第122話 くっ、第1部を知らないなんて・・・

 霧状のモンスターやドゥルジとの戦闘が終わり、少し進むと紅葉達は堀に辿り着いた。


 本来、五稜郭の堀は外側と内側を行き来できるような水位ではなかったが、今は船さえあれば、行き来できる水位に達している。


「堀の中、きっと何かいるわよね」


「間違いない。それに、霧状のモンスターもまだまだいる」


「あー、霧のモンスターって、エキスパンドフォッグらしいわよ。さっき、【分析アナライズ】で調べた」


「へー。特徴のまんまの名前だね。とりあえず、エキスパンドフォッグは、ピエドラ先生にお任せかな?」


「(。・`ω´・。)9」


「えっ、ちょっと、なんでピエドラは先生呼びなのよ?」


 今まで、【幸運合成ラッキーシンセシス】で武器を強化してあげていたにもかかわらず、先生と呼ばれたことはなかったので、紅葉は響に抗議した。


狩人ハンターとして、視界の確保に動いてくれるピエドラ先生には敬意を払ってるんだよ」


「私には敬意とかないわよね?」


「だって、紅葉じゃん」


「OK、その喧嘩買ってやろうじゃないの」


「m9(^Д^)プギャー」


「ピエドラ、私をおちょくる絵文字をパワーアップさせるんじゃない!」


「ナア、敵ガ来テルゾ?」


「遊ンデル場合ジャナイデゴザル」


 紅葉と響、ピエドラがじゃれていると、アル&ブランが敵の接近を告げた。


 アル&ブランに言われ、気を引き締め直した紅葉達の前に、堀の1ヶ所から泡が立ち始めた。


 ブクブクブクブクブクッ、ザッパァァァァァン!


「ヒヒィィィィィン!」


 堀から現れたのは、体表が青緑色で、上半身が馬、下半身は魚のモンスターだった。


 その姿を見て、オタクの紅葉はすぐにそのモンスターの正体に辿り着いた。


「ケルピーよ! ピエドラ、一旦空中へ離脱!」


「アルとブランも!」


「(○´・ω・`)bOK!」


「「了解」」


 ケルピーのテリトリーである水場から、一旦距離を取るために紅葉達は上空に逃げた。


 しかし、逃げた先に複数のエキスパンドフォッグが押し寄せた。


「ピエドラ、やっちゃって」


「了━d(*´ェ`*)━解☆」


 キュイィィィィィン!


 紅葉の指示を受け、ピエドラは【大食ブリミア】を発動し、集まって来たエキスパンドフォッグを捕食し始めた。


「響、ピエドラが食べてる間、下からの攻撃に対処して」


「わかった」


 紅葉とピエドラが、エキスパンドフォッグの集団を相手にして、その間は響とアル&ブランがケルピーの攻撃に対応する。


 これが、紅葉の瞬時に立てた戦術だった。


「ヒヒィィィィィン!」


 ダダダダダン!


「【風砲ウインドキャノン】」


 ビュゥゥゥゥゥッ! バシャァァァァァン!


 堀の水面から、複数の水の槍が上空目掛けて放たれたが、響が【風砲ウインドキャノン】で押し返し、威力を失った水の槍は堀に落下した。


「アル、ブラン、足止めするよ。閉じ込めて」


「「ワカッタ。【騒音牢ノイジージェイル】」」 


 バリバリバリィィィィィン!


「ヒヒィン!?」


 アル&ブランの【騒音牢ノイジージェイル】により、ケルピーは騒音の牢獄に閉じ込められた。


 体の構造上、耳を塞ぐことのできないケルピーは、突然の騒音にパニックになり、牢獄の中で暴れ始めた。


 ケルピーがしばらく暴れ回っていると、エキスパンドフォッグの集団を食べ尽くしたのか、紅葉とピエドラが参戦した。


「響、助かったわ」


「終わったんだね」


「ええ、すごいペースで食べてたわね」


「ダイ〇ンにも劣らぬ吸引力だね」


「それ以上でしょ。じゃあ、ケルピーを陸に引き摺り出してみるわね」


「よろしく」


「【爆発エクスプロージョン】」


 ドカァァァァァン! バッシャァァァァァン!


「ヒヒィン!?」


 紅葉の【爆発エクスプロージョン】は、牢獄に囚われたケルピーではなく、すぐ後ろの水面を爆破した。


 そのタイミングに合わせ、アル&ブランが【騒音牢ノイジージェイル】を解除した。


 それにより、騒音にやられて平衡感覚が麻痺していたケルピーは、堀の外側の地面に吹き飛んだ。


「ケルピー、釣ったどー!」


「紅葉、釣ってない。吹っ飛ばしただけ」


「細かいことは気にしないの。ほら、水揚げされてバタバタしてる今がチャンスよ。【遅延ディレイ】」


 紅葉が【遅延ディレイ】をかけたことで、ケルピーの動きが鈍くなった。


 ケルピーが体勢を立て直すまでの時間が、これによって伸びた。


「逃がさなきゃ良いんだね? 【陥没シンクホール】」


 ズズズズズッ!


 動きの鈍ったケルピーは、突然の陥没に対応できず、状況が輪をかけて劣勢になるのを防げなかった。


「(•̀ᴗ•́)و ̑̑ ヨッシャ」


 ゴォォォォォッ!


 ピエドラの【地獄炎ヘルフレア】が、ケルピーを黒く焦がした。


 しかし、元々は水の中にいたせいで体が湿っており、燃やし尽くすまでには至らなかった。


「ラスト貰ウヨ」


「美味シイトコドリデゴザル」


「「【騒音斬ノイジースラッシュ】」」


 キィィィィィン! パァァァッ。



《紅葉はLv87になりました》


《紅葉はLv88になりました》


《紅葉はLv89になりました》


《響はLv83になりました》


《響はLv84になりました》


《響はLv85になりました》


《ピエドラはLv83になりました》


《ピエドラはLv84になりました》


《ピエドラはLv85になりました》


《アル&ブランは、<鬼畜>を会得しました》


《アル&ブランは<鬼畜>を会得したことで、【拘束バインド】と【重力グラビティ】が、【圧力プレッシャー】に統合されました》


《アル&ブランはLv79になりました》


《アル&ブランはLv80になりました》


《アル&ブランは【混乱騒音コンフュノイズ】を会得しました》


《アル&ブランは幻獣系モンスターを倒したことで、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》


《アル&ブランはLv81になりました》


 神の声が、アル&ブランの進化を告げた途端、響を中心とする一帯が光に包み込まれた。


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めたが、突然発光したせいで、響達の視力が元通りになるまで時間がかかった。


 神の声が止んでから少しして、やっと響達が目を開けられるようになった。


 響が目を開けた時、その目に映ったのは、自分を乗せた巨大な鷲の姿だった。


 どちらかというと焦げ茶色だった体は、赤みがかった茶色へと変わっており、白い頭と黄色い嘴に変わりはなかったが、頭は1つになっていた。


「進化したね。アル? ブラン? なんて呼べば良い?」


「アルでもブランでもないでござる。拙者、アランでござる」


「名前の規則が、フュー〇ョンよね」


「紅葉、それは言わないお約束。【分析アナライズ】」


 紅葉が指摘したことは、自分もそう思っていたことだったが、それをアランに言ってもしょうがないので、響はアランの情報を確認し始めた。



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名前:アラン  種族:フレースヴェルグ

年齢:22歳 性別:雄 Lv:81

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HP:891/891

MP:891/891

STR:946

VIT:891

DEX:891

AGI:891

INT:946

LUK:891

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称号:<響の従魔><鬼畜>

スキル:【飛行フライ】【騒音砲ノイズキャノン】【圧力プレッシャー】【刺突スティング

    【騒音牢ノイジージェイル】【騒音斬ノイジースラッシュ】【混乱騒音コンフュノイズ

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装備:従魔の証(響)

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「うん、強くなった」


「ソウデゴザルカ」


「ちなみに、アランはアルとブラン、両方の記憶と意思を引き継いでるって認識でおけ?」


「ソノ通リデゴザル」


 響とアランの話が終わると、ウズウズした様子の紅葉が響に話しかけた。


「ねえ、響、アルとブランの進化条件はなんだったの?」


「Lv80到達、昆虫系モンスターの累計500匹捕食、幻獣系モンスターの討伐」


「響は今まで食ったパンの枚数を覚えてるの?」


「何それ?」


「くっ、第1部を知らないなんて・・・」


 響にネタが通じず、不発になってしまったことを紅葉は悔しがった。


 その後、紅葉達が堀を通過する邪魔をするモンスターはいなかったため、ボスがいるであろう堀の内側へと移動した。

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