第57話 ヒャッハー! 汚物は焼却よ!

 バアルに引き留められたので、奏達は立ち止まった。


「どれぐらいだ?」


『おっ、奏も勘が良くなってきたな。さっき、ジャイアントセンチピードが来たのとは逆方向から、少なくとも50体はこっちに来てやがるぜ』


「奏君!」


 バアルの報告を聞いていると、紅葉が家の中から駆け出して来た。


 その後ろから、冬音達が武装してついて来た。


「紅葉、中で喋ってたんじゃなかったのか?」


「冬ちゃん達の装備の強化をしてただけよ。勿論、素材は冬ちゃん達持ちでね。それよりも、響からモンスターが来たって念話が」


「僕、有能でしょ?」


「そうだな。響、手間が省けたよ」


 頭を差し出す響に、奏は仕方なくその頭を撫でた。


 楓とルナに構ってばかりで、響に構う時間が減ったことは、奏も自覚していたからだ。


「奏君、それでモンスターの数は?」


「50体以上。あっちから来てるらしい」


「高城さん、協力してもらえませんか? 私達は、そこまでの数を一気に相手にしたことがないんです」


 50体と聞くと、冬音はすぐに奏に協力を頼んだ。


「わかった。倒した分のドロップはこちらが貰う」


「勿論です。お願いします」


 話がまとまると、奏達はモンスターの群れがやって来ている方角へと向かった。


 住宅地が途切れ、再び瓦礫の山が見える場所まで来ると、奏達はモンスターの群れを捕捉した。


『ヨーウィーだ』


 バアルは小さな声で、ボソッとモンスターの名前を奏に告げた。


 バアルがヨーウィーだと断定したモンスターは、トカゲの頭と胴体、昆虫のような6本脚、蛇の尻尾という見た目である。


「支援します。【仲間全強化パーティーオールライズ】」


 楓は自分と奏、ルナ、紅葉、響をまとめて強化した。


「ピュイ?」


 ルナの目は、奏にお伺いを立てている。


「ルナ、戦いたいの?」


「ピュイ!」


「わかった。じゃ、あの1列任せた」


「ピュイ!」


 ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 ルナの口から突風が吐き出され、ずらっと並んでいた縦1列のヨーウィーが倒された。


 ルナの【吐息ブレス】が、ワイバーンの【吐息ブレス】とは異なり、突風であることがわかった瞬間だった。


「ピュイ♪」


 ドヤ顔で奏を見るルナを、奏は褒めた。


「偉いぞ、ルナ」


「ピュイピュイ♪」


 指示した通りに対応したルナは、奏に頭を撫でられて満足した。


「じゃ、俺も」


「奏君ストップ」


「奏ちゃん、僕達がやる」


「はいはい」


 ただでさえ、ルナに見せ場を先に取られてしまったのだから、奏にここで続かれては自分達の出番が回ってくることはまずない。


 だから、紅葉と響は奏に待ったをかけた。


 奏もその意味を理解したので、お好きにどうぞとジェスチャーした。


「響、嵌め殺しで行くわよ」


「奇遇だね。僕もそう言おうと思ってたんだ。【落穴ピットフォール】」


 ズズズズズッ。ドサササササッ。


「「「「「えっ?」」」」」


 突然、大きな穴がアスファルトに空き、そこに侵攻してきたヨーウィーの大半が落ちたため、冬音達は揃って目を丸くした。


「冬ちゃん達は、穴に落ちなかった取りこぼしをお願い」


「は、はい! 行くよ、みんな!」


「「「「了解!」」」」


 紅葉に指示を出され、正気に戻った冬音がパーティーメンバーに声をかけて残党狩りを始めた。


「ヒャッハー! 汚物は焼却よ! 【爆弾ボム】【爆弾ボム】【爆弾ボム】」


 ドガァン! ドガァン! ドガァン! パァァァッ。 


「汚物は消毒じゃなかった? 【酸槍アシッドランス】【酸槍アシッドランス】【酸槍アシッドランス】【酸槍アシッドランス】【酸槍アシッドランス】」


 ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ジュワァァァァァッ。 パァァァッ。


 紅葉が世紀末の野郎共みたいな奇声を上げ、響はそれを訂正しつつ穴に落ちたヨーウィー達に対して一方的に攻撃している。


 冬音達は、穴の周りで落ちずに留まったヨーウィーをパーティーで連携して倒している。


 そのおかげで、奏の近くには今、楓とルナしかいない。


 このチャンスを逃さず、奏はバアルに話しかけた。


「バアル、ちょっと良いか?」


『あん? どうした?』


「このヨーウィー、ゴブリンみたいに進化するのか?」


『するっちゃするが、キラービーと同じだぜ。クイーンがいるだけだ』


「なるほど。んじゃ、こいつらが来た方角に巣があるのか?」


『巣っつーか、ダンジョンだと俺様は思うがな』


「スタンピードか」


『おうよ。誰も手を付けなかったせいで、キャパオーバーになったんだろ。この辺、俺様達も来てなかったし』


 バアルの話を聞いた奏は、腕を組んで黙り込んだ。


「奏兄様、どうかしましたか?」


 奏が突然黙り込めば、奏のことばかり考えている楓が気にならないはずがない。


「いや、あのゴーレムナイトのいたダンジョンも、放置したらこうなるのかと思ってさ」


「・・・そうですね。島に戻ったら、すぐに数を減らしに行きますか?」


「そうだな。溢れ出したのだが、ヨーウィーとかなら問題なさそうだけど、ゴーレムナイトがわらわらと出てきたら面倒だ」


「ダンジョンの序盤であれですから、進めばもっと強いモンスターがいるかもしれませんよね」


「確かに。結界に守られてるとはいえ、島が滅茶苦茶になるのは困る。早いうちに数を減らしておきたい」


 そんな話をしていると、紅葉と響は穴に落ちたヨーウィーを片付け終えたらしい。


 それと同時に、冬音達も最後のヨーウィーを倒し終えた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏と、個体名:木枯冬音率いる2つのパーティーが、協力してスタンピードの被害を最小限に収めました。これより、レイドを組むことが解禁されました》


《奏はLv65になりました》


《楓はLv63になりました》


《紅葉はLv58になりました》


《紅葉はLv59になりました》


《響はLv49になりました》


《響はLv50になりました》


《響はLv51になりました》


《響の【落穴ピットフォール】が、【陥没シンクホール】に上書きされました》


《響の【酸槍アシッドランス】が、【酸拡散弾アシッドスプレッド】に上書きされました》


《ルナはLV44になりました》


《ルナはLV45になりました》


《ルナはLV46になりました》


《ルナはLV47になりました》


 神の声によるリザルトラッシュが終わった。


「バアル、魔石は吸収してやるから、先に答えてくれ。レイドって何?」


『2~4つのパーティーが組むことだ。パーティーについて、説明してなかったが、パーティーは6人までだ。従魔も1枠使うから、気を付けろよな』


 つまり、奏達のパーティーは残り1人、もしくは残り1体しか入れないということだ。


 奏はもう少し質問したいと思ったが、冬音達がこっちに戻って来たので、質問を中断して魔石をバアルに吸収させることにした。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv65になりました》


「奏ちゃん、これ。マテリアルカード。先に拾っといた」


「サンキュー。これは、卵?」


「そうだと思う」


 奏が受け取ったマテリアルカードには、卵が10個描かれていた。


 卵と言えば、鶏かうずらのものを思い浮かべるだろう。


 だが、ヨーウィーから卵のマテリアルカードがドロップするとは、一体どういうことなのだろうか。


 モンスターからドロップするマテリアルカードの関係性は、バアルにも理解できないので真実は迷宮入りである。


「お疲れ様です。大半を片付けてもらってすみません」


「構いませんよ。こちらにも利があったので。マテリアルカードは手に入りましたか?」


「はい! 卵ですよね! 貴重な食糧です! 2枚も手に入りました!」


「・・・おかしい。私よりも運が良いんじゃない?」


 賭博師ギャンブラーの紅葉よりも、冬音達の方がマテリアルカードのドロップ率が良かったため、紅葉は首を傾げた。


 倒したヨーウィーの割合から言えば、8割は奏達のパーティーが倒した。


 それにもかかわらず、マテリアルカードは1枚しか手に入らなかった。


 残りの2割しか倒してないのに、マテリアルカードが2枚ドロップしたとなれば、LUKの数値が誰か以上に高いんじゃないかと疑うのも不思議じゃないだろう。


 何故なら、LUKも含めて全能力値が高い奏がいたのに、奏達にはマテリアルカードが1枚しかドロップしなかったのだから。


「多分、チャイの【幸福舞踏ラッキーダンス】のおかげだと思います」


「そんなスキルまであるのね。レベルも上がったんじゃない?」


「はい。全員低くともLv35は超えました」


 バアルが何も知らせて来ないので、もう新手は出てこないと奏は判断し、紅葉に時間だとジェスチャーで伝えた。


 それと同時に、楓とルナ、響は奏の近くに集合していた。


「ごめん、そろそろ戻らなきゃ。家と武器は好きに使ってね」


「お忙しいところ、来て下さってありがとうございました」


「じゃ、お先に。【瞬身テレポート】」


 冬音達への最低限の支援は完了したので、奏達は双月島へと帰還した。

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