第49話 あのスレ、フラグだったんだわ・・・

 声の発せられた位置が割と近かったので、奏はバアルに質問した。


「バアル、今のは?」


『グリフォンとワイバーンだな。グリフォンは声の高さからして、まだガキだぜ。つーか、こんな所にグリフォンが出るとは思わなかったぞ。天文学的確率でしか会えねえのに』


「あのスレ、フラグだったんだわ・・・」


「紅葉お姉ちゃん、知ってることキリキリ吐いて」


「私だって、そんなに知らないわよ。ただ、モンスタースレで東京から東の方角にワイバーンが飛んでるのを目撃したって投稿があったの」


 楓のプレッシャーのある笑みに押され、紅葉は知っていること全てを話した。


「それだけ? 他に情報はないの?」


「ないわ」


「チッ、使えない紅葉お姉ちゃんね」


「まな板姉、合法ロリ巨乳妹にやられっ放しじゃん」


「3人共、無駄口叩くな。バアル、状況はわかるか?」


『ん? 声の感じからして、ガキのグリフォンがワイバーンに襲われてんじゃね? ワイバーンって、竜ではあるがINTが低くて竜のなりそこないだから、見境なく襲うし』


「ピュ~イ!」


「ギィアァァァッ!」


 バアルが推測を口にしたすぐ後、怪我をしている小さいグリフォンとそれを追いかけるワイバーンが奏達のいる場所の上空を通り過ぎた。


「バアル、グリフォンって気性は激しいか?」


『自分の縄張りに侵入されると怒るが、基本的にはおとなしいぜ。戦うつもりか?』


「まあな。みんな、グリフォンを助けるけど良いよな?」


「奏兄様に従います」


「良いよ~」


「奏ちゃんに任せる」


「よし。【入替シャッフル】」


「ピュイ?」


「ギィア?」


 奏は【入替シャッフル】により、地面に落ちていた枝とグリフォンの位置を入れ替えた。


 空を飛んでいたはずの自分が、いつの間にか地面に着陸していたため、グリフォンは首を傾げた。


 ワイバーンも、追いかけていた獲物の姿が、いきなり枝に変わってしまったせいで疑問に思っていた。


「【仲間全強化パーティーオールライズ】」


「サンキュー、楓。紅葉、【賽子吸収ダイスドレイン】を」


「了解! 【賽子吸収ダイスドレイン】」


 カラン。


 紅葉がスキル名を唱え、現れた賽子が転がると、賽子は6の目を出した。


「良い目だ。楓はグリフォンの治療。紅葉、楓の護衛。俺がメインで攻撃するから、響は隙を狙え」


「はい! 【上級回復ハイヒール】」


「任せて!」


「はーい」


「ギィアァァァッ!」


 ワイバーンが奏達の姿を捕捉して叫んだ。


 自分の狩りの邪魔をする者は、誰であっても許さぬと怒っているようだ。


 特に、獲物だったグリフォンの傷を治した楓に、ワイバーンは狙うつもりらしい。


「まず、ヘイトを俺に集める。【裁雷ジャッジメント】」


 ピカッ、ジィィィィィン! 


「ギィアァァァッ!」


 ボォォォォォッ!


 奏の【裁雷ジャッジメント】に対し、ワイバーンはブレスで対応した。


 普通に考えてみれば、なりそこないでも竜なのだから、人間ヒューマンである奏に勝ち目はない。


 だが、奏には<竜殺し>の称号がある。


 フィアーレックスを倒したことで得たこの称号が、奏の全能力値を2倍にしているのだ。


 そのおかげで、ワイバーンのブレスと張り合うことができている。


「【酸槍アシッドランス】」


 ズドンッ! ジュワァァァッ。


「ギィア?」


「効果ないね」


 響の【酸槍アシッドランス】は、ワイバーンに命中した。


 ところが、ワイバーンが”今何かしたか?”みたいな鳴き方をしたので、響は自分の攻撃が効いてないことを察した。


「お前の相手は俺だ。【聖水噴射ホーリージェット】」


 ジジジジジィン! グシャァッ。


「ギィアァァァァァッ!!」


 響に注意が向いた瞬間、奏がワイバーンの翼を【聖水噴射ホーリージェット】で打ち抜いた。


 予想していなかった痛みを受け、ワイバーンは絶叫した。


 人間ごときが、自分の翼を貫けるとは思っていなかったので、自分のプライドに傷がついたワイバーンは激怒した。


『奏、あの目はヤバいぜ。ワイバーンの目が赤くなった時は、微粒子レベルで残ってた知性すらなくなって、見境なく暴れ回るぞ。聖属性の攻撃にも怯まなくなる』


「マジか。面倒だな」


「ギィアァァァッ!」


「速い!」


 バサッ! ヒュゥゥゥゥゥッ! グルン! ゴォッ! キィン!


 頭に血が上ったワイバーンは、奏を排除してやろうと急降下し、射程圏内に入った瞬間、逆後方宙返りで尻尾にある棘を使い、奏に攻撃を仕掛けた。


 避けられない奏は、バアルを体の前に構え、尻尾を受け止める体勢になったが、【嵐守護ストームガード】が発動して奏をワイバーンの尻尾から守った。


「あぁ、そういえば【嵐守護ストームガード】があったんだった」


『おいおい、しっかりしてくれよな』


「わかってる。さて、降りて来たことを後悔させてやる。【停止ストップ】」


 奏の【嵐守護ストームガード】に攻撃を弾かれ、バランスを崩したワイバーンは、【停止ストップ】を受けて動きが止まった。


 空を高速で飛ばれ続けていたら、流石の奏もワイバーンに【停止ストップ】を当てられなかった。


 だが、森の中に降り、木々のせいで自由に飛び回れない今なら、問題なくワイバーンの動きを止められる。


「【裁雷ジャッジメント】」


 ピカッ、ジィィィィィン! ブチィッ!


「ギィアァァァァァッ!!」


 厄介な尻尾を奪うため、奏は【裁雷ジャッジメント】でワイバーンの尻尾を切断した。


 その痛みは、ワイバーンが今までに受けたことのないものだったため、ワイバーンは【停止ストップ】を力技で解除する程絶叫した。


 ワイバーンの怒りは、更に強まった。


 獲物だったグリフォン、それを邪魔した楓のことなんか忘れてしまうぐらい、奏が憎くて堪らなかった。


「【停止ストップ】」


 しかし、尻尾がなくなったことで、体のバランスが変わってしまい、上手く飛べなくなったワイバーンはあっけなく奏に動きを止められてしまった。


「ワイバーンの素材なら、色々使えそうだ。【裁雷ジャッジメント】【裁雷ジャッジメント】」


 ピカッ、ピカッ、ジィィィィィン! ブチィッ!


「ギィアァァァァァッ!!」


 今度は、両翼の付け根に対し、奏は【裁雷ジャッジメント】を1回ずつ放った。


 それにより、ワイバーンの両翼は付け根からちぎれ、今のワイバーンは翼も尻尾もないただのサンドバッグだった。


 痛みに耐えられず、絶叫して【停止ストップ】の拘束から抜け出したものの、ワイバーンにはもう怒りは残っていなかった。


 怒りよりも、自分をここまで無効化し、部位を破壊していく奏に恐怖を抱きブルブルと震えていたのだ。


「甚振る趣味はない。これで終わりだ。【聖破ホーリーブラスト】」 


 ドゴォォォォォン! パァァァッ。


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、世界で初めて格上の竜系モンスターを無力化して討伐しました。初回特典として、<竜の天敵>の称号を会得しました》


《奏の<簒奪者>と<竜殺し>、<竜の天敵>が、<竜滅殺師ドラゴンスレイヤー>に統合されました》


《奏の<嵐神徒弟>が、<嵐神使徒>に上書きされました》


《奏はLv60になりました》


《奏は【売店ショップ】を会得しました》


《おめでとうございます。個体名:高城奏が、世界で初めて地球と天界、魔界を繋ぐスキルを獲得しました。初回特典として、<異界大使>の称号を会得しました》


《奏はLv61になりました》


《奏はLv62になりました》


《楓はLv58になりました》


《楓はLv59になりました》


《楓はLv60になりました》


《楓は【防壁バリア】を会得しました》


《紅葉はLv55になりました》


《紅葉はLv56になりました》


《紅葉はLv57になりました》


《紅葉の【賭合成ベットシンセシス】が、【幸運合成ラッキーシンセシス】に上書きされました》


《響はLv42になりました》


《響はLv43になりました》


《響はLv44になりました》


《響はLv45になりました》


《響はLv46になりました》


《響はLv47になりました》


《響はLv48になりました》


 ワイバーンを倒した後、奏達を待ち受けていたのは怒涛の神の声ラッシュだった。


『おい、奏! 俺様もレベルアップしてえ!』


「わかってるから落ち着け」


 逸るバアルを宥めつつ、奏はワイバーンの両翼と尻尾の回収を済ませてから、バアルに魔石を吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv60になりました》


《バアルは【重力グラビティ】を会得しました》


《バアルはLv61になりました》


《バアルはLv62になりました》


《バアルの【裁雷ジャッジメント】が、【蒼雷罰パニッシュメント】に上書きされました》


《バアルの【台風タイフーン】が、【天墜碧風ダウンバースト】に上書きされました》


『っしゃぁぁぁっ! 最っ高だぜぇぇぇっ! 【蒼雷罰パニッシュメント】よ、【天墜碧風ダウンバースト】よ、俺様は帰って来た!』


 余程嬉しかったのか、バアルのテンションが振り切れていた。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る