第113話 こんな美人の母親がいたら嬉しいだろ?

 ルナの頭を撫でながら、奏はバアルに訊ねた。


「バアル、称号とスキルの説明頼む」


「あいよ。<賢獣姫>ってのは、幻獣系モンスターに言うことを聞かせられるようになる称号だ。ついでに、今みたいにルナが【念話テレパシー】を使わずとも、喋れるようにもなる」


「ルナがお姫様か」


「お姫様なの~」


「かわいいやつめ」


「エヘヘ♪」


 奏に甘やかされ、すっかりご満悦なルナだった。


「それで、【魂接続ソウルコネクト】の効果は?」


「スキル発動中は、解除するまでの間、ずっと奏とルナの全能力値が合算して共有できる」


「普通にすごくね?」


「おう。普通、従魔師テイマーじゃなきゃ会得できねえスキルだ。まさか、ルナが会得するとは俺様も予想してなかったぜ」


「すごいでしょ~?」


「すごいぞ、ルナ」


「わ~い♪」


 奏に高い高いされ、ルナは喜んでいる。


「ルナちゃんが、奏兄様と能力値を共有? 私だってそんなことできないのに・・・」


 些細なことでも、奏とお揃いであることを望む楓は、ルナに出し抜かれた気がしてショックを受けた。


 実際のところ、ルナに出し抜くつもりなんてないのだから、楓の勝手な思い込みであることは間違いない。


 ルナと楓の機嫌が対照的になってしまったので、奏は話題を変えることにした。


「島の西側、どうしようかな?」


「掲示板には、良いアイディアは落ちてなかったのか?」


「欲しいと思った情報は、残念ながら載ってなかった」


「んじゃ、西側は娯楽のために使っちまえば?」


 奏の思考をサポートするため、バアルは自分の考えを口にした。


「娯楽ってどんな?」


「そこは、奏が考えな。暇を持て余した神々の遊びなんて、大抵は設定に凝り過ぎてクソゲーになっちまうからよ」


「それもそうか」


 大雑把な方針だけ与え、その中身は奏に考えさせる。


 それが、双月島開拓におけるバアルのスタンスである。


少し考えた奏は、自分の考えだけで決めて良いのか悩み、ルナに意見を求めた。


「ルナ、俺と一緒に遊べるとしたら、何がしたい?」


「う~ん、えっとね~、体を動かしたい!」


「運動か。アスレチックでも作るか」


「奏兄様、SAS〇KEのセットでも作るんですか?」


「主と従魔、人だけ、モンスターだけと3パターンで楽しめるセットを作る。島の西側を丸々使えば、かなりの大作ができると思う」


「【創造クリエイト】で創るなら、紙にイメージをまとめた方が良いと思います」


「そうだな。そうしよう」


 遣ることが決まると、奏はテキパキと動いた。


 SAS〇KEのステージを楓と一緒に思い出し、どうすれば人もモンスターも楽しめるか頭を捻った。


 そして、2時間後、奏達の前には双月島の西側を余すところなく使ったアスレチックの設計図があった。


「できた!」


「できました!」


 奏と楓は、やり遂げた表情になった。


「おう、できたか。俺様も、実物が気になるから、創りに行こうぜ」


「行くか」


「行きましょう」


「行くの~」


 奏達は、神殿から島の西側に移動した。


 木々が生い茂る森を前にして、奏は天叢雲剣を抜いた。


「【技能付与スキルエンチャント:<無限収納インベントリ>】」


 ズズズズズッ!


 天叢雲剣が紫色のユラユラしたオーラを帯び、それによって刀身がぐーんと伸びた。


 そのまま、奏は【刀剣技ソードアーツ】に身を任せ、思いっきり天叢雲剣を振りぬいた。


 スパパパパパァァァァァン!


 一刀両断し、奏は目の前の木々をバッサリと斬ってすぐに亜空間に収納された。


 それを何回か繰り返し、島の西側が森から平地に変わった。


 ここまでくれば、残りの作業は1つだけだ。


「【創造クリエイト】」


 設計図があるので、イメージはばっちりだ


 そのおかげで、スキル発動から完成まで1分とかからず、島の西側が巨大なアスレチックになった。


《おめでとうございます。個体名:高城奏がクエスト2-5をクリアしました。報酬として、奏の全能力値が+100されました》


 神の声が、また奏のクエストが進んだことを告げた。


「今度は何をクリアしたんだ?」


 2-4も含めて、クエスト内容を把握していなかったので、奏はクエスト機能を確認した。



◆◆◆◆◆


☆個体名:高城奏のワールドクエスト☆

〇1:神の復活(クリア!)

〇2:双月島開拓

2-1.住民の獲得(達成済)

2-2.島の区画整備(達成済)

2-3.世界樹の果実の収穫(達成済)

2-4.住民による開拓支援(達成済)

2-5.島への娯楽の提供(達成済)

2-6.島の防衛機能の強化(70%完了)


◆◆◆◆◆



 クエストを見た時、奏はバアルが自分のワールドクエストについて理解していたことを悟った。


「バアル、知ってたのか?」


「まあな。俺様と奏は、加護のおかげで色々と共有されてる。だから、奏のクエストもちゃんと把握してんだよ」


「そっか。ありがとな、バアル。指摘してくれなかったら、違うものを作ってたかもしれない」


「良いってことよ。俺様も、奏が食って寝てを繰り返すだけの生活になっちゃマズいと思っただけだ」


「・・・お前は俺の母親かよ」


 バアルに自分の生活を心配され、奏は苦笑いした。


「こんな美人の母親がいたら嬉しいだろ?」


「まあ、美人じゃない母親と美人な母親だったら、後者の方が嬉しいけど、俺の母親は別にいて、もう死んでる」


「わかってるさ、そんなこと。今はもういねえからこそ、俺様が母親代わりだ。俺様に母親になってもらえるんだ。感謝しろよな?」


「そうだな。ありがとよ、バアル」


「お、おう。素直じゃねえか」


 素直じゃない反応をされると思っていたため、素直に感謝されたバアルは恥ずかしくなった。


「そ、奏兄様、ここに奥さんもいますよ! ギュッとしてあげますよ!」


 バアルが母性を出してきたことに焦り、楓は奏を抱き締めた。


 そこには、貴重な奏を甘やかすチャンスを逃しはしないという楓の強い執着心が見えた。


「うん、ありがとな、楓」


 楓の気持ちも嬉しく思い、奏は楓にもお礼を言った。


 それから、少し時間が経ってから、奏達は試しにアスレチックを試してみることにした。


 奏はルナとペアで、楓はサクラとペアだ。


 しばらくの間、子供のように遊んだので、奏達の良い気分転換になったのは間違いない。


 太陽がぼちぼち沈み始める頃になると、そこに紅葉達がレベル上げから戻って来た。


「何これ!? 私達がいない間に、SAS〇KE的なアスレチックが!?」


「おじいちゃんに作ってもらったものよりも、かなりパワーアップしてる」


「えっ、じいちゃんこんなの作ってたっけ?」


 響の発言に、奏はそんなもの自分は知らないと驚いた。


「奏ちゃんが上京して、僕が寂しがってたら近所の人達と一緒に作ってくれた」


「近所の人って誰?」


「ゲンさん、イワさん、ヤマさん、タニさん、ハシさん」


「大和工務店勢揃いで何してんだよ・・・」


 奏と響が地元の話で盛り上がっていると、楓がムスッとした顔になった。


「奏兄様、私にもわかるように教えて下さい」


「じいちゃんと仲が良いゲンさんって人が、大和工務店って大工なんだけど、そこの従業員全員とじいちゃんでアスレチックを作ったらしい」


「フッ、これが奏ちゃんと幼少期を共に過ごした従妹の力だよ」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ、その思い出、消えないと良いね」


「響、逃げて! 超逃げて!」


 自分が手に入れられない過去ものを自慢する響に対し、楓の目からハイライトが消えたのを見て紅葉が叫んだ。


「マズい、煽り過ぎた」


「【記憶メモリー


「落ち着け、楓。過去に嫉妬するな。まだまだこれからだろ?」


 【記憶消去メモリーデリート】発動3秒前の楓を、奏は抱き締めて落ち着かせた。


「・・・奏兄様、響が酷いんです」


「よしよし。後で俺から言っておくから、落ち着こうな」


 目に光が戻り、楓は奏に甘える方向に切り替えた。


 そして、抱き締められた自分を見る響に対し、楓は奏にバレないように勝者の笑みを浮かべた。


「奏ちゃん! 楓がゲス顔浮かべてる!」


「いやいや、そんなことないでしょ?」


「ないですよ」


「奏ちゃん! 従妹を信じて! 勝ち誇ったような笑みで見下してる!」


「酷いね、響。私を貶めて奏兄様と仲良くなろうなんて」


 楓のポジション取りが、ずば抜けて上手いことにより、奏に楓の表情は見えていない。


「ギィアァァァァァァァァァァッ!」


 その時、大気が震える程の叫び声が、奏達全員の耳に届いた。


「バアル!」


「敵襲だ! 八岐大蛇並みの奴が来てやがる! 戦闘準備だ!」


 奏達が平和に遊んでいる時間は、今の世界ではそう長くは続かなかった。

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