第121話 入れ食いを絵に描いたような成果だね

 奏達が桜島に挑んでいる頃、紅葉達は函館の五稜郭に到着していた。


「なんか、物々しい雰囲気ね」


「だね。というか、五稜郭が霧に覆われてるじゃん。いかにもって感じ」


「(-_-)zzz」


「ピエドラ、寝るんじゃないわよ」


「(^。^)y-.。o○」


「霧、吹キ飛バスカ?」


「自主的ニ動クナンテ本当ニ兄者カ?」


「オイコラ」


「アル、ブラン、物は試しだよ。やってみて」


「「ヘーイ。【騒音斬ノイジースラッシュ】」」


 キィィィィィン! サァァァァァッ。


 アル&ブランが、Lv70で会得したスキルにより、騒音を圧縮して形成した刃で霧を横薙ぎにした。


 すると、一瞬周囲の霧が消し飛んだが、消し切れなかった所から霧が供給されて、すぐに元通りになってしまった。


「無駄働キジャナイカ、兄者」


「ソウ言ウナ。コレデ、無理ニ吹キ飛バセナイコトガ証明サレタンダ。ソレダケデモ良シトシヨウゼ」


「紅葉、これは元凶のボスを倒すっきゃなさそうだね」


「そうみたいね」


 外から干渉できないので、ダンジョンの中に入り、直接ダンジョンボスを倒すしかない。


 奏であれば、外側から干渉できるが、それ程の力を紅葉達は有していないのだから、これ以上はどうしようもないのだ。


 そう理解して、響も紅葉も中に入る覚悟を決めた。


 五稜郭の敷地に足を踏み入れると、紅葉達の視界がぐにゃりと変化した。


「うっ」


「気持ち悪い」


 フィールド型のダンジョン未経験の紅葉達は、突然の視界の変化に思わず声を漏らした。


 ダンジョン内部も、外から見た通り霧が濃かった。


 視界を確保できないのは、紅葉達にとって致命的だ。


 だから、紅葉は思いついたことを口にした。


「ピエドラ、この霧を【捕食《プレイ】で食べられない?」


「( ̄^ ̄)ゞ」


 ブォォォォォッ!


 紅葉の声に従い、ピエドラは【捕食プレイ】を発動して周囲の霧を吸い込み始めた。


 【騒音斬ノイジースラッシュ】の時と同じで、霧がなくなればなくなった所に補充されていく。


 しかし、ピエドラの吸収する量が、補充する量を上回り、徐々にではあるが確実に霧が薄くなっていった。


 5分程立つと、周囲一帯の霧がなくなり、紅葉達は少し先までの視界が確保できるようになった。


《紅葉はLv84になりました》


《響はLv80になりました》


《ピエドラはLv80になりました》


《ピエドラは<大食い>を会得しました》


《ピエドラは<大食い>を会得したことで、【吸収触手ドレインタッチ】と【捕食プレイ】が、【大食ブリミア】に統合されました》


《ピエドラは【迷霧ワンダーミスト】を会得しました》


《ピエドラは進化に必要なモンスターの要素を全て捕食し、条件を満たしました。これより進化を開始します》


《アル&ブランはLv76になりました》


 神の声が、ピエドラの進化を告げた途端、紅葉達のいる辺り一帯が光に包み込まれた。


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 突然発光したせいで、紅葉達の視力が元通りになるのに少し時間がかかった。


 紅葉達が目を開けられるようになったのは、神の声が止んでから1分経過してからのことだった。


 目を開けられるようになってすぐ、紅葉は自分が乗っているピエドラの体を隅々までチェックした。


 すると、ピエドラの見た目は半透明の紫色をしたゼリー状のままではあったが、形状がドラゴンのものに変わっていた。


 しかも、頭の上には、小さい金色の王冠を乗せている。


「ピエドラ、進化したのね」


「((`・∀・´))ドヤヤヤャャャャ」


「・・・顔文字にも幅が出たのかしら? 【分析アナライズ】」


 どんな変化が生じたのか気になり、紅葉はピエドラのデータを確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:ピエドラ  種族:グラトニーブラッド

年齢:15歳 性別:雄 Lv:80

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HP:880/880

MP:880(+550)/880

STR:880/880

VIT:880/880

DEX:880/880

AGI:830

INT:980

LUK:880

-----------------------------------------

称号:<紅葉の従魔><大食い>

スキル:【飛行フライ】【大食ブリミア】【物理耐性フィジカルレジスト】【地獄炎ヘルフレア

    【溜突撃チャージブリッツ】【再生リジェネ】【迷霧ワンダーミスト

-----------------------------------------

装備:従魔の証(紅葉)

-----------------------------------------



「ピエドラ、MPの表記がおかしいんだけど、これは何?」


「ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"(๑´ㅂ`๑)ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"ŧ‹"」


「さっき霧を食べたから? というか、経験値を獲得したってことは、あれってモンスターだったのよね?」


「オメデトウ(^▽^)ゴザイマース」


「なるほど。【大食ブリミア】を会得した補正で、さっき食べたモンスターがMPに変換されたのね」


「(^・ェ・^ノノ゙☆パチパチ」


「腹立つぐらい、顔文字の幅が広がったわね」


 紅葉とピエドラのやり取りを見ていた響は、そろそろ口を挟んでも良いだろうと判断し、紅葉に疑問をぶつけた。


「あのさ、紅葉はピエドラの進化条件、確認してなかったの?」


「確認したわよ。でも、こいつの進化先、10個以上あるのよ。覚えきれないって」


「((`・∀・´))ドヤヤヤャャャャ」


 進化に可能性を感じさせる自分を、ピエドラはドヤ顔でアピールした。


 そんなピエドラに、響は苦笑いした。


「そ、そうなんだ。逆に、僕の方はアル&ブランの進化先が1つだから、すぐに覚えられたんだけど」


「何になるんだっけ?」


「フレースヴェルグ」


「それ、奏君が倒したニーズヘッグと双璧をなすモンスターじゃん」


「すごいでしょ」


「ビッグネーム、良いなぁ」


「\\\٩(๑`^´๑)۶//// 激おこプンプン丸!」


 自分が進化して強くなったにもかかわらず、アル&ブランの進化先を羨ましがる紅葉に対し、ピエドラは起こっていることを主張した。


 紅葉をしょっちゅうイラつかせてはいるものの、ピエドラは基本的に紅葉に構ってほしいだけだ。


 それゆえ、自分をないがしろにして、他の従魔を羨ましがれば、ピエドラが怒るのも無理もない。


「ああ、ごめんごめん。勿論、ピエドラも強そうだよ。前よりもドラゴンっぽいし」


「(。ˇ ⊖ˇ)~フフーン♪」


 わかればよろしいと言わんばかりに、ピエドラの機嫌が直った。


 そんな身内でのやり取りをしていると、進行方向の霧の中から、テニスボール大の蠅女と呼ぶべきモンスターが大群をなして現れた。


「弟ヨ、ドゥルジダゾ」


「兄者、ドゥルジダナ」


「紅葉、ピエドラ、手出し無用だよ。ドゥルジってモンスターは、アルとブランが食べるらしいから」


「了解。私達は、霧のモンスターをやっとくわ」


「( ̄^ ̄)ゞ」


 方針が決まると、紅葉達は二手に分かれた。


「【罠作成トラップメイク】」


 響は【罠作成トラップメイク】により、昆虫系モンスターが好むフェロモンのしみ込んだ布の入った巨大な虫籠を左斜め前方に設置した。


 その匂いにつられ、蠅女の大群は虫籠の中に自主的に入って行った。


「入れ食いを絵に描いたような成果だね」


「「ヤルゾ。【騒音牢ノイジージェイル】」」


 バリバリバリィィィィィン!


 アル&ブランが【騒音牢ノイジージェイル】を発動すると、外にいても漏れ出して聞こえる騒音の牢獄に虫籠ごとドゥルジの大群を閉じ込めた。


 牢獄の中は、耳を塞いでも全く効果がないようで、ドゥルジの大群はあまりの音の大きさにショックを受け、1体残らず気絶して動かなくなった。


 響が【罠作成トラップメイク】を解除すると、アル&ブランが嬉しそうに笑った。


「「イタダキマス」」


 バリッ、ボリッ、ムシャムシャ、バリッ、ボリッ、ムシャムシャ。


 好物である昆虫系モンスターを食べられて、アル&ブランはとても満足していた。


 吸引力が有名な掃除機が如く、アル&ブランは3分もかからずに虫籠いっぱいのドゥルジを食べ終えた。


 その頃には、響達の前方でピエドラも捕食し終えていた。


《紅葉はLv85になりました》


《紅葉はLv86になりました》


《響はLv81になりました》


《響はLv82になりました》


《ピエドラはLv81になりました》


《ピエドラはLv82になりました》


《アル&ブランはLv77になりました》


《アル&ブランはLv78になりました》


 五稜郭に入ってから、大して時間は経っていないが、紅葉達は効率良くレベルアップしている。


 周囲には、函館の冒険者の姿もなく、経験値を稼ぐうえでの競争相手も見られない。


 それがわかったから、紅葉達は五稜郭に来たことは正解だったと確信した。

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