第37話 よし、紅葉を生贄にして帰るか
海岸沿いをさらに歩くと、遠くの海面から何かが飛び出す音がした。
バシャバシャバシャバシャバシャァァァッ!
音のする方角から、剣みたいに鋭いフォルムの魚と羽のようなヒレを持つ魚の混成集団が砂浜に向かって飛んで来た。
『ソードフィッシュとスカイフィッシュだな。スカイフィッシュは飛べるから、囲まれると面倒だぞ』
「えっ、マジ? 【
ゴォォォォォッ! ザザザザザァァァァァッ! パァァァッ。
奏達の正面の砂浜に、奏は【
それにより、砂を台風が巻き上げ、そこに勢いを殺せぬままモンスターの集団が突撃してHPを全損した。
《奏はLv48になりました》
《楓はLv46になりました》
《紅葉はLv43になりました》
『ケケケ。入れ食いじゃねえか。モンスターカードまでドロップすりゃ満点だったんだがな』
奏達の目の前には、たくさんの魔石とマテリアルカード1枚がドロップしていた。
バアル的には、ドロップしたカードがモンスターカードだったら、満点を出したらしいが、教師か何かなのだろうか。
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv48になりました》
とりあえず、奏は魔石をバアルに吸収させてから、マテリアルカードを拾い上げた。
「これは・・・」
「奏兄様、何が描かれてるんですか?」
奏の反応が気になり、楓は背伸びして奏の持つマテリアルカードの絵を覗こうとした。
だが、残念ながら奏と楓の身長差では、楓が背伸びをしたぐらいでは奏の手元のカードを覗き込むことはできない。
そんな楓をかわいく思い、奏は微笑みながら楓にマテリアルカードを見せた。
「サンマ」
「サンマですか・・・。漢字で書けば、秋刀魚ですもんね。ソードフィッシュのマテリアルカードはサンマなんですね」
「らしいね」
ソードフィッシュのマテリアルカードには、サンマが10尾描かれていた。
「もし、スカイフィッシュのマテリアルカードがドロップしたら、何が手に入ったのかしら? フィッシュ&チップス?」
「いや、それ料理だから」
「紅葉お姉ちゃん、マテリアルカードは素材がドロップするんだよ? 料理は出ないの」
「意義あり! マンガ肉は料理よ!」
「スペアリブと同等だとでも?」
「味付けされてない骨付き肉はね、料理とは言えないの。焼いただけだよ?」
紅葉の発言に対し、奏は手短に訊き返し、楓はかわいそうな人を見る目で優しく答えた。
「・・・楓、かわいそうな人を見る目をするのは止めて」
「えっ、そんな目してた?」
「無自覚・・・、だと・・・?」
悪意ではなく、善意でかわいそうな人を見る目で見られたことを知り、紅葉は動揺を隠せなかった。
『おい、遊んでるところ悪いが、海からなんか来てるぜ。今回も、2種類の反応を感じる』
バアルがお喋りを中断させ、奏達に敵襲に備えさせた。
奏達が海に目をやると、タコとそれに絡まった海藻が大量に海面に浮上してきた。
「バアル、あいつらは?」
『ブラインドオクトパスとテンタクルスシーウィードだな。目つぶしと拘束を得意とする奴らだ』
「目隠し触手プレイですね、わかります」
「よし、紅葉を生贄にして帰るか」
「賛成です。これで邪魔者が消えますね」
「冗談で言ったつもりなのに、妹の闇が深くて全く笑えない!」
ブシャァァァァァッ!
紅葉が楓の発言に戦慄していると、ブラインドオクトパス達が奏達目掛けて墨を一斉に放った。
「【
ピカッ、ゴォォォォォッ!
光り輝く炎に阻まれ、大量の墨はその場で消え去った。
炎が消えると、ブラインドオクトパスとテンタクルスシーウィードの集団の姿がなくなっていた。
「あれ、いなくなりましたね?」
「【
「そうですよね。どこぞの変態とは違って、墨を被るのも触手に拘束されるのも嫌ですよね?」
「ああ。どっちも嫌だ」
「くっ、オタクとしての業のせいで、楓から汚物を見る目で見られるなんて」
紅葉の自業自得である。
それはともかく、奏達は浜辺の探索を再開した。
少し歩くと、サンゴがあちこちから生えていて、赤みを帯びた黄色に濃褐色の斑点がある大岩が奏達の前に現れた。
『おい、奏! こいつと戦ってくれ! こいつ1体だけで、間違いなくレベルアップできるんだ!』
バアルのテンションが上がっており、奏に戦ってほしいと頼んだ。
わざわざバアルが戦ってほしいと頼むということは、そこそこ以上の強さであることを示している。
だから、奏は情報を引き出してから判断することにした。
「こいつは何?」
慎重な奏に対し、ノリでゴリ押しするのは下策だと判断したバアルは、一旦落ち着いてから説明し始めた。
『コーラルタートルだ。このサンゴと岩は甲羅で壊すのはムズいが、動きは鈍いしスキルの練習にはもってこいだぞ』
「ふーん。じゃ、やるか。【
ズドン! バシャッ。
「奏兄様の攻撃を受けたのに、効いてなさそうですね」
コーラルタートルの甲羅に【
「じゃあ、私も参戦するわね。【
ドガァン!
「無傷だね。まあ、奏兄様でも削れないのに、紅葉お姉ちゃんに削れる訳ないよ」
「ぐぬぬ。その通りなんだけど、楓の言い方に悪意を感じる」
「事実だもん。奏兄様、支援します。【
通常状態では、コーラルタートルの甲羅に傷すらつけられないので、楓は奏の全能力値を強化した。
「サンキュー。じゃあ、工夫してみるか。【
ゴォォォォォッ! ザザザザザァァァァァッ!
「ガメェェェン!?」
足場の砂と一緒に、台風がコーラルタートルの巨体を空へと舞い上がらせた。
しかし、VITが高いせいで、コーラルタートルは打ち上げられただけではHPを全損しなかった。
「【
ピカッ、ジィィィィィン! パリィィィン!
「奏兄様、甲羅が砕けました!」
白い雷がビームの如く射出され、空中でじたばたするしかないコーラルタートルの甲羅に命中し、それを割った。
甲羅の破片が、砂浜に散り散りに落ちていった。
「【
効果範囲に入った時点で、奏はコーラルタートルを眠らせ、完全に無防備な状態にした。
「【
ピカッ、ゴォォォォォッ! パァァァッ。
光り輝く炎により、コーラルタートルのHPは遂に0になった。
奏が今まで戦って来たモンスターの中では、時間がかなりかかる部類だったことは間違いない。
《奏はLv49になりました》
《奏はLv50になりました》
《奏の【
《おめでとうございます。個体名:高城奏が、世界で初めてLv50に到達しました。初回特典として、【
《楓はLv47になりました》
《楓はLv48になりました》
《紅葉はLv44になりました》
《紅葉はLv45になりました》
奏に新たなスキルが2つ加わった。
『ほれ見ろ奏! 一気にパワーアップしたぜ! しかも、【
「順当に行けば、【
奏としても、スキルの名前が大幅に変わったことから、本来であればどんなスキルになるか予想していたのだ。
しかし、それはバアルにとって都合が良い意味で裏切られた。
『おうよ! 過去に、そのルートでの上書きがなかったこともねえが、それでもかなりのレアケースだ! 時間を止められるスキルなんて、普通はLV80ぐらいじゃなきゃ会得できねえんだぞ!? すげえことなんだよ!』
「バアルは俺を甘やかしてくれないから、その分スキルが俺を甘やかしてくれたんだな」
「奏兄様、私もたっぷりと甘やかしますよ」
「ケッ、奏君も楓もイチャイチャしちゃって」
『おいおい、今はイチャつく時間じゃねえんだYO! わかってんのかYO!?』
「急にラッパー口調になんなよ」
『【
バアルの暴走が止まらない。
仕方なく、奏は魔石を吸収させてみることにした。
魔石さえ吸収すれば、バアルがおとなしくなると思ったからだ。
シュゥゥゥッ。
《バアルはLv49になりました》
《バアルはLv50になりました》
『ふぅ、満足したぜ』
「そりゃ良かったな」
バアルの口調が元に戻ったので、奏は次からバアルが暴走したら、とりあえず魔石を吸収させようと心のメモ帳に書いた。
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