第58話 これは差別じゃないよ。分別だよ
双月島に戻った奏達は、神殿で遅めの昼食を取った後、奏と楓、ルナが発見したダンジョンに向かった。
「へぇ、ゴーレムなんているのね」
「僕と相性悪そう」
「確かに、ナイフも毒も酸も、効果は薄そうね。黙って穴を掘る簡単な仕事に従事したまえ」
「そのまな板の胸、抉るよ?」
「それだけは勘弁して!」
すごい良い笑顔で響が手をワキワキとさせたので、紅葉は慌てて白旗を振った。
「紅葉、響、じゃれ合うのはそこまでにしとけ。入口にいたゴーレムナイトですら、フィアーレックスと同じなんだ。気を引き締めろ」
「「了解」」
奏に注意され、響と紅葉はおとなしくなった。
それから、奏達はダンジョンの中に入った。
「ピュイ?」
「ゴーレムナイトはいないらしいな」
ルナが今朝と違い、ゴーレムナイトがいなくて首を傾げたので、奏はルナを撫でた。
「ピュイ~」
「奏兄様、ルナばかりに構うなんてズルいです。私にも構って下さい」
「はいよ」
「エヘヘ」
奏達がイチャイチャしてるのを見て、紅葉はジト目を向けた。
「奏君、差別じゃない? 私と響が言い争ってるのは注意するのに、楓とルナには甘いと思うんだけど」
「これは差別じゃないよ。分別だよ」
「楓、私達はごみ扱いなの!?」
『おい、ふざけてる間にゴーレムタンクとゴーレムメイジが来てんぞ?』
バアルが言う通り、通路の向こうから盾を持ったゴーレム、杖を持ったゴーレムが縦並びで歩いて来た。
「メイジは俺がやる。タンクは紅葉と響に任せた。楓は全体支援。ルナ、楓を守ってくれ」
「「了解!」」
「ピュイ!」
「了解です。【
楓の強化が終わると、奏はメイジに接近戦を仕掛けるために近づいた。
ゴーレムメイジは、ギギギと腕を動かし、杖を奏に向けて攻撃を仕掛けようした。
「やらせねえよ。【
ドゴォォォォォン! ゴトリ。
杖を握っていた腕を、奏の攻撃が砕いた。
杖が地面に落ちたことで、ゴーレムメイジの攻撃手段は物理攻撃しかなくなった。
しかし、【
「【
ドゴォォォォォン! パァァァッ。
木偶の坊と化したゴーレムメイジの心臓部に、大きく跳躍した奏が渾身の一撃を放ち、HPを全損させた。
『キタァァァァァッ! モンスターカードだぜぇぇぇぇぇっ!』
魔石と一緒にモンスターカードがドロップしたことで、バアルのテンションが爆上がりした。
奏がゴーレムメイジを倒した頃、響がゴーレムタンクの動きを封じる所だった。
グラグラグラァッ!
ダンジョンの床が陥没し、ゴーレムタンクの下半身はすっぽりと穴に嵌まってしまった。
「【
ドガァン! ドガァン! ドガァン! パァァァッ。
3連続で【
《奏はLv66になりました》
《奏はLv67になりました》
《楓はLv64になりました》
《楓はLv65になりました》
《紅葉はLv60になりました》
《紅葉は【
《紅葉はLv61になりました》
《響はLv52になりました》
《響はLv53になりました》
《響はLv54になりました》
《ルナはLV48になりました》
《ルナはLV49になりました》
《ルナはLV50になりました》
《ルナは【
《ルナはLV51になりました》
神の声が、奏達のレベルアップを知らせた。
ダンジョンに現れるモブモンスターにもかかわらず、レベルが上がりにくくなってきた奏達をレベルアップさせた。
これは、スタンピードの発生を阻止するだけでなく、経験値稼ぎとしても非常に効率が良かった。
『おい、奏! 吸収早よ! レベルアップ早よ!』
「はいはい」
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv66になりました》
《バアルはLv67になりました》
《バアルは【
『ケケケ。経験値ウマウマだぜ!』
魔石とモンスターカードを吸収したバアルは、とてもご機嫌だった。
「バアル、今の戦闘で会得したスキルの説明頼むわ。【
『おうよ。まず、紅葉の姉ちゃんの【
「まさに
『ルナの【
「良かったな、ルナ」
「ピュイ♪」
奏に褒めてもらったことで、ルナもご機嫌になった。
「ルナちゃんも、私の【
「ピュイ」
楓がグッと拳を握ると、ルナが楓に頭を下げた。
”支援をお願いね”と頼んでいるらしい。
「任せて下さい。ルナちゃんは奏兄様の大事な従魔です。私も守ってもらうでしょうし、お互い様です」
「ウォッホン、ウォッホン」
「どうした紅葉?」
わざとらしい咳払いを続けたので、奏は紅葉に反応してあげた。
「蜻蛉切Ver.2を強化したいの。素材、使っちゃって良い?」
「良いよ。じゃ、これも使うか? 【
紅葉が使うだろうと思い、奏はゴーレムナイトの両手剣を亜空間から取り出した。
「流石は奏君! 愛してる!」
「私の奏兄様に近寄らないで!」
奏に抱き着こうとした紅葉を見て、楓は素早く奏と紅葉の間に入ってそれを阻止した。
「ほら、楓を刺激してないで合成してくれ」
「はーい。【
カラン。
両手剣と杖、蜻蛉切Ver.2が光に包まれると、どこからともなく賽子が現れ、そのまま転がって5の目を出した。
「キタァァァァァッ!」
初めて5が出たので、紅葉のテンションが急上昇した。
そんなことになっている間に、光の中で一体化した素材群が、槍のシルエットを形成した。
光が収まると、赤紫がかった鋼の穂に焦げ茶色の柄、石突にはワイバーンの翼を模した装飾が付いている槍が現れた。
その槍の柄には、火、水、雷、毒、岩のマークが穂の近くから順番に刻まれている。
「大成功の匂いがするわ! 【
「総員、紅葉の三段笑いを阻止!」
「わかりました!」
「OK」
「止めて、何をす、もがっ」
奏の指示を受けて、楓が紅葉の足を抑え、響は紅葉の口を手で塞いだ。
これにより、紅葉の三段笑いは阻止された。
紅葉は不満そうに頬を膨らませるが、奏達は全く気にしなかった。
武器が強くなるのは良いが、その説明に入るまでが長いのは面倒なのだ。
紅葉がおとなしくなると、響は紅葉の口から手をどけた。
「はい、紅葉。強化された内容、喋って良いよ」
「わかったわよ、もう。【
「紅葉お姉ちゃんのくせに生意気だよ」
「フッ、胸の脂肪に戦闘系スキルを持ってかれた楓が、何か言ってるわね」
紅葉の言葉を聞いた途端、楓の目からハイライトが消えた。
それを素早く察知した奏が、楓に紅葉の姿を見せないように割って入り、そのまま抱き締めた。
「楓、落ち着こう。な?」
「奏兄様、どいて下さい。そいつを殺せません」
「あぁ、もう。しょうがないな」
ズキュウウウン!
そんな効果音が聞こえそうなぐらい、奏は楓に情熱的なキスをした。
楓は支援特化であり、回復や強化、防御はできても戦えない。
戦闘で役に立てていないと不安になる気持ちは、奏がちょくちょくケアしているのだが、紅葉が余計なことを言ったせいで楓の目の前が真っ暗になってしまった。
だから、そんな暗い感情を忘れられるように、奏は楓にキスをしたのである。
しばらくすると、楓の目に光が戻って来た。
そして、奏からキスをしてもらったことに気づき、すぐに楓の顔はデレデレになった。
「くっ、何故かしら。すごく負けた気分になったわ」
「負けてるでしょ」
「うっさいわよ響」
目の前でガッツリとイチャイチャされ、紅葉の心には敗北感が浮かび上がったのだが、自業自得だろう。
奏達がダンジョン探索を再開できたのは、それから5分後のことだった。
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