第94話 変形合体するビジョンしか見えねえ

 富士山の探索を再開した奏は、バアルに思い出したように訊ねた。


「バアル、黒い三連星と遭遇した時、モンスターに名前があることにツッコめって言ってたよな? あれってどういうこと?」


『あー、そういえばそんなこと言ったっけか。まず、名前の付いたモンスターは、ネームドモンスターって言う』


「そのまんまだな」


『おうよ。だが、ネームドモンスターが2種類に分類されるのは知らねえだろ?』


「知らん。どう分類されるんだ?」


 ふと思い出しただけで、ネームドモンスターが名前の付いたモンスターであることしか推測できない奏は、素直にバアルに質問した。


『1つ目が、ユニークモンスターだ。例えば、ソロモン72柱がそれにあたる。種族名=名前だが、それはこの世に1体しかいないモンスターだから、ネームドモンスター扱いされる』


「なるほど。他にはどんな例がある?」


『うーん、ドラゴン系モンスターだな。ニーズヘッグとか、ファフニール。日本だったら、八岐大蛇やまたのおろちもそうだな』


「八岐大蛇、ねぇ。ビッグネームが出て来たもんだ」


 日本人ならば、どこかしらで必ず聞いたことがある神話上の生物の名前を聞き、奏は関心した表情になった。


 今まで遭遇したモンスターが、全てカタカナ表記の外国から流入されたモンスターだったので、日本らしいモンスターの名前を聞いて気になったのだ。


 しかし、そこで脱線すると話が進まないので、バアルは話を進めた。


『まあな。んで、2つ目が一般的なネームドモンスターだ。2体以上存在する種類のモンスターで、上位存在から名前を名付けられた奴らだ』


「上位存在? 神か?」


『悪い。伝え方が悪かった。ユニークモンスターだな』


「なるほど。じゃあ、黒い三連星に名付けたモンスターが、富士山にいるってことか」


『あり得るぜ。つーか、黒い三連星って呼び方気に入ってんのか』


「まあな。ジェットストリームアタックなんて口にするんだから、頭から黒い三連星の呼び名が離れない」


『そんなもんか。おっと、ようやく次の敵が見つかったぜ』


 奏と会話しつつ、索敵を怠らずにしていたバアルは、奏が近づいても逃げ出さないモンスターの反応を捕捉した。


「どの辺りにいる?」


『もう少し登った先だぞ。今回も3体いる。ただ、さっきと違って待ち構えてるな』


「ルナ、向かってくれ」


『は~い』


 奏に指示され、奏達を乗せたルナはバアルが指し示す方角に向かって飛んだ。


 数分後、奏達は富士山の5合目に到着した。


 本来は駐車場だったのだろうが、自然ではない力でただの広場と化している。


 そこには、ゴーレムが3体横並びで待機していた。


 左から、水色のゴーレム、黒いゴーレム、ピンクのゴーレムの順番にだ。


 水色のゴーレムは、胴体にαのマークが刻まれ、片刃の剣を両手に持った剣士タイプだった。


 黒いゴーレムは、胴体にβのマークが刻まれ、二等辺三角形の盾を両手に持ったタンクタイプだった。


 ピンクのゴーレムは、胴体にγのマークが刻まれ、両腕が大砲のガンナータイプだった。


「強化します。【仲間超強化パーティーエクストラライズ】」


「サンキュー、楓。バアル、この3体の説明頼む」


『αゴーレム、βゴーレム、γゴーレムか。それぞれ、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネで構成されるゴーレムだ』


「変形合体するビジョンしか見えねえ」


『ほぅ、よくわかったな。こいつ等が合体すると、Ωゴーレムになる』


「ベタな展開だ」


『奏が黒い三連星って言ってたリッチと比べたら、あいつらが羽虫みたいに思えるだろうぜ』


「そりゃ困る。なんとしても、合体は阻止しよう」


『いや、もう遅い』


 バアルがそう口にした時には、αゴーレムとβゴーレム、γゴーレムが光に包まれていた。


「合体させる訳にいくか! 【聖爆轟ホーリーデトネーション】」


 ピカッ、ドガガガガガァァァァァン!


 合体シーンのお約束なんてクソ喰らえと言わんばかりに、奏が合体中の3体のゴーレム目掛けて攻撃した。


 しかし、楓に強化された【聖爆轟ホーリーデトネーション】をもってしても、合体中の3体のゴーレムに効いた様子はなかった。


 今も、光の中でシルエットが一体化し、Ωゴーレムへと変形合体している。


「うわぁ、合体中は無効とかないわ。マジでないわ」


 合体中に【聖爆轟ホーリーデトネーション】が通用しなかったことで、奏の声から面倒臭さが溢れ出た。


「奏兄様、私もちょっと試して良いですか?」


「良いよ」


「ありがとうございます。【記憶消去メモリーデリート】」


 パリィィィィィン!


 合体中のシルエットを中心に、罅割れのエフェクトと音が広がると、シルエットの変化が止まった。


 奏が【停止ストップ】を発動した訳でもないのに、変化が止まったままの状況を見て、奏達は首を傾げた。


 しかし、バアルがいち早く答えに辿り着いた。


『おいおい、こりゃすげえな』


「何かわかったのか?」


『おうよ。楓嬢ちゃんの【記憶消去メモリーデリート】は、生物の記憶を消すスキルってことを前に説明したよな?』


「説明された」


『ゴーレムってのは、見た目がゴツゴツしてるから勘違いしちまうが、無機物で構成されるモンスター、つまりはHPがあるモンスターだ』


「あぁ、そういうことか。楓の【記憶消去メモリーデリート】が、3体のゴーレムの変形合体にまつわる記憶を消したせいで、エラーを起こしてフリーズしたのか」


『その通りだ』


 奏がバアルと問答している間、楓はドヤ顔で待機していた。


 楓の方を振り返った奏は、楓の頭を撫でた。


「楓、よくやった。すごい機転だ」


「エヘヘ♪ 奏兄様に褒めてもらえました♪」


 奏に褒められ、楓の表情はだらしないぐらいデレデレになった。


 そこに、バアルが水を差した。


『喜んでるとこ悪いが、これからどうする? まさか、【聖爆轟ホーリーデトネーション】で無傷だとは思わねえが、かと言って効いてる感じもしねえんだよな』


「それについては、考えがある」


『ほほう。聞かせてもらおうか』


「いや、百聞は一見に如かずだ。【停止ストップ】」


 既に止まっている対象に対し、奏は【停止ストップ】を発動した。


『・・・何やってんだ、奏?』


「まだ途中だっての。黙って見てろ。【天墜碧風ダウンバースト】」


 コォォォォォッ、カキィィィィィン!


 Ωゴーレムのなりそこないに対し、冷気が勢いに乗ったまま降り注いだ。


 すると、奏は休まずに次の行動に移った。


「【聖爆轟ホーリーデトネーション】」


 ピカッ、ドガガガガガァァァァァン!


 凍らせたΩゴーレムのなりそこないに対し、今度は盛大に爆破した。


 だが、Ωゴーレムのなりそこないが倒れた様子はない。


『奏? 何がしてえんだ?』


「【天墜碧風ダウンバースト】」


 コォォォォォッ、カキィィィィィン!


 バアルの問いに答えることなく、奏は攻撃【天墜碧風ダウンバースト】を放った。


『おいって』


「【聖爆轟ホーリーデトネーション】」


 ピカッ、ドガガガガガァァァァァン!


 またしてもバアルを無視し、奏は【聖爆轟ホーリーデトネーション】を撃った。


『奏、説明しろよ!』


「【天墜碧風ダウンバースト】」


 コォォォォォッ、カキィィィィィン! パァァァッ。


《奏はLv97になりました》


《楓はLv95になりました》


《ルナはLv92になりました》


《サクラはLv86になりました》


『嘘だろ!? おい、奏! どういうことだよ!?』


 神の声が、先頭の終わりを告げると、バアルは我慢できないと言わんばかりに奏に答えを迫った。


「金属疲労だ。極端に熱して冷やしてを繰り返せば、壊せるんじゃないかと思ってな。だって、ミスリル、アダマンタイト、ヒヒイロカネで構成されるゴーレムなら、金属ってことだろ?」


『・・・なるほどなぁ。奏、お前すげえよ。俺様にも、その発想はなかった』


 奏の説明を聞き、バアルは感心した様子だった。


 それから、奏はルナに頼んで地上に降り、魔石をバアルに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv97になりました》


 バアルのレベルアップが済むと、奏は魔石の隣に落ちていたマテリアルカードを拾った。


 カードの絵柄は、インゴットの形をしているが、色が黒塗りで真ん中に?マークが描かれていた。


「バアル、何これ?」


『わかんねえ』


「しっかりしろよ、バルペティア」


『バルペティアってなんだよ。んなこと言われてもよ。Ωゴーレムになりそこなった状態で倒されるなんて、そんな状況は見たことも聞いたこともねえんだよ』


「それじゃ、これはどうする?」


『ガネーシャに訊いてみたらどうだ? あいつなら、物を多く扱ってる分、謎金属にも食いつくだろうぜ』


「そうするか」


 バアルに判断がつかない以上、このままああでもない、こうでもないといい合っていても無意味である。


 だから、奏はバアルの言う通り、謎の金属についてガネーシャに訊ねることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る