第48話 おう、呼んだか?

 翌朝、奏は楓を抱き締めた状態で目を覚ました。


 昨晩は、楓からの強いリクエストで、楓が満足するまで寝かしてもらえなかった。


 それだけ頑張ったこともあり、奏が眠れたのは深夜3時だったが、世界が変わるまでは1日3時間睡眠なんて珍しくもなかったから、奏が動くのには問題ない。


 それに、昨日は夕食までの間に、割と長い時間昼寝をしたこともあって、睡眠時間の帳尻は取れている。


 生まれたままの姿で、楓を抱き締めていると、奏としても朝からいけない気分になったりするが、そこはどうにか堪えた。


 楓はまだ寝ているのかと、奏が確認しようと顔を覗き込むと、楓が目をぱっちりと開いた。


「エヘヘ♪ 奏兄様、おはようございます♪」


「おはよう、楓」


「昨晩は、とっても気持ちよかったです♡ それに、奏兄様に抱き締めてもらったおかげで、ぐっすり眠れました♡」


「頑張った甲斐があったよ」


「避妊もせず、あれだけ激しければ、赤ちゃんができるまで秒読みですよね?」


「神のみぞ知るところだな」


『おう、呼んだか? 【擬人化ヒューマンアウト】』


 神という言葉を聞き、奏の手の甲から小人の姿のバアルが飛び出した。


「呼んでない」


「呼んでないですけど、質問させて下さい。奏兄様の子供は、いつになったら授かれますか?」


「ふむ。俺様は嵐神だが、豊穣神でもある。そんな俺様に信仰を捧げてくれれば、きっと楓嬢ちゃんも元気な赤子を授かるだろうぜ」


「本当ですか!? なら、今から信仰します!」


 奏の子供がほしい楓は、なりふり構わずバアルに信仰を捧げると口にした。


 それを見た奏は、バアルにジト目を向けた。


「おい、バアル。そんな口八丁で信仰を得ようとすんな」


「おいおい、酷えこと言うじゃねえか。これはwin-winの関係だぜ? 俺様は信仰を得られて、楓は赤子を身籠れる。ちなみに、第一信徒は奏だからな?」


「別に信仰してねえけど?」


「ちょっ、おま、そりゃねーぜ。俺様が奏のユニーク武器であり、神器バールとして力を貸してる時点で、奏は俺の第一信徒だ。そんな悲しいこと言うなよ」


 外人みたいなオーバーリアクションをするバアルだが、見た目のかわいらしさとマッチしておらず違和感があった。


「奏兄様、大丈夫です。なんだかんだ言っても、バアルさんは奏兄様の味方です。だったら、奏兄様と将来を誓った私も、きっと助けてくれるに決まってます。そうでなかったら、お供え物を一生なしにすれば良いんです」


「えっ、奏、怖いんだが。楓嬢ちゃんがマジでヤバい。目から光が消えてるぜ?」


 楓のヤンデレ化が進む目で見られ、体に怖気が走ったバアルは奏に助けを求めた。


「怖いと思うなら、楓の願いを叶えてやってくれ。そうすりゃ、何も怖がることはないだろ?」


「ハハッ、そうだな。よし、任せろ。奏こそ、毎晩頑張れよな」


 シュイン。


 バアルはダラダラと汗をかき、逃げるようにして奏の手の甲の中に離脱した。


 それから、奏達は身支度を整えてリビングに移動した。


 朝食後、奏はこの島に来てからずっと捨てずにいたゴミ袋で実験を始めた。


 三食で出たゴミ、生活するうえで出たゴミが、溜まってゴミ袋1枚分になったから、これをどうにか有効活用できないかと考えたのである。


 考えた末に、奏はゴミにも二束三文の価値があるはずという結論に至り、【変換コンバート】の実験台にすることを決めた。


「【変換コンバート】」


 奏がスキル名を唱えると、ゴミ袋が光に包まれた。


 そして、光の中でゴミ袋のシルエットが圧縮されて果実らしき形に変わった。


 光が収まると、奏達がどこかで見たことのある果実が目の前に現れた。


「思い出した。これ、モンスの実だ」


「マテリアルカードで出た果実ですね?」


「あれって、ゴミ袋1つ分の価値なんだ」


「奏ちゃん、これ何?」


「モンスターが好む果実らしい」


 奏と楓と紅葉は知っているが、響はモンスの実を知らなかった。


 だから、奏は手短に説明した。


「なるほど。餌付けワンチャンあるかもね」


「確かにな。機会があったら、試してみよう」


 説明を聞き、響が思いついた可能性を口にすると、奏もあり得ると判断し、良さげなモンスターに試してみることがここに決まった。


 実験が終わると、奏達は着替えて森に出かけた。


 今日も、午前は森の探索をして、午後は海岸の探索を行う。


 この探索の繰り返しにより、奏達は双月島を全て回り切るつもりなのだ。


 ノイジードラゴンフライと戦い、紅葉が蜻蛉切Ver.1を合成した場所に、奏の【瞬身テレポート】で移動すると、森が騒がしかった。


「「「カァ! カァ!」」」


「「「グルッポー!」」」


「バアル、声の主が何かわかるか?」


『勿論わかるぜ。スナッチレイヴンとバトルピジョンの鳴き声だな。足癖の悪いカラスと好戦的な鳩だな』


「足癖の悪いカラスはまだしも、好戦的な鳩は想像つかねーよ」


「奏ちゃん、奏ちゃん。あれ見て」


 響に裾を引っ張られ、奏が響の指し示す方向を見ると、スリムなカラスの群れがマッチョな鳩の群れと戦闘中だった。


「奏君、私が鳩の群れをやるわ」


「じゃあ、僕がカラスだね」


 奏に戦わせまいと、紅葉が戦うと言うと、響も戦うと発言した。


「2人共頑張って。【仲間全強化パーティーオールライズ】」


「紅葉、響、頼んだ」


「任せて。【十字水刃クロスウォーターブレード】」


 スパパッ! パァァァッ。


「グルッポ!?」


「グルッポォッ!」


 同胞の1体がやられ、残りのバトルピジョン2体が紅葉を敵として見定めた。


「「「カーッ、カッカッカッカァ!」」」


「笑ってる余裕はないよ? 【酸槍アシッドランス】」


 ズドンッ! ジュワァァァッ。 パァァァッ。


「カァッ!」


「カカァ!」


 第三者に同胞をやられたバトルピジョンを見て、あざ笑っていたスナッチレイヴン達だったが、響に真ん中の1体が融かされたことで残った2体が激怒した。


「グールッポォォォッ!」


「グルッポォッ!」


「【雷刺突サンダースティング】【雷刺突サンダースティング】」


 ズドンッ! ズドンッ! ビビビビビッ! パァァァッ。


 急降下からの突撃を仕掛けるバトルピジョン達だったが、紅葉は狙いを定めて2連続で【雷刺突サンダースティング】を放った。


 突撃することしか考えていなかったバトルピジョン達は、紅葉によって繰り出された突きを避けられず、あっさりと倒されてしまった。


「【酸槍アシッドランス】」


 ズドンッ!


「「カーッ、カッカッカッカァ!」」


 響が放った【酸槍アシッドランス】を避け、愉快な気分になったスナッチレイヴン達が、響を嘲笑いながら急降下で突撃を仕掛けた。


 だが、攻撃を外した響はニンマリと笑った。


「【毒付与ポイズンエンチャント】」


 ススッ。


「カァッ!?」


「カカァッ!?」


 スナッチレイヴン達の突撃を、紙一重で躱した響は、すれ違いざまにジャンクナイフVer.2で両方の腹を切った。


 すると、スナッチレイヴン達はすぐに自分達の体の異常に気付いた。


「カァ・・・」


「カカァ・・・」


 スナッチレイヴン達の体が、紫色に染まり上がり、全身が染まった瞬間にスナッチレイヴン達は魔石へと姿を変えた。


《響はLv41になりました》


 奏が出ることなく、今回の戦いが終わった。


 奏がバアルに魔石を吸収させていると、響が紅葉に話しかけた。


「まな板姉、ナイフの合成お願い」


「人に頼む態度じゃないわね。やり直しを要求するわ」


「まな板~、お・ね・が・い」


「悪化してんじゃないのよ!」


 やり直したことで、余計に紅葉を苛立たせる結果となった。


「ごめん、ふざけ過ぎた。紅葉、お願い」


「ん。よろしい。奏君、シーサーペントの牙1本出して」


「わかった。【虚空庫ストレージ】」


 紅葉に頼まれ、奏は亜空間から望み通りの素材を取り出して渡した。


「ありがと。後は、さっきの戦闘で手に入ったスナッチレイヴンとバトルピジョン羽を1枚ずつ使うわ。【賭合成ベットシンセシス】」


 紅葉がスキル名を唱えると、素材群が光に包まれて、その中でシルエットが一体化した。


 やがて、シルエットがナイフに変形して固定化すると、光が収まった。


 そこには、より青みを帯びた刃と暗い紫の柄のナイフが現れた。


「【分析アナライズ】」


 ナイフの出来栄えをチェックするべく、紅葉が【分析アナライズ】を発動した。


 納得がいったらしく、すぐに紅葉は頷いた。


「ばっちりよ。【影噛シャドウバイト】が加わったわ」


『【影噛シャドウバイト】か。響嬢ちゃんの身のこなしなら、あっという間に懐に入り込んでグサリ、だな』


「良いスキル。ありがとう、まな板姉」


「わざとよね? 喧嘩売ってるわよね?」


 素直に礼を言えば良いものを、あえて響は茶化すように言った。


 これ以上胸の話をするなら、響は戦ってやろうと蜻蛉切Ver.1を握り締めていたが、事態が急転した。


「ピュ~イ!」


「ギィアァァァッ!」


 奏達の上空で、弱弱しい声がそれを大きく上回る強者の声に追われていることがわかったからだ。


 2つ目の大きな声が聞こえた途端、奏達はすぐに臨戦態勢に移った。

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