第105話 ゼウスの浮気のせいで、スケジュールが立てられん
バアルが復活した時、天界では5柱の神がその様子を円卓に座って見守っていた。
その5柱とは、
伊邪那美は、国を生んだとされる日本でも有名な女神だ。
その見た目は、一目見ただけで母性を感じない者はいないぐらい、だれよりも母親のような雰囲気を醸し出している。
ガネーシャは、インドで祀られる学問と商売の神だ。
奏達と話す時もそうだったが、今も女性の姿をしている。
オーディンは、北欧神話の男神であり、最高神でもある。
数え切れないぐらいの褒章をつけた軍服を着ており、ムキムキな渋い爺さんという見た目だ。
メジェドは、エジプト神話に登場する神に間違いないが、謎に包まれている。
目の部分だけ穴のある白い布を被り、裾からは裸足がはみ出ている。
男とも女ともわからない、中性的な体型のため、性別は不明だ。
ケツァルコアトルは、アステカ神話に登場する蛇神だ。
この場において、二足歩行ではない唯一の存在である。
この5柱が円卓の間に揃っているのは、ヒューマンの進化とバアルの復活をふまえ、今後について話し合うためだった。
他にも神は天界にいない訳ではないが、万全の状態で話をできるのはこの5柱しかいないため、このような統一感のないメンツになっている。
最初に口を開いたのは、伊邪那美だった。
「フフフ。
「息子? 別に、奏は伊邪那美の息子じゃないでしょ?」
「何を言ってるのかえ、ガネーシャ? 奏は日本人だえ。日本を生んだ此方からすれば、息子同然だえ」
「あぁ、そうね。そういう考えだったわね」
伊邪那美の言いたいことがわかると、ガネーシャは深く突っ込まなかった。
伊邪那美の母性は、スイッチが入ると急激に重くなる。
その母の愛を語るだけで、軽く1日は過ぎる。
そんなことになっては堪らないので、ガネーシャは伊邪那美の言い分を理解したら黙ったのだ。
「儂等の同胞が、こうも早く復活するとはのう」
「当然だえ。此方の息子は、誠に優秀なんだえ」
「まあ、そうじゃろうな。世界改変から12日で、バアルを復活させるなど、ちょっとやそっとじゃできまいて」
「シュロロ、奏、やるね」
「確カニ。予想外」
オーディンが感心したように言うと、ケツァルコアトルとメジェドが頷いた。
話題を変えるため、ガネーシャが再び口を開いた。
「バアル、天界に帰って来るかしら?」
「戻らないと思うえ」
「戻らんじゃろうな」
「シュロロ、同じく」
「戻ラナイナ」
「やっぱりそう思う? 私も同感だけど」
満場一致で、バアルは天界に戻って来ないと意見がまとまった。
「魔界での威力偵察から、帰って来て天界での業務を不眠不休でやったえ。これ以上、休みなく働かせるのは酷だえ」
「儂もちと、バアルに色々頼み過ぎたのう。しばらくは、奏といれば良かろう」
「シュロロ。休暇、大事」
「アイツ、自分ヲ社畜ト言ッテル。奏ニ天界ヲ悪ク思ワレタラ、今後ノ協力依頼ガ難シクナル。今ハ休マセルベキ」
「「「「・・・」」」」
メジェドの意見を聞くと、4柱は鳩が豆鉄砲を食ったような表情になった。
そんな表情をされれば、メジェドも居心地が悪くなるのは当然のことだろう。
「何カオカシナコトヲ言ッタカ?」
「いえ、貴方が長く喋れたのかと驚いたんだえ」
「そんな喋る方じゃないと思ってなかったから」
「普段、一言でしか喋らんから、驚いたわい」
「シュロロ、明日は嵐」
自分に対する評価が、天然記念物扱いだったので、メジェドはムッとした。
いや、それよりもツッコむべきことがメジェドにはあった。
「ダガ、チョット待ッテホシイ。長ク喋レナイトイウノハ、ケツァルコアトルデハ?」
「シュロロ、キャラ被り」
「ヤメロ。断ジテキャラ被リデハナイ。普段喋ラナイノハ、ソノ方ガ、ミステリアスデカッコイイカラダ」
「「「・・・」」」
メジェドの口数が少ない理由が、その方がミステリアスでカッコいいからと聞き、伊邪那美とガネーシャ、オーディンのメジェドを見る目に憐れみが増した。
「シュロロ、メジェドって馬鹿だな」
「蛇如キニ馬鹿呼バワリサレタ!?」
「シュロロ、蛇如きとは失礼な。人型にもなれるぞ。疲れるからやらないけど」
メジェドとケツァルコアトルが、言い合いになりそうだと判断し、オーディンが間に入った。
「ほれ、そこまでにしておかんか。そもそも、儂等が今集まっているのも、今後について話し合うためじゃろう?」
「ソウダッタ。悪カッタ」
「シュロロ、すまない」
「うむ。それでじゃが、今後はどうする? 奏に協力を募り、日本から従魔を除いて完全にモンスターを排除させるかのう?」
「それは難しいえ」
「訳を聞こう、伊邪那美。何故じゃ?」
オーディンの案に対し、ノータイムで難しいと伊邪那美が答えたため、オーディンはその理由を訊ねた。
「奏の性格を考えれば、ここまで1日も休まず働いたのは、奏がバアルに大して義理を果たすためだえ。元々、奏はバアルを復活させるまでは頑張ると口にしていたえ。その目標を達したのだから、少しは自由にさせてあげるえ」
「私もそう思う。奏ってば、【
「むぅ、それは否めんのう。せめて、ヘラが奏の手綱を握ってくれれば、事態も変わったんじゃが」
「「それはない(え)」」
オーディンの発言を、伊邪那美とガネーシャがシンクロして否定した。
「何故じゃ?」
「奏の妻、楓と波長が合っているからだえ」
「そうね。今のヘラは、世界がどうなるかよりも、いかに楓を奏の唯一の妻とした状態をキープできるかの方が重要そうだもの」
「奏は祖父の教え通り、楓を大切にしているえ。だから、ヘラが何もしなくても問題ないえ」
「そうよね。けど、楓の姉と奏の従妹が奏を好いてるから、ヘラは気が抜けないんでしょうね」
「ゼウスの浮気のせいで、スケジュールが立てられん」
オーディンが項垂れた。
ゼウスがヘラだけを愛していれば、もうちょっと事態を操れるのにと、ここにいないゼウスに対してオーディンは苛立ちを募らせた。
「シュロロ、奏の動きなら、ほんの少し先なら読める」
「本当か、ケツァルコアトル?」
「シュロロ、本当。奏は
「<不老長寿>ヲ欲シテ、楓ガ
「シュロロ、正解」
ケツァルコアトルの問いかけに対し、メジェドが正解を導き出した。
「なるほどのう。じゃが、富士山で八岐大蛇を倒してしまった今、もう奏に近づこうとするモンスターはおらんじゃろ? それこそ、八岐大蛇並みのワールドクラスのモンスターか、ソロモン72柱ぐらいじゃ」
「富士ノ樹海ト同ジ方法ヲ使ウカモナ」
「恐ろしいのう。あれは、【
「流石は此方の自慢の息子だえ。普通はできないことを、平然とやってのけるえ」
「そこに痺れも憧れもしてはいかんじゃろうが・・・」
神という存在は、案外暇なのだろうか。
自己流にアレンジしたパロディネタを使えるあたり、余裕があるように思える。
「シュロロ、世界中のモンスターの配置を操作して、双月島の近くに集めては?」
「イッソノコト、双月島ノ近クニ無人島ヲ創ッテシマエ。ソウスレバ、世界ノモンスターノ総量ガ減リ、楓ノレベル上ゲニモナル」
「あまり、儂等が率先して地球の地形をいじるのは好ましくないんじゃが、背に腹は代えられんか」
「待つえ、オーディン。まさか、奏をすぐに戦わせようと言うのかえ?」
ケツァルコアトルとメジェドの意見を取り入れ、双月島の近くに新たな無人島を用意することに前向きなオーディンを見て、伊邪那美は待ったをかけた。
「止めるならば、他に手はあるんじゃろうな?」
「自然に任せるが良いえ」
「なぬ?」
「ケツァルコアトルが言うように、奏は楓を
「私も伊邪那美に賛成。奏だったら、自由なペースでモンスターを減らしてくれるわ。それよりも、私達は奏に続く冒険者を見つけた方が良いわ。その方が、結果的に早く神器になった同胞を復活させられるもの」
伊邪那美とガネーシャの意見を聞き、オーディンは頷いた。
「それもそうじゃな。バアルとヘラがいれば、最低限はモンスターと戦うじゃろうし、これ以上無理やり働かせるのも逆効果かもしれん。奏に続く者を発掘するとしようかのう」
オーディンの意見に、他の4柱は頷いた。
こうして、奏の知らない所で、奏の負担は軽くなるのだった。
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