第102話 俺様、完・全・復・活!

 神殿に戻った奏達は、すぐに礼拝堂に移動した。


 奏と楓が結婚式を挙げて以来、奏達が礼拝堂に入ることはなかった。


 元々無宗教な日本人にとって、礼拝堂なんて用事のある場所ではないからだ。


 しかし、今日この時に限っては用事がある。


 バアルが復活するなら、この礼拝堂が良いと言ったので、奏達はここにいる。


 紅葉達は、本土に出かけており、奏が行ったことのない場所にいるため、奏は【瞬身テレポート】で迎えにいくことはできない。


 それゆえ、バアルの復活に立ち会えるのは、奏と楓、ルナ、サクラ、ヘラだけである。


 バアルに吸収させる魔石と、八岐大蛇のモンスターカードは準備済みだ。


 後は、奏がバアルに吸収させれば、バアルは復活する。


「バアル、心の準備は良いか?」


『おう。始めてくれ』


 バアルが了承したのを確認してから、奏は魔石とモンスターカードをバアルに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLV100になりました》


《バアルは【高速再生クイックリジェネ】を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏がクエスト1-10をクリアしました。報酬として、バアルの復活率が100%になりました》


《バアルが復活します》


 ピカァァァァァン!


 奏が亜神エルフに進化した時と同じように、礼拝堂を光が包み込んだ。


 すると、奏は手元からバアルがなくなったのを感じた。


 そして、先程まではいなかった奏の正面の位置に、神々しい気配が現れた。


 光が収まると、【変身シェイプシフト】で人型になった時よりも大人になった姿のバアルが、奏達の前に現れた。


 牛の角を模った兜を被った銀髪ロングの巫女の姿であり、抜群のプロポーションがとても艶やかに見える。


《おめでとうございます。バアルが神器から神に復活しました。特典として、奏の<嵐神使徒>と<異界大使>が、<バアルの加護>に統合されました》


《<バアルの加護>を会得したことにより、奏はバアルのスキルを”加護スキル”として部分的に継承しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、日本最強のモンスターである八岐大蛇を討伐し、バアルを復活させたため、奏は天叢雲剣あめのむらくものつるぎを会得しました》


 神の声が止むと、バアルはドヤ顔だった。


「俺様、完・全・復・活!」


「おめでとう。これで、俺も枕を高くして寝られるぜ」


 奏はバアルの復活を祝うべく、拍手をしようとして自分の手に刀があることを思い出した。


 その刀は、黒い柄と鞘が見えており、鞘から刀身を抜いてみると、白銀の刃が光っていた。


 それ以外にも、柄頭には雲のマークが刻まれていた。


 刀をじっくり見終えた奏は、困った表情をした。


 その一方、バアルは嬉しそうに笑っていた。


「刀、ねぇ・・・」


「八岐大蛇を倒したんだから、天叢雲剣が手に入るのも道理だな。良かったじゃねえか。オリハルコン製の刀だぜ?」


「バアル、俺は刀は使えないぞ?」


「安心しな。刀の使い方は、その刀が教えてくれるさ」


「は?」


「その刀の使用者は、装備スキルの【刀剣技ソードアーツ】がパッシブスキルだから、奏が素人でも一流の侍みてえに刀を使えるぜ」


「チートだな」


「神器なんてもっとチートだろうが。ついでに、【技能付与スキルエンチャント】は、奏が使えるスキルを刀に付与できるスキルだ」


「マジか。雷を帯びさせた刀とかできちゃうのか?」


「できちまうぜ。どうだ、中二心をくすぐられるだろ?」


「俺、中二病患者じゃなかったから、その辺はわかんねえや」


「お、おう。クソ、紅葉だったら絶対に泣いて喜ぶのに」


 自分の代わりの武器が、すごい武器だとバアルは伝えたかった。


 それに対し、奏はオタクの領域に足を踏み入れておらず、中学2年生の頃は祖父に狩りにつれていかれており、中二病にかかることもなかったので、天叢雲剣がチートだと理解できても、狂喜乱舞することはなかった。


 この場で天叢雲剣について熱弁しても、逆効果だと判断し、バアルは話題を変えることにした。


「まあ、その、なんだ。奏も色々変わったんだから、能力値を見てみろよ」


「確かに。見てみるか。【分析アナライズ】」



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名前:高城 奏  種族:亜神エルフ

年齢:25 性別:男 Lv:100

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HP:1,200/1,200

MP:2,400/2,400

STR:1,200

VIT:1,200(+50)

DEX:1,200(+50)

AGI:2,400

INT:2,400(+50)

LUK:1,200

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称号:<バアルの加護><覇王><竜滅殺師ドラゴンスレイヤー

   <鷲獅子騎手グリフォンライダー><不老長寿>

職業:退魔師エクソシスト

スキル:【分析アナライズ】【健康ヘルス

固有スキル:【世界停止ストップ・ザ・ワールド】【瞬身テレポート】【創造クリエイト】【売店ショップ

加護スキル:【蒼雷罰パニッシュメント】【無限収納インベントリ】【聖橙壊ホーリーデモリッション】【天墜碧風ダウンバースト

      【透明腕クリアアーム】【聖爆轟ホーリーデトネーション】【嵐守護ストームガード】【高速再生クイックリジェネ

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装備1:天叢雲剣

装備1スキル:【刀剣技ソードアーツ】【技能付与スキルエンチャント

装備2:退魔師エクソシストセット

装備3:結魂指輪(楓)

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パーティー:高城 楓

-----------------------------------------

従魔:ルナ(グリフォン)

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 気づけば、自分の能力値がとんでもないことになっており、奏は驚きを隠せなかった。


「なんだこれ、本当に俺の能力値なのか?」


「奏兄様、私にも見せて下さい」


「あ、ああ。見てくれ」


「流石は奏兄様です! 控えめに言って最強ですね!」


『パパ、最強なの!?』


「キュル?」


「そうです! 奏兄様は最強なんです! 私は妻として、とっても誇らしいです!」


 ルナとサクラ相手に、奏ではなく楓がドヤ顔で自慢した。


 気分が良さそうなので、奏は楓に好きにさせたまま、バアルに疑問をぶつけ始めた。


「いくつか訊くぞ?」


「おう」


「Lv100ってのは、終着点なのか?」


「レベルとしては、終着点だな」


「含みのある言い方じゃん。つまり、どういうことだ?」


「能力値なら、レベルがカンストしても上げようがある。だから、奏はまだまだ強くなれるぜ」


「えっ、もう結構なんだけど。バアルを復活させたし、俺は寝放題ライフに入るつもり満々だぞ?」


 言外に、もっと強くなれとバアルに言われ、奏は刀を持ってない方の手を顔の前で素早く横に振った。


 自分の目的は、あくまで寝放題ライフを手に入れることで、強くなることじゃない。


 自分を今の世界で生かしてくれたバアルに対し、既に義理は果たしたのだから、奏はこれから先、双月島でのんべんだらりと過ごす気なのだ。


「そう言うなって。<バアルの加護>の効果で、モンスター1体倒せば、全能力値が10上がる。しかも、加護スキルの威力は3倍になるんだから、俺達の冒険はまだ終わらねえだろ?」


「それ、最終回でよくある締め方じゃん。というか、バアルは復活したらどうなんの?」


「別に? ここで神様やるだけだぜ。俺様とお前のパートナー契約は終わったが、俺様が加護を与えたことで、俺様はこの世界でも普通に生活できる」


「天界に帰らないのか? なんで?」


 復活したくせに、天界に帰る気が感じられないバアルに対し、奏は理由を訊ねた。


「だってよぉ、今天界に帰ったとしても、間違いなく社畜みたいに働かされる未来しかねえもん。だったら、俺様は奏達といる方が気楽で楽しいから、ここに守護神として残る」


「そんなことして、天界は平気なんだろうな?」


「大丈夫、大丈夫。俺様がいなくたって、今までだってなんとかなってたんだから。それに、振り返ってみれば、俺様はこれまでに働き過ぎた。奏だって、仕事から解放された社畜に、またブラック企業に帰れなんて言わねえだろ?」


「そんなこと、絶対に言わん。ブラック企業は滅べば良い。バアル、休暇だと思って、俺達と一緒にのんびりしようぜ」


 元社畜の身として、同胞を死地に行かせることは絶対にしない。


 そんな気持ちを抱き、奏はバアルにゆっくり休めと言った。


「流石は奏だ! 奏なら、そう言ってくれると信じてたぜ! つーわけで、今後ともよろしくな、相棒!」


「おう。よろしく」


 バアルが拳を差し出したので、奏も拳を前に出し、バアルの拳とコツンとぶつけた。


 こうして、奏とバアルは別れることなく、引き続き共に暮らすことになった。

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