第84話 思わず収穫しちゃいそうだ
サイクロプスを倒した後、奏達は慎重に先へと進んでいた。
富士の樹海のモンスターに囲まれたら、今まで大きなダメージを負ってこなかった自分ですら、無傷でいられるとは奏は思っていない。
それゆえ、奏は祖父に狩りに連れ出された時の感覚を呼び覚まして、周囲を警戒していた。
普段の奏は、楽な姿勢で構え、バアルの索敵範囲にモンスターが現れると、戦闘態勢に入っていた。
しかし、今の奏はバアルがモンスターの探知を知らせる前から警戒している。
そんな奏の動きの違いがわかる楓も、いつも以上に周囲を注意深く観察しながら歩いている。
「「「「「ヒギュアァァァァッ!」」」」」
「うっ・・・」
「うぅ、なんですか?」
『嫌な音する~』
「キュル・・・」
遠くからではあるが、多数の甲高い声の主が絶叫しているのが奏達の耳に入った。
ある程度の距離があり、鼓膜が破れるようなボリュームの音ではなかったのだが、奏達は皆顔を顰めていた。
『おいおい、冗談だろ? ここから遠くない場所に、マンドラゴンが群れてるってか?』
「マンドラゴン? マンドラゴラが進化した奴? それともドラゴン?」
『飛べないドラゴンだ。鳴き声がマンドラゴラに似てるから、マンドラゴンって呼ばれてんだ。鳴き声を聞いても死にはしねえが、声を聞いた奴のレベルが低いと石化するぜ』
「今、俺達モロに聞いちゃったが、大丈夫なのか?」
『こん中で一番弱いサクラが無事なら、平気だろ。多分、Lv60が石化する限度なんだろうぜ。鳴き声だけで比べれば、マンドラゴラよりは効果が弱い』
「キュル」
『バアル姉ちゃん、サクラはへっちゃらだってさ』
『なら、問題ねえな。ただ、群れてるのがうざい。奴ら、叫ぶ以外にも攻撃手段があるから、囲まれるのは好ましくねえ』
奏達ならば、石化する心配がないと判断しつつ、取り囲まれたら袋叩きにされる可能性があるので、バアルは怠そうな声を出した。
それから、奏達が慎重に進んでいくと、石像が6体放置されていた。
「バアル、こいつらは?」
『デーモンだな。デビルアイよりは強いが、ガーゴイルよりも弱い。にしても変だな』
「何が?」
『デーモン程度じゃ、この樹海で生存するのは群れてようが無謀だ。にもかかわらず、なんでいやがる? こんな所にいたら、あっという間に殺されるってわかってたはずだろうに』
バアルからすれば、デーモンは悪魔系モンスターだが雑魚という認識だった。
雑魚じゃないとすれば、最低でもガーゴイル以上の強さは必要だと考えているので、デーモンが群れていたとしても、この樹海にいることが不思議に感じられた。
そんなバアルに、奏は思いついたことを口にしてみた。
「ソロモン72柱のパシリだったんじゃね?」
『あん?』
「海底ダンジョンも、紅葉達の話じゃボス部屋に元々はサファギンキングがいたって話だった。そこに、フォルネウスが割り込んでサファギンキングを倒したのなら、樹海を乗っ取ろうと誰かが動いてる可能性がある」
『・・・なるほど。その可能性はあるな』
「まあ、なんにせよ、石化してるこいつらは倒して経験値にしちゃおうぜ」
『だな』
推測がひと段落ついたところで、石化したデーモン達を放置するなんて勿体ないことを奏達はしない。
ここまでお膳立てしてくれたのなら、しっかりいただくのが礼儀だと奏とバアルの考え方だ。
それに同調したのが、ルナとサクラである。
『パパ、ルナがやる~』
「キュッキュル~」
『サクラもやりたいって』
「そっか。んじゃ、ルナとサクラでやって良いぞ」
『わ~い。【
ゴォォォォォン! パァァァッ。
石化していた半分のデーモンが、ルナのスキルによってあっさりと魔石に変わった。
「キュルン!」
ダダダダダン! パァァァッ。
残り半分は、サクラの【
流石に、デーモン程度では6体いても、奏達がレベルアップすることはなかった。
当然、魔石を吸収したバアルも奏と同じく、レベルアップしなかった。
『気を付けろよ? デーモン達を石化したマンドラゴンの群れが、この近くにいるかもしんねえ』
「わかってる。そうだ、マンドラゴンの外見的特徴は?」
『頭にナスっぽい果実を生やしてる』
「頭にナス生やした飛べないドラゴンって、ダサくね?」
『ついでに、頭のサイズに対して生えてる果実はちっちゃいぜ』
「思わず収穫しちゃいそうだ」
『それやったら、マンドラゴンがマジギレするからやめとけ。耳元で叫ばれたくねえだろ?』
「だな。収穫するなら、【
『・・・この話、しなきゃ良かったぜ』
予想していたよりも、奏がマンドラゴンの頭に生えた果実に興味を持ってしまったため、バアルは余計なことを言ってしまったと後悔した。
ガサガサガサッ。
決して大きくない茂みの揺れる音だったが、奏の耳には届いていた。
「楓、あっちにナスは見えるか?」
音がした方角を、奏が指差して訊ねると、楓はじっと指の先を観察した。
「・・・あっ、いました。私の目でも、1つしか見えませんが」
「そっか。バアル、1体は確定したが、あの辺りに何体いるかわかる?」
『5体だな。それ以外の反応はねえ。それよりも、やる気か?』
「ああ。実は、思いついたことがあってな。バアル、ダンジョンって壊しても、時間経過で元通りになる?」
『なるぜ。まあ、普通の奴は、ダンジョン壊す労力をモンスターを倒す労力にするがな』
「それがわかれば十分だ。楓、強化頼める?」
「任せて下さい。【
奏に頼まれ、楓がパーティー全体を強化した。
「ルナ、空中から行くから乗せてくれ」
『は~い』
奏と楓はルナに乗り、サクラも楓にしがみつき、準備が整うとルナは離陸した。
「ルナ、距離を保ったまま、上空からマンドラゴンの群れが見える位置に移動してくれ」
『任せて~』
奏の指示通り、ルナはナスの頭を目印にして、その目印が5つ見えてギリギリ気づかれなさそうな位置に移動した。
「ルナ、俺がスキルを発動したら、そのスキルに向かって【
『うん』
バアルを構えた奏は、久し振りに使うスキル名を口にした。
「【
ピカッ、ゴォォォォォォォォォォッ!
『【
ゴォォォォォッ、バァァァァァァァァァァン! パァァァッ。
<
そうなってしまえば、マンドラゴン達が強かろうと不意打ちで全身を焼かれてしまったので、何もできずにHPを全損する結果となった。
《奏はLv85になりました》
《奏はLv86になりました》
《奏はLv87になりました》
《楓はLv83になりました》
《楓はLv84になりました》
《楓はLv85になりました》
《ルナはLv78になりました》
《ルナはLv79になりました》
《ルナはLv80になりました》
《ルナは【
《サクラはLv66になりました》
《サクラはLv67になりました》
《サクラはLv68になりました》
《サクラはLv69になりました》
神の声が止むと、バアルのテンションが爆上がりした。
『すげえじゃねえか、奏! ヒャアッ、たまんねえ! レベルが3つも上がってやがる! 俺様も早よ!』
「わかってるから、少し落ち着け。ルナ、地上に降りてくれ」
『は~い』
ルナが着陸すると、奏はバアルのリクエストに応じるべく、テキパキとバアルに魔石を吸収させた。
《バアルはLv85になりました》
《バアルはLv86になりました》
《バアルはLv87になりました》
《バアルの【
神の声を聞き、レベルアップだけでなく、スキルが上書きされたことを知り、バアルの機嫌がもっと良くなった。
『マジか!? 俺様、火はあんまり得意じゃねえのに、スキルが上書きされちまったぜ! さっきの攻撃のおかげだな!』
「それなら、ルナにもお礼を言ってくれ。ルナと俺が協力したからこそ、あれだけの火力でマンドラゴンを遠くから燃やし尽くせたんだからな」
『おう! ルナ、お前は大した奴だぜ! サンキューな!』
『エヘヘ~♪』
奏に頭を撫でられるだけでなく、バアルにも褒められたことで、ルナもご機嫌になった。
「バアル、喜んでるところ悪いが、スキルの説明だけ頼む」
『お、おう。そうだったな。【
「俺とルナが、MPを融通し合えるのか。便利だな」
『俺様のおかげで、奏はMPが倍になってるからルナがMP切れになることはなくなったと思って良いぜ』
『そ~なの? それじゃ、もっとパパのために頑張る~』
「良い子だ」
『エヘヘ~♪』
ルナが嬉しいことを言ってくれたので、奏はルナの頭を撫で続けた。
「【
「【
「規模があるだけに扱いは難しいが、ちゃんと使えれば戦略が広がるじゃん」
『期待してるぜ、奏。これなら、Lv100もそう遠くなさそうだ』
新たなスキルを会得したことで、バアルは奏に更に期待するようになった。
ちなみに、マテリアルカードが魔石と一緒にドロップしたが、絵柄がナスだったのは言うまでもない。
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