第104話 レギオンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

 秋葉原の住宅地から、20分ぐらい歩いた先にあるダンジョンでは、紅葉の後輩である冬音達のパーティーがダンジョンに挑んでいた。


「ええい、鬱陶しい! 【蛇炎スネークフレア】」


 ボッ、ボボボォォォッ! パァァァッ。


「倒したぁ!」


「よしっ!」


「終わったわ!」


「おしまい!」


 冬音の放った蛇のように這う炎が、餓者髑髏がしゃどくろにとどめを刺すと、冬音のパーティーメンバーが歓声を上げた。


 冬音達が今いるのは、紅葉が掲示板で見たミルメコレオが溢れたダンジョンではない。


 そちらのダンジョンは、別のパーティーに任せ、冬音達は新たにモンスターが溢れ出したダンジョンに来ていたのだ。


 しかもそのダンジョンは、妖怪系モンスターしかいないダンジョンだった。


 どういう訳か、初めて和風のモンスターが出現したので、秋葉原の住宅地では一番強い冬音のパーティーが威力偵察に来た。


 そして、思ったよりも大したことがないと判断すると、威力偵察から本格的な攻略に切り替えた。


 先程、倒した餓者髑髏は、ボス部屋の前に陣取っていたモンスターである。


 冬音達のパーティーの平均レベルは、50まで上昇しており、余程の強敵でなければ、秋葉原近郊では敵なしになった。


 それでも、ボス部屋に休憩を取らずに挑むような真似はしなかった。


 なんだかんだ、ダンジョンに入ってから、ボス部屋の前に辿り着くまで、全く休んでいなかったので、全員が休憩を望んでいたのである。


 周囲に敵影がないことを確認してから、冬音達は地面に座り込んだ。


 そして、冬音が水筒をリュックから取り出そうとした時、アナウンスが聞こえた。


《おめでとうございます。日本の冒険者が、人類で初めてLv100に到達し、ヒューマンから亜神エルフに進化しました。初回特典として、ヒューマンの進化条件が日本に先行公開されました》


「「「「「えぇっ!?」」」」」


 突然の神の声に、冬音達は驚きを隠せなかった。


「LV100!?」


亜神エルフ!?」


「進化!?」


「人間やめたの!?」


 パーティーメンバーが騒いでいる中、冬音はすぐに冷静さを取り戻した。


 (これ、多分高城さんのことだよね・・・)


 冬音は自分達の窮状を救ってくれた恩人、紅葉のパーティーリーダーである奏のことを思い出した。


 実際のところ、奏達は一緒に住んではいるものの、奏は紅葉とパーティーを解消している。


 だから、今は奏と紅葉は違うパーティーになるのだが、冬音達はそれを知らない。


 それは、紅葉と直接連絡を取っていないからだ。


 最後に紅葉と響に助てもらってから、冬音は紅葉に頼っていない。


 紅葉から、なんでもかんでも頼られたら困ると言われ、冬音達は翌日から自力で秋葉原の立て直しとモンスターの討伐を始めた。


 住宅地を建設したのは紅葉で、住宅地に押し寄せたスタンピードのモンスターの数を大きく削ったのも紅葉達だ。


 この上、まだ紅葉達に寄生するような真似をすれば、自分達は考える頭を腐らせ、堕落の道を進むしかない。


 そうなる訳にはいかないので、冬音は紅葉に連絡を取るのを止めたのだ。


 勿論、本当に死ぬかもしれない一大事になれば、恥を忍んで助けを乞うつもりだが、できるところまでは自分達でどうにかしたい。


 そう考えているからこそ、掲示板で情報のやり取りをすることはあっても、冬音は紅葉に直接連絡は取ってない。


「なあ、進化したのって、聖女様のパーティーリーダーのことだよな?」


「そうじゃね? 俺、あの人よりも強い人がいるとは思えん」


「同感。聖女様の同僚って言ってたけど、何してた人なんだろうね?」


亜神エルフになったら、見た目はどう変わるんだろ?」


 冬音のパーティーメンバーも、進化したのは奏に違いないと判断するぐらいには落ち着きを取り戻した。


 進化による外見の変化は気になったので、冬音も話に加わった。


「前にお会いした時は、黒髪黒目だったよね。金髪碧眼になってたりして」


「うーん、あの人は金髪似合わなそう」


「わかる。黒髪黒目だからこそ、カッコイイんだよ」


「え、冬音ってば、あの人のこと狙ってんの?」


「狙ってるというか、あそこまで頼れる人いなくない? 寝るのが好きらしいけど、やる時はやるって紅葉先輩言ってた」


「強いのに、オラオラしてなかったよね」


「うん。チャラチャラもしてなかった」


 気づけば、女性陣3人で奏の評価が始まっていた。


「ヅラ、お前の彼女があんな話してるけど、放置してて良いのか?」


「うっさいハゲ。野郎同士が集まったら、グラビアアイドルの話するのと変わんねえよ」


「へぇ、そうなんだ。裕太は私というものがありながら、そういう話しちゃうんだ?」


「いや、雲母、違うんだ。例えばの話だって」


「ハハッ、リア充ざまぁ。ママに怒られてやがんの」


「ハゲ、この野郎・・・」


 裕太ヅラ雲母ママは、冬音達のパーティーで唯一のカップルだ。


 いつ死ぬかもわからない世界になった今、子孫を残そうとする本能が強くなるのは自然であり、そういう関係の2人、というか裕太のことを元司ハゲは妬ましく思っている。


 とはいえ、殺したくなるぐらい恨んでいるという訳ではなく、あくまで非リア充としてリア充爆発しろと思っているだけだ。


「まあ、私は裕太の彼女だから、そこは安心して良いよ。それと、冬音があの人を落とせるとは思えない」


「「なんで?」」


 断言する雲母に対し、男2人の反応がシンクロした。


「あれ、知らなかった? あの人結婚したんだって。5日前に、聖女様の妹さんと」


「パネェ・・・」


「こんな状況で結婚したのか」


「つか、ロリコン?」


 元司がロリコンと口にした瞬間、雲母の眉がピクッと動いた。


「ハゲ、女性が気にすることを言うなんて最低。だからモテないのよ」


「うっ」


「ハゲみたいな男が出世すると、若い女性社員にセクハラして訴えられるのよ。ここまでがワンセットね」


「うぐっ」


「大体、社会人で坊主ってどうなのよ? 筋肉質で坊主とか、最初にスーツ着て歩いてるの見た時ヤクザと思ったわ」


「ぐはっ・・・」


「止めてやれ、雲母。ハゲのライフはとっくに0だ」


「あら、ごめんなさい」


 雲母の容赦ない言葉が続き、元司はノックダウンした。


「何やってんの?」


「はしゃいでるけど、この後大丈夫なんだよね?」


「チャイ、カラシ、聞いてよ。この2人が、あの人と聖女様の妹が結婚したの知らなかった」


「知らなかったの?」


「そういえば、私がその話をしてた時、2人とも爆睡してたっけ」


 腕を組み、冬音は奏と楓が結婚したとパーティー内に話した時のことを思い出した。


「そうだっけ? まあ、それは良いんだけど、ハゲがあの人のことロリコンだなんて言うから、ちょっと懲らしめといたわ」


「身体的な特徴を言うの、良くない。大体、妹さん胸大きかったじゃん」


「ハゲ、あの人には変わった性癖とかないよ。というか、もしかしなくても鈍感な人だと思う」


「確かに。あのパーティー、みんなあの人のこと好きだもんね」


「そうね。間違いないわ」


「きっと、紅葉先輩の妹さんのアピールが、先輩やもう1人の子よりも激しかったんだと思うな」


 奏が鈍感なことが、冬音と雲母、チャイにはバレていた。


「えっ、じゃああれか? あの人、夜はあのおとなしそうな妹さんにガツガツやられてんの? 狼は妹さんかよ」


 落ち込んだ状態から復帰した元司が、またしても余計なことを言った。 


「ハゲ、最低」


「エロゴリラ」


「一生独身」


「くっ、俺だって強くなったら、あの人みたいにモテ男になれる可能性が」


「「「ない」」」


「なん・・・、だと・・・」


 女性陣に可能性を否定され、元司はorzの体勢になった。


 だが、それでもなんとか希望を持ちたい元司は、キッと顔を決めると口を開いた。


「レギオンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」


「ウチはないわね」


「他のパーティーもないでしょ」


「目線に下心が出過ぎて引かれてるわ」


「絶望した! 出会いのない人生に絶望した!」


「ハゲいじめはその辺にして、そろそろ行かないか?」


 女性陣にメンタルフルボッコにされた元司を哀れに思い、裕太は助け船を出した。


 すると、冬音が頷いた。


「それもそうね。これだけ喋れる元気がある訳だし、ボスに挑みましょう」


 休憩を終えた冬音達は、ボス部屋の扉を開いた。


 それから、冬音達がボスを倒してダンジョンを脱出したのは1時間後のことだった。

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