第101話 酒は飲んでも飲まれるな

 奏の表情をよく見ていたため、楓は奏が何かを思いついたことに気づいた。


「奏兄様、何か良い手を見つけたんですね?」


「多分な」


『ほう。じゃあ、お手並み拝見といこうか』


「ああ。【創造クリエイト】」


 ザァァァァァァァァァァッ。


 奏がスキル名を唱えると、八岐大蛇の上空に大量の水が現れ、滝のように火口に向かって落下した。


 すると、八岐大蛇が反応した。


「この匂い、酒か!?」


「酒だ!」


「Oh,SAKE!」


「飲んで良いよな!?」


「許可なんか取るな! 俺は飲む!」


「酒が飲めるぞ~♪」


「ちょいと1杯! いんや、浴びる程だ!」


「敵なんてほっとけ! 今は酒だぁっ!」


「「「・・・「「異議なし!」」・・・」」」


 奏が【創造クリエイト】で創り出したのは、八岐大蛇が渇望していた酒だ。


 神話では、八岐大蛇が酒に目がないという設定があったのを思い出し、奏は酒を火口に降らせたのである。


 現に、八岐大蛇は奏達と戦うことよりも、酒を優先して、火口に溜まった酒をがぶがぶと飲み始めている。


「ヒャア、堪んねえ!」


「キンキンに冷えてやがるっ・・・!」


「犯罪的だ・・・うますぎる・・・」


「今まで飲んでた酒は水だ!」


「いんや、泥だ!」


「酒! 飲まずにはいられないっ!」


「うっひゃっひゃっひゃっひゃ!」


「飲めばよかろうなのだぁぁぁぁぁっ!」


 飲み始めて10秒も経っていないにもかかわらず、八岐大蛇は酔っぱらってご機嫌になった。


「・・・奏兄様、一体何を飲ませたんですか?」


「スピリタス」


「スピリタス? どんなお酒なんですか?」


「アルコール度数が96%。世界最高の純度を誇る酒だな」


「一般的な消毒液だって、70%ですよね?」


「そうだな。いやぁ、飲んだことないから、結構MP持ってかれたわ」


「お疲れ様です」


 日本神話通りに酒を飲ませるなら、日本酒でも用意するのだろうが、わざわざ全てを真似する必要はない。


 実際、スピリタスの効果は抜群らしく、八岐大蛇はぐでんぐでんに酔っぱらってダウンしていた。


「酒は飲んでも飲まれるな。そろそろ効くだろ。【停止ストップ】」


 八岐大蛇が酔って地面に倒れれば、抵抗されないことを見越し、奏は【停止ストップ】を発動した。


 その推測は当たっており、奏はすんなりと八岐大蛇の動きが止まった手ごたえを感じた。


 スピリタスの溜まった火口に、八岐大蛇が身動き取れずに浸かっている状況を見て、バアルは笑った。


『ケケケ。ソーマだったら、スピリタス八岐大蛇漬けなんて酒飲みたがるかもな』


「そんなもん作ってる場合じゃねえよ」


『だろうな。んで、ここからどうやって倒す?』


「爆破するつもりだけど何か?」


『やめとけ。アルコール度数が高いんだろ? さっきよりも規模のデカい爆発なんて起こしたら、富士山が火山として活動を再開する羽目になるぜ』


「そりゃ勘弁だ。氷漬けにしてから、徐々に砕くわ」


『それが良い』


 方針が決まると、奏は早速行動を開始した。


「【天墜碧風ダウンバースト】」


 コォォォォォォォォォォッ、カキィィィィィィィィィィン!


 八岐大蛇が、膨大な量の冷気に触れて凍った。


「ルナ、地上に降りてくれ」


『は~い』


 ルナが地上に降りると、奏はルナから降りて肩を回した。


 そして、凍った八岐大蛇の前に移動すると、バアルを振りかぶった。


「【聖橙壊ホーリーデモリッション】」


 キュイン、ドゴゴゴゴゴォォォォォン! パリィィィィィン!


 凍った八岐大蛇が、奏の【聖橙壊ホーリーデモリッション】を受けていくつもの破片になった。


 しかし、破片になってにもかかわらず、神の声はまだ奏達の耳に届かなかった。


『おいおい、マジかよ。奏、破片が集まってやがるぜ』


「【高速再生クイックリジェネ】かよ」


『おそらく、核となるものが壊れてねえんだ。だから、【高速再生クイックリジェネ】が発動してんだよ』


「核?」


「奏兄様、あの玉じゃないですか? ほら、あの赤い玉です」


 奏とバアルの話を聞き、楓が心当たりのある物を見つけ、奏にその位置を知らせた。


 楓が指差した場所には、確かに核と思しき赤い玉があり、その玉に向かって破片が集まっていた。


「あれっぽいな」


『間違いねえ。あれだな。奏、やっちまえ』


「ありがとな、楓」


「エヘヘ♪」


 楓に礼を言うと、奏は核に狙いを定めた。


「【蒼雷罰パニッシュメント】」


 バチィッ! ズドォォォォォォォォォォン! パァァァッ。


 蒼い稲妻が、八岐大蛇の核に向かい、一直線に放たれた。


 核を守れる存在はもうおらず、蒼い稲妻が核を貫いて消滅させた。


 ピカァァァァァン!


 その直後、奏達の視界は光に包まれた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏は、日本最強のモンスターを従魔と協力して倒しました。その特典として、<幻獣の守り人>が<鷲獅子騎手グリフォンライダー>に上書きされました》


《奏はLv100になりました》


《奏の【停止ストップ】が、【世界停止ストップ・ザ・ワールド】に上書きされました》


《奏はLv100になったことにより、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》


《おめでとうございます。個体名:高城奏は、人類で初めてLv100に到達し、ヒューマンから亜神エルフに進化しました。初回特典として、ヒューマンの進化条件が日本に先行公開されました》


《奏の<不老>が、<不老長寿>に上書きされました》


《楓はLv98になりました》


《楓はLv99になりました》


《ルナはLv95になりました》


《ルナはLv96になりました》


《サクラはLv91になりました》


《サクラはLv92になりました》


 神の声が止むと、光が徐々に収まり始めた。


 突然発光したせいで、奏達の視力が元通りになるのに少し時間がかかった。


 奏達が目を開けられるようになったのは、神の声が止んでから1分が経過してからだった。


 目を開けられるようになってすぐ、楓が真っ先に確認したのは奏の見た目である。


 自分の耳が正しければ、神の声は奏が亜神エルフに進化したと告げた。


 夫が進化してしまったことで、今までの関係が変わってしまったとすれば、楓もとる行動が変わってしまう。


 だから、楓はどうか奏に変わらないでと願いながら、奏の方を見た。


 そんな楓が見たのは、陰陽師の服を着た奏だった。


 八岐大蛇と戦う前と、変わりない様子である。


 しかし、楓はすぐに気付いた。


 奏の耳が、長くはなっていないものの、妖精の耳のように尖っていた。


「奏兄様、耳が妖精さんみたいになってます」


「えっ、マジ?」


 楓に指摘され、奏は慌てて自分の耳を触った。


 その結果、奏は楓が指摘した通り、自分の耳が尖った妖精の耳になっていることを悟った。


「奏兄様、耳以外の変化はわかりますか?」


「んー、今は特に感じない。楓、俺の外見は耳以外に変わった?」


「変わってないです。黒髪黒目ですし、髪型に変化もありません。体型も同じです」


「進化って耳だけが変わるの? 地味じゃね?」


 進化なんて言葉を耳にしたものだから、もっと大きな変化があると思っていたのだが、そんなこともなかったので奏は拍子抜けした。


『ケケケ。やっぱり進化したか』


 ニヤニヤした声が聞こえ、奏はバアルをジト目で睨んだ。


「バアル、お前知ってたのかよ?」


『確証はなかった。推測はしてたがな。奏が亜神エルフになったのも、まあ順当だろ』


「逆に、他には何に進化するんだよ?」


「そうです。私、気になります。私も進化するなら、奏兄様とお揃いが良いです」


 楓から、絶対に奏と同じ種族じゃなきゃ嫌だという圧力を感じ、バアルは心の中で溜息をついた。


亜神エルフ以外だと、超人ドワーフ獣人ビーストマンだな』


「進化条件は何個ある? 1つはLv100到達だろうけど」


『その通りだ。あと1つは、冒険者の能力値や戦闘スタイルによる。魔法系スキル重視でMPやINTが高いなら亜神エルフになる。まあ、奏は全能力値が軒並み高いが、魔法系スキル重視なのは事実だからこれだ。<不老長寿>が特徴な』


「確かに」


『んで、超人ドワーフは魔法系スキルを使えるが、物理攻撃系スキルの方が多いとこれになる。紅葉の姉ちゃんはこれかもな。言っておくが、身長は低くはならねえぞ』


 超人ドワーフになった紅葉を想像できなかったので、奏はバアルに続きを促した。


獣人ビーストマンは?」


『身体能力が高く、MPが大して高くない奴はこっちだ。獣の特性を一部継承するぞ。響嬢ちゃんは多分、こっちじゃねえかな』


「なるほど。そうなると、楓は亜神エルフの可能性が高いな」


「やりました! 私も<不老長寿>になれます! 奏兄様と一緒に長生きできます!」


 楓が知りたかったのは、進化先もそうだが、<不老長寿>の称号をゲットできるかどうかだったらしい。


「そういえば、バアルにしては珍しく魔石の吸収を急がないな。モンスターカードまでドロップしたのに、どういうことだ?」


『あのな、俺様だって復活する時は、神殿で復活してえのよ。折角、俺様の神殿があるんだし』


「なるほど。じゃあ、帰るか」


『おうよ! 復活した俺様の姿、見せてやるぜ!』


 バアルが張りきるので、魔石とモンスターカードを回収してから、奏達は【瞬身テレポート】で富士山から神殿まで急いで戻った。

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