第28話 嘘じゃん。私達よりもパーティーっぽいんだけど

 軽いお勉強が終わると、奏達は再び道を進み始めた。


 前回のダンジョンであれば、そろそろ楓と遭遇したコンビニを見つけた

距離ぐらい進んだのだが、今回はそんなことはなさそうだ。


 コンビニの代わりに、今回のダンジョンには別の変化があった。


 Y字路である。


「バアル、どっちがボス部屋なんだ?」


『左だ。右は行き止まりになってるぜ。だが、右の行き止まりに俺様は行くことを勧める』


「その理由は?」


『お前にメリットがある。まあ、そのメリットの前には多少の面倒もあるだろうがな』


 バアルとしては、奏に右に立ち寄ってもらいたい。


 しかし、無理強いすれば奏は嫌がるに決まっている。


 だから、選択肢を与えるという手法で、自ら右に進んでもらうことをバアルは願った。


「楓、紅葉、どうしたい?」


「奏さんが嫌でなければ、右に行っても良いと思います」


「私も楓と同じね。多分、右に行けば私達が強くなれるだろうし」


 自分の判断で突き進まず、楓と紅葉に意見を貰ったのだが、2人は奏よりも強くなることに前向きだった。


 奏も、バアルが多少の面倒はあると言った時点で、少し手間をかければ問題ないと理解していたから、楓と紅葉の意見が割れずに済んで安心していた。


「わかった。じゃあ、右に寄り道しよう」


「はい!」


「そうこなくっちゃ!」


 右に進むと、道幅が狭くなった。


 それに加えて、奏達が想定しているよりも早く、行き止まりの壁が視界に入った。


 そのついでに、襤褸のローブに骸骨を下げた杖を握るゴブリンが待ち構えているのもわかった。


「バアル、あれは?」


『ゴブリンシャーマンだ。あいつは自分がいるエリアで倒されたモンスターを悪霊として蘇らせ、自分の支配下に置けるぞ』


「俺達、そこそこのゴブリンをこのダンジョンで倒したよな?」


『おう。だから、多少の面倒って言ったんだよ』


「うわっ、面倒だな」


「ゴォブ!」


 奏がバアルと話していると、ゴブリンシャーマンは下卑た笑みを浮かべつつ、握った杖を天井に向けてかざした。


 ヒョォォォォォッ。


 隙間風のような音とともに、半透明の各種ゴブリンがダンジョンの壁や地面、天井から次々に現れた。


「うぅっ、お化け、ですか?」


「あー、楓って怖いのも駄目だもんね」


「安心しろ。すぐに倒してやるから。それにしても、悪霊か。つまりは、アンデッドだよな?」


『やっぱ気づくか』


「当たり前だ。ここは”退魔師エクソシスト”の出番だ。【聖火ホーリーファイア】」


 ボォォォッ! パァァァッ。


「ゴブゥッ!?」


 職業の効果で、アンデッド系モンスターと対峙した時、奏の全能力値は2倍になる。


 そのおかげで、奏の【聖火ホーリーファイア】の威力も当然倍増していた。


 そんな【聖火ホーリーファイア】を喰らえば、悪霊と化したゴブリン達はあっという間に浄化されてしまう。


 予想外の事態が起こり、ゴブリンシャーマンは狼狽した。


 だが、すぐに冷静さを取り戻し、ゴブリンシャーマンは再び悪霊をこの場に呼び寄せようとした。


「やらせねーよ。【引寄アポーツ】」


「ゴブッ・・・」


 杖を奏に奪われ、ゴブリンシャーマンは詰んだ。


「【影移動シャドウムーブ】【聖撃ホーリースマイト】」


 ドゴン! パァァァッ。シュゥゥゥッ。


  ゴブリンシャーマンの影から飛び出し、奏は渾身の一撃をゴブリンシャーマンの顔面目掛けて放った。


 ゴブリンシャーマンが倒れると、その魔石だけが残り、バアルにそれを吸収させた。


《奏はLv38になりました》


《楓はLv36になりました》


《紅葉はLv33になりました》


《バアルはLv38になりました》


《バアルの【聖火ホーリーファイア】が、【聖炎ホーリーフレア】に上書きされました》


 神の声が聞こえ、戦闘が終わった。


「バアル、何がメリットだったんだ?」


『そりゃお前、悪霊を倒すことに決まってんだろ。あいつらを倒せば、魔石は落とさねえがモンスターとしてカウントされっから、奏の<簒奪者>の効果が発動して、奏の能力値が跳ね上がるって寸法よ』


「そういうことか。確かに、軽く100体はいたもんな」


『おうよ。ついでに、奏がゴブリンシャーマンから杖を奪えば、紅葉の姉ちゃんが合成に使うだろうし、一石二鳥だぜ。いや、【聖炎ホーリーフレア】も会得できたから、一石三鳥だな』


「なるほどな」


 バアルの説明を聞いて、奏は納得した。


 戦う奏は面倒に思うかもしれないが、<簒奪者>の効果により、奏はモンスターさえ倒せば、その数だけレベルが上がらなくとも能力値がランダムに5上がる。


 結果的には、レベルが1上がったが、奏はこの一戦だけで全能力値の底上げに成功し、新たなスキルも会得したのだ。


 それに、バアルの言う通り、ゴブリンシャーマンの戦力ダウンを狙い、その杖を【引寄アポーツ】で奪っているから、紅葉の戦力アップにも繋げられる。


 そう考えると、バアルの提案に乗ることは良い結果をもたらしたと言えよう。


 楓と紅葉が待つ場所に戻ると、楓が涙目で奏に抱き着いた。


「奏さん、ありがとうございます」


「マジで怖かったんだな。でも、大丈夫。全部やっつけたから」


「はい」


 まだ、小刻みに震えている楓が、小動物みたいでかわいく思えたので、奏は楓の頭を優しく撫でた。


「奏君、楓のこと甘やかし過ぎじゃない? その半分ぐらい、私への態度に変えることを要求するわ」


「まあまあ。ほれ、お土産」


「うわっ、投げないでよ、もう」


 ゴブリンシャーマンの杖を、放物線上に投げられ、紅葉は慌ててキャッチした。


 アンデッド系モンスターを操っていた杖を見て、またジャンクランスVer.6を強化できると思った紅葉はニヤけている。


 それでも、この杖だけでは合成しないらしく、すぐに奏の【道具箱アイテムボックス】行きとなった。


 それから、奏達はY字路まで戻り、今度は左の道を進んだ。


 すると、バアルがモンスターを感知した。


『来たぜ、奏。団体さんだ。しかも、バランスが取れてやがる』


 そのすぐ後、奏達の目の前に現れたのは、2回進化したゴブリンの混成集団だった。


『ゴブリングラディエーター、ゴブリンハイランダー、ゴブリンモンク、ゴブリンスナイパー、ゴブリンソーサラー、ゴブリンハイプリーストが1体ずつか』


「嘘じゃん。私達よりもパーティーっぽいんだけど」


「否定できない。とりあえず、後衛の武器奪うか。【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】」


「「「ゴブッ!?」」」


 紅葉の呟きに応じつつ、奏は後衛のゴブリン達の弓矢と杖を自分の引き寄せた。


 出番を失ったゴブリン達は、驚いて声を上げることしかできなかった。


「【防御強化ディフェンスライズ】【防御強化ディフェンスライズ】」


 楓はいつでも接近戦ができるように、奏と紅葉のVITを強化した。


「紅葉、どれやりたい?」


「ゴブリンハイランダーとゴブリングラディエーターかな」


「OK。じゃあ、あとはやっとくわ。【影移動シャドウムーブ】」


 ガァン! ガァン! ガァン! ガァン! パァァァッ。


 奏はゴブリンモンクの影から飛び出し、その頭をバアルで殴り飛ばした。


 それに続いて、丸腰の後衛3体を立て続けに殴り飛ばし、倒していった。


「「ゴブゥッ!」」


 そんな奏に対し、生き残ったゴブリンハイランダーとゴブリングラディエーターがヘイトを抱かないはずがない。


 後ろを振り返り、奏に向かって攻撃を繰り出そうとした。


「どこ見てんの? 敵から目を背けちゃ駄目でしょ。【小爆弾ミニボム】」


 ドォン! パァァァッ。


「ゴブッ!?」


 突然、隣にいたゴブリンハイランダーの頭が爆発したため、ゴブリングラディエーターは怯んだ。


 その隙を、紅葉が見逃すことはなかった。


「【斬撃スラッシュ】」


 スパッ。 パァァァッ。


《奏はLv39になりました》


《楓はLv37になりました》


《紅葉はLv34になりました》


『おい、奏! モンスターカードだぜ! 吸収はよ!』


 ゴブリングラディエーターがドロップしたモンスターカードを見て、バアルのテンションが上がった。


 仕方なく、奏は魔石とモンスターカードの吸収を急いだ。


《バアルはLv39になりました》


《バアルは【粉砕スマッシュ】を会得しました》


《バアルが【聖撃ホーリースマイト】と【粉砕スマッシュ】を保有したため、これらのスキルが【聖砕ホーリースマッシュ】に統合されます》


『俺様、着々と強くなってるぜ』


「そりゃ良かったな」


『おうよ。この分なら、幻獣系モンスターが出てきても倒せるようになるかもな』


「そんな不吉な存在までいんのかよ」


『あったりめーよ。だが、安心しろ。奏には俺様って神様が憑いてるんだからよ』


 付いているじゃなくて、憑いているかよと内心思っていたが、バアルの機嫌をわざわざ損ねる必要もないので、奏は黙っていた。


 上機嫌なバアルのことは置いといて、早く合成したいと顔に書いてある紅葉が拗ねないように、奏は紅葉と楓に合流した。

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