第39話 クソッ、こいつらは囮か!?
奏と楓は、一通り掲示板のスレッドを読み、紅葉は読むだけじゃなくて書き込んだ。
奏の場合、掲示板への投稿を面倒だと思ってるので、基本的に投稿するつもりがない。
楓は面倒とは思ってないが、投稿する時間があるなら奏とイチャイチャしたいと思っている。
それゆえ、奏達の中で投稿するのはチヤホヤされたい願望のある紅葉だけだ。
それは置いといて、奏達が掲示板巡りをしている間に、いつの間にか家の外では雨の音が止んでいた。
奏が窓を開け、雨が本当に止んだのか確かめようとした時、外から大きな音が聞こえた。
「グルォォォォォン!!」
「・・・うっさいな。バアル、今の声は何?」
咄嗟に耳を塞いだものの、それでもはっきりと聞こえた声にイライラを隠さない奏が、バアルに訊ねた。
『んー、俺様もなんでもは知らねえからなぁ。似たような鳴き声をするモンスターはいくつか知ってるが、絞り切れねえな。だが、恐らく恐竜系のモンスターだろうぜ』
「マジかよ、この島恐竜いんの?」
『森の奥にいたんじゃね? それより、この家を守りてえなら、家の外に出て、【
「そうだった」
バアルのアドバイスに従い、奏は急いで家の敷地の外に出た。
そして、空を目掛けてバアルを掲げた。
「【
ピカッ、ゴォォォォォッ!
家の上空に対し、奏は光り輝く炎を放った。
これで、奏は自分の家の一先ずの安全を確保した。
そこに、楓と紅葉がやって来た。
「奏兄様、この後どうしますか?」
「奏君、戦おうよ。家を守るなら、近づけないようにするだけじゃ足りないって」
楓は奏の意見に従うつもりだが、奏に訊くまでもなく紅葉は戦うつもりである。
「しょうがないから、戦おう。家を壊されたくないし」
「わかりました。どんな怪我をしても、奏兄様は必ず私が救います」
「おやおや、私が抜けてないかな?」
このうっかりさんめという表情で、紅葉が楓に問いかける。
すると、楓はポンッと手を打った。
「あぁ、ついでに紅葉お姉ちゃんも助けてあげる。でも、自分で回復できるでしょ?」
「まだ引き摺ってた!? もう許してよ!?」
「冗談だよ。でも、自力での回復手段を持たない奏兄様を優先させてもらうから」
「むぅ、それは仕方ない。いや、待って。奏君ってばポーションとか持ってるじゃん」
一旦は納得した紅葉だったが、奏が【
「チッ、勘の良い紅葉お姉ちゃんは嫌いだよ」
「また舌打ちした! 奏君、今の聞いてたよね!? この子、悪い子よ!」
「何を言ってるの、紅葉お姉ちゃん? 奏兄様、違いますからね? 私、奏兄様が大好きなだけですからね?」
奏を味方につけようと、紅葉は奏に楓の舌打ちの証人になってもらおうとした。
だが、楓は慌てることなく微笑みながら紅葉の発言を否定した。
「グルォォォォォン!!」
「うっさいなぁ。さっきよりも声が大きくない?」
『こりゃ、奏の【
「ってことは、この声の主は、そう遠くない所にいるのか」
『俺様はそう判断した』
「わかった。楓、紅葉、作戦は命大事にでよろしく」
「奏君、私はガンガン行こうぜが良いと思うな」
「それなら、紅葉お姉ちゃんだけガンガン行ってよ」
「・・・楓、マジで私に対して当たりが強くなったわね」
『おいおい、今から戦うのはコーラルタートルよりも強い敵なんだぜ? 楓嬢ちゃん、紅葉の姉ちゃん、もうちょい真面目にやれや』
「ごめんなさい」
「了解」
バアルに注意され、楓と紅葉はおとなしくなった。
「じゃ、行くぞ。全員、周囲を警戒すること。楓の視力に期待してる」
「任せて下さい!」
両目が視力2.0の楓は、雲で暗い空の中の索敵で大事な役割を任された。
勿論、バアルの方が索敵能力は高いが、奏は楓に役割を与えることで、少しでも自分が役に立っていると思ってもらえるように気を遣ったのだ。
それから、奏達は家から離れ、叫び声の聞こえた方角に向かって進んだ。
その数分後、森が騒がしくなった。
「ゲギャァッ!」
「ゲギュアッ!」
「ゲゲギャッ!」
『どうやら、フォローラプトルがいやがるな』
「フォローラプトル?」
『おうよ。自分より強い恐竜系モンスターにはヘコヘコするくせに、自分より弱い奴には偉そうな臆病者だぜ』
「どれぐらいいるかわかるか?」
『そうだなぁ、俺様の索敵範囲には、30体はいるぜ。となると、こいつらが従ってるのは、フィアーレックスに違いねえ』
取り巻きのフォローラプトルの存在により、叫び声の主であるモンスターを、バアルが絞り込んだ。
「フィアーレックスってどんなの?」
『奏の記憶だと、ティラノサウルスに似てるぜ。声のデカさで弱者を従わせ、攻撃されても硬い鱗が通さず、火を吐くのがフィアーレックスの特徴だな』
「厄介だな。コーラルタートルの甲羅とどっちが硬い?」
『硬さだけなら、コーラルタートルの甲羅だ。だが、フィアーレックスはコーラルタートルよか動けるから、そこは気を付けな』
「わかった」
バアルから情報を得た奏達は、フォローラプトルの鳴き声が聞こえる方向に進んでいく。
そして、楓が立ち止まり、奏の服の裾を引っ張った。
「奏兄様、見えました。あの茂みの奥で紫色の物体が動いてます」
『ビンゴだぜ、楓嬢ちゃん。それがフォローラプトルだ』
「わかった。じゃあ、もう少し近づいたら、俺が【
「了解」
「では、すぐに強化しますね。【
楓の強化が終わり、奏がフォローラプトルの姿を捉えられるまで近づいた。
「よし、見えた。行ってくる。【
奏は楓と紅葉の前から消え、影を渡ってフォローラプトル達のいる場所にすばやく移動した。
「【
ピカッ、ジィィィィィン! パァァァッ。
フォローラプトル達の前に姿を現してすぐに、奏は縦一列の敵を倒した。
「ゲゲギャァッ!」
「ゲギュアァッ!」
「ゲギャァァッ!」
奏に同胞を倒され、フォローラプトル達のヘイトが一斉に奏に向いた。
「【
ドゴォッ! ドゴォッ! ドゴォッ! パァァァッ。
近くにいるフォローラプトルから、奏は次々に殴り飛ばしていく。
ヘイトも十分稼いだので、楓達がいる場所と違う方向に逃げようとしたその時、楓の悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「クソッ、こいつらは囮か!? 【
楓の影から出た奏が見たのは、オレンジ色のティラノサウルスの尻尾に吹き飛ばされ、木に体を打ち付けて力なく倒れている紅葉の姿だった。
「楓、紅葉の回復! 【
ズドン! ズズズッ。
「グルォ?」
「チッ、後ろにちょっと押しただけかよ。【
(おいおい、MPの消費速度が洒落になってないぞ!?)
フィアーレックスの動きを止めた奏は、【
だが、そんなところで立ち止まっている場合ではない。
「紅葉お姉ちゃん、しっかりして! 【
楓は紅葉の倒れてる場所に到着し、紅葉のHPを急いで回復させ始めた。
「ゲギャァァッ!」
「ゲギュアァッ!」
「ゲゲギャァッ!」
そこに、倒し切れなかったフォローラプトル達がやって来て、隙だらけの楓達を視界に入れた。
「そこを動くな! 【
ビリビリビリッ!
楓達をやらせまいと奏が叫ぶと、大気が震えてフォローラプトル達がピクリとも動かなくなった。
「【
ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! パァァァッ。
奏の【
わらわらとまとまったフォローラプトル達を攻撃するなら、【
だが、それでは周囲の木々を巻き込み、それらが近くにいる自分達にぶつかるリスクがあるので使えない。
そのリスクを考慮できるぐらいには、奏の頭には冷静さが残っていた。
「グルォン」
フォローラプトル達が全滅したのと同時に、フィアーレックスが動き始めた。
【
「バアル、近くに他の敵はいるか?」
『いねえよ。だから、思いっきりやっちまいな』
「ああ」
奏の目には、楓達にこれ以上フィアーレックスを近づけないという決意が現れていた。
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