第130話 嘘でしょ? 中ボスのくせに変身するなんて・・・

 紅葉達が横川中堂に入ると、中は外から見たよりもずっと広かった。


 建物内には、生き残った冒険者から聞き出した通り、青銅色で牛の顔をした大きな蜘蛛の見た目のモンスターがいた。


「これが牛鬼なのね」


「プルプル震えてるのは、僕のおかげだよね?」


「キ、キシャァァァァァ!」


 紅葉達に対し、牛鬼は怒りを隠さなかった。


「あいつ、美味そうでござるな」


「(´・ω・`)モキュ?」


 アランが思わず、牛鬼を美味そうな餌だとコメントすると、ピエドラはアランがそれを本気で言っているのか疑った。


「今回は、丸呑みにされると困るわね。中ボスの魔石なら、そこそこの価値がありそうだし」


「奏ちゃんの【売店ショップ】で、買い物するなら魔石は貯めないと駄目だもんね」


「そういうこと」


「ということで、アラン、食べるのは諦めて」


「・・・わかったでござる」


「土蜘蛛いっぱい食べたじゃん」


「牛鬼は別腹でござる」


「(||゜Д゜)ひぃぃぃ」


 スイーツは別腹みたいなノリで、牛鬼を食べたがったアランに対し、ピエドラは引いていた。


 どうやら、雑食で大食いなピエドラでも、牛鬼をスイーツ感覚では食べようとは思わないらしい


「キシャシャシャシャシャァァァァァッ!」


 ブブブブブン!


「【円陣炎サークルフレア】」


 ボッ、ゴォォォォォッ! ジュボボボボボッ!


 牛鬼が待ちくたびれて、紅葉達に向かって糸を次々に吐いた。


 ところが、紅葉達を中心に円を描くように炎が現れ、それが周囲に向かって広がると、あっという間に糸を燃やし尽くした。


「私を相手にするには、糸は相性が悪いみたいね」


「キチキチキチキチキチッ」


 自分の攻撃を簡単に防がれたことで、牛鬼は腹立たしそうに歯を鳴らした。


 すると、頬を急に膨らませ、口の中から毒液を思い切り吐き出した。


 ブシャァァァァァッ!


「【風砲ウインドキャノン】」


 バシャァァァァァン!


 今度は紅葉ではなく、響が前に出てスキルを使うことで、紅葉達を襲った毒液を吹き飛ばした。


「キシャァァァァァ!」


 ダン、ダダン、ダダダダダン!


 糸だけでなく、毒液も通用しなかったため、牛鬼は地団駄を踏んだ。


「リズミカルな地団駄ね」


「タップダンスしたいのかも」


「キチキチキチキチキチッ」


 ズズッ! ズズッ!


 紅葉達に舐められ、沸点をとっくに超えた牛鬼は、毒液の滲み込んだ糸でできた槍を2本吐き出し、前側の脚で握った。


「まさか、近接戦闘もできるとか?」


「かもね」


「キシャァァァァァ!」


「跳んだ!?」


「【罠作成トラップメイク】」


 カァァァァァン!


「ギシャ・・・」


 牛鬼が跳躍したタイミングを見計らって、響が【罠作成トラップメイク】で金ダライを落とすと、それが牛鬼の脳天に直撃した。


 金ダライに当たった牛鬼は、跳んだ勢いを失ってしまい、そのまま地面に落ちた。


 牛鬼が地面に落ちる時には、紅葉も攻撃の準備をばっちり整えていた。


「【爆炎槍ブラストランス】」


 グサッ! ドゴォォォン!


 落下地点に走り出し、牛鬼が落下すると同時に、刃に炎を纏った状態で紅葉が突きを放つと、牛鬼は傷口から爆発して全身が燃えながら後方に吹き飛んだ。


「【陥没シンクホール】」


 ズズズズズッ、ドッシィィィィィン!


 牛鬼が飛ばされた先は、響が陥没させることで、牛鬼に落下によるダメージまで与えた。


「ピエドラ、やっちゃいなさい」


「了━d(*´ェ`*)━解☆」


 ゴォォォォォッ!


 追い打ちをかけるように、ピエドラが紅葉の指示に従い、【地獄炎ヘルフレア】を穴の底に落ちた牛鬼目掛けて放った。


 しかし、ここまで一方的に攻撃が決まったというのに、牛鬼が倒れたことを神の声が告げはしなかった。


「迦具土、牛鬼はまだ倒れてないの?」


『残念ながら、まだなのじゃ。まだ、我は牛鬼の反応を察知できてるのじゃ』


「思ったよりもタフなのね」


『そのようじゃな』


 その時だった。


 紅葉達の耳に、ピエドラの【地獄炎ヘルフレア】の音ではなく、脆くなった殻を破るような音が聞こえて来た。


 パリッ、パリパリッ、パリパリパリッ。


「何が起きてるの?」


「脱皮してるんじゃない?」


「蜘蛛って脱皮するの?」


「知らない。というか、牛鬼はただの蜘蛛じゃなくてモンスター」


『むっ、反応が強くなったのじゃ。紅葉、響、気を付けるのじゃ』


 迦具土が紅葉達に声をかけた時、穴の底から赤っぽい影が跳躍して飛び出してきた。


 穴の底から現れたのは、二足歩行の赤銅色の牛だが、腕がそれぞれ6本ずつの化け物だった。


 しかも、その化け物のそれぞれの腕には、毒液の滲み込んだ糸でできた槍が握られていた。


「嘘でしょ? 中ボスのくせに変身するなんて・・・」


「変身じゃなくて、進化したんじゃない?」


『どっちでもよかろう? それよりも、牛鬼が来るのじゃ』


「死ねぇぇぇっ!」


「喋った!?」


「【酸雨アシッドシャワー】」


 ドドドドドッ! ジュワァァァァァッ!


 突進してくる牛鬼に対し、響は酸の雨を降らせて迎撃した。


 その雨を、牛鬼は手に持った6本の槍で次々に弾き落とすが、6本腕があっても全てを弾くことはできず、酸に体を蝕まれていった。


 【酸雨アシッドシャワー】で牛鬼がかかりきりの間に、紅葉が動いた。


「【遅延ディレイ】」


「グゥオォォォォォ!?」


 紅葉により、動きを鈍らされた牛鬼は、槍で【酸雨アシッドシャワー】を弾き落とせなくなり、どんどん被弾する数が増えていった。


 体を蝕む痛みに、牛鬼は思わず叫ぶのだが、【遅延ディレイ】のせいで叫び声が間延びしており、紅葉達の耳にはふざけているように聞こえた。


「今度こそ終わらせるわ。【爆轟デトネーション】」


 ドガガガァァァン! パァァァッ。


 【酸雨アシッドシャワー】により、体が脆くなっていたらしく、紅葉の【爆轟デトネーション】を受けて牛鬼のHPは0になった。


《紅葉はLv93になりました》


《紅葉の【遅延ディレイ】が、【遅延網ディレイウェブ】に上書きされました》


《響はLv89になりました》


《響の【酸雨アシッドレイン】が、【酸乱射アシッドガトリング】に上書きされました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-5をクリアしました。報酬として、響の全能力値が50上がりました》


《ピエドラはLv89になりました》


《アランはLv85になりました》


 神の声が聞こえ、紅葉達は今度こそ牛鬼を倒したことを確信した。


 戦闘が終わったため、迦具土は紅葉達に声をかけた。


『ふむ、お主達の戦いは良く連携が取れておったのじゃ。大したものなのじゃ』


「そりゃ、私達は奏君みたいに一騎当千の力なんて持ってないからね」


「奏ちゃんマジ最強。僕達が追い付くのは難しくても、せめて足手纏いにならないようにならなきゃいけないから、自然と連携が必要になるよね」


『なるほどのう。バアルのお気に入りじゃし、我が母も天叢雲剣を授けておるようじゃから、確かに奏は格が違うじゃろうな』


「奏君の近衛兵ロイヤルガードなんだから、せめて進化ぐらいしないとカッコつかないわ」


「紅葉が亜神エルフはテンプレでしかない。だって、貧乳だもの」


「OK、その喧嘩言い値で買ってやろうじゃないの」


『これこれ、はしゃいどる場合じゃないじゃろ? 響もその辺にするのじゃ』


「はーい」


 戦闘の評価をしていたはずが、いつの間にか響による紅葉いじりになっていたため、迦具土がそれを諫めた。


 その後、紅葉達は牛鬼の魔石を回収してから、横川中堂の外に出た。


 すると、紅葉はあることに気づいた。


「ねえ、さっき私が助けた冒険者の姿がないわそれに、仲間の死体もない。血すら残ってないとか、なんでかしら?」


『・・・我等が戦ってる間に、別のモンスターに襲われたんじゃろうか?』


「そんな反応あったの?」


『我にはなかったとしか思えぬのじゃが、ダンジョンなんじゃから、放置された死体が消えるならともかく、生存者まで消えるのはおかしいのじゃ』


「え、ダンジョンってやっぱり人が死ぬと吸収するの?」


『放置されてれば、吸収するのじゃ』


 紅葉と迦具土と話しているのを聞いた響は、少し考えていたが結論を出した。


「多分、さっき紅葉が助けた冒険者が死んだ。それで、仲間と一緒にダンジョンに吸収されたんだね」


「どうしてそう思うの?」


「だって、あの男の人、仲間の敵討ちをした後気を失ったじゃん。多分、情報を渡して、敵討ちを頼むだけでも限界だったんだよ」


「・・・そうかもしれないわね」


 生き残った冒険者は、【毒耐性ポイズンレジスト】のおかげですぐに死なずに済んだと言っていたが、紅葉も【回復ヒール】だけで毒から回復したとは思っていなかった。


 だから、紅葉も響の意見を否定しなかったのである。


 見ず知らずの冒険者とはいえ、生きていた者が死んでしまったことは紅葉達にとってショックだった。


 しかし、それをいつまでも引き摺る訳にもいかないので、紅葉達は今晩体を休める場所を探し始めた。

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