第68話 だから、パパの従魔はルナだけだって言ったの♪

 ルナが羽ばたいて留まっている場所に、ピンク色のケートスが近づいて来た。


 クラーケンに追われている時は、奏達にケートスの大きさを意識する余裕はなかったが、柴犬ぐらいのサイズだった。


「キュッキュル~」


『ママ、このケートスが傷を治してくれてありがとうだって』


「どういたしましてって伝えてくれる?」


『うん』


 ルナは【念話テレパス】を会得したことで、モンスターと奏達との通訳ができるようになっていた。


「キュルル」


『パパもクラーケンやっつけてくれてありがとうだって』


「見過ごせなかっただけだから、気にしなくていいって伝えてくれ」


『は~い』


 再び、ルナは奏の言葉をモンスター言語でケートスに翻訳して伝えた。


「キュル?」


「ピュイピュイ」


「キュ~、キュルル?」


「ピュイ」


「ルナ、何を話してたんだ?」


『あのね、このケートスがパパとママに恩返ししたいらしくて、従魔になりたいんだって』


「そうなの?」


『だから、パパの従魔はルナだけだって言ったの♪』


「そっか」


『うん。それでね、今度はママの従魔はどうかなって訊かれたの』


 サラッと言ったが、ルナは奏の他のモンスターに奏の従魔を名乗らせるつもりはないらしい。


 <奏の従魔>は、自分だけのものだという独占欲を持っていた。


 楓にケートスを押し付けようとするあたり、ルナもいい性格をしているようだ。


「楓、どうしたい?」


「うーん、ルナちゃんを見てると、私も従魔が欲しくなるんですけど、ケートスって水棲ですよね? そうすると、海でしか会えなくなって、生活に不都合が生じそうです」


『ママ、それは大丈夫だよ』


「え?」


 ルナが大丈夫といった理由を、奏達はすぐに理解できた。


 何故なら、ケートスが宙にプカプカと浮き始めたからだ。


『へぇ、【浮遊フロート】を使えんのか』


「知ってるのか、バアル?」


『おうよ。【飛行フライ】とは違って推進力はねえが、空中に浮けるスキルだ。水中で使えば、水面まで簡単に浮上できるスキルでもあるぜ』


「考えて使えば、使い道のありそうなスキルだな。でも、とりあえず楓の懸念事項はなんとかなりそうだ」


「そうですか。それじゃ、私の従魔になってもらおうかな?」


「ピュイピュイ」


「キュルン♪」


 ルナに翻訳してもらい、楓の従魔になれるとわかると、ケートスは嬉しそうに鳴き、両方のヒレで万歳した。


「はぅ、かわいい。持ち帰りたい」


「従魔にしたから、持ち帰れるさ」


「そうでしたね。ルナちゃん、このケートスは色からして女の子?」


『そうだよ。名前を付けてあげるんだね?』


「うん。それじゃあ、綺麗なピンク色だし、サクラにするよ」


「キュルル!」


『喜んでるよ~。これからは、サクラって呼んであげてね』


「わかった。ありがとね、ルナちゃん」


『どういたしまして』


《おめでとうございます。個体名:高城楓が、ケートスのサクラを従魔にしました。これにより、サクラは<楓の従魔>の称号を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏と、個体名:高城楓が幻獣系モンスターを従魔にしたため、双月島が幻獣系モンスターの楽園に認定されました。これにより、幻獣系モンスターが双月島に興味を持つようになります》


 楓がサクラを名付けた途端、神の声が2連続でその場に響いた。


 それから、いつまでも海上にいては別のモンスターに狙われる可能性があるので、奏達はベンチのある海岸まで戻った。 


 サクラが楓の従魔になったので、ルナと同じように従魔の証が必要になる。


 そういう理由から、奏はそれを購入することにした。


「【売店ショップ】」


 ブブッ。


 電子音が聞こえると、奏の前に【分析アナライズ】で現れる画面とは別の画面が表示され、ガネーシャが画面上に現れた。


『いらっしゃ~い』


『【擬人化ヒューマンアウト】』


 ガネーシャとのやり取りは、バアルがやりたいらしく、ガネーシャの声が聞こえると、バアルは人型になった。


『連日呼び出してくれてるけど、何かあったのかしら?』


「まあな。実は、ルナに続いてケートスが従魔になったんだ」


『あら、奏がまた従魔を増やしたの?』


『違うもん。パパの従魔はルナだけだもん』


『・・・ルナちゃん、喋れるようになってたのね』


『うん♪ パパのおかげでね、喋れるようになったの~』


 あくまでも、奏の従魔は自分だけだとルナが自らの口で説明すると、ガネーシャは少しだけ固まったが、すぐに復活した。


「まあ、そういうこった。ケートスの主は楓嬢ちゃんだ」


『ごめんなさいね、ルナちゃん』


『わかってくれれば良いんだよ~』


『間違っちゃったお詫びに、楓には従魔の証をタダであげるわ』


『俺様敵には嬉しいが、それで良いのか?』


 タダほど高いものはないという言葉もあるように、タダには裏があることが多い。


 だから、バアルはその裏事情を確認する意味も込め、ガネーシャに質問した。


『良いのよ。私が間違えたのは事実だから、そのお詫びをしたいの。それに、双月島に定住する幻獣系モンスターが増えれば、バアルも箔が付いて力を取り戻せるでしょ? それなら天界にメリットがあるもの』


「そーいうことなら、ありがたく貰っとくぜ」


『ええ。そうしてちょうだい』


 サクラ用の従魔の証を受け取ると、奏はガネーシャに礼を言って【売店ショップ】を解除した。


 従魔の証をサクラに着けてから、楓はサクラの強さを確かめることにした。


「【分析アナライズ】」



-----------------------------------------

名前:サクラ  種族:ケートス

年齢:7歳 性別:雌 Lv:32

-----------------------------------------

HP:320/320

MP:150/320

STR:320

VIT:370

DEX:370

AGI:320

INT:320

LUK:320

-----------------------------------------

称号:<楓の従魔>

スキル:【浮遊フロート】【吐息ブレス】【氷雨アイスレイン

-----------------------------------------

装備:従魔の証(楓)

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 ルナが風系統のスキルを会得しているのに対し、サクラは氷系統のスキルを会得していた。


 つまり、サクラの【吐息ブレス】は吹雪のようなものであることが楓には想像できた。


 また、ルナがSTRとAGIが高めなのに対し、サクラはVITとDEXが高い。


 <賢獣>の効果で、INTの数値が最も高いルナは、STRとAGIの高さも考慮して移動砲台と呼べる。


 その一方、サクラは特に他の称号がないので、固定精密砲台であると言えよう。


「キュル」


『パパ、サクラがお腹空いたんだって。クラーケンに追われてて、お昼食べられなかったみたい』


「わかった。楓、モンスの実を渡すから、食べさせてあげたら?」


「そうしてみます」


 奏からモンスの実を渡された楓は、それを手のひらの上に置いてサクラの目の前に差し出した。


「キュルッ!」


 流石は、モンスターが好むモンスの実だった。


 サクラはモンスの実を視界に捉えると、ペロリと平らげてしまった。


 その後、2回お代わりをしたら、サクラの腹も落ち着いて来たらしい。


 腹が満たされたことで、眠くなったサクラは、楓の傍に寄って寝息を立て始めた。


「サクラ、安心して寝ちゃいました」


「そうみたいだな」


『サクラ、この数日満足に休めてなかったみたい』


「そっか。それなら、ゆっくり休んでもらわないとな」


『うん』


「ルナはサクラのお姉ちゃんだから、家で部屋の使い方を教えてあげるんだぞ?」


『ルナにお任せ♪』


 ルナだけだと、部屋が寂しかったかもしれないが、今日からはサクラも同じ部屋で暮らすことになる。


 そういう意味では、ルナはサクラの先輩なのだが、年齢がルナとサクラは一緒だったので、奏はお姉ちゃんという言葉を使った。


 ルナが奏の言う通り、きちんとサクラの面倒を見ると言うと、奏はルナの頭を優しく撫でた。


「偉いな、ルナ。立派なお姉ちゃんだ」


「エヘヘ♪」


 それから、夕方まで海岸でだらだらと過ごした後、奏達は神殿へと戻るのだった。

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