【
「あ、ありがとう」
「ん? おい、奏。おふざけなしで、この女からヘカテーの反応を感じる」
『衝撃。バアル』
静かな声が、黒ずくめの女性の眼帯の奥から聞こえた。
「なるほど、その眼帯の下に神器があるのか」
「もしかして、あなたも神器保有者?」
「元な。もう復活させた。ほら」
黒ずくめの女性の質問に対し、奏はバアルの方に視線を移すと、その女性もバアルに視線を移した。
「俺様がバアルだ。奏のおかげで、世界で初めて復活した神様だぜ」
「じゃあ、もしかして、あなたが紅葉の王様?」
「ん? 紅葉を知ってんの?」
目の前の女性から、紅葉の名前が出て来たものだから、奏は静かに驚いた。
「名乗り遅れたわね。私は黒木千里。紅葉と響とは、延暦寺で会ったの。紅葉とは、念話機能で話す友達よ」
「そうか」
「そうか、って軽いわね」
「いや、これでも驚いてる。紅葉にも、ついに俺達と後輩以外で念話する友達ができたんだと思って」
「やめて。紅葉だけじゃないわ。私のライフまで0にする気?」
「あ、なんかすまん」
「謝らないで。惨めになるから」
紅葉以外にも、念話機能の話が地雷になる人がいたとは考えていなかったので、奏はうっかり謝ってしまった。
それが、千里の傷口を広げるともわからずに。
奏が鈍感なのは、やはり治っていないらしい。
ただ、この空気のままは良くないことだけはわかったので、話題を変えることにした。
「こっちのことは知ってるかもしれないが、自己紹介するよ。俺は高城奏。こっちはパートナーのバアル。この子は従魔のルナだ」
「よろしくな、ヘカテーの契約者」
「ルナはルナだよ」
「よろしくね。そして、高城さんの予想通り、私の義眼が神器のヘカテーだよ」
話題は千里も変えたかったらしく、千里も自己紹介に応じた。
それから、奏達は情報交換をすることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます