第51話 当然だ! 好き好んでバールになる奴があるか!

「【売店ショップ】」


 ブブッ。


 電子音が聞こえると、奏の前に【分析アナライズ】で現れる画面とは別の画面が現れた。


 その画面が現れたことで、楓達が正気に戻った。


「なんですか、その画面?」


「奏君のご都合主義スキルなの?」


「奏ちゃん専用のAM〇ZON?」


「今から試すところだ」


 楓達は奏の回答を聞き、奏と一緒に画面を見ることにした。


 すると、象の顔の被り物をして、インドっぽい服装をした女性が表示された。


『いらっしゃ~い』


『【擬人化ヒューマンアウト】』


 笑顔で愛想良く挨拶する女性の声を聞き、バアルは【擬人化ヒューマンアウト】を発動した。


 それにより、バアルは幼稚園児ぐらいの大きさになって現れた。


「ピュイ?」


 いきなり、神器バールが人の形に変身したので、ルナは意味がわからず首を傾げた。


 そんなルナの頭を、奏が撫でる。


「ルナ、大丈夫だ。こいつはバアル。俺のパートナーだから」


「ピュイ」


 それなら安心と頷き、ルナは奏に撫でられるがままになった。


 バアルの大きさは、手のひらサイズから幼稚園児ぐらいまで成長し、その上宙に浮くこともできるようになったらしい。


 バアルは奏が出した画面の高さまで、これぐらいなんでもないと言わんばかりに浮いている。


『あら、バアル。随分早い再会ね』


「よう、ガネーシャ。奏のおかげで、俺様はかなりハイペースで力を取り戻せてるよ」


『それは良かったわ。天界の仲間の復活は、何よりも嬉しいもの。バアル、ちゃんと協力してくれるパートナーにお礼を言うのよ?』


「お前は俺様の母親かよ」


 バアルがガネーシャと呼んだ女性は、バアルが奏に迷惑をかけていないか心配らしい。


「バアル、お喋りするのは良いが、説明してくれ」


「おっと、いけねえ。この画面の女はガネーシャ。世界の商人達から信仰されてるおかげで、神器にならずに済んだ富の神だ。どうやら、奏の【売店ショップ】では、ガネーシャから物を買えるらしいぜ」


『初めまして、奏。私はガネーシャ。バアルがいつも世話になってるようね。<異界大使>の称号を持つ貴方には、サービスしてあげるわ』


「そりゃどうも」


 【売店ショップ】のスキルを通じて、買い物だけでなく情報交換もできるらしいとわかり、奏は運が良いと思った。


『さて、奏が欲しい物は何かしら?』


「ルナの家が欲しい。今の俺の家じゃ、ルナを屋根のある場所で休ませられないんだ。あっ、ルナって言うのはこのグリフォンだ」


「ピュイ♪」


 画面越しのガネーシャに、ルナの顔が見えるようにすると、ルナがご機嫌な様子で鳴いた。


『あらあら、奏はグリフォンを従魔にしてたのね。ルナちゃんって言うのね。かわいい名前だわ』


「ピュイ~?」


 ガネーシャに名前を褒められると、”でしょ~?”と言わんばかりに、ルナは嬉しそうに鳴いた。


『バアル、貴方神殿はないのよね?』


「ねえよ。俺様は今んところ、奏の手の甲の中で寝てる」


『ふ~ん、そうね~・・・。あっ、これなんてどうかしら? 神殿改築セット(インフラ整備サービス付)!』


「おい、奏! 買おうぜ! 絶対得だから!」


 ガネーシャに薦められた商品名を聞き、バアルが奏の胸倉を掴んで強請った。


「あのさ、内容が全くわからん。買う買わないを判断する前に、内容の説明が知りたい」


『そうだったわね。ごめんなさい。神殿改築セット(インフラ整備サービス付)は、神器となった神が力を取り戻すのに必要な舞台を準備するものよ。奏、貴方に拠点はあるのよね?』


「ある。無人島の中に、俺の家を【虚空庫ストレージ】で持って来た」


『丁度良いわ。その家、インフラが今死んでるでしょ? その悩み、この商品なら解決できるわ。MPを動力とするだけでなく、上下水道も整備するから、お風呂やキッチン、その他諸々の機械もMPだけで動かせるようになるわ』


「「お風呂!?」」」


「奏ちゃん、これは買いだよ」


 世界が変わってから、風呂に入れていないので、楓と紅葉がすぐに反応した。


 響も、2人みたいに大げさではないが、奏に購入してほしいと静かに訴えている。


「それはありがたいが、具体的に俺の家はどうなるんだ? 見た目が変わったりするのか?」


『外観は神殿になるわ。でも、内装は希望すれば元のままにできるし、お風呂も大浴場にできるわね。その敷地内に、ルナちゃんの家も建てられるし、神殿は常に結界に守られるから、敵意のあるモンスターは敷地内に入って来れないの』


「でも、お高いんでしょう?」


 紅葉が割り込み、今しか通じないネタに走った。


『そうでもないわ。バアルの力をここまで取り戻してくれたし、特別に新入社員の初任給と同じく20万ポイントで良いわ。あっ、1円=1ポイントね』


(これ、<異界大使>の効果もあるんだろうな。普通、一戸建て全面リフォームって500万ぐらいするだろ)


 そう思うと、破格の条件を提示されているので、奏に買わないという選択肢はなくなった。


「内装は基本そのままで、部屋は一応人数分。大浴場は必須でよろしく。電子マネーでも良いか?」


『問題ないわ。・・・毎度あり。家に帰ったら、ビフォーアフターの真似事ができるわよ』


「是非!」


「紅葉お姉ちゃん、ハウス」


「酷い・・・」


 暴走する紅葉を、楓が冷たくおとなしくさせた。


 奏は、久し振りに使ったスマホをポケットに戻し、現状で絶対に必要な物を買い終えた。


「ガネーシャ、ちょっと良いか?」


「バアル、どうしたの?」


「俺様の神器形態、なんとかできねえか?」


「なんだバアル。お前、バールが嫌だったのか」


「当然だ! 好き好んでバールになる奴があるか!」


 そんなやり取りをしているが、実は奏もバールを振り回すのをどうにかしたいと思っていた。


 モンスターを倒すのに、片手にバールではどうしてもヤンキーに見えてしまうからだ。


『そうねぇ・・・。それだと、これはいかが? ウエポンスキン(メイス)。お値段1,000ポイント。本当に、見た目だけしか変わらないけどね』


「「買う」」


 奏とバアルの反応がシンクロした。


『お買い上げ、どうも。ついでに、冒険者に攻撃されないように、従魔の証も付けてあげる』


 奏が電子マネーで支払うと、バアルとルナを淡い光が包み込んだ。


「【擬人化ヒューマンアウト】を解除してみるぜ」


「おう」


 早速、バアルは【擬人化ヒューマンアウト】を解除した。


 すると、奏の手には正八面体を先端とするメイスが握られていた。


 ベースは黒で、柄には嵐を模ったマークが刻まれている。


『おう、これならどこに出しても恥ずかしくねえな。【擬人化ヒューマンアウト】』


「それな。ようやく、ヤンキースタイルを卒業できるよ」


 バールの姿じゃなくなったと確認すると、バアルは再び人型に戻った。


「ピュイ!」


「わかってるさ。ルナもその真紅のスカーフ、よく似合ってるよ」


「ピュイ♪」


 奏に従魔の証を褒められ、ルナはご機嫌になった。


 もう買い物するつもりはなかったので、奏が【売店ショップ】スキルを解除すると、ガネーシャの映る画面が消えた。


「んじゃ、次は神殿だ、神殿。奏、帰ろうぜ」


「わかった。みんな、帰るぞ」


「はい」


「良いよ」


「うん」


「ピュイ」


「よし。【瞬身テレポート】」


 奏達は、リフォームした奏の家に移動した。


 奏達が見たものは、小規模ではあるが立派な神殿だった。


 しかも、ガネーシャの言う通り、神殿の敷地に結界と思しき光の陣が浮かび上がっていた。


「おうおう、良いじゃねえか! これが、今から俺様を祀る神殿だぜ!」


「良かったな、バアル」


「おうともよ! ありがとな、奏!」


 神殿への改築は、奏のポケットマネーであると理解しているので、バアルはしっかりと礼を言った。


 その隣では、紅葉が雰囲気を作った顔で口を開いた。


「なんということでしょう。匠の技で、一般的な日本家屋が洋風の神殿に大変身しました」


「・・・紅葉、そのナレーションできて満足?」


「堪能したわ!」


「良かったね」


「奏君、冷たい。もうちょっとこう、あるでしょ?」


「紅葉お姉ちゃん、奏兄様を困らせるなら、1人だけ神殿の外で寝起きしてもらうよ?」


「嘘よね? そんな鬼畜なことしないよね? この中には、そんなひどいことする人なんて・・・はっ!?」


 <鬼畜>の称号を持つ響を見て、紅葉がしまったという顔をする。


「そこで僕を見るあたり、良い度胸してるよね、まな板姉。奏ちゃん、僕もまな板姉の追放に1票」


 にこやかな笑みを浮かべ、響も楓に賛成の意を述べた。


「奏君お助け~」


「さあ、ルナ。今日からここがルナの家だぞ」


「ピュイ♪」


「相手にされてない!?」


 紅葉達の話を無視して、奏はルナの休む小屋を見つけ、そこにルナを案内していた。


 ルナは奏と同じ敷地に住めると喜び、奏に頬擦りしている。


 ルナを小屋で休ませてから、奏達は神殿の中に入った。


 ガネーシャの言う通り、内装は元々の奏の家と変わらないが、間取りが広くなり、部屋の数も倍以上になっていた。


 そして、女性陣待望の大浴場にやって来た。


「広いな」


「旅館のお風呂みたいですね、奏兄様!」


「家の中でこんなお風呂に入れるなんて・・・」


「奏ちゃん、体洗って」


「自分で洗え」


「そうです! 奏兄様と入って良いのは私だけです! ね!? 奏兄様、ね!?」


「あっ、はい」


 抗えないプレッシャーを放つ笑みを向けられ、奏には頷くしか選択肢がなかった。


 これから先、奏が風呂に入る時は、必ず楓が一緒になることは言うまでもないだろう。

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