第80話 どんな時も、面倒事は下っ端の役目なの

 時間は少し巻き戻って、ダンジョンの入口の分岐で左に進んだ紅葉達は、奏達と同じようにそれぞれの従魔の背中に乗り、飛んで移動していた。


「急ぐわよ、響」


「なんでいきなり競走?」


「響、まさか危機感がないの? このままじゃ、私達いずれ排除か洗脳されるわよ?」


「誰に?」


「ヘラに唆された楓によ」


「あー、確かに。ヤンデレがタッグ組んじゃったよね」


「わかってるなら、もうちょっと焦りなさいよ」


「大丈夫。きっと、奏ちゃんがなんとかしてくれるから」


 吞気なことを言う響に、紅葉は頭が痛くなったようで額に手をやった。


「そりゃ、奏君が起きてる間は平気でしょうよ。問題は、奏君が見てない時よ。奏君が寝てる間、見てない間は危険と隣り合わせでしょうが」


「・・・その発想はなかった。マズいじゃん」


 ようやく、自分の置かれた状況に気づき、響の顔が真っ青になった。


 ヘラに唆され、楓のヤンデレ度合いが数段悪化することが容易に想像できる今、自衛手段がないのはマズいのだ。


「だからこそ、最初の話に戻るけど、私は競走を提案したの。ダンジョンボスを倒した時、宝箱が出るでしょ? 私達にも、対抗手段となる神器があれば身の危険が少し減るわ」


「なるほど。でも、少しなんだね」


「当然でしょ? そりゃ、ゼウスが宿った神器が出てきたところで、今のヘラは楓の所有物。楓が奏君を愛してる限り、私達を排除しようとするに決まってるわ」


「納得した。急ごう」


「頑張ルノ俺達ナンダヨナァ」


「マッタクデゴザル」


「(o´д`o)=3」


 従魔達は溜息をつきつつ、紅葉達の希望通り急いで先に進んだ。


 だが、すぐにモンスターと遭遇した。


「あの装備からして、サファギンジェネラルかしら?」


「しかも、6体全部。落とすね。【陥没シンクホール】」


 グラグラグラァッ!


「終わらせるわ。【爆発エクスプロージョン】」


 ドガァァァァァン! パァァァッ。


 大した打合せもせず、あっさりとサファギンジェネラルの集団を倒せるあたり、紅葉と響の連携も様になっていると言えよう。


《紅葉はLv73になりました》


《響はLv67になりました》


《ピエドラはLv56になりました》


《ピエドラはLv57になりました》


《アル&ブランはLv52になりました》


《アル&ブランはLv53になりました》


《アル&ブランはLv54になりました》


 神の声が止むと、紅葉達は穴の中に残った戦利品を回収した。


「そろそろ、武器の強化をしておこうかしら?」


「僕のもよろしく」


「わかってるわよ。どんな素材があったかな?」


 収納袋から、紅葉は武器の強化素材になりうるものを次々に取り出した。


 ワイバーンの両翼と尻尾、スロットゴーレムの両腕の大砲、シールドタートルの甲羅、大量の魔石が並べられた。


 そこに、紅葉の<廃品回収ジャンク屋>の効果で手に入れたサファギンジェネラルの剣が2本加わり、紅葉達の武器の強化には十分な素材があった。


 組み合わせを考え終えると、紅葉はLUKの数値を上げることにした。


「DEXをLUKへ!【全投入オールイン】」


 これにより、合成の準備が整った。


「【幸運合成ラッキーシンセシス】【幸運合成ラッキーシンセシス】【幸運合成ラッキーシンセシス】」


 カラン。カラン。カラン。


 3連続で、3つの素材群が光に包まれると、3つの賽子が現れ、それぞれそのまま転がり、5,3,5の目を出した。


 3つの光の中で、それぞれ一体化した素材群が、槍とガントレット、ナイフのシルエットを形成した。


 光が収まると、1つ目の光があった場所には、紫がかった鋼の穂に灰緑色の柄、石突にはワイバーンの翼を模した装飾が付いている槍が現れた。


 その槍の柄には、火、水、雷、毒、岩のマークが穂の近くから順番に刻まれていた。


 2つ目の光のあった場所には、黒味を帯びた亀甲模様のガントレットが現れた。


 3つ目の光があった場所には、見た目は柄はワイバーンの翼を彷彿させ、刃の部分は尻尾の棘のままだが、色が灰緑色になったナイフが現れた。


そのナイフの柄には、毒、風、岩のマークが刃の近くから順番に刻まれていた。


「「【分析アナライズ】」」


 強化された武器の性能を確かめるべく、紅葉と響は【分析アナライズ】を発動した。


 その結果、それぞれの武器は以下のように強化された。


 蜻蛉切ver.4は、【毒刺突ポイズンスティング】が【毒釘打ポイズンネイル】に上書きされ、【岩矢ロックアロー】が【岩槍ロックランス】に上書きされた。


 能力値への補正は、STR+80だった。


 ジャンクガントレットVer.6は、【小回復ミニヒール】が、【回復ヒール】に上書きされ、【反撃カウンター】が【滑反撃スリップカウンター】に上書きされた。


 能力値への補正は、VIT+30だった。


 その一方、響のジャンクナイフver.4は、【風矢ウインドアロー】が【風槍ウインドランス】に上書きされ、新たに【岩棘ロックソーン】を会得していた。


 能力値への補正は、STR+30だった。


賭博師ギャンブラーの効果なしで、ここまで強化できれば上等ね」


「そういえば、使ってなかったね。なんで?」


「まだ、ここぞって時だとは思わなかったから。女の勘よ」


「奏ちゃんに対して、全く機能しなかった勘ですね。わかります」


「そのナイフ、スクラップにしてあげようかしら?」


「冗談だって」


 くだらない軽口の応酬をしながらも、紅葉と響はそれぞれの従魔に乗り、探索を再開した。


 ところが、移動して5分もかからずに紅葉達はサファギンの大群を目の当たりにした。


「これ、サファギンアーミーじゃない?」


「だったら?」


「特にないわ。倒すだけ。でも、先が見えないぐらいいるわね」


「だよね」


「ピエドラ、あいつらやっつけちゃって」


「アル、ブラン、GO」


「(-ε-)」


「面倒ナノハ、俺達ニ押シ付ケルノカ」


「働キタクナイデゴザル」


「どんな時も、面倒事は下っ端の役目なの」


「僕も働きたくなくなってきた」


「(つд`)」


 ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 手前にいた敵に対し、ピエドラが【暗黒炎ダークフレア】を放ち、その数を減らした。


「「俺達モヤルカ。【騒音砲ノイズキャノン】」」


 ギギギギギィィィィィン! 


「「「・・・「「ギョギョォォォッ!?」」・・・」」」


 アル&ブランが、【騒音砲ノイズキャノン】を洞窟内で使ったせいで、開けた場所で使った時よりも騒音の効果が大きかった。


 生き残ったサファギンアーミーのほとんどが、あまりの不快さに武器を地面に落として耳を塞いでいる。


 すると、ピエドラが紅葉に対して謝る気のない謝罪の絵文字を出した。


「゚m(。≧Д≦。)m」


「えっ、ちょっ、待って!」


 グゥン、ズドォォォン! ドサドサドサドサドサッ。パァァァッ。


 ピエドラは、紅葉を背中に乗せたまま、【溜突撃チャージブリッツ】で生き残ったサファギンアーミーをドミノ倒しの要領で一掃した。


《ピエドラはLv58になりました》


《ピエドラはLv59になりました》


《ピエドラはLv60になりました》


《ピエドラの【暗黒炎ダークフレア】が、【地獄炎ヘルフレア】に上書きされました》


《ピエドラは【捕食プレイ】を会得しました》


《アル&ブランはLv55になりました》


《アル&ブランはLv56になりました》


《アル&ブランはLv57になりました》


 神の声が止むと、紅葉はピエドラに抗議した。


「ちょっと、ピエドラ! 危ないでしょうが!」


「m9(^Д^)」


 ピエドラは、怒る紅葉を煽った。


「こいつ・・・。はぁ。もう良いわ。早く先に進むわよ」


「m(;w;)m」


 もうちょっと構ってほしかったらしく、ピエドラは寂しそうな顔文字で応じた。


「かまちょなのね」


「(●∨ω∨●)」


「褒めてない。良いから行くわよ」


 ぽよん。


 ピエドラは縦に揺れ、紅葉の指示に従った。


 その後、紅葉達の探索スピードは上がった。


 何故なら、ピエドラの【捕食プレイ】が大活躍したからである。


 モンスターが現れても、片っ端からピエドラが【捕食プレイ】で食べ進むので、ほとんど立ち止まることがなかった。


 それに、道が分岐することもなかったので、ひたすら前進あるのみだったのだ。


 あっという間に、ボス部屋の前まで来たが、ピエドラの活躍のおかげで紅葉達はほとんど疲れていなかった。


 だから、紅葉達はそのままボス部屋に突入することにした。


 今までは、ボス部屋を開けた途端、開けた者が狙われて攻撃されたから、その役をピエドラに乗った紅葉が担い、敵の攻撃はピエドラが防ぐ。


 響は、万が一のために、退路を確保できるようにボス部屋の中に紅葉が入ったら、扉を全開にしてから参戦する手はずとなった。


 早速、紅葉がボス部屋の扉に手をかけた。


 ギギギッ。


 ボス部屋の扉の先には、エイと鮫を足して2で割ったようなモンスターが宙に浮いており、尻尾の針でサファギンキングをめった刺しにしているところだった。


 刺されたサファギンキングは、あちこちが水膨れでぶよぶよになっており、かなり気色悪い外見になっていた。


「タ・・・ス・・・ケ・・・」


 パァァァァァン!


「キャァァァァァッ!」


 全身が水膨れ状態のサファギンキングが、紅葉に助けを求める途中で力尽き、肉片と血を部屋中にぶちまけた。


 その光景が、自分のグロ耐性を大きく超えており、紅葉は悲鳴を上げずにはいられなかった。

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