第78話 ケケケ。実力だよ、実力ぅ~

 奏のパーティーは、右の道を進んでいた。


 モンスターがなかなか出てこないので、ルナの背中に乗り、飛んで移動するからスムーズに進んだ。


『おい、奏。ようやく敵だぜ』


「サファギンか?」


『違うな。このダンジョン、サファギンだけがいるって訳じゃなさそうだ』


「そうか」


「奏兄様、見えました。武装したスケルトンです隊列を組んでます」


 視力の良い楓が、出現したモンスターの外見を奏に説明した。


『こりゃ、スケルトンパイレーツだな』


「スケルトンパイレーツ?」


『おうよ。シミターを握って黒いバンダナを巻いてるだろ?』


「巻いてる。海賊なのか?」


『海沿いや海で出現するスケルトンは、十中八九スケルトンが進化して、スケルトンパイレーツになってんだよ』


「ふーん。でも、俺の前に出て来たのが運の尽きだな。【聖水噴射ホーリージェット】」


 ジジジジジィン! パァァァッ。


 退魔師<エクソシスト>の効果で、アンデッド系モンスターと対峙した時、全能力値が跳ね上がる奏にとって、スケルトンパイレーツはいくら集まっても雑魚でしかない。


『パパ、私もやる! 【嵐砲ストームキャノン】』


ゴォォォォォン! パァァァッ。


奏の取りこぼしたスケルトンパイレーツは、ルナが倒した。


《ルナはLv69になりました》


《サクラはLv50になりました》


《サクラは【氷守護アイスガード】を会得しました》


《サクラはLv51になりました》


 神の声が止むと、ルナが奏に頬擦りした。


『パパ、倒したよ~』


「よしよし。ルナはお利口さんだ」


『でしょ~?』


 奏に褒められたルナは、得意気に胸を張った。


『”退魔師<エクソシスト>”の奏はともかくとして、ルナも強くなったよな』


『パパが戦わなくても良いように、ルナが強くなるの~』


「どうしよう、ルナに甘えたくなってきたけど、それじゃヒモになる・・・」


『実利と欲望の間で揺れんなよ』


 ルナの言葉が嬉しい奏だったが、それに甘えてしまえば自分がヒモになってしまう自覚があったため、難しい顔をしていた。


 バアルもヒモになった奏は見たくなかったので、すぐに奏を諫めた。


「奏兄様、大丈夫です。帰ったら、私がたっぷりと甘やかしてあげます」


『良い手ね、楓。そうやって、奏を甘やかして骨抜きにしておしまい』


 違うベクトルから、楓がアプローチすると、ヘラがそれは良いと楓の背中を押した。


『奏、競走してるんじゃなかったのか? のんびりしてて良いのかよ』


「そうだった」


 バアルに指摘され、奏は急いで散らばった魔石をバアルに吸収させた。


 それから、再びルナの背中に乗り、奏達は先へと進んだ。


 すると、今度は樽があ

ちこちに散らばっていた。


「奏兄様、樽です」


「樽だな。バアル、これは罠か? ミミックの一種か?」


『どっちだと思うよ?』


「後者」


『その心は?』


「なんとなくだ。あれらの樽からは、なんとなく悪意を感じる」


『上出来だ。ありゃ、バレルミミックってミミック系のモンスターだ。敵に正体がバレると、蜘蛛みたいに足が生えて、正面の目が開く』


 ワサワサワサッ。


 バアルが説明した途端、樽の正面に赤いモノアイが光、底部からは蜘蛛のような脚が現れた。


「サクラ、あの気持ち悪いのやっつけて!」


「キュルルッ!」


 ダダダダダン! パァァァッ。


 楓の指示に従い、サクラは【氷雨アイスレイン】で手前にいたバレルミミック達を倒した。


 しかし、まだその奥に4体のバレルミミックが残っている。


 ビュビュビュビュッ!


「【守護領域ガードフィールド】」


 キキキキィィィィン!


 バレルミミックの目から飛び出た何かを、楓は結界を張って防いだ。


『パパ、ルナがやる! 【螺旋風刃スパイラルエッジ】』


 ビュオォォッ! スパパパパァァァン! パァァァッ。


《サクラはLv52になりました》


「キュルル~」


 レベルアップしたことで、サクラはご機嫌だった。


 楓の周りをプカプカと回り、褒めてほしいと目がそう言っている。


「ありがとう、サクラ。私、ああいう気持ち悪いの駄目なの」


「キュルン♪」


 私に任せておきなさいと言わんばかりに、サクラは右のヒレで自分の胸を優しく叩いた。


 その一方、既にルナを褒め終えた奏は、魔石と一緒にモンスターカードがドロップしているのを見つけた。


「バアル、あれってモンスターカードじゃね?」


『そうだな』


「そうだなって、どうした? いつもなら、モンスターカードが出たら喜んでるのに」


『だってよぉ、ミミック系のモンスターなら、会得できるのは【擬態ミミシス】だ。【擬人化ヒューマンアウト】の下位互換だから、会得し手も使い道ねえよ』


「いや、わからんぞ。もしかしたら、統合されて【擬人化ヒューマンアウト】が強化されるかも」


『・・・やってみるか。奏、俺様にあのカードと魔石を吸収させてくれ』


「わかった」


 シュゥゥゥッ。


《バアルは、【擬態ミミシス】を会得しました》


《バアルの【擬人化ヒューマンアウト】と【擬態ミミシス】が、【変身シェイプシフト】に統合されました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏がクエスト1-9をクリアしました。報酬として、バアルの復活率が90%になりました》


『おい、奏! やったぜ、奏! お前の言う通りだ! 俺様のスキルが強化されたぜ!』


 奏に言われた通り、自分のスキルが強化されたことで、バアルのテンションが急上昇した。


「良かったじゃん」


『おう! 恩に着るぜ! 【変身シェイプシフト】』


 早速、バアルは強化されたスキルを発動した。


 すると、バアルの身長が、高校生女子の平均身長を一回り超える高さになっていた。


 それに伴って、体の発育も良くなり、あともう少しでグラビアアイドルの体型と呼べる見た目に近づいていた。


『妬ましい。妾を差し置いて、バアルがここまで力を取り戻すなんて』


「ケケケ。実力だよ、実力ぅ~」


 人型になったバアルを見て、ヘラは嫉妬の感情を隠そうともしなかった。


 バアルも気分が良くなったのか、後先考えずにヘラを煽っていた。


 しかし、バアルはヘラを握る楓の目から光が消えているのを見て、言葉を失った。


「バアルさん、そうやって神々しさを取り戻して、奏兄様を私から奪うつもりじゃありませんよね?」


「えっ、ちょっ、落ち着こうぜ? 楓嬢ちゃん、そんなつもりはねえからさ。な?」


「バアルさんのプロポーション、私が一体どれだけ渇望してたかわかりますか?」


「いやぁ、俺様に言われても」


「毎年の健康診断で、中学以来全く伸びない背にどれだけ悩んだかわかりますか?」


「ナイスバディで悪かった」


「酷い裏切りです! 私も魔石を吸収します! モンスターカードだって吸収します! それでナイスバディになれるんなら、やってやれないことはないはずです!」


「奏! 楓嬢ちゃんがご乱心だぞ!?」


 自分が何を言っても効果がないとわかると、バアルは奏にこの状況を何とかしてくれと丸投げした。


 奏は涙目の楓の正面に立つと、ゆっくりと抱き締めた。


「大丈夫。俺は楓の身長が低いからって、気にしない。俺はありのままの楓が好きで、結婚したんだ。楓はそのままでも、俺には勿体ないぐらい綺麗さ」


「・・・奏兄様ぁ」


 奏に言われたことを、楓は頭の中で反芻した。


 すぐに、楓の顔は真っ赤になり、奏を抱き締める力が強くなった。


「もう大丈夫?」


「はい。すみません、取り乱しました。奏兄様の言葉で、自信が出てきました」


「そっか」


「はい。今夜は寝かせませんからね。奏兄様の愛を受け取ったのなら、私からも愛をお返しいなくてはいけませんから」


「お、おう・・・」


 寝ることが大好きな奏にとって、今夜は寝かせないという言葉はショックを受ける言葉だ。


 だが、いくら鈍感な奏でも、この場で夜は寝たいだなんて口が裂けても言えるはずがない。


 だから、奏はバアルに対して後で覚えておけと苛立ちを込めた一瞥をくれてやった。


 バアルは面目ねえとジェスチャーで返し、奏に何で穴埋めするか考えておくことにした。


 楓がすっかり落ち着いたので、奏はバアルにスキルの説明を訊ねることにした。


「それで、バアルの【変身シェイプシフト】は、望んだ姿になれるって解釈で良いの?」


「おうよ。やっぱ、神たるものありとあらゆるものに化けられねえとな。このスキルが、奏のワールドクエストに関与してたんだろ?」


「ああ。【蒼雷罰パニッシュメント】と【天墜碧風ダウンバースト】、【嵐守護ストームガード】、【神威ゴッズオーラ】、【変身シェイプシフト】で条件を達成したらしい」


「確かに、どれも俺様が健在だった頃、よく使ってたからな。納得だぜ。んで、次のクエストはなんだ?」


「バアルをLv100にすることだってさ」


「ケケケ。まあ、そうなるわな。そん時は、奏もLv100だろうから、今とは違った景色が見れるだろうぜ」


「どういう意味だ?」


「確証はねえから、Lv100になった時まで楽しみにしとけ」


 ニヤッと笑ったバアルは、奏の心にモヤモヤを残したまま、【変身シェイプシフト】を解除した。

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