第60話 俺様の錯覚か? こっちの方が悪役みたいじゃね?
胸部に縦回りのスロットマシーンを持つ灰緑色の石像は、1つしか目がなく、両腕は大砲だった。
足はキャタピラーであり、あまり機敏に動くことは想定されていなかった。
『スロットゴーレムだな』
「見たまんまの名前じゃん。それで、攻撃手段は両腕の大砲だけか?」
『おうよ。だが、胸のスロットが変わることで、大砲から放たれる砲弾の属性が変わる。今は火属性だな。気を付けろよ』
「属性攻撃ありか。しかも、変更可能かよ。おまけに、かなり硬そうだ」
『ゴーレムタンクよりも硬いぜ』
「うわっ、めんどい・・・」
バアルからの情報を聞き、奏はげんなりした顔になった。
ドォォォン!
「やらせません! 【
キィィィン!
鉄格子の間から、炎が漏れ出て奏達を襲った。
だが、楓がスキル名を唱えたことで、奏達の前に半透明の防壁が現れ、スロットゴーレムの砲撃を防いだ。
「鉄格子は熔けてないな。本来なら、中に閉じ込めた者を逃がさない仕掛けってことか」
『だろうぜ。俺様を投げ、罠を誤爆させるとは大したもんだ。投げられたのは癪だが』
「バアルの力があったから、さっきみたいな手段を選べたんだ。そう膨れるなよ」
ドドォォォン!
「【
キキィィィン!
今度は、両腕の大砲から同時に砲撃したのだが、それでも楓の展開した防壁を破ることはできなかった。
「このまま、遠距離攻撃で削るぞ」
「支援します。【
攻撃前に、楓は奏達全員を強化した。
「私も削るわ。【
カラン。
突然現れた賽子が、5の目を出した。
これにより、スロットゴーレムの全能力値が50減り、紅葉の全能力値が50増えた。
「僕のスキル構成だと、ゴーレム系のモンスターは相性悪い。サポートに回るよ。【
グラグラグラァッ! ガタッ!
響のスキルにより、スロットゴーレムのキャタピラーの前半分の乗った床が陥没し、スロットゴーレムが斜め45度まで傾いた。
「【
ドカァァァァァン!
紅葉は右肩の繋ぎ目を狙って、爆発を引き起こした。
しかし、爆発が止んでもスロットゴーレムには罅すら入っていなかった。
「くぅ、硬いわね」
「ピュイ!」
ゴォォォォォッ!
紅葉が爆破した部位を狙って、ルナが【
だが、これでもスロットゴーレムの右肩の繋ぎ目に罅すら入らなかった。
ギギギッ。
ドドォォォン!
「【
キキィィィン!
スロットゴーレムは、前傾姿勢になっても大砲の向きを調整できるらしく、両腕の大砲から奏達を砲撃した。
それでも、楓がその攻撃を防ぐから、奏達にダメージは入らない。
「俺がやる。【
バチィッ! ズドォォォォォン! ゴトリッ。
「やった!」
「ピュイ!」
奏のスキルが、スロットゴーレムの右肩の繋ぎ目を貫通し、それによって右腕の大砲が床に音を立てて落ちた。
自分達の攻撃が通用しなかった紅葉とルナは、それを自分のことのように喜んだ。
「まず1本。次。【
バチィッ! ズドォォォォォン! ゴトリッ。
「攻撃手段がなくなりました! 流石は奏兄様です!」
「うん。奏ちゃんすごい」
「【
奏は自分の位置と、右腕の大砲の位置を入れ替えた。
『奏、何をする気だ?』
「ん? 折角、オーバーテクノロジーっぽいのが出て来たから、剥ぎ取れる部位は剥ぎ取るべきだろ?」
『俺様の錯覚か? こっちの方が悪役みたいじゃね?』
「戦闘ってのは、綺麗事だけじゃ済まされないんだ。【
バチィッ! ズドォォォォォン! ゴトリッ。
今度は、足となるキャタピラ部分と胴体を繋ぐ柱を壊した。
これで、奏が手を付けていないのは、胸部のスロットマシーンの部分のみだ。
「これ以上は剥ぎ取れないか。【
ドゴォォォォォン! パァァァッ。
《奏はLv68になりました》
《奏はLv69になりました》
《楓はLv66になりました》
《楓はLv67になりました》
《楓の【
《紅葉はLv62になりました》
《紅葉はLv63になりました》
《響はLv55になりました》
《響はLv56になりました》
《ルナはLV52になりました》
《ルナはLV53になりました》
《ルナはLV54になりました》
神の声が聞こえなくなると、奏はそのまま魔石をバアルに吸収させた。
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv68になりました》
《バアルはLv69になりました》
『これでモンスターカードがドロップすれば、文句なしだったんだがなぁ』
「ないものねだりしたって、ないもんはないだろ。【
バアルに応じつつ、奏は左腕の大砲とキャタピラーを回収した。
『・・・ん? なんだこれ? おい、奏。奥の壁、全力で殴ってくれ』
「何かあるのか?」
『おう。空間がある。多分、隠し部屋だな』
「わかった。【
ドゴォォォォォン! ボロボロボロッ!
バアルの言う通り、奥の壁に【
隠されていた空間には、ポツンと宝箱が置いてあった。
「バアル、ミミックの可能性は? それと、罠が仕掛けられてる可能性も」
『ミミックじゃねえな。罠もねえよ。隠し部屋には、そもそもたどり着ける確率が少ねえから、罠はしかけられることはねえんだ』
「そっか」
危険性がないとわかると、奏は宝箱を開けた。
宝箱の中身は、黄金のゴブレットだった。
『おいおいおい! マジかよ! 俺様愛用のゴブレットじゃねえか!』
「ん? お前の私物なの?」
『おう! これはな、恵のゴブレットっていう俺様が愛用してた物だ! MPを消費すると、中に水が湧く。それを種を植えた土に撒きゃ、すぐに種が成長するって代物よ!』
「すごいな、それ」
『だろ!? だが、こいつは俺様に吸収させてくれ! こいつがありゃ、俺様の力も半分ぐらいまで取り戻せそうだ!』
バアルに頼まれ、奏は少しだけ悩んだ。
恵みのゴブレットさえあれば、双月島での食糧事情が改善することは間違いないからである。
それでも、奏はバアルに協力することを約束しているし、バアルがいなければ今の自分はないだろう。
だから、少しだけ悩んだものの、奏は恵のゴブレットをバアルに吸収させた。
シュゥゥゥッ。ピカァァァン!
恵のゴブレットを吸収した途端、メイス形態のバアルが輝き始めた。
光に覆われたバアルのシルエットは、人型へとその形を変えた。
幼稚園児並みだった背丈は、小学校高学年ぐらいの大きさになり、楓の身長を超えるのも時間の問題だろう事が容易に想像できた。
光が収まると、牛の角を模った兜を被った銀髪ロングの巫女の姿をしたバアルが現れた。
「ふむ、まだ半分だが、もう半分とも言える。奏、感謝するぜ」
「お前、見た目はかわいいんだから、言葉遣いどうにかしろよ」
「・・・はぁ。そういうこと、サラッと言っちまえるから奏なんだよなぁ」
恥ずかしがることなく、サラッと自分を褒めてきたので、バアルはやれやれと首を振った。
「酷いです! あんまりです! どうしてそんな簡単に背が伸びるんですかぁぁぁ!」
鉄格子の向こうで、楓が地面に膝をついていた。
そうなってしまうのも無理もない。
人型になった時、最初は手のひらサイズだったが、レベルアップして幼稚園児並の大きさになった。
それが、いきなり小学校高学年ぐらいの背丈になるのだから、身長の低い楓にとっては不平等極まりないことのように感じられたのだ。
だが、待ってほしい。
確かに、楓の身長は低い。
それでも、胸の大きさは日本人の平均を大きく上回っている。
姉の紅葉が嫉妬で発狂しそうになるぐらい、楓の胸は育っているのだ。
そう考えれば、楓もまた不平等の中で持つ者でもあると言えよう。
「バアル、楓が落ち込んじゃったじゃんか」
「そんなもん、俺様に言うなよ。そもそも、元の俺様はお前と同じぐらいの身長なんだぞ?」
「・・・お前、楓の前で身長の話するの厳禁な。真面目な話、楓がお前を信仰しなくなるぞ」
「そりゃ困る。わかった。俺様、その話、しない」
「片言で喋んなくても良いっての」
信者がいなくなることを避けたいので、バアルはお口チャックのジェスチャーをしてみせた。
それから、奏は【
間引きは継続するにしても、今日は秋葉原にも移動したので全員クタクタなのである。
続きは明日にして、奏達は今日の疲れを食事や風呂で取るのだった。
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