第50話 信じられるか? 出会って30分経ってないんだぜ?

 バアルのテンションがハイになってしまったため、奏は一旦バアルを放置することにした。


「奏兄様、おめでとうございます!」


「奏君、やったわね!」


「奏ちゃん、おめ」


「サンキュー。楓のおかげで、ワイバーンの攻撃が防げたよ。それに、グリフォンのことも助かった」


「奏兄様の婚約者として、当然のことをしたまでです!」


 奏に頭を撫でられ、楓は天にも昇る喜び度合いだった。


「それでさ、奏君。そのグリフォンなんだけど、あそこでじっと奏君を見てるのよ」


「確かに、こっち見てるな」


 紅葉がグリフォンのいる場所に目線を向けると、奏もそれに続いてグリフォンを見た。


 柔らかそうな翡翠色の毛並みに、金色のクリクリッとした目が、奏達に恐怖をまるで感じさせなかった。


 グリフォンと奏の目線が合った。


「ピュイ」


 頷いたグリフォンが、かわいく鳴いた。


「奏ちゃん、餌付けのチャンスじゃない?」


「ああ、なるほど。あげてみるか。【虚空庫ストレージ】」


 響に指摘され、モンスの実の存在を思い出した奏は、亜空間から今朝【変換コンバート】で手に入れたモンスの実を取り出した。


「ピュ~イ」


 モンスの実の匂いを嗅ぎ取り、グリフォンは物欲しそうに鳴いた。


 楓の【上級回復ハイヒール】のおかげで、ワイバーンから受けたらしいダメージは完治しており、立ち上がったグリフォンは奏よりも少し大きかった。


 奏はグリフォンを警戒させないように、ゆっくりと近づき、モンスの実を手のひらの上に置いてグリフォンの食べやすい位置に差し出した。


 シャクシャク。


 奏の手のひらの上から、グリフォンはモンスの実だけを食べた。


「ピュイ♪」


 モンスの実を咀嚼し、食べ終えたグリフォンは、人懐っこそうな笑みを浮かべて奏と楓の顔に順番に頬擦りし始めた。


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、ワイバーンに襲われたグリフォンを守り、餌付けしたことで懐かれました。初回特典として、<幻獣の守り人>の称号を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、一定以上グリフォンから好感度を獲得し、グリフォンが個体名:高城奏の従魔になりました。それにより、全世界で従魔制度が解禁されました》


《おめでとうございます。個体名:秋山楓が、ワイバーンに襲われたグリフォンを癒し、感謝されました。初回特典として、<幻獣の癒し手>の称号を会得しました》


《秋山楓の<救命者>と<幻獣の癒し手>が、<聖女>に統合されました》


 突然の神の声に、奏達は口をポカンと開いてしまった。


 それでも、すぐに正気に戻った奏は、まだテンションの高いバアルに訊ねた。


「おい、バアル。従魔って何? ペットみたいなもん?」


『あん? ざっくり言えばそうだぜ。このグリフォンは、奏に助けてもらったことで感謝してる。んで、モンスの実も与えて好感度が上がったから、そのお礼にこれから行動を共にしてくれるんだよ』


「そうなのか?」


「ピュイ♪」


 バアルの説明を聞き、奏がグリフォンに訊ねると、”その通り”と言わんばかりに頷いた。


『それにしても、奏はマジで誑しだよなぁ。このグリフォンも、安定の雌だぜ?』


「いや、知らんがな」


『それはそうとして、名前でも付けてやんな。種族名で呼んでたら失礼だぜ?』


「わかった。名前か・・・」


「ピュイ?」


 奏が腕を組んで考えるポーズになると、奏が何を考えているのか気になり、グリフォンが首を傾げた。


「よし、決めた。双月島で出会ったことだし、ルナにする。お前のこと、ルナって呼んで良いか?」


「ピュイ♪」


「よしよし。気に入ってくれたか」


 グリフォン、いや、ルナは自分の名前が気に入ったらしく、奏に頬擦りしてそれを知らせた。


 ルナの頭を撫でていると、ルナに何ができるのか気になり、奏は確認することにした。


「【分析アナライズ】」



-----------------------------------------

名前:ルナ  種族:グリフォン

年齢:5歳 性別:雌 Lv:30

-----------------------------------------

HP:300/300

MP:100/300

STR:350

VIT:300

DEX:300

AGI:350

INT:350

LUK:300

-----------------------------------------

称号:<奏の従魔>

スキル:【飛行フライ】【吐息ブレス】【突風刃ガストブレード

-----------------------------------------



「やっぱり、ヒューマンとは能力値が比べ物にならないな」


「ピュイ?」


「ルナが強いってことだよ」


「ピュイ♪」


『信じられるか? 出会って30分経ってないんだぜ?』


 奏にべったりと甘えるルナを見て、バアルは戦慄した。


「目の前にあるのが現実だ。【分析アナライズ】」


 バアルに応じつつ、奏は自分のデータの確認し始めた。



-----------------------------------------

名前:高城 奏  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:男 Lv:62

-----------------------------------------

HP:620/620

MP:620(+620)/620(+620)

STR:620 (+620)

VIT:630 (+50)(×1.5)

DEX:620

AGI:630

INT:620

LUK:620

-----------------------------------------

称号:<嵐神使徒><鋼鉄軍師><竜滅殺師ドラゴンスレイヤー

   <異界大使><幻獣の守り人>

職業:退魔師エクソシスト

スキル:【分析アナライズ】【停止ストップ】【瞬身テレポート

    【変換コンバート】【売店ショップ

-----------------------------------------

装備1:バアル Lv:62

装備1スキル:【蒼雷罰パニッシュメント】【虚空庫ストレージ】【聖破ホーリーブラスト

      【天墜碧風 ダウンバースト】【入替シャッフル】【聖炎ホーリーフレア

      【嵐守護ストームガード】【支配ドミネーション】【聖水噴射ホーリージェット

      【擬人化ヒューマンアウト】【重力グラビティ

装備2:シェルベスト

-----------------------------------------

パーティー:秋山 楓・秋山 紅葉・新田 響

-----------------------------------------

従魔:ルナ(グリフォン)

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「結構変わってんな。バアル、称号から解説頼むわ」


『あいよ。まずは、能力値が向上する称号だ。<嵐神使徒>は、俺様が使えるスキル全てが3倍になる。<竜滅殺師ドラゴンスレイヤー>は、竜・龍・恐竜系モンスターと対峙すると能力値が2.5倍になるし、モンスターを倒すごとに、全能力値が5上がる』


「無茶苦茶な効果だな」


『おうよ。俺様も、奏がここまでの力をこんなに早く手に入れるとは想定外だったぜ。んで、次の2つは能力値には関係ねえぞ。<異界大使>は、天界と魔界の存在とやり取りする際、融通が利く。<幻獣の守り人>は、幻獣系モンスターに好かれやすくなる称号だ』


「天界と魔界って何?」


 初耳の単語が出て来たのだから、奏が疑問に思うのは当然のことだろう。


『天界ってのは、俺様みたいな神様がいる世界だ。つっても、今は人間からの信仰が不足して、大半の神が俺様みたいな神器になっちまってる。神の声ってのは、天界に残ってる奴が出してるんだよ』


「そんな設定があったのか」


『設定って言うんじゃねえ。とりあえず、俺様の目標は力を取り戻して、天界に帰ることだ。ここまで説明したんだから、俺様の目標も正確に理解してもらうぜ』


 ようやく、奏に自分の目標を全て話すことができて、バアルは内心ホッとしていた。


 天界や魔界の存在を説明できなければ、バアルは奏に自分が関わり合いになっちゃマズい頭のおかしい存在と思われてしまう。


 だから、天界の存在の根拠となる<異界大使>の称号を奏が会得したことは、バアルにとって間違いなくプラスなのだ。


「わかった。なんだかんだ、俺も生き残るために随分と協力してもらったから、不義理になることはしねえよ。で、魔界は? モンスターの住む世界か?」


『お、おう。良い心がけだぜ。簡単に言えば、魔界は奏の言う通りだ』


「そっか。次はスキルだな。【売店ショップ】って何? 買い物できんの?」


『その通りだ。例えば、金や物、魔石をポイントに換算し、それで天界や魔界の物が買える』


「マジ? スキルがまた俺のことを甘やかしてくるじゃん」


 既に、【停止ストップ】や【瞬身テレポート】、【変換コンバート】に大変お世話になっている奏としては、【売店ショップ】への期待も大きい。


『ま、優遇してるのは確かだろうな。さて、次はスキルだ。【蒼雷罰パニッシュメント】はな、蒼い雷のビームが標的を追尾するんだ。百発百中だぜ』


「何それ。そんなんありなの?」


『ありだ。【天墜碧風 ダウンバースト】は、広域にわたって巨大な下降気流を起こし、その気流が通った後は氷のオブジェしか残ってねえぞ』


「おいそれと使えねえじゃん」


『ケケケ。それが本来の俺様のスキルってもんよ。【蒼雷罰パニッシュメント】もな。で、【重力グラビティ】は任意の対象に重力を追加する。かかる重力は、MP依存だから気を付けろよな』


「わかった」


「ピュ~イ」


 奏がずっとバアルと話をしていたせいで、構ってほしくなったルナが奏に頬擦りした。


「おっと、ごめんな、ルナ。あっ、ルナの家どうしよう? 俺の家の中には入らないが、庭も屋根がないとかわいそうだよな」


『そんな時こそ、【売店ショップ】の出番だ。使ってみろよ』


「そうだった」


 ルナの家を手に入れるべく、奏は新たなスキルを使うことにした。

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