第7章 幻獣の楽園

第63話 デジャヴ? 違うな、悪化してやがる

 楓の朝は早い。


 昨日の結婚式によって秋山楓から高城楓になった訳だが、初夜は当然燃え上がった。


 体力差の関係で楓の方が先に力尽きてしまったが、力尽きて寝落ちしてしまっても楓は奏を抱きしめたまま離れなかった。


 そんな訳で、楓が目を覚ましたら目の前には生まれたままの姿の奏がおり、自分も生まれたままの姿なのだ。


「奏兄様、朝から元気ですね♡」


 自分の下腹部に硬くて熱を持ったものが触れているとわかると、楓はとても嬉しくなった。


 無意識でも自分の体に反応してくれたと思ったからである。


 その現象が本当はただの生理現象だったとしても、楓は自分に反応してくれたんだと自分に都合の良い方に捉えた。


 欲を出して奏の一部に悪戯しようとすると、目の前の奏がぱっちりと目を開いた。


「・・・おはよう、楓」


「おはようございます、奏兄様♪」


「何やってんの?」


「朝のご奉仕です」


「また今夜な」


「・・・わかりました」


 お預けされて少し残念だったが、それでも結婚したことで奏と自分がずっと一緒にいる大義名分を得られたから楓は今は我慢した。


 それに、自分と奏の左手の薬指には結魂指輪が嵌まっている。


 このペアのリングさえあれば、自分と奏の仲を引き裂くことはできないから柄では駄々をこねなかったのだ。


 奏達が身だしなみを整えると、ドアの向こうから眠そうな声が聞こえた。


「・・・ピュ~イ」


「ルナが来たのか」


 ドアを開けると、そこには若干眠そうな目をしたルナがいた。


 昨日、【収縮シュリンク】を会得してからルナも神殿内部で寝起きすることになった。


 だから、眠気と戦いつつ奏と早く会うために奏を起こしに来たのである。


「ピュイ」


「おはよう、ルナ」


「ピュイ~」


 奏に頭を撫でられたルナは気持ち良さそうに鳴いた。


 奏達がリビングに移動すると、紅葉と響は既にいた。


「「夕べはお楽しみでしたね」」


「勿論です♡ 奏兄様とたっぷり愛し合いました♡」


「デジャヴ? 違うな、悪化してやがる」


 奏と楓の初体験の翌日に紅葉に言われたのと同じセリフを聞き、奏は頬が引きつっていた。


『【擬人化ヒューマンアウト】』


「バアルさん、昨日はどうだった?」


 人型になったバアルに対し、紅葉が昨晩の奏と楓の様子を訊ねた。


「ん? そりゃもう、すごかったぜ。最終的には奏の体力勝ちだったが、体力が切れるまでは楓嬢ちゃんが奏を捕食してるようなもんだったな」


「・・・楓、いつからそんな風になっちゃったのよ」


「清楚の皮を被ったビッチ」


「奏兄様、2人が虐めてきます」


「お前ら、夫婦の営みにケチつけんなっての。バアルも余計な燃料投下すんじゃねえよ」


「へいへい。悪かったよ」


 奏がしょうもない話の流れを打ち切り、朝食の時間になった。


 奏達は昨日、双月島唯一のダンジョンを踏破した。


 それによってスタンピードが双月島で発生するリスクは潰したが、まだ森や砂浜のモンスターを殲滅した訳じゃない。


 それでも大きな危機が去ったため、朝食後の休憩もゆったりしていた。


 今日からまた二手に分かれて森と海岸沿いの探索を再開する訳だが、出発時刻までは時間があるので、紅葉は日課としている掲示板の巡回を始めた。



◆◆◆◆◆


現状共有スレ@5


1.管理者アドミニストレーター

 生き残った日本人のパーティーが、キングモンスターのダンジョンを踏破したため、本機能が日本人に先行して解禁されました。

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◇◇◇◇◇


621.上野の学者スコラー

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさんの協力のおかげで、秋葉原に家が20軒あります

 この状況下だから、電気・水道・ガスのインフラはありませんが、それでも屋根があって個室があるだけでかなり休憩の質が変わります

 現在、私達のパーティーは複数のパーティーと合流してます

 もし、秋葉原に来れる人は、合流しましょう


622.お茶の水の修道士モンク

 上野の学者スコラーさんのパーティーと合流したぜ

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさん達のパーティーはいないけど、その人達がすごいってのはよくわかった

 ヨーウィーの数、マジで減らねえ

 こいつら相手に無双してたとか、普通にヤバいっしょ


623.浅草の吟遊詩人バルド

 ウチのパーティーも、621と622のパーティーと合流したわ

 なんていうか、秋葉原にポツンと簡素な住宅街があってビックリしたよ

 ヨーウィーの数が多いのは大変だけど、屋根と個室があるのは大きい

 交代で見張りをするから、ウチのパーティーだけの時よりもかなり楽だわ

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさん、マジ感謝


624.新橋の商人マーチャント

 >621-624

 まだ家は空いてる?

 俺達4人にいるんだけど


625.渋谷の魔術士ソーサラー

 >621-624

 同じく

 私達は5人


626.上野の学者スコラー

 >624,625

 大丈夫です

 まだ家には余裕があります


627.甲府の戦士ファイター

 ここから秋葉原に行くのはしんどいなぁ

 秋葉原の賭博師ギャンブラーみたいな人、近くにいないかな・・・


◆◆◆◆◆



 現状共有スレを見て紅葉はニヤニヤしていた。


「紅葉、キモいよ? また掲示板見てるの?」


「キモいとは失礼ね。楓に奏君を奪われた悲しみを掲示板でチヤホヤされるのを見て癒されてんのよ」


「現実逃避乙」


「響だって楓の気分を害したら追放されるかもしれないわよ? 奏君は追い出そうとはしないでしょうけど」


「・・・今からでも遅くないはず。巨乳ロリ妹に媚びてみる」


「コラ。卑屈になるんじゃないわよ」


 今の居場所を奪われまいと真剣に楓に媚びることを検討する響を見て、紅葉は響の頭にチョップした。


「痛い。まな板紅葉め」


「うん、楓にさっきのセリフを一言一句そのまま伝えてあげる」


「やだなぁ、紅葉はまな板じゃないよ」


「わかればよろしい」


 響との会話を中断し、紅葉は再び別のスレッドを閲覧し始めた。



◆◆◆◆◆


モンスタースレ@2


1.管理者アドミニストレーター

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◇◇◇◇◇


226.上野の槍士ランサー

 秋葉原に大量発生したモンスターについて載せます

 ・ヨーウィー

 トカゲの頭と胴体、昆虫のような6本脚、蛇の尻尾という見た目のモンスター

 昼間よりも夜の方が活発だから、おそらく夜行性

 足音がカサコソ騒々しいから、気づかない間に接近されることはない

 物理攻撃系スキルよりも、魔法系スキルの方が効きが良い

 ヨーウィーの涎には、じわじわと石化させる効果があるから触れないこと

 倒すと稀に卵のマテリアルカードをドロップする


227.姫路の盾士タンク

 誰か、モンスターを味方にできた人いません?

 私のパーティーに、使役者テイマーの職業になった奴がいるんですが、あと少しってところでモンスターに逃げられるんですよね


228.日光の使役者テイマー

 >227

 それな

 日光と言えば猿だと思って、ノーズモンキーに【使役テイム】を使ってみたんだけど、逃げられちまった

 何が駄目だったんだ?


229.金沢の使役者テイマー

 >228

 ノーズモンキーはエロ猿

 おっぱいさえあれば言うこと聞くんじゃね?


230.日光の使役者テイマー

 >229

 この投稿は不適切なため、削除されました


231.金沢の使役者テイマー

 >230

 www

 何言ったんだしwww

 って、俺の発言はギリギリセーフなのか


232.秋葉原の賭博師ギャンブラー

 >227

 私のパーティーのリーダーは、使役者テイマーじゃないけど従魔がいる

 ゴブリンライダーのマテリアルカードのモンスの実をあげると、懐いて言うことを聞いてた

 多分、【使役テイム】は従魔を手に入れるハードルを下げるけど、それだけでは確実に従魔を得られない

 こちらを警戒しないモンスターを懐かせると良いかも

 モンスの実をあげたり、他のモンスターに襲われてるところを助けるとか


233.姫路の盾士タンク

 >232

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさん、情報ありがとうございます

 下種な男共と違って、本当に頼りになります

 早速、パーティーの使役者テイマーに教えてみます


◆◆◆◆◆



「ふぅ、良いことした」


 紅葉が掲示板の画面から顔を上げ、やり切った顔をしていると、奏からお呼びがかかった。


「紅葉、そろそろ出発するぞ」


「はーい。今行く」


 いつの間にか出発時刻になっていたため、紅葉は急いで奏達に合流した。


 それから、奏が紅葉と響を海岸の最終探索地点まで【瞬身テレポート】で送り、その後に楓とルナと一緒に森へ移動した。

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