第74話 奏、お前すげえよ。マジで

 奏のワールドクエストを確認した後は、楓、紅葉、響のワールドクエストを順番に確認した。


 楓のワールドクエストのテーマは、パートナーへの尽力だった。


 奏のワールドクエストのテーマと比べると、かなり属人的なクエストだと言えよう。


 楓には、奏というパートナーがいる。


 しかし、楓のクエストは1-3までしかクリアしていなかった。


 達成したのは、パートナーを得ること、パートナーの危機を救うこと、パートナーと生涯を共にすると誓うことの3つである。


 その報酬として、【治癒キュア】が【中級治癒ミドルキュア】に上書きされ、【料理クック】を会得し、全能力値が+50された。


 【料理クック】のスキルは、楓の聖職者クレリックの職業に関係ないはずだが、料理は体を作るから、広義的に聖職者クレリックの範疇なんだろうとバアルは自分の見解を述べた。


 奏はその説明を聞き、こじつけに近いと正直納得まではしていなかったのだが、楓が奏に美味しい料理を作ってあげられると喜んでいたので余計なことは言わなかった。


 料理の腕は、奏達はどっこいどっこいだったから、少しでも料理の質が上がってくれるのなら、職業と会得したスキルの関連性が薄いことなんて些事に過ぎないのである。


 その一方、紅葉と響のワールドクエストは、1つずつしか進行していなかった。


 紅葉のテーマはカジノの建設で、響のテーマは強敵との戦闘だったからだ。


 地球が今、モンスターの出現に悩まされているのに、なんでカジノの建設なのかと紅葉はツッコんだが、バアルは紅葉の職業が賭博師ギャンブラーだからだと言った。


 響のテーマも、響の職業が狩人ハンターだからだと説明した。


 奏達は、自分達のワールドクエストを確認することで、クエストのテーマが職業に依存すると理解した。


 ワールドクエストをクリアすれば、奏や楓みたいに大幅なパワーアップが見込める。


 それゆえ、これから二手に分かれて行動する時も、ワールドクエストのクリアと並行して行うことにした。


 食休みが終わると、奏と楓、ルナ、サクラは双月島の東側の森の探索に行き、紅葉と響、ピエドラ、アル&ブランは西側の海岸の探索へと向かった。


 奏達は、ルナの背中に奏と楓が乗り、サクラはルナの後に続いて空を移動している。


 もっとも、サクラの【浮遊フロート】では、ルナの【飛行フライ】の速度に追い付かないので、ルナがゆっくり飛んでいるのだが。


 双月島の東側の森は、昨日、この島に到着したアル&ブランによって、見事に昆虫系モンスターがいなくなっていた。


 長旅の間、満足に食事ができなかったようで、奏達はバアルも含めて森の上空から昆虫系モンスターを1体も見つけられなかった。


「奏兄様、あそこを見て下さい! 泉があります!」


「どこだ? あぁ、あそこか」


「キュルッ!」


『パパ、ママ、サクラが興味あるんだって。どうする?』


「楓、行ってみるか?」


「はい!」


「じゃあ、ルナ、泉の前に着地してくれ」


『は~い』


 サクラのアピールによって、奏達は泉に移動することに決めた。


 しかし、バアル武器の姿のまま待ったをかけた。


『待ちな』


「どうしたんだ、バアル? 水場だし、モンスターでもいるのか?」


『正解だ。この泉の周りを囲む木、トレントの群れだぜ』


「ウッドパペットに比べれば、擬態が随分と上手いな」


『当然だろ。トレントはウッドパペットの進化した先の種族なんだから』


「進化したのに、進化前と同程度の擬態じゃショボいか」


『そういうこった。んで、どうするよ?』


 バアルが問いかけると、奏は少しだけ考えてから口を開いた。


「ルナとサクラの踏み台になってもらおう」


「私も賛成です。サクラが戦わないまま、レベルアップだけするのは良いことだと思えませんから」


『ルナがやって良いの?』


「勿論だ」


『任せて!』


 トレントの群れの討伐を奏に任され、ルナはやる気に満ちた声で返事をした。


 それから、ルナはサクラに一緒に倒すことを伝え、サクラは了承した。


『それじゃ、いくよ! 【螺旋風刃スパイラルエッジ】』


 ビュオォォッ! スパパパァァァン!


「「「ヌォォォッ!?」」」


 螺旋する風の刃により、根本から枝を切断されたトレント達が叫んだ。


「キュルル!」


 カキィィィン!


 ルナが枝を切断した内の1体が、氷に閉じ込められた。


 どうやら、サクラは【凍結フリーズ】を使ったらしい。


『とどめ! 【吐息ブレス】』


 ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 凍って動けなくなったトレントが、HPを全損して消えた。


「キュルッ!」


 ダダダダダン! パァァァッ。


 今度は、サクラが【氷雨アイスレイン】を全体に向けて発動した。


 ルナの【螺旋風刃スパイラルエッジ】でダメージを負っていた者達は、サクラの攻撃によって倒された。


 残ったのは、泉の反対側にいるトレント達だ。


 それらの側面に回り込むと、ルナはトレント達の攻撃の範囲外から、一気に勝負を仕掛けた。


『これで終わり! 【螺旋風刃スパイラルエッジ】』


 ビュオォォッ! スパパパァァァン! パァァァッ。


 今度は、枝を切断するどころか、幹をバッサリと切断したため、残存していたトレント達はあっさりと倒れた。


《ルナがLv68になりました》


《ルナの【吐息ブレス】が、【嵐砲ストームキャノン】に上書きされました》


《サクラがLv41になりました》


《サクラがLv42になりました》


《サクラがLv43になりました》


《サクラがLv44になりました》


《サクラがLv45になりました》


 神の声が止むと、ルナは地面に着陸した。


 ルナは奏達が地面に足を着けると、奏に頬擦りした。


『パパ、見ててくれた? ルナ、倒したよ!』


「ちゃんと見てたぞ。俺の指示がなくても、ルナはちゃんと戦えてたな。偉い偉い」


『エヘヘ♪』


 奏に撫でられ、ルナはとてもご機嫌だった。


 その一方、サクラも楓に褒められていた。


「サクラ、偉かったね。ルナちゃんと協力して、ちゃんと戦えてたよ」


「キュル!」


 ドヤ顔になったサクラが、そうでしょう、もっと褒めてと楓にアピールした。


 その後、トレント達の魔石と切断された枝を回収していると、その近くに1枚マテリアルカードが落ちていた。


『クソッ、マテリアルカードか。がっかりだぜ』


「そう言うなって。描かれてるのは、梨?」


 マテリアルカードを拾い上げながら、奏はバアルを宥めた。


 マテリアルカードには、梨が10個描かれていた。


『果物なんかいらねえ。力をくれ!』


「貴重な食べ物なんだから、良いじゃんか」


『何言ってやがる。奏が【創造クリエイト】を使えば、なんだって食えるじゃねえか。だったら、俺様はモンスターカードが欲しいんだよ』


「また、モンスターと戦ってれば、いずれドロップするさ」


『バアル姉ちゃん、パパを困らせないで。パパを困らせるんだったら、ルナは戦わないから』


『お、おう。なんか、ルナも楓嬢ちゃんに似た空気を纏うようになったよな・・・』


 ルナから感じた雰囲気が、奏を絶対とする楓に似ていたので、バアルはたじろいだ。


「バアルさん、何か言いましたか? 私の奏兄様への気持ちを否定するなら、バアルさんでも許しませんよ?」


『奏、お前すげえよ。マジで』


 ルナと楓から睨まれ、バアルは奏を尊敬した。


 神に尊敬される存在になるなんて、普通に考えたら滅多に起こらないことだ。


 だが、一般的な物差しよりも愛情表現が強い1人と1体に好かれ、特段ストレスに悩まされていない奏は、バアルにとって尊敬の眼差しを向けるべき存在だった。


 そんな眼差しを向けられた奏はと言えば・・・。


「ん? 何が?」


『うん、俺様知ってた。奏って鈍感だったよな。だったら、楓嬢ちゃんやルナぐらい押しが強くて良いか』


「わかってくれれば良いんです」


『バアル姉ちゃん、それで良いんだよ』


 何故か、ここに神を許す人とモンスターという奇妙な光景ができあがった。


 それはさておき、元々は降り立った泉にサクラが興味を持っていたのをこの場の全員が忘れてはいなかった。


 だから、すぐに泉を調べてみることになった。


「見た感じ、泉の中に何もいなさそうだな」


「私の目からも、特に何も見えません」


『ルナも~』


「キュル?」


 奏と楓、ルナは何も気づくことはなかったが、楓の隣にプカプカと浮いているサクラだけが、首を傾げていた。


『ほう、サクラはこの泉の違和感に気づいたらしいな』


「キュル!」


 自分だけが気づいたと知ると、サクラがドヤ顔になった。


 どうやら、バアルとサクラが感じる何かが、この泉の中にはあるらしい。

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