第69話 聖女www! 大草原不可避なんだけどwww!

 楓がサクラを従魔にした頃、紅葉と響は秋葉原の住宅地に到着していた。


 ヨーウィークイーンを倒し、ヨーウィーのスタンピードを終わらせたことで、住宅地にヨーウィーの援軍は存在しなかった。


 ヨーウィーはいなかったが、武装した二足歩行の犬と、蛾のようなモンスターが

住宅地を襲っていた。


 冬音のパーティーと他2つのパーティーが、協力してそれらと戦っていたので、紅葉と響もそこに参戦した。


「冬ちゃん、加勢するわ。【岩矢ロックアロー】」


 ダン! パァァァッ。


「【風矢ウインドアロー】」


 ヒュン! パァァァッ。


「紅葉先輩に響さん! ありがとうございます! みんな、心強い援軍が来てくれたよ! 押し返すよ!」


「「「・・・「「おうっ!」」・・・」」」


 紅葉と響が参戦したことで、冬音達に再び気合が入った。


 2人が参戦するまでは、やや劣勢という状況だったが、それはすぐに好転し、5分もかからず侵攻してきたモンスターの混成集団を全滅させた。


 紅葉と響は、レベルが高かったせいでレベルアップできなかったが、冬音達はレベルアップが4か5は上がっていた。


「怪我人がいたら教えてくれる? 少しはマシにするから」


 紅葉はそう言って、死蔵していた【小回復ミニヒール】を使って怪我人の傷を治して回った。


 普段は楓がいるから、紅葉の【小回復ミニヒール】の出番はない。


 紅葉と響だけで動いていたとしても、2人が苦戦してHPを削られることは今までになかったから、【小回復ミニヒール】の出番は本当に1回もなかった。


 だが、今は回復要員がいないらしく、紅葉にとっては産廃スキルでもこの場ではありがたがられた。


「傷を治せるとか、聖女かよ」


「いやぁ、助かります」


 そんな風に持ち上げられると、紅葉はどんどんドヤりたい衝動に駆られていく。


「聖女www! 大草原不可避なんだけどwww!」


「響、自分でもわかってるから、人を馬鹿にしたような言い方は止めて」


 <聖女>の称号は、既に楓が保持している。


 それを知っている響は、同じくその事実を知る紅葉が聖女扱いされていることが滑稽で、笑いを隠しきれなかった。


 響を黙らせると、紅葉は冬音に話しかけた。


「冬ちゃん、お疲れ様」


「お疲れ様です、紅葉先輩。援軍ありがとうございました。ヨーウィーが途中から増えなくなったのって、紅葉先輩達のおかげですよね?」


「まあね。ヨーウィークイーンのいたダンジョンを見つけて、踏破したの」


「・・・2人だけで踏破しちゃうなんて、どれだけ強いんですか」


「奏君はもっと強いし、あのダンジョンは入ってすぐの場所にクイーンがいただけよ」


 冬音に尊敬と呆れの混じった目を向けられると、紅葉は苦笑いした。


「そういえば、高城さんと妹さんはいないんですね? それとルナちゃんも」


「奏君は来させられないわ。冬ちゃんならわかるでしょうけど、あの力は不要な嫉妬を招く。そうならなくても、各地から助けを求められて全く休まらない。それに、奏君と楓は昨日結婚式挙げたばかりだから、ゆっくりしたいと思うし」


「・・・結婚式やったたんですか。それも昨日」


「うん。色々あってね。楓も奏君から離れたがらないし、ルナちゃんも同じ。とりあえず、ここに来れたのも、私が無理言って頼んだんだから、奏君について害のあることは決してしないで。良いわね?」


「わかりました。こちらこそすみません。住宅地の建築と武器の強化をしてもらったのに、すぐに救援要請をしてしまいまして」


 冬音は奏のことをほとんど知らないが、人の悪意は理解している。


 仮に、今日ここであったことを掲示板に投稿したら、秋葉原から離れた場所の冒険者からは少なからず嫉妬される。


 もし、その冒険者達の状況が日に日に悪化していたとすれば、余計に恨み言まで投稿されるようになるだろう。


 管理者アドミニストレーターにより、誹謗中傷を含む不適切な投稿は削除されるが、それでも削除履歴は残る。


 それはつまり、その投稿者が誰かに対して良からぬことを投稿したことに他ならない。


 そんな悪意に、助けてもらった恩人達を晒す訳にはいかない。


 そう考えた冬音は、奏の情報の取り扱いには、最大の注意を払うことを心に誓った。


「ところで、ここを襲って来たモンスターは何? ぱっと見で犬の方はコボルトかと思ったけど」


「そうですね。コボルトです。蛾の方は、スレッドモスです」


「言い切ったわね。もしかして、学者スコラーってモンスターの名前が鑑定できるの?」


「できます。モンスターの名前に限らず、正体不明の物を見るとパッと頭に浮かぶんですよ」


 冬音から、学者スコラーの特性を聞いた紅葉は、冬音のことがちょっぴり羨ましくなった。


 だが、それは隣の芝生は青く見えるというものだろう。


 冬音からすれば、紅葉の賭博師ギャンブラーが羨ましいのだから。


「鑑定は大事よね。強奪とアイテムボックスに並ぶ重要な要素だもの」


「その通りです。まあ、その話は止めておきましょう。脱線したまま戻ってこれなくなりそうですから」


 自分も紅葉も、オタクであると理解しているので、冬音は話を元に戻した。


「そうね。とりあえず、今後の方針だけど、守るんじゃなくて攻めたらどう? ダンジョンを踏破しない限り、永遠に迎撃戦を続けることになるわよ?」


「そうなんですよね。でも、今の戦力を分散するのは、悪手だと思うんですよ」


「片方ずつ挑めば?」


「それしかないですよね・・・」


「ないわね。そもそも、3つある内1つは私達が踏破してあげたんだから、それぐらいやりなさい」


「はーい」


 煮え切らない態度の冬音に対し、紅葉も少しは自分達で動けと注意すると、紅葉任せにするのはさすがに厳しいと冬音も理解した。


 そこに、誰かの声が聞こえて来た。


「敵襲だ! コボルトの大群が来てるぞ!」


「話はここまでよ。まずは、コボルトを」


「わかりました。みんな、やるよ!」


「「「「了解!」」」」


 会話が終わり、紅葉は冬音と別れて響と遊撃に回った。


「静かにしてたわね。外堀はどうしたの?」


「誤算だった。あれが外堀になるのはずっと先。もしかしたら、その時が来ないかも」


「ふーん。【十字水刃クロスウォーターブレード】」


 スパパッ! パァァァッ。


「僕達に依存するだけじゃ、外堀になり得ない。【酸雨アシッドシャワー】」


 ザァァァァァッ。ジュワァァァッ。パァァァッ。


 紅葉と響は、話をしながらコボルトの数を確実に減らした。


 すると、コボルトの大群の中に、普通のコボルトじゃない者が紛れていたことがわかった。


「響、あの武装からして、コボルトグラップラー、コボルトランサー、コボルトアーチャーがいるわ」


「ピンポイントで倒すの面倒。まとめて落とすから、後はよろしく」


「了解」


「【陥没シンクホール】」


 グラグラグラァッ!


「「「・・・「「ガフゥゥゥゥゥッ!?」」・・・」」」


 突然、足場が消えて穴に落とされたため、コボルト達が間抜けな鳴き方をした。


「【爆発エクスプロージョン】」


 ドガァァァァァン! パァァァッ。


 紅葉と響のコンビネーションも、かなり良くなっている。


 響が落として、紅葉が一掃する流れが完成していると言えよう。


 紅葉と響のおかげで、大半が既に倒れている。


 そのおかげで、冬音達の士気が高い。


 住宅地は任せて大丈夫だと判断すると、紅葉は響と一緒にコボルトの溢れ出るダンジョンへと向かった。


 コボルトの大群がやって来た方向に進めば、瓦礫ばかりの中に廃ビルがポツンとあり、そこからコボルトが隊列を組んで現れた。


「【罠作成トラップメイク】」


 ガァァァァァン! パァァァッ。


 響がスキル名を発動すると、空から巨大な金ダライが落ちてきて、コボルト達をペシャンコに押し潰した。


「【罠作成トラップメイク】」


 今度は、金ダライではなく、廃ビルの入口に落とし穴が現れた。


 穴の底には、棘がびっしりと埋まっており、ここに落ちれば串刺しになることは間違いない。


「なるほど。ダンジョンから出てきても、すぐに落とし穴に落ちて倒せるって訳ね」


「そーいうこと」


 援軍を出されても嫌なので、響は楽して敵の数を減らす作戦に出た。


 その作戦は狙い通り決まり、廃ビルから出て来たコボルト達は軒並み落とし穴に落ちて倒れた。


《紅葉はLv72になりました》


《響はLv66になりました》


 戦闘の終わりを告げる神の声が聞こえると、紅葉はコボルトの湧くダンジョンの場所を冬音に念話で伝えた。


 本来は、ダンジョンの場所の特定も冬音達にやらせようとしていたのだから、紅葉はなんやかんやで甘いだろう。


 ここでやるべきことは終わったので、紅葉は奏に迎えに来てほしいと連絡を入れた。

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