第53話 はいはい。ツンデレ乙
奏達が森を探索していたその頃、紅葉と響は海岸の探索をしていた。
今日の探索では、昨日まで奏達と行っていた方とは逆側に進んでいる。
その理由は、奏に【
万が一、紅葉と響で倒せないモンスターが出た場合、神殿に近い所にいれば、奏達と合流できずとも神殿に逃げ帰れる。
しかし、昨日まで探索した場所まで送ってもらったら、奏が間に合わなかった時に何もできずにやられてしまうリスクがある。
そんな事態にならないように、今日は今まで進んでいたのとは反対の近場から探索を始めたのだ。
「奏ちゃんと探索したかったなぁ」
「同じく。地味に口の悪い響じゃ、ストレスが溜まるわ」
「まあまあ。元気出してよまな板姉」
「響、それよそれ! いい加減、名前で呼びなさい!」
最初は響をちゃん付けしていた紅葉だったが、自分の呼び方が気に食わないので、いつの間にか呼び捨てにしていた。
「まな板紅葉」
「OK。全世界の貧乳の恨み、思い知らせてあげる」
「僕にぶつけたって、生産性ないよ?」
「ぐっ、こんな時だけ正論を言いよって・・・」
アタックするべきは、妹と婚約した奏であって響ではない。
それがわかっているから、紅葉は歯を食いしばって悔しがった。
「大丈夫。紅葉には、掲示板のアイドルという大事なお仕事があるじゃん」
流石に、紅葉をからかい過ぎたと思い、響はちゃんと名前で紅葉を呼んだ。
いくら親戚と言えど、モンスターの出現する世の中に変わった今なら、和を乱す者は奏なら追放するだろう。
そう考えれば、紅葉をからかい過ぎて機嫌を損ねてはマズいのだ。
何故なら、紅葉は不完全ではあるものの、生産スキル、バフ兼デバフスキル、攻撃スキル、回復スキルと幅広く使えるため、奏に隠れているが有能である。
現在、響が使っている武器は、紅葉のスキルに依存するものであり、武器の強化は響の戦果に直結する。
だから、紅葉を程々に煽てようとしている。
「掲示板のアイドルって何よ?」
ムスッとした表情ではあるが、紅葉の声には喜んでいる気配がちらりと感じ取れる。
「奏ちゃんは、ああいうの面倒がる。でも、今の世界について、知識を一番有してるのは奏ちゃん。だから、開示できる範囲で開示する紅葉は、間接的な世界の英雄」
「英雄・・・。べ、別に、そんなに煽てられたからって、うれしくなんかないんだからねっ」
「はいはい。ツンデレ乙」
「誰がツンデレよ?」
「紅葉。楓はヤンデレの気配が濃い」
「そうなのよね。奏君にダンジョンで助けられてから、心底愛しちゃってるらしいのよ。今まで彼氏がいなかったから、恋愛感情をかなり拗らせちゃったのよね。まさか、妹に唾つけてた同僚を寝取られるとは思ってなかったわ」
「ダウト。紅葉は奏ちゃんと寝てない。だから、寝取られるは違う」
「細かいことは気にしたら負けよ」
細かくないだろう、それはとツッコむ者はこの場にいなかった。
とにかく、雑談のおかげで、紅葉の怒りが薄まったのを感じ取った響は、周囲への警戒度合いを強めた。
そんな響に、敵がいると直感が訴えた。
「止まって。モンスターの気配がする」
「・・・あれだわ。多分、ブロンズクラブよ。岩に擬態してる」
「硬い?」
「前回戦った時は、楓に強化してもらったけど、レベルアップした今なら強化なしでも十分やれる」
「じゃ、やろう。先手は任せた」
「わかったわ。でも、念のため。【
カラン。
紅葉がスキル名を唱え、現れた賽子が転がると、賽子は2の目を出した。
「40の能力値の差が開いた。これならいけるはず。【
ドガァン! パァァァッ。
狙いを定め、紅葉が爆発させると、岩に擬態していたブロンズクラブが爆散した。
砂浜には、魔石だけでなく青銅の殻の破片が散らばっている。
ザザザッ。
「砂の下から、何か来る」
「シェルアーチャーかも」
「何それ?」
「水の矢を飛ばしてくる二枚貝よ」
「囲まれたら面倒。手を打つ。【
ザザザッ。ズドン! ズドン! ズドン! ジュワァァァッ。パァァァッ。
時間差で砂上に出て来た3体のシェルアーチャーを、響の【
「えっ、なんでそんなことできんの?」
周囲にモンスターがいないと判断し、紅葉は顔を引きつらせながら響に訊ねた。
「音に注意すれば、どのシェルアーチャーがいつどこから出るかわかる。だったら、それに合わせて攻撃すれば良い。これ、常識」
「いやいや、それは一般人には無理だって。どこの国の常識?」
数日前まで、オタクな社畜だった自分にはとてもじゃないができないので、
「奏ちゃんもたぶんできる」
「奏君は一般人じゃないよ」
「否定できない。紅葉ができるようになるには、3年の修業が必要」
「・・・そんな時間ないわ。修行よりも、生き抜くことが最優先だもの」
響の技術を会得するのを諦め、紅葉は周囲に散らばった戦果を回収し始めた。
「紅葉、武器の強化するの?」
「するわ。そのために、奏君からワイバーンとかの素材を合成する分だけもらったもの」
響の質問に答えながら、紅葉はリュックからワイバーンの尻尾の棘を2本と、ワイバーンの翼を適当に切り取ったもの、シーサーペントの牙を2本を取り出した。
「ということは、僕のナイフも強化す・・・?」
「それ、”る”しかその後に来ないじゃないの。まあ、良いわ。やってあげる。順番にだけど」
「僕は信じてたよ、紅葉」
「あっそ。さて、私達だけで倒したモンスターの魔石は、自由に使って良いって言質は取ってあるし、これも使って強化しちゃいましょう」
紅葉は話すのを止めると、ワイバーンの棘と翼の一部、シーサーペントの牙1本、ブロンズクラブの魔石、蜻蛉切Ver.1をまとめた。
そして、
「【
カラン。
【
「4ってどうなるの?」
「3,4は合成には成功して、一定確率で一足飛びの強化がされるの。5,6なら、一足飛びの強化付きが確約された成功。1,2は通常通りの確率で成功するわ」
「ふーん。そうなんだ」
「昨日聞いた受け売りだけどね」
昨日、紅葉は【
それで、紅葉がスキルの効果も熟知しているという訳だ。
紅葉と響が喋っている間に、光の中で一体化した素材群が、槍のシルエットを形成した。
光が収まると、紫がかった鋼の穂に焦げ茶色の柄、石突にはワイバーンの翼を模した装飾が付いている槍が現れた。
その槍の柄には、火、水、雷、毒のマークが穂の近くから順番に刻まれている。
「蜻蛉切Ver.2の完成ね。【
合成した槍の性能を確かめるべく、紅葉は【
性能を確かめると、紅葉はお決まりの流れに入った。
「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」
「性能教えて」
「張り合いのない淡白な反応ね。【
「ズルい。レベルアップしてないのに、2つも新しいスキルをゲットしてる。僕のも早く」
「わかったわ。ナイフをそこに置いて」
「わかった」
響は紅葉の指示通り、ジャンクナイフVer.3を砂浜の上に置いた。
そこに、紅葉は残ったワイバーンの棘と翼の一部、シーサーペントの牙1本、シェルアーチャーの魔石3つ、ブロンズクラブの殻の破片を重ねた。
「【
カラン。
【
「そんな・・・、まな板紅葉に出た目で負けるなんて・・・」
「スキル、強制終了しちゃおっかな~」
「それだけは勘弁して」
「まあ、できないんだけど」
「冗談はライク・ア・絶壁な胸だけにしてよ」
「おいコラ金髪糸目。今、なんて言った?」
会話で殴る響に対し、紅葉はできもしない嘘をついた。
響は嘘だと知ると、紅葉に容赦ない毒を吐いた。
そんなことをしていると、素材群が一体化したものがナイフのシルエットになった。
光が収まると、柄はワイバーンの翼を彷彿させ、刃の部分は尻尾の棘のようなナイフが現れた。
「【
合成が完了したので、響はその性能を確認し始めた。
「どうよ? スキル構成が変わったんじゃない?」
「うん。【
「悪くないじゃない」
「ありがと。次に現れたモンスターで、ジャンクナイフVer.4の試し切りする」
「お礼、言えるじゃん」
「馬鹿にしないでよ、貧乳のくせに」
「やっぱ一言多いわね」
凸凹コンビは、強化された武器を握って探索を再開した。
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