第86話 当たらなければ良いのよ

 時間は少し遡って、神殿で奏達を見送った紅葉と響は、どこでレベル上げするか決めるため、掲示板を閲覧していた。



◆◆◆◆◆


モンスタースレ@6


1.管理者アドミニストレーター

 日本人冒険者に限定公開されたモンスターに対して情報共有を行うスレッドです。

 誹謗中傷等、他者を意味なく害する者は、本機能の利用停止処分とします。

 不適切なコメントをした者も、同じく本機能の利用停止処分とします。

 また、私は一切の質問に回答しませんので、質問しても無駄です。

 以上を理解したうえで、本機能を有効活用して下さい。


◇◇◇◇◇ 


119.甲府の戦士ファイター

 食糧に困った奴らが、富士の樹海に行っちまった

 行った時は10人いたのに、帰って来たのはたった1人

 それも、すっかり憔悴しきってた

 富士の樹海マジヤバい

 生き残った奴が遭遇したモンスターの情報、わかるだけ載せるわ

 ・アラクネ

 上半身が女、下半身が大きな蜘蛛のモンスター

 喋る知能はある

 糸を吐いて人間の男を捕らえ、犯して絞り尽くしたら食べる

 生き残った奴は女で、どうにか逃げ切れた

 複数のアラクネで、獲物を包囲するらしい

 連携されると、平均Lv40でも太刀打ちできないってさ


120.伊豆の舞踏家ダンサー

 >119

 喋るモンスターがいるなんて、樹海は恐ろしいわね

 こっちは、海に変なモンスターを見つけたわ

 ・アングラーフロッグ

 チョウチンアンコウの頭と、蛙の体を持ったモンスター

 水陸どっちでも活動できる

 ジャンプ力があって、逃げようとする相手の頭上を飛び越えて先回りする

 頭の提灯から、放電することがある


121.奥多摩の占術師フォーチュンテラー

 ヤバい、何度占っても死ぬ未来しか視えない

 ・ドラゴンゾンビ

  見た目は腐ったドラゴンの死体

  喋れる知性はない

  空は飛べないから、地竜なんだろうけど、それでも十分過ぎる程強い

  吐く息は毒ガスで、少しでも体内に入ると泡を吹いて倒れた奴がいた

  動きは鈍いけど、体が大きいから1歩も大きくて逃げきれない


122.鎌倉の死霊術師ネクロマンサー

 俺のワイトが一瞬でおやつにされた

 ・アーマーワーム

  硬い皮膚を着込んだワーム

  目は見当たらないから、多分嗅覚で敵や自分の位置を察知してる

  地面の中に潜り、突然現れて丸呑みにしようとする

  もしくは、大口を開けて突進してくる

  ごく稀に、横方向に転がって硬い皮膚でペチャンコにしようとする

  こいつのせいで、俺の使役できるアンデッド系モンスターの数が激減した


123.松山の騎士ナイト

 >122

 ワイトがおやつwww

 こっちには、ファンタジー世界でお約束のモンスターがいた

 ・オーク

  二足歩行の豚の見た目で、槍を持ってるのがデフォルトのモンスター

  脂肪が分厚くて、剣でもうまく斬れない

  雄も雌もいて、異性の人間を襲って捕えると犯そうとする

  1体でいることは少なく、集団行動しているのが普通


124.仙台の商人マーチャント

 >123

 えっ、くっころ?


125.お茶の水の修道士モンク

 >123

 くっころじゃん


126.松本の狩人ハンター

 >123

 くっころさんですね、わかります


127.松山の騎士ナイト

 >124-126

 おwまwえwらw

 騎士ナイトとオークの組み合わせを見て、女騎士だと思ったろ?

 だが、男だ


128.仙台の商人マーチャント

 >127

 なんだ、男か


129.お茶の水の修道士モンク

 >127

 がっかりだ


130.松本の狩人ハンター

 >127

 解散しよう


131.上野の学者スコラー

 >127-130

 くだらない話なら、他所でして

 秋葉原のヨーウィー、コボルト、スレッドモスのダンジョンは無事に踏破した

 そしたら、今度は別のモンスターのダンジョンがスタンピードを起こし始めた

 ・ミルメコレオ

  ライオンの頭部と蟻の身体を持つモンスター

  火を噴くし、爪には毒がある

  蟻の習性が強く残ってるのか、集団で行動する

  単体で動くものはおらず、敵を囲んで倒してダンジョンに持ち帰ろうとする


◆◆◆◆◆



 ここまで閲覧すると、紅葉は掲示板を見るのを止めた。


 オークとくっころのくだりでは、オタクの血が騒いで思わず吹き出してしまったが、その前の投稿で紅葉は気になる記述を見つけていた。


「響、まずは奥多摩に行くわよ」


「奥多摩? 何がいるの?」


「ドラゴンゾンビ」


「えー、嫌だ」


 ドラゴンと聞いて、響は本気で嫌そうな顔をした。


 だが、紅葉は退かなかった。


「これぐらい倒せなきゃ、マジで奏君達と差を開けられるわ」


「もう開いてるって」


「そうだけど、これ以上は許容できないわ。どうすんのよ、奏君が1日でLv90超えしてたら?」


「奏ちゃんなら、超えて帰って来ると思うよ」


「だったら、余計に行かなきゃ駄目よ。奏君におんぶに抱っこじゃ、いずれ捨てられるかもしれないわよ、楓に」


「すぐ行こう」


 楓なら、奏に寄生するような生き方を許しはしないだろうと思い、響はすぐに立ち上がった。


 それから、紅葉と響はそれぞれの従魔に乗り、奥多摩へと移動した。


 海を渡ること1時間、紅葉達は本州に到着し、そこから15分かけて奥多摩に着いた。


 奥多摩は、東京なのに東京らしくない自然が溢れる場所だった。


 普段であれば、大勢の人やコンクリートジャングルから解放され、気分転換にはもってこいだったのだが、今は美しい自然とは言い難い場所になっていた。


 それもそのはずで、自然が残っているところもあるが、所々山火事があったかのような跡が残っていて、禿山っぽくなっている所もあったからだ。


「グルォォォォォッ!」


 そこに、腹に響くような低い咆哮が聞こえ、紅葉達は臨戦態勢に入った。


 上空から、地上を探していると、響が標的を見つけた。


「紅葉、あそこ。結構大きい」


「どこ? あ、あれね。確かに大きいわね」


 ドラゴンゾンビの大きさは、小さい岩山と言われれば、その説明を信じてしまうぐらいのサイズだった。


 もっとも、あちこちが腐っているので、岩山とは思えないのだが。


「定石通りやろう」


「そうね。【二重賽子吸収ダブルダイスドレイン】」


 カランカラン。


 どこからともなく、賽子が2つ現れ、それらはそれぞれ6と4の目を出した。


 つまり、ドラゴンゾンビの全能力値から100が失われ、紅葉の全能力値に+100されたということだ。


「VITをINTへ!【全投入オールイン】」


「紅葉、攻撃掠ったら即死するよ? 紙装甲じゃん」


「当たらなければ良いのよ」


「やっぱり、デキる女は違うなぁ(棒)」


「棒読みは止めて」


 そんなやり取りをしている間に、ドラゴンゾンビは紅葉達に気づき、大口を開けて攻撃する寸前だった。


 ブシュゥゥゥゥゥッ!


 紫色のガスが、紅葉達に向かって一直線に放たれた。


「ピエドラ、回避!」


「アル、ブラン、避けて」


「('◇')ゞ」


「「ワカッタ」」


 紅葉達の指示を受け、ピエドラは右へ、アル&ブランは左に避けた。


「動きが鈍いのは本当のようね。響、穴開けなさい!」


「おけ。【陥没シンクホール】【岩棘ロックソーン】」


 ズズズズズッ! グサグサグサッ。


「グルァァァァァァァァァァッ!」


 響の【陥没シンクホール】でできた穴に落ち、穴の底に【岩棘ロックソーン】で用意された棘にドラゴンゾンビの腹部が刺さった。


 どうやら、ドラゴンゾンビの腹は、背中や肩のような鱗で覆われた所よりも柔らかく、ゾンビ化による腐食のせいで硬度が落ちているらしい。


 痛みに叫ぶドラゴンゾンビを前に、紅葉はニヤッと笑った。


「汚物は焼却よ! 【爆発エクスプロージョン】」


「( *´艸`)」


 ドガァァァァァン! ゴォォォォォッ!


 紅葉の【爆発エクスプロージョン】に合わせ、ピエドラは【地獄炎ヘルフレア】を放った。


 それにより、普段は赤い爆炎が発生するのだが、今回は勢いのついた黒い爆炎がその場を支配した。


「グッ、グルァ」


 爆炎の中から、ドラゴンゾンビの低い鳴き声が聞こえた。


「チッ、しぶといわね。【爆発エクスプロージョン】」


「( ^^) _旦~~」


 ドガァァァァァン! ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 紅葉とピエドラが、ダメ押しで同じ攻撃を繰り返すと、今度こそドラゴンゾンビは力尽きた。


《紅葉はLv74になりました》


《紅葉はLv75になりました》


《響はLv68になりました》


《響はLv69になりました》


《響はLv70になりました》


《ピエドラはLv61になりました》


《ピエドラはLv62になりました》


《ピエドラはLv63になりました》


《ピエドラはLv64になりました》


《アル&ブランはLv58になりました》


《アル&ブランはLv59になりました》


《アル&ブランはLv60になりました》


《アル&ブランは、【重力グラビティ】を会得しました》


《アル&ブランはLv61になりました》


《アル&ブランはLv62になりました》


 神の声が、紅葉達のレベルアップを告げた。


「すごいわ! ぼろ儲けじゃない!」


「落とし穴に嵌めるだけの簡単なお仕事だったね」


「よし、魔石を回収したら、次は鎌倉に行くわよ」


「えー?」


「文句言わない!」


「はーい」


 紅葉達は魔石を回収し、今度はアーマーワームを討伐しに鎌倉へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る