第4章 ゼロから始める新生活

第31話 只今より、生存者を”冒険者”と呼称します。

 紅葉の提案で、奏達は掲示板を覗いてみた。



◆◆◆◆◆


現状共有スレ@1


1.管理者アドミニストレーター

 生き残った日本人のパーティーが、キングモンスターのダンジョンを踏破したため、本機能が日本人に先行して解禁されました。

 只今より、生存者を”冒険者”と呼称します。

 こちらのスレッドは、【自己鑑定ステータス】もしくは【分析アナライズ】を使用できる冒険者による有益な情報共有をすることを目的としています。

 誹謗中傷等、他者を意味なく害する者は、本機能の利用停止処分とします。

 不適切なコメントをした者も、同じく本機能の利用停止処分とします。

 また、私は一切の質問に回答しませんので、質問しても無駄です。

 以上を理解したうえで、本機能を有効活用して下さい。


◇◇◇◇◇


2.名無しの冒険者

 掲示板ktkr!

 ゲームがリアルになったみたいだ!

 東京がゴーストタウンになっちまった!

 誰かオラを助けてけろ!


3.名無しの冒険者

 >2

 助けてくれって、私も助けてほしいんだけど・・・

 ちなみに、私は大阪

 こっちもゴーストタウン状態だわ


4.名無しの冒険者

 >2,3

 こちら現場の八王子です!

 篠突く雨の前に、俺の傘は意味をなしていません!


5.名無しの冒険者

 >4

 現場のリポーターうるせえwww

 俺も八王子にいるけど、雨降ってねえよ

 どんよりとした空だぜ


6.名無しの冒険者

 >5

 そんなこと知ってるって

 中継ネタしたくなっただけだっつーの

 マジレスすんなし

 まあ、ちゃんとしたことを言うとしたら、八王子は蛇と猿っぽいモンスターが現れた

 農薬投げて食わせたら死んだけど


7.名無しの冒険者

 >6

 農薬で倒したんか!?

 ってことは、あんた農家かよ!

 俺はバイクで蛇のモンスターを轢き殺したわ


8.名無しの冒険者

 茨城で食虫植物っぽいモンスター倒したわ

 吸ってた煙草を投げたら、葉っぱから全身に燃え広がったの

 そしたら、【自己鑑定ステータス】と【火矢ファイアーアロー】ってスキルを会得したってアナウンスが流れたんだけど、みんなもそうなの?


9.名無しの冒険者

 >8

 マジ!?

 リアル魔法少女(゚∀゚)キタコレ!!

 それに引き換え、俺は【泥団子ダートボール】だったんだが・・・

 鳥取住みだから、砂丘で戦えと?


10.名無しの冒険者

 >9

 【泥団子ダートボール】ってどう使うんです?

 いや、砂丘でならあるいは・・・

 僕は【斬撃スラッシュ】でした

 倒したのは、狂犬病にかかった犬みたいなモンスターです

 木刀でぶん殴って倒しましたが、これから先、木刀で戦えってことでしょうか?

 場所は京都です


11.名無しの冒険者

 >8,9,10

 私、群馬で作ってた料理に芋虫みたいなモンスターが食いついて死んだわ

 【暗黒物質ダークマター】ってスキルを会得したんだけど、喧嘩売ってる?


12.名無しの冒険者

 >11

 マズメシ乙!

 アタシは歩く木のモンスターがいたから、チェーンソーで切ってみたw

 和歌山にいるよ


13.名無しの冒険者

  >8,9,10,11,12

 石川に空飛ぶ魚のモンスターが出た

 石ぶん投げまくって倒したら、【投擲スロー】が手に入ったわ


◆◆◆◆◆



 以後、こんな感じでスレッドが続いていった。


 紅葉の言う通り、既に投稿されていたので、奏と楓は目を丸くした。


「ね? 言ったでしょ?」


「マジかよ。案外、みんな余裕あるんだな」


「危機意識が足りてないです。奏さんを見倣ってほしいです」


「楓、奏君ありきで物事を、いや、なんでもないよ。うん」


 何か文句でもあるのかという厳しい目線を楓に向けられ、紅葉はそれ以上何も言わなかった。


「それで、この掲示板には書き込んだ方が良いのか?」


「うーん、今はまだやらなくて良いと思うよ。多分、掲示板機能が使えるようになって、はしゃいでる人ばっかりだと思うし。もうちょっと時間を空けてから見たら、有益な情報が共有され始めるはず」


「わかった。じゃあ、俺達はとりあえずダンジョンを脱出しよう」


「はい」


「そうね」


 奏達は、ボス部屋の隅にある転移陣に足を踏み入れた。


 光が収まると、奏達はダンジョンの外にいた。


 空は昼のはずなのに、どんよりと薄暗かった。


「これは酷い」


「秋葉原が完全な廃墟街になってますね」


「あぁ、私のまだ見ぬ娯楽達が・・・」


 奏達が目にしたのは、昨日よりも荒廃したゴーストタウンと表現できる惨状だった。


 昨日であれば、まだ傷のない建物も僅かばかりあったが、今は全壊7割、半壊2割、一部破壊1割という感じだった。


『凹んでるところ悪いが、敵が来たぜ。右前方の瓦礫の傍を見てみな』


 バアルに示された方向には、肌がグレーになり、血だらけで服がボロボロな人がいた。


「バアル、あれは人じゃないのか?」


『よく見ろ。完全に白目で、放出した血の量がヒューマンの活動限界を超えてる。しかも、後頭部が陥没してるじゃねえか。ありゃゾンビだ』


「ゾンビ?」


『おう、ゾンビだ。おそらく、近くにゾンビキャリアがいるぜ。そいつがヒューマンの死体を噛むと、肌が灰色になってゾンビ化する。”退魔師エクソシスト”の出番だぜ』


 バアルはニヤニヤしている声で、奏に戦うように促した。


「バアルさん、ゾンビに噛まれたら、二次感染するの?」


 ゾンビものの作品にも精通している紅葉が、バアルに質問した。


『ゾンビキャリアならともかく、ゾンビにそこまでの力はねえよ。だが、ゾンビになったことで、ヒューマンだった頃のリミッターが外れちまってるから、STRが倍以上になってるはずだぜ』


「ゾンビキャリアが面倒ね。奏君、安全を確保するためにも、ゾンビキャリアを倒しましょう」


「その方が良さそうだ。【聖炎ホーリーフレア】」


 ピカッ、ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 紅葉の意見に同意し、スキルを発動したそうだが、あまりにもスキルの威力が高かったので驚いてしまった。


 平時であれば、ここまでの威力ではないのだが、ゾンビはアンデッド系モンスターだ。


 だから、奏がゾンビと対峙したことで、【聖炎ホーリーフレア】の威力が2倍になり、今の結果になった訳である。


 シュゥゥゥッ。


 奏は驚いたものの、すぐに復帰してバアルに魔石を吸収させた。


 その作業が終わると、楓が奏に駆け寄った。


「奏さん、お疲れ様です」


「大したことないよ」


「そんなことないです。奏さんが大したことないなら、それ以外の生存者はみな木偶の坊です」


「楓、毒が強いよ」


「ご、ごめんなさい。で、でも、奏さんはそれだけすごいってことをわかってほしかったんです」


 楓の言葉には、力強い意思が感じられた。


 自分を慕ってくれることを、嬉しく思わないはずがないので、奏は微笑みながら楓の頭を撫でた。


「サンキュー」


「エヘヘ♪」


「私が空気扱いされてる件について」


 ムスッとした表情で、紅葉はここには自分もいると静かにアピールした。


「空気扱いはしてないぞ」


「えっ、奏さんと私以外いたんですか?」


「楓ェ・・・」


 どうやら、楓は自分に自信を取り戻せたようだが、まだ紅葉を許してはいないらしかった。


「奏さん、私、兄がほしかったんです。奏兄様と呼んでも良いですか?」


「おーい、私がいるよー。お姉ちゃんだよー?」


 紅葉が哀れに思えて来たので、奏は条件を付けることにした。


「別に良いけど、紅葉に仲直りのチャンスをあげてくれ。これから先、ずっと喧嘩したままじゃ困る」


「・・・わかりました。奏兄様が言うなら、紅葉お姉ちゃんにもチャンスをあげます」


「すごい嫌そうなんだけど・・・。私、そんなに嫌われちゃった?」


「別になんとも。私にとって、奏兄様は特別です。酷いこと言わないし、私を必要としてくれるし、優しくて頼りがいがあります。私、奏兄様の一生傍にいます」


 楓は奏に対して、天使のような笑みを浮かべて抱き着くが、紅葉を見る時は冷たい目を向けて姉に対する無関心発言をした。


「ごめんなさい。私が悪かったです。もう、絶対に楓を軽んじることはしません」


 まさか、自分の妹にそんな目を向けられるとは思っていなかったので、紅葉は土下座して謝った。


 ここで、土下座なのがポイントである。


 もし、立ったまま頭を下げたとしても、楓よりも目線が高いままだ。


 土下座で楓よりも目線を低くすることで、紅葉は誠意を見せたのだ。


「よろしい。次はないと思ってね」


「ははぁ」


 (ふぅ、やっと仲直りしてくれたか)


 今までのやり取りを見て、奏はようやく安心することができた。


 流石に、楓と紅葉が喧嘩したままでは、気まずい雰囲気が消えなかったからである。


 それに悩まされることがなくなり、奏は本当にホッとした。

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