第119話 遠近法を使えば似てなくもねえだろ
サクラがドヤ顔を披露している間、奏は疑問に思ったことをバアルに訊ねた。
「バアル、俺の<覇王>ってちゃんと機能してる? さっきの蛇の群れって大して強くないのに俺達の前に出て来たぜ?」
「あー、ラーヴァスネークの群れな。あれは、窮鼠猫を嚙むってことだ」
「と言うと?」
「<覇王>でビビッて逃げようとしたが、サクラが【
「そういうこともあるのか」
「キャパに余裕のあるダンジョンだから、起きたと思ってくれ。キャパオーバーならダンジョンの外に溢れ出すついでに逃げるからよ」
「なるほど。つまり、桜島はまだスタンピードが起きる段階じゃないってことか」
「その通りだ」
自分の疑問が解決して奏はスッキリした。
そんな奏が横から視線を感じ、首を動かすと目の前にサクラの顔があった。
サクラは奏と目が合うと、右のヒレで自分の胸をポンと叩いた。
「キュルン!」
「パパ、サクラがこのダンジョンは私に任せてだって」
「う~ん、確かにいつもサクラには楓の護衛ばかり任せてて、がっつり戦う機会がなかったよな。できるところまでサクラだけで戦ってみるか?」
「キュル~!」
サクラが人だったらサムズアップしていたに違いないテンションで、右のヒレをグッと奏の前に出した。
「サクラがとっても喜んでるよ」
「今のは俺もわかった」
奏が【
「キュル!」
カキィィィィィン!
「キュルル!」
カキィィィィィン!
「キュッキュル~!」
カキィィィィィン!
ダンジョンの先へ進みながらサクラは【
それにより、逃げ場がなくなったと観念したモンスター達が溶岩から慌てて飛び出した。
「「「・・・「「キキィィィィィッ!」」・・・」」」
ザッパァァァァァン!
いくつもの高音の鳴き声がその場に鳴り響いてすぐに、溶岩をぶちまけながらラーヴァスネークよりも大きな緋色のワームが群れで現れた。
「スカーレットワームか。1ヶ所にこんなにいるとは思わなかったぜ」
「キュル~ン!」
コォォォォォッ! パァァァッ。
得意気に鳴いたサクラが【
《サクラはLv98になりました》
《サクラの【
レベルアップしたサクラはドヤ顔である。
「キュルッ!」
「良かったわね、サクラ」
「キュルルルル~ン♪」
楓に褒められ、サクラはその場で楓を乗せたままグルグルと回った。
「わわっ!?」
「キュルッ!?」
はしゃいだせいで、楓を振り落としそうになったサクラは急に止まった。
「サ~ク~ラ~?」
「キュル~」
楓にジト目を向けられて、サクラは反省したのかしょんぼりした声を出した。
そこに奏がやんわりと助け船を出した。
「まあまあ。サクラも大活躍できて、ちょっとテンションを上げ過ぎたんだよな?」
「キュル」
奏の言う通りだと言う意味を込め、サクラは素直に頷いた。
頷いた後、奏に甘えるように近づいた。
しかし、そこにルナが待ったをかけた。
「サクラ、パパはルナのパパだよ。サクラにはママがいるでしょ?」
「キュルル」
「へぇ、そんなこと言って良いの?」
「キュル!?」
しまったと言わんばかりの表情のサクラに対し、ルナは優位に立った。
サクラが何を言っているのか、ルナにはわかるだけでなく、それを奏達に翻訳できる。
つまり、サクラがボソッと本音を漏らした時にその本音がルナの気分次第で奏達にバレてしまうという訳である。
「ルナちゃん、サクラはなんて言ったの?」
「キュル~」
楓が笑顔でルナに質問すると、サクラは半泣きになりながら、言わないでほしいとルナに願った。
「パパはママと違って優しくて羨ましいって言ってた」
「キュルルルルル~!」
自分の願いがかなわず、サクラは裏切り者だとルナに訴えた。
しかし、サクラはルナに訴えたすぐ後に気づいた。
楓が自分に向ける笑みが決して目の笑っていない笑みであることに。
「キュ、キュルキュキュキュル~」
話せばわかると言わんばかりにサクラは焦って鳴いた。
「奏兄様の方が優しいから、奏兄様が主人の方が良かったのかな?」
「キュル・・・」
何と答えれば窮地を脱出できるかわからず、サクラは答えに詰まった。
そこに、救いの神が舞い降りた。
「楓、そこまでにしとけ。サクラは子供なんだ。やっちゃ駄目ってことを教えれば次はしないだろ? な?」
「キュル! キュルキュル!」
奏に貴方が神かと感謝し、サクラは反省しています、次は申しませんと言わんばかりに首を縦に振った。
「もう、奏兄様ってばサクラに甘いですね」
「そうだよパパ! 甘やかすならルナにして!」
「そうか?」
「そうですよ」
「そうだよ~」
「キュルキュル」
頷く楓とルナに対し、サクラはすごい勢いで首を横に振る。
そのサクラの姿には決して味方を失ってなるものかという必死さが感じられた。
そんなやり取りに終止符を打ったのはバアルだった。
「なあ、奏。あそこ、魔石だけじゃなくてマテリアルカードがドロップしてるじゃん。回収しようぜ」
「お、マジか。【
自分が放置されてしまって飽きていたバアルは、奏の意識をマテリアルカードに移すことでこのやり取りを終わらせたのだ。
奏がドロップしたマテリアルカードと魔石の回収を始めたことで、サクラは楓からの説教ルートを回避することに成功した。
その結果をもたらしてくれたので、サクラはバアルに心の中でしっかりと感謝した。
奏が回収したマテリアルカードには、チョリソーがたくさん描かれていた。
「スカーレットワームとチョリソー、関連性がねえよな?」
「遠近法を使えば似てなくもねえだろ」
「バアル、それは似てないと同義なんだ」
「大丈夫だ。スカーレットワームの肉を、そのまま食うんじゃあるめえし」
「そりゃそうだけどさ」
渋々と言った表情で奏はマテリアルカードをしまった。
実際、バアルの言っていることが正しく、別にチョリソーがスカーレットワームの肉で作られた訳ではない。
それをわかっているからこそ、奏もこれ以上とやかく言わなかった。
「それはそうとバアル、幻獣系モンスターはどこら辺にいる? ここまでサクラ無双でスムーズに来た訳だが」
「あー、そうだな。近づいてはいるんだが、反応が小さい」
「<覇王>の影響で隠れたか?」
「いや、違うと思うぜ。俺様達が近づいても反応に変化がねえ。こりゃ寝てるな。肝が据わってやがるぜ」
「寝てる・・・だと・・・」
「あっ、ヤバい。しまった」
寝ることが好きな奏にとって、外出中、それもちゃんとした目的がある時に寝るという言葉は口にしてはならない。
それに関連する言葉だけでも、奏が自分も寝たいと思い始め、みるみるうちにやる気がなくなっていくからだ。
「キュル! キュルキュル!」
「パパ、サクラがもっと熱くなってよだって」
「いやいや、サクラは凍らせる方だろ」
「そうだよね~。おかしいよね~」
奏のツッコミを聞き、ルナはその通りだと笑った。
しかし、サクラにとっては奏の機嫌は重要なファクターである。
奏が面倒だと思い、自らダンジョンの攻略を始めてしまえば、折角今まで自分だけの無双タイムを楽しんでいたのに、それが終わってしまう。
だからこそ、サクラは奏にテンションを上げたまま温かく見守ってほしいのだ。
ドシン、ジュワァッ、ドシン、ジュワァッ、ドシンジュワァッ。
突然、道の先から大きな足音と何かが熔ける音が聞こえたことで、奏達は臨戦態勢に入った。
「残念だな、奏。幻獣系モンスターじゃないぞ、これ」
「何が来た?」
「この反応はゴーレムだ。熔けた音がしたから、ラーヴァゴーレムだろうな」
「あっ、奏兄様、来ました! ドロドロな巨人です!」
楓が指差した方角には、溶岩がどうにか巨大な人型をしていると形容するしかないモンスターだった。
1歩歩く度に体を構成する溶岩が垂れ、通路が熔けている。
「サクラ、やれるか?」
「キュル!」
奏に声をかけられ、サクラは任せてほしいと力強く応じた。
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