第35話 エロ猿共がぁっ! 女の価値は胸だけじゃないのよ!

 奏達は森の探索を再開した。


 紅葉はマンガ肉をもっと手に入れたいと気合を入れ、ファンガスボアを探してキョロキョロするのだが、都合良く遭遇することはなかった。


 その代わりに、食べられる果実や茸、野草は奏の目によって目ざとく見つけられた。


「奏兄様、流石です」


「じいちゃんのおかげだな。森や山、海で食べられる物は一通り教わったんだ」


「素敵なおじい様ですね。ご挨拶ができないのが残念です」


「くっ、奏君の嫁ポジ気取っちゃって憎たらしいわね」


「紅葉お姉ちゃん、気取ってなんかないよ。純然たる事実」


「OK。その喧嘩、言い値で買ってあげる」


「待て待て。なんで食べられる物を探してたのに、喧嘩の話になるんだ。楓も紅葉も、もうちょっと食材探しに力を入れてくれ」


「ごめんなさい」


「はーい」


 奏に注意されて、楓と紅葉は素直に謝り、食材探しに戻った。


 何がいるかわからない森の中で、手分けして探索なんてできないので、奏達は一緒に行動する。


 奏が前方、楓が右側、紅葉が左側に注意して歩くのだが、最後に木の実を見つけてから食材はなかなか見つからなかった。


 そこに、バアルが口を出した。


『奏、食材はねえみてえだが、モンスターはいたぜ。左斜め前にある木をよく見てみな』


「んー、あれか。言われてみれば、変な木だな。周りに比べて細いし、枯れてる」


『おうよ。あれはな、ウッドパペットだ』


「そっか。じゃ、やるか。【裁雷ジャッジメント】」


 ピカッ、ジィィィィィン! パァァァッ。


 奏がスキル名を唱えると、バアルから白い雷がビームの如く射出され、木に擬態しているウッドパペットを貫いた。


 貫かれたウッドパペットは、一瞬でHPを全損して消え、魔石とマテリアルカードが代わりに現れた。


 シュゥゥゥッ。


『ケッ、マテリアルカードかよ。しけてんなぁ』


「そんなことないさ。これ、もしかしてリンゴじゃね?」


『リンゴだな。リンゴ10個手に入って嬉しいか?』


「煮干しよりは嬉しいだろ」


 バアルがつまらなそうに言うが、奏はリンゴが10個描かれたマテリアルカードを手に入れて喜んでいる。


 決して煮干しが嫌いなわけではないが、モンスターを倒して煮干しをドロップするよりも、リンゴをドロップした方が奏としては嬉しいのだ。


「私もリンゴの方が好きです」


「私もリンゴかな。アップルパイ食べたい」


『俺様、今の状態じゃ何も食えねえからどうでも良い。魔石とモンスターカードカモン』


 神器バールの体では、食べることができないので、バアルはドロップした食べ物が何であるかなんて興味はなかった。


 「「「・・・「「ウッキー!」」・・・」」」


 突然、奏達を取り囲むように猿の鳴き声が聞こえて来た。


 奏達の目には姿が見えないことから、木々に登って姿を隠しているらしい。


「バアル、どんなモンスターだ?」


『ノーズモンキー、鼻の長い猿だな。こいつらの特徴は・・・』


「ウッキィィィッ!」


「きゃっ!?」


「【支配ドミネーション】」


 楓からかわいい悲鳴が聞こえ、奏は咄嗟に【支配ドミネーション】を発動した。


 その対象は、楓を襲撃したノーズモンキーだ。


 あと少しで、ノーズモンキーの手が楓の腰辺りに触れる間一髪の場面で、奏はノーズモンキーの動きを無理やり止めた。


『危なかったな。こいつらの特徴は、エロい。女を見るとやたら胸や尻を触ろうとする。しかも、鼻の下を伸ばしながらな』


「エロ猿かよ。死ね」


 ガァン。パァァァッ。


 動きの止まったノーズモンキーに対し、奏は容赦なくバアルを振り下ろした。


「「「・・・「「ウッキィィィッ!」」・・・」」」


 同胞を倒されたノーズモンキーの群れは、揃いも揃って楓目掛けて木から飛び降りて来た。


「【支配ドミネーション】」


 ドサササササッ。


 楓を狙うノーズモンキーの群れに対し、奏は効果範囲を広げて【支配ドミネーション】を発動した。


 それにより、ノーズモンキーの群れは空中で動けなくなり、楓に触れることなく真下に落下した。


「紅葉、倒すの手伝って」


「私に来なかったのは、このエロ猿共がおっぱい猿だったからなの?」


「フッ、紅葉お姉ちゃん、かわいそう。猿ににすら見向きもされないなんて」


「エロ猿共がぁっ! 女の価値は胸だけじゃないのよ!」


 グサッ。グサッ。ガァン。グサッ。グサッ。ガァン。パァァァッ。


 怒れる紅葉は、奏が1体倒す間に2体のノーズモンキーを倒した。


 しかも、ジャンクランスVer.7で、的確に急所を一突きしている。


 悲しみは人を成長させるとは、こういうことなのかもしれない。


《奏はLv45になりました》


《楓はLv43になりました》


《紅葉はLv40になりました》


 戦闘終了を告げる神の声が、奏達の耳に届いた。


『おぉ、紅葉の姉ちゃんブチギレてんなぁ。奏、魔石の吸収頼んだ』


「あいよ」


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv45になりました》


《バアルの【道具箱アイテムボックス】が、【虚空庫ストレージ】に上書きされました》


『よっしゃ! スキルが強化されたぜ!』


「バアル、【道具箱アイテムボックス】にはお世話になってたけど、【虚空庫ストレージ】になったメリットは?」


『まず、容量が3倍に増えた。東京ドーム3つは入る。次に、ソート機能が追加されたことで、【虚空庫ストレージ】に入ってる物を自由に並び替えできるし、混合物も分離して収納できるぜ』


「ってことは、海水を塩と水に分けて収納できる?」


『余裕でできる』


「そりゃ便利だな」


 表情のわからない神器バールの体だが、そこからドヤ顔を幻視してしまうぐらいバアルは得意そうに言った。


「奏兄様、ありがとうございました。私をエロ猿から守ってくれて、もっと好きになりました」


「どういたしまして。なんか、エロ猿に楓が触られるのは嫌だなって思ってさ、咄嗟に【支配ドミネーション】を使っちゃった」


「それだけ、奏兄様が私を大事にして下さってるんですね。嬉しいです」


 楓が幸せそうな表情で奏に抱き着くと、紅葉は不満を隠さなかった。


「ケッ、2人だけで甘い空間作っちゃって。なんで私にはエロ猿が寄ってこないのよ」


 どうでも良いかもしれないが、ノーズモンキーを誰も種族名で呼ばなくなった件について。


 それはともかく、奏達は時間も丁度良い頃合いになったから、昼食を取りに家に戻った。


 奏の【瞬身テレポート】のおかげで、行きは歩きでも帰りは一瞬だった。


 昼食を取り終えた奏達は、食休みも兼ねて掲示板を確認することにした。



◆◆◆◆◆


現状共有スレ@2


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◇◇◇◇◇


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252.舞浜の冒険者

 モンスターを倒したら、石以外にカードがドロップしたんだけど何かわかる?

 倒した鼠のモンスターの絵が描いてあるんだよねー


253.熊谷の冒険者

 >252

 えwちょw待ってwww

 舞浜の鼠って、ミッ〇ーマ〇スじゃんwww

 千葉県民良いのかそれでwww


254.奈良の冒険者

 >252

 俺も鹿のモンスター倒したら、鹿のモンスターの絵が描かれたカードがドロップしたわ


 >253

 笑わせるなwww

 つーか、俺も奈良県民として駄目じゃんwww


255.上野の冒険者

 >252,254

 ウチもパンダのモンスター倒したら、パンダのカードをドロップしたよ


256.盛岡の冒険者

 >252,254,255

 住む地域のマスコットを狩るなんて、地元愛はないのかよwww


257.川崎の冒険者

 >252-256

 ゾンビキャリアーを倒したら、煮干しの袋がいっぱい描かれたカードをドロップした


258.熊谷の冒険者

 >257

 煮干しwww

 死んだ目をした者同士って共通点か?

 てか、モンスターが煮干しをドロップするとかワロタ


259.秋葉原の賭博師ギャンブラー

 倒したモンスターと同じ絵柄のカードは、モンスターカード

 このカードは、【鍛冶ブラックスミス】のスキルを持つ物が使えば、モンスターの使ったスキルを有した道具になるらしい

 鼠、鹿、パンダはこっちに該当する

 倒したモンスターとは違って、素材の絵柄のカードは、マテリアルカード

 こっちは食材のパターンもあるから、飢え死に回避に有用

 カードを使おうと念じると、その素材が出るらしい


260.上野の冒険者

 >259

 秋葉原の賭博師ギャンブラーさん、昨日はありがとう!

 ウチ、昨日噛まれたけど、秋葉原の賭博師ギャンブラーさんのおかげで命拾いしたの!


◆◆◆◆◆



 奏は、掲示板に見覚えのあるハンドルネームを見つけ、紅葉の方を見た。


「紅葉、また投稿したのか」


「だって、くだらない話ばっかりだったもの。それに、私の情報で助けられた人もいるみたいだし」


「そうかもしれないけど、妬まれないように程々にしとけよ?」


「わかってるわよ」


 ノーズモンキーの群れとの戦闘後は不機嫌な顔をしていたが、今の紅葉は感謝されたことが嬉しくてすっかりご機嫌だった。

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