第120話 なにこいつ? 修〇?

 奏達の前に現れたのは、溶岩でできた巨大な人形だった。


「ラーヴァゴーレムじゃねえか。こりゃちっと、面倒だな」


「レベルで言うとどんぐらい?」


「Lv80はある。ラーヴァゴーレムは、溶岩ゆえに大して硬くねえ。だが、その分柔らかくて粘り気もあるから、ゴーレムとしては、壊しにくいぜ」


「確かに。だけどよ、バアル?」


「なんだよ、奏?」


「凍らせれば脆くなるんじゃね?」


 奏がバアルに訊いた時には、既にサクラが動き始めていた。


「キュルン!」


 ザァァァァァッ! ピキピキピキピキィン!


 サクラが【氷雨アイスレイン】を発動すると、ラーヴァゴーレムに氷の粒が雨のように降り注ぎ、溶岩の体が冷え固まっていく。


 ラーヴァゴーレムは、元々高温をその身に宿しているが、サクラはレベル差から生じるINTの値で勝る。


 だから、サクラの【氷雨アイスレイン】が徐々にラーヴァゴーレムを凍らせることができたのである。


「キュッキュル~!」


 得意気に鳴くサクラに対し、バアルは苦笑いだった。


「同等の威力の溶岩と氷なら、氷の方が普通は負けるんだが、レベル差が上手く働いたらしいな。奏の言う通り、凍らせたことで体が脆くなってやがる」


「だろ?」


「サクラ、とどめを刺しちゃって」


「キュル~」


「キュル~ン!」


 コォォォォォッ! パリィィィィィン! パァァァッ。


 凍ったラーヴァゴーレムの中心に、サクラが【吹雪ブリザード】を放つと、ラーヴァゴーレムに命中した途端に粉々に砕けた。


《サクラの【氷雨アイスレイン】が、【舞氷刃ダンシングアイスエッジ】に上書きされました》


「キュル・・・」


 神の声は、サクラに新スキルの獲得を告げたものの、レベルアップは告げなかったため、サクラが落ち込んでしまった。


「サクラ、大丈夫だよ。今、サクラはパパとママ、ルナが本来貰うべき経験値まで貰ってるんだもん。きっとすぐに上がるよ」


「キュルル」


 ルナに励まされ、サクラはコクリと頷いた。


 それから、奏がラーヴァゴーレムの魔石を【透明腕クリアアーム】で回収し、奏達は先へと進んだ。


 ところが、奏達はそれから5分ぐらい、全く敵と遭遇しなかった。


「バアル、今更<覇王>の効果が出たとかある?」


「いんや、それはねえ。つーか、そもそも<覇王>の効果はパッシブだっての」


「じゃあ、純粋にモンスターがいないってことか?」


「そうだろうぜ。そもそも、桜島はそんなにデカいダンジョンじゃねえ。進みながら、サクラがバンバン倒したから、モンスターがいなくなっただけだ」


「キュルル」


 バアルが自分の戦果を口にしたので、サクラはドヤ顔を披露した。


 そんな話をしていると、もうすぐ頂上が見えて来た。


 だが、奏は頂上に近づく途中で、ピクッと反応した。


「ルナ、止まってくれ」


「は~い」

 

 奏の指示に従い、ルナが停止すると、楓が首を傾げた。


「奏兄様、どうしたんですか?」


「あそこの岩に、何かいる」


「本当ですか?」


「ほう、奏の勘もかなり鋭くなってきたじゃねえか」


 バアルは嬉しそうに言った。


「えっ!?」


 バアルが奏を正しいと言うと、楓は目を凝らして岩の周辺に何かいないか探した。


 しかし、モンスターらしきものは見つけることができなかった。


「奏兄様、降参です。どこにいるんですか?」


「いや、俺も岩に俺達を監視するモンスターの気配を感じただけで、何がどんな形でいるかまではわかってない。バアル、何がいるんだ?」


「近づいてみな。奏の待ち望んでた幻獣系モンスターだぜ」


「マジか。ルナ、ゆっくり近づいてくれ」


「任せて~」


 奏の指示に従い、ルナは慎重に幻獣系モンスターが潜んでいる岩に近づいた。


 その後に、楓を乗せたサクラもぴったりとくっついている。


 すると、目の良い楓が違和感に気づいた。


「奏兄様、あそこにランプがあります」


「他には何もなさそうだ。ってことは、あれが幻獣系モンスターか」


『よくぞ気が付いた』


 奏達の頭に、直接男の声が響いたかと思うと、ランプから半透明の赤い辮髪の男が飛び出した。


 よく見てみると、男の下半身は煙になっており、上半身は裸でムキムキなマッチョだった。


「暑苦しそうな奴だな」


『逆にお前らはクールぶってやるじゃねえの。もっと熱くなれよ。熱い血燃やしてけよ! ヒューマン熱くなった時が、本当の自分に出会えるんだ! だからこそ、もっと、熱くなれよぉぉぉぉぉ!!』


「なにこいつ? 修〇?」


「いいや、イフリートだ」


 奏のコメントに対し、バアルは正解を口にした。


「ん? イフリートって、妖精系モンスターじゃないの?」


「ジャンルとしては、一応幻獣系モンスターだ」


「ふーん」


『おい、そこ! 細かいことは気にすんなよ。くよくよすんなよ。大丈夫、どうにかなるって。Don't worry! Be happy!』


 その言動は、現役を引退後、スポーツアナウンサーだけでなく、バラエティ番組やワイドショーでも大活躍し、その都度に暑苦しいを通り越した熱血パフォーマンスで視聴者に語りかける人物のものと一致していた。


「奏兄様、鬱陶しいんで倒しましょう」


「キュル」


 楓とサクラは、イフリートを鬱陶しく感じ、双月島に迎え入れずこの場で倒そうと奏に提案した。


「待てって。鬱陶しいのは事実だけど、ボスの近くに陣取ってるってことは、戦力にはなるはずだ。倒すのは勿体ない」


『世間はよ、冷てぇよな。みんなお前の想いを感じてくれねぇんだよ! どんなに頑張ってもさ! なんでわかってくんねーんだ! って思うときあるもんだ。俺だってそうさ! 熱く気持ちを伝えようって思ったってさ、おめぇ熱すぎる! って言われんだよ。でも大丈夫! わかってくれるヒューマンはいる! だから、俺について来い!!』


「よし、倒すか」


「ルナもやる~」


「いやいやいや、ちょっと待てよ奏」


 楓とサクラを宥めていたはずの奏が、イラっとして倒してやろうという気になった。


 奏がそのつもりなら、ルナはそれに従うまでなので、ツッコミ不在とならぬようにバアルが待ったをかけた。


「なんかこう、イライラすんだよな。こいつのスカウト、する気失せてきた」


『頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る! 俺だって頑張ってるんだから!』


「【透明腕クリアアーム】」


 イフリートの言動が、許容範囲を超えたため、奏は透明な腕を伸ばしてイフリートではなくランプを掴んだ。


『な、何をする?』


「何をするって? こうするんだよ」


 このタイミングになって、初めて慌てたイフリートに対し、奏は嗜虐的な笑みを浮かべて透明な腕でランプを思いっきり振り回し始めた。


『やぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇろぉぉぉぉぉ!』


 どういう仕組みなのか、どんなに奏がランプを振り回しても、イフリートはランプから離れることなく、下半身の煙の部分とランプがくっついたままだった。


「やめない」


『お助けぇぇぇぇぇっ!』


 キャラがブレるぐらい、イフリートがなりふり構っていられなくなっているが、奏はランプを振り回し続けた。


「大体、無駄に暑苦しいくせに、なんで富士山にいなかったんだよ? 一番目指すなら、普通は富士山にいるだろ? 甘えてるのか?」


 ランプを振り回しながら、奏は気になっていることをイフリートに問いかけた。


『許してつかあさい! 許してつかあさい!』


「お前、実は大して熱血じゃないだろ!」


 あっさりと許しを請うイフリートに対し、奏はツッコまずにはいられなかった。


『お願いします! 許してつかあさい! 普通に話しますから、振り回すのは勘弁してつかあさい!』


 ようやく、無理をするのを止めたイフリートを見て、奏は【透明腕クリアアーム】で振り回すのを止め、地面にランプを置いた。


 すると、イフリートが鼻をすするような声で喋り始めた。


『憧れてたんです。あっし、あの熱血魂を見せるおとこに憧れてたんです。元々、あっしはそんなに気の強い方じゃねえんです』


「わかってる」


「そうだと思いました」


「だろうな」


「わかってたよ」


「キュル」


 イフリートのカミングアウトに対し、奏達はそんなことはとっくに承知していると驚かなかった。


「面倒だから、単刀直入に言うぞ。お前、俺達の島に来たいか? 幻獣系モンスターを集めてるんだ。お前に特技があるなら、連れてってやる」


『あっし、笛なら吹けるでさぁ。後は気温の調節ができますぜ』


「そうか。島には歌を歌うハーピーがいる。お前、そいつとコンビを組め」


『わかりやした。それで良いのなら、お供しやす』


「わかった。お前にも名をやる。シュウでどうだ?」


『へい。今日からシュウと名乗りやす。よろしくたのむでさぁ』


 こうして、奏は前半とキャラが全く違うシュウのスカウトに成功した。


 シュウをスカウトしたので、奏達は一旦、【転移ワープ】で双月島に戻るのだった。

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