第36話 イヤッホォォォ! 俺様最高!

 掲示板の確認を終え、奏達は海にやって来た。


 暗くなる前に戻るつもりではあるが、森にいるよりも海の方が視界が開けているからだ。


 海岸沿いを歩き、食材を探していると、バアルがモンスターを感知した。


『おっ、いたぜ。こりゃブロンズクラブだな。あそこの岩に化けてやがるぜ』


「奏君、私がやって良い?」


「どうぞ」


「ちょっと待った。【全強化オールライズ】【全強化オールライズ】」


「ありがとう、楓。【爆弾ボム】」


 ドガァン! パァァァッ。


 狙いを定め、紅葉が爆発させると、岩に擬態していたブロンズクラブが爆散した。


 楓の【全強化オールライズ】は、楓のINTの数値分だけ、全能力値を一定時間上昇させる。


 その効果を上乗せした【爆弾ボム】が、硬そうな見た目だったブロンズクラブをあっさりと爆散させた。


 ザザザザザッ。


 爆発が気になったのか、砂浜の色と同化した二枚貝が砂上に続々と現れた。


『音で釣れたな。シェルアーチャーだ。狙撃が得意だから、気を付けな』


 ダダダダダン! ゴォッ! バシャン!


 バアルに注意されてすぐ、紅葉が水の矢で狙い撃ちされたが、紅葉の前に奏が入り、【嵐守護ストームガード】でそれを無効化した。


「【台風タイフーン】」


 ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 シェルアーチャーどころか、奏は前方の砂浜から砂を大量に巻き上げた。


 まさに台風という規模だったが、空中にシェルアーチャーを打ち上げると同時に消えた。


 空中に打ち上げられたシェルアーチャーは、その過程でHPを全損して消えた。


《奏はLv46になりました》


《楓はLv44になりました》


《紅葉はLv41になりました》


 戦闘が終わったらしく、神の声が奏達のレベルアップを告げた。


 だが、今回の戦闘の恩恵は、これで終わりじゃなかったらしい。


『来たぜ、奏! モンスターカードだ! 早く吸収してくれ! 吸収早よ!』


「わかったから、少し落ち着け」


 それなりにモンスターと戦ったが、久しぶりにモンスターカードがドロップしたため、バアルのテンションが爆上がりした。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv46になりました》


《バアルは【水矢ウォーターアロー】を会得しました》


《おめでとうございます。奏の<疾風迅雷>の称号が、<嵐神徒弟らんじんとてい>に上書きされました》


『ヒャアッ、たまんねえ! 称号に嵐神の文字が付いたぜ!』


「<嵐神徒弟>の効果は?」


『風、雷、水、聖の4属性のスキルの威力が2.5倍!』


「そりゃ強いな」


『おうよ! これで、俺様が嵐神に返り咲く道筋が見えたぜ!』


 自分の目的を達成することが、現実味を帯びて来たことで、バアルはすこぶるご機嫌だ。


 そんなバアルのテンションに、奏が置いてけぼりにされていると、紅葉が奏の袖をそっと引っ張った。


「ん?」


「奏君、さっきはありがと。守ってくれて嬉しかった」


「攻撃許可を出したのは俺だ。その責任ぐらい取るさ」


「紅葉お姉ちゃん、清楚ぶって奏兄様の気を引こうなんてあざとい」


「わ、私はただ、奏君にお礼を言いたかっただけよ」


「ふーん、そうなんだ。へー」


 紅葉の言い分を信じておらず、楓は奏の腕に抱き着いて紅葉に警戒心を隠さなかった。


「楓、独占欲強過ぎないかしら? 出会って2日でこれは異常よ」


「異常でも構わないよ。私、奏兄様が一緒にいてくれるなら、周りからの評価なんて気にしないもん」


「あっ、そう」


 楓の目を見て、何を言っても無駄だとわかり、紅葉はそれ以上何も口にしなかった。


 その時、テンションが著しく高かったはずのバアルが冷静になり、敵の接近を告げた。


『お喋りはそこまでにしときな。海から、群れでモンスターが来るぜ』


「わかった」


 バシャバシャバシャバシャバシャァァァン!


 バアルに注意され、奏が海に視線をやると、海面から次々にモンスターが飛び出してきた。


『こりゃサファギンだな』


 砂浜に着地した全体が青っぽい半魚人について、バアルはその正体を奏達に知らせた。


「「「・・・「「ギョギョッ!」」・・・」」」


 サファギン達は、銛を片手に奏達に向かって突撃し始めた。


「試してみるか。【水矢ウォーターアロー】」


 ダァン! パァァァッ。


 楓の【全強化オールライズ】の効果は切れておらず、それに加えて<嵐神徒弟>の効果も合わさり、たった1回の【水矢ウォーターアロー】で、5体のサファギンが倒れた。


「【水矢ウォーターアロー】【水矢ウォーターアロー】【水矢ウォーターアロー】」


 ダァン! ダァン! ダァン! パァァァッ。


 【水矢ウォーターアロー】の使い心地を確かめるだけのつもりが、思いの外使えたので、奏は連発してサファギンを倒していく。


「ちょっと待って! 私の取り分が減っちゃう! 【爆弾ボム】」


 ドガァン! パァァァッ。


 奏に全て倒させないように、紅葉は慌てて自分も攻撃した。


 生き残ったサファギン達の中心で爆発が生じたことで、サファギン達は全滅した。


《奏はLv47になりました》


《楓はLv45になりました》


《紅葉はLv42になりました》


『チッ、今回はモンスターカードなしか』


 神の声が聞こえなくなると、バアルは残念そうに呟いた。


「ドンマイ。そんな全てが上手くはいかねーよ」


 バアルを慰めつつ、奏はドロップした魔石をバアルに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv47になりました》


《バアルの【水矢ウォーターアロー】が、【水槍ウォーターランス】に上書きされました》


『イヤッホォォォ! 俺様最高!』


 スキルが強化されたことで、バアルのテンションは再び上がった。


 浮き沈みの激しい奴だと奏は溜息をついた。


「奏君、サファギンの銛が3つドロップしたわ。合成したいから、ゴブリンキングの大剣を出して」


「わかった。【虚空庫ストレージ】」


 紅葉のリクエストに応じ、奏は【虚空庫ストレージ】の肥やしになっていたゴブリンキングの大剣を取り出した。


 その大剣に加え、紅葉はサファギンの槍を3本とジャンクランスVer.7を砂浜に並べた。


「幸運を」


 その一言で、紅葉の体が光を放った。


 1日1回しか使えない、賭博師ギャンブラーの効果を発動し3分間だけ自分のLUKの数値を3倍にしたのだ。


「からの~、【賭合成ベットシンセシス】」


 その掛け声により、普段の【賭合成ベットシンセシス】よりも眩しい光が複数の素材を覆った。


 光の中で、素材のシルエットが次々に重なっていく。


 光が収まると、鋼の穂先に紫色の柄を持つ槍が現れた。


「これは上手くいったわね。【分析アナライズ】」


 現れたデータの載った画面を確認すると、自信満々だった紅葉の顔がお決まりの悪役っぽい笑みに変わった。


「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」


「あー、はいはい。上手くいったんだな」


「紅葉お姉ちゃん、勿体ぶらずに早く結果を教えて」


「えっ、すっごいドライなんだけど。もうちょっと私のドヤ顔タイムの延長を希望したいわ」


「そういうの良いから」


「早く」


 奏と楓のテンションと、紅葉のテンションに差があるせいで、紅葉は自慢したいのにそういう空気ではなくなってしまった。


 それが不満な紅葉は、砂浜に座り込み”の”と指でひたすら書き始めた。


 ((うわっ、めんど・・・))


 奏と楓の気持ちがシンクロした。


 それでも、紅葉にとって自分の武器が強くなる時は、大事な時間だとわかっているので、面倒ではあるが奏と楓は頷き合い、紅葉の機嫌を直してもらうことにした。


「冗談だ。紅葉、強化された槍の効果を教えてくれ」


「どんなスキルが追加されたの?」


 2人の声を聞き、紅葉の耳がピクピクと反応した。


 だが、まだ足りないらしく楓は立ち上がらない。


「紅葉が強くなったら、俺も安心できるんだけどなー」


「奏兄様が持ってないスキルなの?」


「しょうがないわね。そこまで言うなら、教えてあげるわ。まったく、2人共素直じゃないなぁ、もう」


 ((殴りたい、この笑顔))


 ドヤ顔で振り返り、立ち上がった紅葉を見て、奏と楓の心は再びシンクロした。


 ここで、また紅葉がしょぼくれてしまうと面倒だと思い、2人はイライラした気持ちをぐっと堪えた。


「で、その効果は?」


「なんと、ジャンクランスVer.8のおかげで、【水刃ウォーターブレード】を会得したわ! ただの【斬撃スラッシュ】が、水の刃になったのよ!」


「良かったな」


「おめでとう」


「えー、もうちょっとテンション上げてこーよー」


「うぜぇ・・・」


「紅葉お姉ちゃん、お口チャック」


「ひ、酷い。上げて落とすなんて、それがクセになったらどうすんのよ」


放置決定そっとしておこう


「そうですね」


 紅葉が変態として目覚めてしまうのではないかと思い、奏と楓が紅葉を置いて歩き出した。


「えー、ちょっと、待ってよー。冗談だからさー」


 自分の予想していた反応と違ったため、紅葉はすぐに否定して奏達を追いかけた。

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