第29話 ゴブリンが喋った・・・だと・・・?
奏がやって来ると、紅葉はワクワクが止まらないという顔で、合成の準備を終わらせて待機していた。
「奏君、遅い!」
「先に始めてても良かったのに。いや、ゴブリンシャーマンの杖か。【
「それを待ってたんだよ」
「悪かった。いつでも良いぞ」
「じゃあ、【
紅葉の掛け声により、2つの光が素材の山を包み込んだ。
それらが一体化し、光が収まる頃には赤っぽく光る穂先に黒い柄の槍と磨きのかかった鋼色のガントレットが姿を現した。
槍の方は、ジャンクランスVer.6にゴブリンシャーマンの杖、ゴブリンソーサラーの杖、ゴブリンスナイパーの弓矢を素材としている。
ガントレットの方は、ジャンクガントレットVer.4にゴブリンハイプリーストの杖、ゴブリングラディエーターの盾が素材だ。
ゴブリングラディエーターの盾は、紅葉の<
それはともかく、武器の合成が完了したのだから、紅葉は当然のその性能を確かめることにした。
「【
画面の該当箇所に目をやり、紅葉は合成によって武器が強化されていないかチェックした。
どうやら、目論見通りだったらしい。
紅葉の顔が腹立たしいぐらいニヤけている。
「クックック・・・。フハハハハ・・・。ハーッハッハッハ!」
「出たよ三段笑いが」
「紅葉お姉ちゃん、控えめに言ってキモいよ」
三段笑いする紅葉を見て、奏と楓は引いていた。
「黙らっしゃい! ジャンクランスVer.7とジャンクガントレットVer.5は、私に強いスキルを与えてくれたわ! ランスは【
「嘘!? 私のアイデンティティを奪うつもりなの!?」
「フッ、愚かなる妹よ。教えてあげましょう。姉に勝てる妹はいないということを!」
楓に勝ち誇る紅葉を見て、額に手をやった奏の顔は頭痛が痛いと誤った表現をしてしまいそうになるぐらい頭が痛かった。
そして、奏はバアルを握っていない手で紅葉の頭にアイアンクローをお見舞いした。
「何やってんだ馬鹿」
「痛い! 奏君、痛いよ! マジで痛い!」
「紅葉がどんだけ回復系のスキルを会得したって、称号と職業の差で楓の足元にも及ばないだろうが」
奏の言う通り、楓は<救命者>の称号を持ち、
その補正によって効果が2倍以上違うのだから、紅葉の回復量ははどんなに頑張っても劣化楓でしかない。
それにもかかわらず、くだらないことを言って、戦闘でなかなか活躍できなくて悩んでいる楓を弄るのだから、奏の頭が痛くなるのも無理もない。
「奏さん、紅葉お姉ちゃんが虐めるんです!」
「くっ、楓め。ここぞとばかりにその脂肪の塊で奏君を誑かすなんて」
「紅葉は反省しろ」
アイアンクローから解放されたものの、奏に強く握られた頭の痛みはすぐには消えない。
STRの数値が異常に高い奏に、アイアンクローをされればタダじゃ済まないこととを紅葉はわかっていないのだろうか。
紅葉を放置して涙目になっている楓を奏は慰めた。
その後、楓はボス部屋に行くまで紅葉と口を利かず、ずっと奏にべったりとくっついていた。
昨日、奏と楓がデビルアイと戦った部屋と同じように立派な扉があった。
「時間も丁度良いし、昼飯食って休憩してから中に入ろう」
「わかりました」
「わかった」
移動と戦闘を繰り返し続け、ここに来るまでの間に休憩らしい休憩を取っていなかったので、奏はこのタイミングで昼休憩を取ることにした。
【
そんな昼食だが、奏が座る隣には楓がぴったりくっついていて紅葉が近寄ろうとすると楓がキッと睨んで近寄らせない。
「ごめん、楓。謝るからそろそろ許してよ~」
「私に姉なんていません。いるのは頼れる奏さんだけです」
いなかったことにするぐらい、楓は紅葉に怒りを感じていた。
誰だって自分のデリケートな部分を弄られたくはないだろう。
それが姉妹であったとしても、傷口に塩を刷り込むようなことをすれば喧嘩になるのは仕方のないことだ。
この件に関して奏は口出しをする気はなかった。
心情的には楓の味方なのだが、ここで楓を贔屓し過ぎると紅葉が拗ねて今よりももっと手の付けられない状況になるからだ。
だから、しなだれかかる楓を好きにさせて黙々とサンドウィッチを頬張った。
紅葉にジト目を向けられたが、奏は気づかないふりをして黙々とサンドウィッチを食べた。
昼食を食べ終えて食休みに入っても、楓は紅葉に謝られても無視し続けた。
紅葉もいくら謝っても今は効果がないとわかったので、楓を奏に任せて少し距離を取ることにした。
食休みが終わり、奏達は準備運動で体をほぐすと扉の前に並び立った。
「よし、それじゃ今からボス部屋に入る。全員くれぐれも無理はしないこと」
「わかりました。奏さんがダメージを負ったら私がすぐに治します」
「・・・楓」
「何? 自分の傷ぐらい治せるよね? 攻撃も回復もできるんでしょ?」
「・・・」
身から出た錆なのは重々承知しているが、ここまで楓に冷たくされたことは初めてだったので、紅葉は何も言えなくなった。
ギギギッ。ボボボボボッ! ゴォッ!
奏がボス部屋の扉を開けると、そこに一際大きい体に冠を頭に乗せたゴブリンが仁王立ちしており、その前にゴブリンジェネラルが2体、ゴブリンソーサラーが5体いた。
ボス部屋に入った奏にゴブリンソーサラーが奇襲で炎の矢を撃ったが、【
「やってくれたなこの野郎。【
「「「「「ゴブッ!?」」」」」
ゴブリンソーサラー達は自分の杖が手の中から消えて狼狽えた。
「静マレ!」
偉そうなゴブリンが叫ぶと、狼狽えていたゴブリンソーサラー達がピタッと静まり返った。
「ゴブリンが喋った・・・だと・・・?」
『おう、キングともなると喋る奴はいるぜ。あいつがゴブリンキング。このダンジョンのボスだぜ』
今の今までゴブリンは以下に進化してもゴブとしか鳴かなかったので、まさか喋れるとは誰も思っていなかった。
だから、奏は片言でもゴブリンキングが喋ったことに驚きを隠せなかった。
それでも、次の行動に動けない程驚いていた訳ではなかった。
「【
ピカッ、ゴロゴロゴロッ、ズドドドドドォォォォォン! パァァァッ。
「ナン・・・ダト・・・」
今度は、ゴブリンキングが驚く番だった。
自分も雷撃を受け、自分の部下達は一瞬にしてその雷撃の雨にやられて消えた。
まさか、自分に攻撃を当てられる者などいないと高を括っていたゴブリンキングにとって、奏がやって来たことは想定外のことだったに違いない。
「フザケルナァァァァァッ!」
「きゃっ!?」
「何これ!?」
激高したゴブリンキングが叫ぶとボス部屋の空気が激しく震えた。
その迫力に押しやられ、楓と紅葉は後ろに倒れた。
しかし、奏は喧しさ以外は気にしておらず、怯えることもなくその叫びに耐えきっていた。
「楓と紅葉はそこにいろ。あいつは俺がやる」
「そ、奏さん。待って。【
立ち上がれなくても少しでも奏の助けになればと思い、心を奮い立たせて楓は奏に【
「ありがとな、楓。じゃあ、行ってくる。【
奏は楓に笑いかけて【
「ソコカァァァァァッ!」
ブンッ! ゴォッ! キィン!
奏に背後に回られたと悟り、ゴブリンジェネラルのそれよりも立派な大剣を奏目掛けて横振りしたが、奏の【
今の奏のVITの数値は楓の【
それが、ダンジョンボスのゴブリンキングの一撃であっても、今の奏にダメージを与えることはできないだろう。
「おいおい、激昂してもその程度か?」
「貴様ァァァァァッ!」
ブンッ! ゴォッ! キィン!
ブンッ! ゴォッ! キィン!
ブンッ! ゴォッ! キィン!
ブンッ! ゴォッ! キィン!
ブンッ! ゴォッ! キィン!
ゴブリンキングが大剣を振っては、奏の強化された【
攻撃が通じないとわかったなら、さっさとゴブリンキングを倒せば良いと考えるのが自然だろう。
だが、奏はそうしなかった。
それは、自分がダメージを受けないのは、楓が【
そして、ゴブリンキングに自分との実力差を思い知らせ、ゴブリンキングの心を折るつもりでもあった。
「クソッ、ゼェッ、ナンデ、ハァッ、効カナインダ!?」
「【
「ヌオッ!?」
奏を全力で攻撃し続け、疲れたところに【
こうなってしまえば、もうゴブリンキングに勝ち目はない。
「身の程を知れ。【
ドゴォォォッ! パァァァッ。
冷たい奏の目を見て、恐怖に怯えたゴブリンキングの顔に、奏はバアルで渾身の一撃を放って倒した。
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