第38話 アラサーのてへっ☆とか、誰得?

 バアルがおとなしくなったので、奏は【変換コンバート】を使ってみることにした。


 (何を代償にしよう? あっ、コーラルタートルの甲羅の破片が残ってんじゃん。これにするか)


 奏が【裁雷ジャッジメント】で砕いたことで、甲羅の破片はコーラルタートルと一緒に消えず、砂浜に残っていた。


 失って困る物ではないので、奏はその甲羅の破片を実験台にすることを決めた。


 甲羅の破片といっても、巨体のコーラルタートルを覆っていた訳で、1つだけでも十分に大きい。


 それに手を触れてから、奏は思いついたことをバアルに訊ねた。


「バアル、【変換コンバート】で代償にした物と関連性のある物になるのは良いが、俺が望めばそれに近い物が手に入るのか?」


『欲しい物が具体的にイメージできてりゃ、そのイメージに引っ張られて望みの物が手に入るだろうぜ』


「そりゃ良いな。やってみるか。【変換コンバート】」


 奏の手に触れた甲羅の破片が、光に包まれて圧縮していく。


 光の中で、シルエットが甲羅の破片から先端に花のような飾りがついた棒状の形へと変わる。


 光が収まると、奏の手には楓の葉の飾りがついた鼈甲べっこうかんざしがあった。


「よし、成功。楓、ちょっと良い?」


「なんですか?」


「これ、あげる。着けてみて」


「良いんですか!? 鼈甲って、黄色い部分が多い程貴重なんですよ!? これ、黄色い部分が8割ぐらいじゃないですか!」


「プロポーズしたのに、プレゼントを何も渡してなかったから、これがその代わり。使ってくれ」


「婚約指輪の代わりですか!? すぐ付けます!」


 目を輝かせた楓が、ポニーテールにするために使っていたシュシュを外し、奏に貰った簪で再びポニーテールにした。


「どうですか、奏兄様!?」


「うん、よく似合ってる。シュシュの時よりも大人っぽく見える」


「奏兄様、愛してます!」


 楓は奏の感想が嬉しくて、正面から奏に抱き締めた。


 身長が小さく、ロリ巨乳な楓は、大人っぽいと言われることに憧れない日はない。


 だから、奏にその言葉を言われたことも嬉しいし、奏が自分を大人っぽく見せるために、鼈甲の簪をプレゼントしてくれたことも嬉しいのだ。


 その嬉しさが爆発し、楓は奏を抱き締めることで自分がいかに奏に感謝しているのかアピールした。


「オホン!」


「奏兄様、大好きです」


「オホンッ! ウォッホン!」


「わざとらしい咳払い。甘いひと時を邪魔しないで」


「オホンッ! ウォッホン! ガッ、ゲホッ、ゲホッ!」


 咳払いを何度もしていたら、変な所に詰まってしまったようで、紅葉が盛大に噎せた。


 そうまでして、自分と奏の幸せな時間を邪魔するのかと楓は紅葉に対して軽く殺意が芽生えた。


「紅葉、何やってんだよ」


「・・・はぁはぁ。危なかったわ。それより、奏君、私にも何かあるんじゃないの?」


「えっ、ないけど」


「あらへんのかい!?」


 思わず、出身でもないのに関西弁擬きを使うぐらい、紅葉はショックを受けた。


「さっき言ったじゃん。楓に上げた簪は、婚約指輪の代わりだって。紅葉にあげるものじゃなくね? そもそも、紅葉はショートヘアーなんだからいらないじゃん」


「くっ、なんで髪を伸ばさなかったのよ、過去の私!」


 紅葉は地団駄を踏んだが、結果は変わらず、奏が紅葉にプレゼントすることはなかった。


 それから、砂浜に散ったコーラルタートルの破片で、回収できるものは回収していると、雨が降り始めた。


「家に帰るぞ」


「はい!」


「賛成!」


「【瞬身テレポート】」


 奏達は、雨にほとんど濡れることなく家に帰った。


 玄関に奏達が移動したら、雨がどんどん激しくなってきた。


「ふぅ、間一髪だったな」


「そうですね。玄関が汚れちゃいましたから、掃除しますね。【浄化クリーン】」


 楓がスキル名を唱えると、砂でじゃりじゃりしていた玄関が新品同然になった。


「ついでに、私達もさっぱりしちゃいましょう。【浄化クリーン】【浄化クリーン】【浄化クリーン】」


 奏達の体は、楓のおかげでさっぱりした。


 海岸での戦闘は、潮風と砂によって気を付けていてもどうしたって体がベタベタしたり、じゃりじゃりしてしまう。


 だから、楓の気遣いが奏と紅葉はありがたかった。


 雨はもっと強くなり、奏達に外に出る気は全くなくなった。


 しかし、夕食を取るには時間が早過ぎるので、リビングで寛ぎながら、暇潰しに掲示板を閲覧することになった。



◆◆◆◆◆


現状共有スレ@3


1.管理者アドミニストレーター

 生き残った日本人のパーティーが、キングモンスターのダンジョンを踏破したため、本機能が日本人に先行して解禁されました。

 只今より、生存者を”冒険者”と呼称します。

 こちらのスレッドは、【自己鑑定ステータス】もしくは【分析アナライズ】を使用できる冒険者による有益な情報共有をすることを目的としています。

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◇◇◇◇◇ 


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134.上野の冒険者

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさんにお礼が言いたくて、私達のパーティーで秋葉原に来たんだけど、瓦礫ばっかの通りに四角い家を見つけた


135.伊勢の冒険者

 >134

 マジで?

 建物で形が残ってたの?


136.小倉の冒険者

 >134

 その家の中入った?


137.上野の冒険者

 >135

 残ってたよ

 それも、立方体のクリーム色の家だったの

 場違い過ぎて驚いたわ


 >136

 インターホンがなかったから、ノックして中に入ったわ

 誰もいなくて、家具どころか水道とかのインフラも一切なかったの


138.上野の冒険者

 137とパーティーを組んでる者だ

 俺の推測だけど、誰かのスキルで作られたものだと思う


139.水戸の冒険者

 >137

 合成系のスキル?

 それとも、建築系のスキル?


140.川越の冒険者

 >139

 合成系じゃね?


141.広島の冒険者

 >139,140

 合成系だと思う


142.渋谷の冒険者

 つーかさ、このスレだけじゃ不便だから、スレッド分けね?

 いっけね、分け方知らねーやwww


143.管理者アドミニストレーター

 今までの会話記録から、必要とされるであろうスレッドを以下に用意しました。


 ・検証スレ@1

 ・スキルスレ@1

 ・モンスタースレ@1

 ・カードスレ@1

 ・雑談スレ@1


 タップすれば、閲覧したいスレッドのページに移動できます。

 こちらのスレッドは、各地の現状共有にお使い下さい。


◆◆◆◆◆



 スレッドが増えたことに、奏達は驚いた。


管理者アドミニストレーター、意外と融通が利くんだな」


「そうですね」


「私、モンスタースレ見たい。今後の戦闘の参考になるかもしれないし」


 紅葉の意見は一理ある者だったので、奏は頷いた。


「そうだな。覗いてみるか」


「奏兄様が見るなら、私も見ます」


「はいはい、リア充爆発しろ」


「独り身の負け犬が何か言ってる。骨でも恵んであげるべき?」


「楓の私への扱いが酷いんだけど、奏君そこんところどうにかして」


「自業自得だな」


 紅葉の救援要請をスルーして、奏はモンスタースレを覗いた。


 楓もそれに続き、紅葉も遅れてモンスタースレをタップした。



◆◆◆◆◆


モンスタースレ@1


1.管理者アドミニストレーター

 日本人冒険者に限定公開されたモンスターに対して情報共有を行うスレッドです。

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◇◇◇◇◇ 


2.秋葉原の賭博師ギャンブラー

 知っているモンスター情報を順番に列挙する

 ・ゴブリン

  よくあるRPGゲームのイメージのままのモンスター

  腰蓑に棍棒装備

  進化先は、遭遇しただけで24種類

  ゴブリンは、以下の10種+ホブゴブリン、ゴブリンシャーマン、サファギン、

  ゴブリンキングになることを現状で把握済み

  ゴブリンシーフは、ゴブリンアサシンに進化

  ゴブリンナイトは、ゴブリンアーマーナイトに進化

  ゴブリンライダーは、ゴブリンテイマーに進化

  ゴブリンアーチャーは、ゴブリンスナイパーに進化

  ゴブリンランサーは、ゴブリンハイランダーに進化

  ゴブリンタンクは、ゴブリングラディエーターに進化

  ゴブリングラップラーは、ゴブリンモンクに進化

  ゴブリンソルジャーは、ゴブリンジェネラルに進化

  ゴブリンメイジは、ゴブリンソーサラーに進化

  ゴブリンプリーストは、ゴブリンハイプリーストに進化


3.上野の冒険者

 >2

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさん、あざっす!

 俺もわかる範囲で載せますね

 ・ゾンビ

  死体がゾンビキャリアに噛まれるとモンスター化した存在

  音によく反応する

  白い目をしている

  ゾンビに噛まれても、ゾンビにはならない 


 ・ゾンビキャリア

  死体をゾンビに変える病原菌的モンスター

  ゾンビキャリアに噛まれると生者でもゾンビ化する

  赤い目をしている

  ゾンビを肉壁扱いにするため、ゾンビの群れに紛れている


◆◆◆◆◆



「紅葉、お前ちやほやされたかっただけじゃね?」


「そーとも言う。てへっ☆」


「アラサーのてへっ☆とか、誰得?」


「意義あり! まだ25よ!」


すれば30じゃん」


「・・・」


 楓の一言に対し、紅葉は目の前が真っ暗になった。

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