第117話 寝言は寝て言ってくれる?

 光が収まると、紅葉のシェルベストが赤い軍服になっていた。


 また、ジャンクガントレットVer.6も、赤いガントレットへと変わっていた。


《紅葉は転職玉により、賭博師ギャンブラーから近衛兵ロイヤルガードに転職しました》


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉は、世界で初めて転職しました。初回特典として、<探究者>の称号を会得しました》


《紅葉の<技師>と<道化師>、<探究者>が、<器用貧乏>に統合されました》


《紅葉は【二重賽子吸収ダブルダイスドレイン】を失い、【鋼鉄城アイアンキャッスル】を会得しました》


《紅葉は【全投入オールイン】を失い、【遅延ディレイ】を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉は、世界で初めてスキルを失いました。初回特典として、<記録者ロガー>の称号を会得しました》


《紅葉の<廃品回収ジャンク屋>と<記録者ロガー>が、<RPGプレイヤー>に統合されました》


 バアルの言っていた通り、紅葉のスキルに変化があった。


 正確には、賭博師ギャンブラーだった時のスキルの内、2つを失った。


 しかし、その代わりに新たに2つのスキルを会得した。


 紅葉は普段、掲示板に目を通しているので、バアルを除いて奏達の中で最も情報に精通している。


 そんな紅葉でも、近衛兵ロイヤルガードという職業、<器用貧乏>と<RPGプレイヤー>の称号は知らなかった。


 【鋼鉄城アイアンキャッスル】と【遅延ディレイ】についても、効果の予想はできても詳細は知らなかったので、少なくとも今回の転職先がマイナーであることは間違いない。


「バアルさん、今回の転職はどう?」


「その顔はわかってるだろうが、奏の退魔師エクソシスト同様、レアな職業だぜ」


「よし!」


「紅葉お姉ちゃんが、奏兄様と同じ?」


 バアルの発言に、楓がピクッと反応した。


「楓、落ち着け」


「は~い」


 楓の機嫌が悪くなる前に、横に座っている楓の肩を抱くと、楓はおとなしく奏に抱かれた。


「とりあえず、どれだけ変わったのか見てみるわ。【分析アナライズ】」


 バアルに説明を求める前に、自分がどれだけ変わったのかわかっていなくては要領を得ないので、紅葉は自分のデータを確認し始めた。



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名前:秋山 紅葉  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:女 Lv:83

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HP:515/515

MP:515/515

STR:515(+100)

VIT:515(+50) (+50)

DEX:565

AGI:515 (+50)

INT:515

LUK:515

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称号:<RPGプレイヤー><不曉不屈><器用貧乏><爆弾魔>

職業:近衛兵ロイヤルガード

スキル:【分析アナライズ】【幸運合成ラッキーシンセシス】【鋼鉄城アイアンキャッスル】【遅延ディレイ

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装備1:蜻蛉切Ver.5

装備1スキル:【爆発エクスプロージョン 】【雷釘打サンダーネイル 】 【斬撃雨スラッシュレイン

      【毒釘打 《ポイズンネイル》】【岩砲ロックキャノン

装備2:ボマーガントレットVer.1

装備2スキル:【回復ヒール】【衝反撃ショックカウンター

装備3:近衛兵ロイヤルガードセット

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パーティー:新田 響

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従魔:ピエドラ(ドラゴンブラッド)

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 色の変化からわかっていた通り、ジャンクガントレットVer.6が、ボマーガントレットVer.1に変わり、シェルベストは近衛兵ロイヤルガードセットになっていた。


 ジャンクガントレットVer.6が、ボマーガントレットVer.1になったことにより、【滑反撃スリップカウンター】が【衝反撃ショックカウンター】に上書きされていた。


 能力値の面では、ボマーガントレットVer.1がVIT+50の性能を発揮し、近衛兵ロイヤルガードセットはVITとAGIをそれぞれ50上昇させた。


「バアルさん、色々変化があり過ぎるから、職業、称号、スキルの順に説明してもらえない?」


「良いぜ。近衛兵ロイヤルガードってのは、王を守る職業だ。双月島の王と言えば奏だから、紅葉は奏に仕える私兵って訳だ」


「奏君の私兵か~。ちょっと待って。近衛兵ロイヤルガードと言えば、デュフフ」


 近衛兵ロイヤルガードという言葉から、あることを思い付いた紅葉の顔が何か企んでいるものになった。


「何笑ってんの、紅葉? 笑い方がキモイよ?」


「キモイって酷いわね」


「紅葉お姉ちゃん、近衛兵ロイヤルガードだからって、奏兄様の護衛を名目に私達の部屋に入って来たら、記憶消すよ?」


「くっ、奏君の寝顔を見るチャンスが」


「奏兄様の寝顔を見て良いのは、奏兄様のパーティーだけだよ」


「あれ、従妹の僕もサラッと除外されてる」


「従妹は結婚できるから、当然除外するよ」


「手強い・・・」


 奏の寝顔を見るための攻防が、始まってすぐに楓の勝利に終わった。


「あー、紅葉の姉ちゃん、説明を続けて良いか?」


「ごめんなさい。続きをお願い」


「あいよ。近衛兵ロイヤルガードは、仕える相手を守るために戦うとき、全能力値が倍になる」


「つまり、奏君のためと論理付けて戦えば、それができた時はいつでも全能力値が倍になるのね?」


「ずっこい気はするが、システム上はその通りだぜ」


 紅葉の考え方が、神々の考えたシステムの抜け穴を通るようなものなので、バアルは積極的に頷きはしなかった。


 システムを作った側の存在が、進んで抜け穴を通るようなやり方を勧められはしないので、バアルは説明を続けた。


「次は称号だ。<RPGプレイヤー>は、戦闘時のモンスターカードと装備のドロップ率が倍になるだけでなく、視点を通常の視点と俯瞰した視点に切り替えられる」


「ゲームじゃん」


「<RPGプレイヤー>なんだから、ゲームっぽいのも当然だろ」


「それもそうね」


 バアルの話を聞き、紅葉は納得した。


 別に、不満があって口を挟んだつもりではないので、あっさりと引き下がった。


「器用貧乏ってのは、体験したスキルを会得しやすくなるが、会得できるかどうかはDEX依存の称号だ。それに加えて、レベルアップまでに倒したモンスターの数で、レベルアップ時のDEXの上り幅が変わるぜ」


「私のスキル、まだまだ増やせるのね」


「ポジティブだな」


「ゲームを嗜む者として、器用貧乏なキャラクターの育成ぐらい余裕よ」


 もし、<器用貧乏>を奏が会得したならば、名称からして面倒そうだとうんざりしそうだが、紅葉であれば話は別だ。


 ゲームにも精通するオタクに対し、器用貧乏なキャラなんて大した障害でもなんでもない。


 時間さえかければ、強くなることが確約されているのだから、喜んで時間を投資しようと思うのが紅葉なのである。


「そりゃ結構だ。最後にスキルだな。【鋼鉄城アイアンキャッスル】は、発動から解除するまでの間、AGIが0になる代わりにVITにその減少分の数値が上乗せされる効果がある」


「まさに鋼鉄の城ね。自分では動けない代わりに、強度を高めて攻撃を受けるなんて」


「それが近衛兵ロイヤルガード道ってもんだぜ、紅葉の姉ちゃん」


「体を張って奏君を守ることで、奏君から労わってもらえるし、上手くいけば」


「寝言は寝て言ってくれる?」


「「ひっ!?」」


 楓から、並々なら殺気が放たれ、バアルと紅葉は短く悲鳴を上げた。


「はいはい、楓。絶対に浮気なんかしないから、落ち着こうな」


「もう、奏兄様ってば大胆ですね」


 ルナを頭の上に乗せ、奏が楓を自分の股の間に座らせて抱き締めると、楓の機嫌はすぐに直った。


 バアルと紅葉が、面目ないとジェスチャーで奏に詫び、話の軌道が修正された。


「【遅延ディレイ】は、対象の動きが遅くなる。自分と対象のINTの差分、相手のAGIの数値が減少するから、INT高めの奴には効かねえぞ」


「逆に、STRとかVIT重視の脳筋にはばっちり効くわね」


「その通り。【衝反撃ショックカウンター】はパッシブスキルで、敵の攻撃を防いだ時に、衝撃波が発生して敵の姿勢を崩すから、反撃の起点になると思え」


「わかったわ。うん、転職して成功だったようね」


「LUKガン積みして、これで農民ファーマーだったら泣ける。紅葉はもう少し、後先考えた方が良い」


「人生ってのは、ハイリスクハイリターンなのよ」


「結果論に過ぎないくせに、鉄壁の貧乳め」


「くっ、近衛兵ロイヤルガードの特徴を盛り込んできて腹立つ」


 こうして、紅葉の転職は無事に終わった。


 その後、再びこの場にいる全員で今日の予定を話し合い始めた。

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