第43話 トンボにすら劣等感を抱くんだね・・・

 エリクサーショックが抜けてから、奏達の探索は再開した。


 バアルはエリクサーのレシピを知っていたが、ロイヤルゼリー以外の素材が簡単に手に入らないと知ると、楓と紅葉が落ち着いた。


 ちなみに、奏が回収したクイーンビーの巣には、ロイヤルゼリーと蜂蜜が貯められた区画があり、それぞれからのペットボトルに注ぎ込まれた。


 奏達が森を歩いていると、ウッドパペットに似ているが、あちこちが刺々しいモンスターが木に擬態していた。


「バアル、あれはウッドパペットが進化したのか?」


『その通り。ニードルウッドだぜ。ウッドパペット系統のモンスターは、どいつも擬態がお粗末なんだよな』


「だろうな。周囲に溶け込めてない」


「奏君、私がやる」


「任せた」


 ウッドパペットが、大して強いモンスターではなかったので、それが進化したニードルウッドなら紅葉でも十分倒せると思い、奏は紅葉に戦ってもらうことにした。


「【水刃ウォーターブレード】【水刃ウォーターブレード】【水刃ウォーターブレード】」


 スパスパスパッ。 パァァァッ。


 紅葉の3連続攻撃の前に、ニードルウッドはあっさり倒れた。


 擬態がバレていると思っていなかったらしく、攻撃せずにやり過ごそうとしたニードルウッドは認識が甘いと言って良いだろう。


 ブゥゥゥゥゥン。バチバチバチッ。


「バアル、何が来てる?」


『エレキビートル。羽音の後に、放電してる音が聞こえたから、多分合ってるはずだぜ』


「奏兄様、なんかバチバチしてる大きなカブトムシがこっちに来てます!」


 バアルが説明したすぐ後、楓がエレキビートルの姿を捕捉した。


「奏君、お願いして良い? 【水刃ウォーターブレード】じゃ、帯電してる相手と相性悪そう」


「任された。【停止ストップ】」


 エレキビートルは、空中でピタリと動きが止まり、大きなカブトムシの形をした的と化した。


「【裁雷ジャッジメント】」


 ピカッ、ジィィィィィン!


 奏の【裁雷ジャッジメント】が、エレキビートルの角の付け根に命中し、角が折れた。


「紅葉、角回収しとけよ? 【聖破ホーリーブラスト】」


 ドゴォォォォォン! パァァァッ。


「えっ、あっ、うん」


 紅葉は自分のために、奏が手間をかけてエレキビートルを倒してくれたと知り、胸が熱くなった。


 シュゥゥゥッ。


 そんな紅葉の気持ちなど気にせず、奏はニードルウッドとエレキビートルの魔石を回収した。


「奏君、ありがとう」


「これぐらい、別に構わんよ」


「奏兄様、紅葉お姉ちゃんに優しくしちゃ駄目です。奏兄様には、私がいるんですから」


 楓は奏と紅葉の間に割り込み、そのまま奏の体にピタッとくっついた。


「ゲェエェエェ!」


「何、今の声!?」


「変な鳴き声です」


「バアル?」


『あいよ。ありゃ、ノイジードラゴンフライの鳴き声だ』


「トンボって泣くの?」


『ありゃ雌に求愛してる時の声だ』


「・・・ずいぶん個性的な求愛だな」


「アプローチするにしては、品性が足りませんね」


 奏が言葉を濁してコメントしたのに対し、楓は辛口だった。


「おのれ、どこもかしこもリア充ばっかり。駆逐してやる」


「トンボにすら劣等感を抱くんだね・・・」


 楓は紅葉に憐れみを込めた目線を向けた。


 その視線を気にする余裕もなく、目の据わった紅葉はジャンクランスVer.8を握って先行した。


「リア充はいねえがぁ! 【水刃ウォーターブレード】【水刃ウォーターブレード】」


 スパスパッ。パァァァッ。


 求愛中の雄とその求愛を受けていたノイジードラゴンフライに対し、紅葉は容赦なく【水刃ウォーターブレード】を2発放った。


 求愛の結果を雄が知ることのできないまま、2体のノイジードラゴンフライは倒れて消えた。


 その場には、ノイジードラゴンフライのものと思われる翅と魔石がドロップしていた。


 奏が魔石をバアルに吸収させていると、紅葉が奏に話しかけた。


「奏君、一番小さいコーラルタートルの甲羅の破片と、エレキビートルの角を出して」


「はいよ。【虚空庫ストレージ】」


 紅葉のリクエストに応え、奏は頼まれた品を亜空間から取り出した。


 紅葉はその2つの隣に、ジャンクランスVer.8とノイジードラゴンフライの翅を置いた。


 そして、1日1回の賭博師ギャンブラーの効果を使い、LUKを3倍にすると、紅葉は合成を始めた。


「【賭合成ベットシンセシス】」


 地面に置かれた素材群が、激しい光に包み込まれた。


 その光の中で、全ての素材が一体化し、槍のシルエットへと変わった。


 光が収まると、漆黒の柄に鋼の穂の付いた槍がその場に現れた。


 その穂には、上から順番に火と水と雷を表すマークが刻まれていた。


「【分析アナライズ】」


 できた槍を手に持ち、紅葉はその効果を確認し始めた。


「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」


 奏達に止める暇を与えず、紅葉は三段笑いをしてみせた。


「楽しそうだな、紅葉」


 そう言う奏の顔は苦笑いである。


「当然よ! 【二重刺突ダブルスティング】は、【雷刺突サンダースティング】に、【水刃ウォーターブレード】は、十字水刃クロスウォーターブレードになった! もう、ジャンクとは呼べないわね! 名づけるならば、蜻蛉切Ver.1よ!」


「ノイジードラゴンフライを斬ったから? 紅葉お姉ちゃん、まんま過ぎじゃない?」


「なんとでも言うが良いわ! 奏君ならわかるわよね!? 貸したラノベにも載ってたんだからさ!」


「・・・んー、天下三名槍だっけ?」


「Excellent!」


「何こいつ、すげームカつく」


「奏兄様、似非バイリンガルは放置して帰りましょう。そろそろお昼です」


「そうだな」


「えぇっ、ちょっと待ってよぉぉぉ!」


 はしゃぎ過ぎた紅葉は、奏と楓にしがみつき、奏達は【瞬身テレポート】で家に戻った。


 楓の【浄化クリーン】でさっぱりした後は、昼食の時間だ。


 デザートには、クイーンビーの巣から手に入れた蜂蜜をクラッカーに乗せるだけの簡単なスイーツを用意した。


「美味いな、これ」


「美味しいですよ、奏兄様!」


「今まで食べて来た蜂蜜が泥のように感じられるわね」


『【擬人化ヒューマンアウト】』


 蜂蜜を塗ったクラッカーが気になったらしく、バアルが小人の姿で現れた。


「バアルも食べたいの?」


「おう! 1枚くれ!」


「ほらよ」


 バアルに1枚とって与えると、バアルはクラッカーを一口齧った。


「サンキュー! 美味えな、おい!」


 デザートを食べて喜ぶ姿は、とてもかわいらしいのだが、口調だ男勝りなのが残念なところだろう。


 それから、奏達は蜂蜜を塗ったクラッカーを食べながら、掲示板を覗くことにした。



◆◆◆◆◆


検証スレ@1


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◇◇◇◇◇ 


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335.上野の冒険者

 昨日解禁されたフレンドリスト機能だけど、パーティー内で話し合ったらそれぞれの友達がリストアップされてた


336.釧路の冒険者

 >336

 終わった・・・

 フレンドリストに友達の名前がない


337.広島の冒険者

 >336

 ご愁傷さま・・・

 元気出せって

 友達がいなくても、ここに顔を出せば話ができるだろ?


338.釧路の冒険者

 >337

 ありがとう!

 

 >335

 フレンドリスト機能って何ができるの?


339.上野の冒険者

 >338

 フレンドリストに登録されてる相手に、念話ができたよ

 念話は、電話のテレパシーみたいなものね

 遠くの人とも話せた

 私の横浜の友達にかけてみたら、話ができたんだ


340.横浜の冒険者

 >338

 どうも、339の友達です


 >339

 いきなり頭に声が響いた時は焦ったぜ

 でも、この機能すごいぞ

 生存してる冒険者は白い文字で表示されて、亡くなった冒険者はグレーアウトするんだ

 この機能だけでも、生存確認ができる


◆◆◆◆◆



「使ってなかったけど、フレンドリストにそんな機能があったんだな」


「知りませんでした。紅葉お姉ちゃんは?」


「使ってなかったもの。知らないに決まってるでしょ」


「誰か連絡来た?」


「「・・・」」


 奏の問いかけに、楓と紅葉はそっと目を逸らした。


 その反応を見るだけで、2人に友達が少ない、もしくはいないことが発覚した。


「ごめん。でも、大丈夫だ。俺にも来てないし」


 プルルルルルルッ♪


「「・・・」」


 タイミングが悪く、奏の画面に受話器のマークが表示され、着信音が鳴った。


 それを見た楓と紅葉は、体育座りをして膝に顔を埋めた。

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