第89話 ああ、もう、何も言えねえ・・・
バイコーンを倒してしまうと、いよいよバアルの索敵をもってしても、樹海に棲むモンスター達が奏を避けて近くにはいなかった。
『ふぅ。これが強者である悩みか』
「バアル、どうした?」
『奏の<覇者>のせいで、樹海のモンスターですら近寄って来なくなっちまった。もう、富士山行っちまうか?』
「いやいや、まだ富士山は早いっしょ。それに、逃げられてるってわかるなら、どっちに逃げてるかはわかるんだろ?」
『まあな。それと、この樹海で奏から逃げないのは、ダンジョンボスだけだろうぜ』
バアルがダンジョンボスと口にすると、奏の頭に疑問が浮かび上がった。
「なあ、フィールド型のダンジョンって、ボス部屋はないよな?」
『ねえぞ。樹海に壁に囲まれた部屋があったらおかしいだろ? フィールド型ダンジョンのボスモンスターは、徘徊するか一定の場所にいるかのどっちかだ』
「それじゃ、ボスを炙り出すついでに、モブ掃除もするか」
『どうする気だ?』
「【
『・・・なるほど。【
「しかも、俺には【
『できるだろうが、その必要はねえよ。フィールド型ダンジョンを踏破すると、環境が元通りになるからよ』
「マジか。そりゃ手間が省けて都合が良い」
簡単に話を進めているが、奏が口にした手法はできる者は、現状では奏しかいないだろう。
まず、<
この称号がなければ、奏の思いついた手法は実行できない。
続いて、膨大なMPが必要になる。
【
バアルと<覇者>の効果により、戦闘時にMP量が4倍になるからこそ、取れる手段だ。
それに、いざとなればルナの【
もっとも、ルナの力を借りるまでには、レベルアップしてMPが全回復する見込みが奏にはあるのだが。
そして、【
つまり、他のスキルよりも延焼の分発動する回数が減る。
これらの条件を揃えている奏だからこそ、炙り出しができるのである。
紅葉がいれば、間違いないくツッコミを入れるだろうが、紅葉はこの場にはいない。
楓やルナは奏のやり方を全肯定するので、ツッコミが発生することはない。
サクラもよっぽどのことじゃなければ、楓の意向に沿うし、ヘラも楓の味方だ。
この場では、バアルが何も言わなければ奏のやり方に待ったをかけるものはいないということになる。
「じゃ、早速やるか。バアル、俺達の後ろ側にはモンスターはいる?」
『いねえな。前方だけだ』
「よっしゃ。【
ピカッ、ドガガガァァァン!
奏の奏による奏のための侵略が始まった。
フィールド型ダンジョンの特徴を知らない者からすれば、まごうことなき環境破壊だが、世界が変わってしまった今、声を上げるだろう環境保護団体は機能していない。
クレーターができると、奏は次のクレーターを作る。
何回かクレーターを作ると、クレーターに魔石がドロップしていることがあった。
その魔石は、奏が【
そして、10回目の【
《奏はLv92になりました》
《楓はLv90になりました》
《楓は【
《ルナはLv85になりました》
《サクラはLv78になりました》
既に、富士の樹海の3分の1はクレーターと化していた。
『塵も積もれば山となるってか? 奏、俺様にも頼むぜ』
「わかった。【
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv92になりました》
バアルのレベルアップが完了すると、奏は楓の新スキルについてバアルに訊ねた。
「バアル、【
『正直、楓嬢ちゃんには会得してほしくなかったスキルだな』
「どういうことですか?」
バアルに会得してほしくないと言われ、楓が首を傾げた。
『まあ、そのなんだ。楓嬢ちゃんの”
「勿論です」
『この【
「このスキルは、純粋なINT依存ということですか?」
『おう。MP消費量は、対象の大きさや強さによって変化する。自分のINTが、相手のINTよりも低いと失敗するぞ』
「・・・つまり、私よりもINTが低く、奏兄様に媚びようとする雌豚の記憶を消して排除する力を私は手に入れたんですね?」
『素晴らしいスキルね、楓。私もあの時会得してたなら、ゼウスの浮気相手をあっさりと処分できたのに・・・』
『ああ、もう、何も言えねえ・・・』
気づいてほしくなかった使用法に気づかれ、バアルは項垂れた。
「ウフフ。奏兄様、これで私も奏兄様に近づこうとする愚かな雌豚への制裁手段が手に入れましたよ。褒めて下さい」
ハイライトが消えた目で、奏に後ろから抱き着く楓は、バアルには獲物に巻き付いて牙を立てようとする蛇のように見えてしまった。
勿論、そんなことを口にしてしまえば、自分の身が危ないので黙っているのだが。
その一方、抱き着かれている奏は、ヤンデレな側面が出てる楓を怖がってはいなかった。
「楓、すごいスキルだけど、不用意に使わないでくれないか? 勿論、身の危険があれば使ってくれて構わない。でも、楓には癒し、守り、強化することに専念してほしい。これは楓にしかできないからさ」
「・・・わかりました。奏兄様のために、普段は使わないことを約束します。私の役目は、奏兄様のサポートですから」
『奏が無事な限り、世界は平和だな』
楓に【
祈られる側のバアルが祈るなんて、本末転倒じゃなかろうか。
「「「アォォォォォン!」」」
その時、少し距離の離れた所から、シンクロした遠吠えが響いた。
「バアル、ダンジョンボスか?」
『おうよ。自分の縄張りを荒らされてんだ。怒らねえはずがねえ。近づいて来てやがるぜ』
「奏兄様、先に強化します。【
戦闘に入る前に、楓がパーティー全体を強化した。
「「「アォォォォォン!」」」
先程と比べて、声の発せられた位置が間違いなく近づいていた。
「先手を打つ。【
ピカッ、ドガガガガガガガガガガァァァァァァァァァァン!
「「「グァァァッ!?」」」
『フン、直撃はしなかったが、掠っただけでもかなりのダメージを与えられたみたいだ。反応が弱まったぜ』
バアルが状況を伝えてすぐに、今できたクレーターにダンジョンボスが姿を現した。
3つの犬の頭、赤く光る目、尻尾は蛇の黒い毛並みの巨体は、所々焦げており、忌々しそうに奏達を見上げていた。
「ケルベロスか?」
『半分正解だ』
「半分?」
『ケルベロスってのは、ナベリウスと同一視されてる。こいつは、ソロモン72柱の侯爵だ』
「あぁ、そーいうことか。だから【
いくら楓に強化されたとはいえ、今まで放っていた【
ダンジョンボスが、悪魔系モンスターだったから、
「バエル!」
「裏切り者!」
「ぶっ殺す!」
「だってさ?」
『やらせはしねえだろ? 主に奏が』
「まあね」
戦うのは奏なので、バアルは他人事のように言った。
すると、ケルベロス、いや、ナベリウスの怒りのボルテージが上がった。
「自らは戦わず、他人任せとは恥を知れ!」
「貴様のせいで、俺達は王になれなかったんだ!」
「そこから降りろ!」
「言いたい放題されてるけど、そこんとこどうなの?」
『負け犬の遠吠えだな』
「やれやれ」
上手いこと言ってやったと言わんばかりのバアルを見て、奏は小さく溜息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます