第70話 タツヤとカズヤにしようか悩んだ。雄の双子だし

 翌日、奏達は視界の開けた海岸に来ていた。


 その理由はルナとサクラ、そして紅葉がダンジョンで手に入れた角笛に遭った。


 昨日の夕方、紅葉と響が奏に連れ帰られると、楓の傍にサクラがプカプカと浮いているのを見つけた。


 あれっ、何か増えている。


 こんな感想がすぐに頭に浮かんだ2人だった。


 だが、2人はもっと驚くことになった。


 それは、奏の姿が現れた瞬間、ぬいぐるみサイズで飛びついたルナが「パパ、おかえり~」と【念話テレパス】で伝えたからだ。


 自分達がいなかった間に楓が従魔を手に入れ、ルナが喋れるようになったとなれば、何があったのかと奏を問い詰めないはずがない。


 奏に詰め寄る紅葉と響を見て、楓が迫力のある笑みを浮かべながら近寄ると、2人は後ろに退いた。


 それでも、事情を話してくれと頼んだのは当然だろう。


 奏と楓の口から、ルナが喋れるようになった経緯とサクラが楓の従魔になった経緯を聞くと、紅葉と響も従魔がほしいと主張した。


 それに加え、紅葉が秋葉原でヨーウィーのダンジョンで手に入れた角笛を取り出すと、バアルがワンチャンあると言った。


 紅葉達が手に入れた角笛は、招集笛というアイテムだった。


 この角笛を吹く前にモンスターの系統を設定すると、野生のその系統のモンスターを呼び寄せることができる。


 ただし、1回設定してしまうと2度と別の系統への再設定はできなくなるので、使う際には注意が必要なのだ。


 バアルは角笛に幻獣系モンスターを設定してから吹けば、幻獣の楽園と化した双月島に幻獣系モンスターが高い確率で来ると伝えた。


 そうなれば、ルナやサクラを見て従魔欲が急上昇している紅葉と響に躊躇いはない。


 だが、昨日は時間が遅く、やるなら翌朝だと言う話になり、従魔候補となる幻獣系モンスターを呼び寄せるのは今日になった。


 森の中で角笛を吹けば、最悪の場合、森が壊されてしまうかもしれないので、視界が開けて周りに何もない海岸にやって来たという訳だ。


「さあ、張り切って呼ぶわよ!」


 紅葉が宣言すると、元の大きさに戻ったルナが奏にじゃれついた。


『パパ、他のモンスターが来ても、従魔にして良いのはルナだけなんだからね?』


「わかってる。俺はそこまで器用じゃないから、なんでもかんでも従魔にするなんてできないさ」


『良かった~。パパの従魔はルナだけだもんね♪』


「よしよし」


「・・・おかしくない? 半日ぐらい目を離しただけなのに、ルナちゃんが楓みたいになってる」


 奏への執着という点で、楓に通じるものをルナに感じた紅葉の前に、サクラを連れた楓が迫力のある笑みを浮かべながら距離を詰めた。


「紅葉お姉ちゃん、それってどういう意味かな? かな?」


「いや、その、奏君への愛情表現が似てるなって。深い意味はないのよ?」


「似るのは当然だよ。だって、私はルナちゃんのママだもん。親に子が似るのはよくあることでしょ?」


「・・・アハハ、そうね。うん、そうだと思うわ」


 内心、ヤンデレが1人と1体になっちゃったと思ったが、紅葉は何も口にしなかった。


 それが賢明である。


『紅葉の姉ちゃん、早く吹けよ~。待ってるの飽きたぜ?』


「はいはい。わかってますよ、バアルさん」


 呼び寄せた幻獣系モンスターが攻撃的だった場合、すぐに戦闘に移れるようにバアルはメイスの姿をしている。


 それは別に構わないのだが、バアルはいい加減話を進めてほしかったのだ。


 双月島に居つくも良いし、敵対するならば経験値にすれば良い。


 どっちに転んでもバアルにとってはメリットがあるので、早く紅葉に角笛を吹いてくれと急かした。


 紅葉は覚悟を決めて大きく息を吸い、勢い良く角笛を吹いた。


 ブォオォ~♪


 ほら貝かとツッコみたくなる音が角笛から出た。


 しばらくするとバアルが異変に気付いた。


『ん、何か来るぜ』


「幻獣系モンスターか?」


『多分な。反応がデカいぞ、これ。正面から来る』


 その反応の主は、バアルの言う通り奏達の正面からやって来た。


 空に点がポツンと見え、それがだんだん近づいて来ている。


「見えました! 頭が2つある鳥です!」


『そりゃ、ツインヘッドイーグルだな。あいつら、プライド高いからな~。面倒なことになりそうだな~』


「そう言いつつ、お前は嬉しそうじゃねえか」


『そりゃ、敵対的なモンスターなら、容赦なく経験値にできるからに決まってんだろ』


「戦うのは俺達だってわかってんの?」


『期待してるぜ、奏』


「はぁ」


 肝心な所は他人任せなバアルに奏から溜息が漏れた。


『大丈夫。パパと一緒に私も戦うから』


「奏兄様、私も支えますよ。【仲間全強化パーティーオールライズ】」


 ツインヘッドイーグルに舐められないように、楓はこの場にいる全員を強化した。


 そのすぐ後、トラック並の大きさのツインヘッドイーグルが砂浜に着地した。


 茶色い体に白い顔、黄色い嘴が光り、体型も野生を感じさせるスリムさだが、2つの頭の目だけが気怠そうだった。


「移住希望ッス。良イッスカ?」


「コノ辺、目立ッタ外敵イナクテ最高ッス」


「・・・バアル、下っ端っぽいの来たけど」


『俺様も予想外だぜ』


 プライドが高いという前情報があっただけに、下っ端口調のツインヘッドイーグルを見て奏はバアルにどういうことだと意見を求めた。


 しかし、バアルにとっても予想外のパターンだったため、意見らしい意見は返せなかった。


 従魔にすべきかどうか悩んでいたため、紅葉はツインヘッドイーグルに質問することにした。


「ツインヘッドイーグルさん達、ちょっと良いかしら?」


「「ナンスカ?」」


「従魔として戦うことに抵抗ある?」


「無益ナ殺生ハシナイシ、戦ウノハ面倒ッス」


「食ベル虫系モンスターダケ、殺シテルッス。働キタクナイッス」


「ニ、ニート臭がするわね」


「僕と気が合いそう」


 回答がプライド以前にニートっぽいものだったため、紅葉は顔が引きつった。


 その一方、響はツインヘッドイーグルに同類を見る目を向けていた。


「じゃあ、響は従魔にしたいの?」


「うん。方向性が別だと、長くはもたないよ」


「まあ、そういう価値観もあるわね」


 響の語る価値観を、紅葉は否定しなかった。


 そして、響が1歩前に出た。


「君達、僕の従魔にならない?」


「「面倒ッス」」


「まあまあ。僕には君達を酷使するつもりはない。それに、僕が動くのは動かなきゃ後々困る時だけだ。君達だって、どうしようもない場合は動くでしょ?」


「ソリャマア、ソウッスネ」


「仕方ナク動クコトハアルッス」


「うんうん。そうだよね。でもさ、君達がこの島で狙われずに過ごすには、従魔としての身分があった方が良いと思うんだ。野生のままなら、最悪野垂れ死にしそうでも放置するし」


「何ソレ嫌ッス」


「安定シタ身分欲シイッス」


「それなら僕の従魔になってみない? 僕のために戦ってくれたら、君達に何かあればできる手を尽くして助けることは約束するからさ」


「「良イッスヨ」」


 響に丸め込まれ、ツインヘッドイーグルは響の従魔になることを承諾した。


「決まり。それじゃ名前を付けてあげる。君達は雄雌どっち? というか双子?」


「雄ッス」


「双子ッス。自分、弟ッス」


「了解。じゃあ、兄がアル、弟がブランで」


「「了解ッス」」


《おめでとうございます。個体名:新田響が、ツインヘッドイーグルのアル&ブランを従魔にしました。これにより、アル&ブランは<響の従魔>の称号を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、世界で初めてモンスターを言いくるめて従魔にしました。初回特典として、響に<交渉者>の称号が与えられました》


 神の声が止むと響がコメントした。


「タツヤとカズヤにしようか悩んだ。雄の双子だし」


「なんで〇ッチ? あぁ、野球繋がりか。って、それはどうなのよ」


 鷲がマスコットの野球キャラを思い出し、響の思考回路を理解したが、そのネーミングセンスはどうなんだとツッコんだ。


 もっとも、そんな連想ゲームみたいな命名ではなく結局は響が閃いた名前が付けられたから、そのツッコミの所在はないのだが。


 それはともかく、響は気の合いそうな従魔を手に入れた。

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