第27話 エヘヘ、私が奏さんを守ったんですね♪

 ガシャン、ガシャン、ガシャン。


 金属が揺れる音が、奏達の耳に届いた。


 音の成る方を見ると、ホブゴブリンよりスマートで、鉄の鎧を身に着けたゴブリンが近づいている。


 鉄の槍と鉄の盾を両手に持つゴブリンは、地上で戦ったゴブリンナイトよりも強そうに見える。


 そのゴブリンも、自分の強さに自信があるのか、獲物を見つけたと奏達を舐めた目で見ている。


『ゴブリンアーマーナイトだな。あいつ1体で、ゴブリンナイト5体分の働きをするぜ。STRとVITが高いが、AGIは大したことない。奏も接近戦の練習をしたらどうだ?』


「・・・そうだな。紅葉、楓の護衛を頼む。あいつは俺がやる」


「わかったわ」


「奏さん、頑張って下さい。【防御強化ディフェンスライズ】」


「ありがとう、楓」


 楓の【防御強化ディフェンスライズ】で、奏のVITの数値が跳ね上がった。


 つまり、【嵐守護ストームガード】が発動することで、ちょっとやそっとじゃダメージを負わない数値になっているということだ。


「まずは、武装解除からだ。【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】」


「ゴブゥ!?」


 自分よりも劣っていると決めつけていた存在に、簡単に槍と盾を奪われたことで、ゴブリンアーマーナイトは慌てた。


「次は鎧だ。【引寄アポーツ】」


「ゴブゥゥゥッ!?」


 武器どころか、自分の身を守る鎧まで奪われ、ゴブリンアーマーナイトはその種族名に反して腰蓑だけの丸腰になった。


 奏が奪った武器や鎧を後ろに放ると、ゴブリンアーマーナイトはようやく自分が奏に実力で負けていることに気が付いた。


 ゴブリンアーマーナイトは、今の状態で戦っても絶対に負けると判断し、踵を返した。


「どこへ行くつもりだ? 【影移動シャドウムーブ】」


「ゴブッ!?」


 一瞬で距離を詰められ、目の前に現れた奏を見て、ゴブリンアーマーナイトは後ろに転んだ。


「ゴブッ」


 ゴォッ! キィン!


 突然、どこから出て来たのかわからないが、ゴブリンアサシンが現れ、奏の首をナイフで切りつけようとした。


 しかし、その攻撃は【嵐守護ストームガード】で無効化され、ゴブリンアサシンのナイフは遠くへ弾かれた。


「じゃあ、終わりだ。【影移動シャドウムーブ】」


 ガァン! パァァァッ。


 ゴブリンアサシンの影からその背後に飛び出し、奏はゴブリンアサシンの脳天にバアルを叩きつけた。


 VITの数値が高くないゴブリンアサシンは、奏がスキルを使わずとも一撃で倒せた。


 ガァン! パァァァッ。


 そして、ゴブリンアサシンの奇襲を防いだ奏に、完全に腰を抜かして立てなくなったゴブリンアーマーナイトも、すぐにゴブリンアサシンの後を追った。


《奏はLv37になりました》


《楓はLv35になりました》


《紅葉はLv32になりました》


 神の声が途切れると、奏は魔石をバアルに吸収させる。


《バアルはLv37になりました》


 そこまで終えると、楓と紅葉が奏に駆け寄って来た。


「奏さん、無事ですか?」


「勿論。楓のおかげで、ゴブリンアサシンの攻撃を防げたよ。ありがとな」


「エヘヘ、私が奏さんを守ったんですね♪」


 奏に頭を撫でられ、楓は嬉しそうに体をくねらせた。


「奏君、容赦ないねぇ。敵を裸にしてから、脳天に一撃かますなんて」


「当然だ。奪える戦力を奪わないのは、戦術としてあり得ない」


「それもそうね。狡猾なくらいじゃないと、今の地球では生き残れないわ」


 紅葉は奏の言い分に納得し、首を縦に振った。


「奏君、今回手に入れた武器、貰っても良い?」


「合成するのか?」


「うん。ちゃんとした鉄でできてるみたいだから、合成素材としては申し分ないかなって」


「好きに使ってくれ」


「そうさせてもらうわ。あ、そうだ。鉞も2本出してもらって良い?」


「わかった。【道具箱アイテムボックス】」


 奏から許可を取ると、紅葉はジャンクランスVer.5とジャンクバックラーVer.3の他に、今までの戦闘で奏が奪った武器や鎧を地面に並べた。


 そして、ジャンクランスVer.5と鉞2本、鉄の槍を左側にまとめ、ジャンクバックラーVer.3と鉄の盾、鉄の鎧を右側にまとめた。


「じゃあ、やるわね。【賭合成ベットシンセシス】【賭合成ベットシンセシス】」


 紅葉の掛け声により、2つの光が素材の山を包み込んだ。


 それらが一体化し、光が収まる頃には黒光りする槍と鋼色のガントレットが姿を現した。


「どうやら完成したようね。ジャンクランスVer.6とジャンクガントレットVer.4よ」


 完成した槍とガントレットを身に着けると、紅葉はご満悦だった。


「装備スキルに何か変化はあったのか?」


「確認してみるわ。【分析アナライズ】」


 スキル名を口にすると同時に画面が現れ、紅葉はそれを見て2つの装備スキルの欄をチェックし始めた。


 紅葉が文字を読む動きを止めた途端、ニヤニヤし始めたことから、奏と楓はスキルに変化があったことを理解した。


「スキルを2つも会得したわ。【斬撃スラッシュ】と【反撃カウンター】よ」


『斬撃を飛ばすスキルと、戦闘中に受けたダメージを次の一撃に乗せるスキルか。悪くねえんじゃねえの?』


「フッ、遂に私も斬撃を飛ばせる女になったのね」


 気障なポーズを取りながら、よくわからないことを口にする紅葉に対し、奏と楓は引きつった笑みを浮かべた。


「斬撃を飛ばせる女ってなんだよ」


「気にしたら負けです。奏さん、紅葉お姉ちゃんは放置しておきましょう」


 2人が頷き合うと、紅葉が頬を膨らませた。


「なーんか、昨日と今日だけで奏君と楓が急激に仲良しになってる気がする」


「えっ、私と奏さんがカップルみたい?」


「そうは言ってないわよ。楓、本当に言うようになったわね」


 楓が奏の腕に抱き着き、紅葉を牽制すると、紅葉は楓を奏から引き剥がそうとした。


 争う楓と紅葉を放置して、奏はバアルに疑問を投げた。


「バアル、ゴブリンアサシンやゴブリンアーマーナイトは、ゴブリンシーフやゴブリンナイトから進化したのか?」


『その通り。俺様が説明しなくても、ちゃんとわかってたか。安心したぜ』


「戦った感じが、どっちも上位互換みたいだったからな」


『その認識で間違ってねえよ。もしかして、ゴブリンの進化の流れでも知りたくなったか?』


「ああ。何も知らないで戦うよりも、知っておいた方が絶対にマシだ」


『良いぜ。しっかり教えてやるよ』


 奏が戦うことに前向きになったことが嬉しくて、バアルはご機嫌な状態でレクチャーを始めた。


 ゴブリンのベースは、何も付いてないただのゴブリンだ。


 そのゴブリンから、ゴブリン〇〇のように○○に職業が入ったゴブリンへと進化する。


 例えるならば、ゴブリンランサー、ゴブリンタンク、ゴブリンアーチャー等だ。


 稀に、○○ゴブリンのように突然変異することもある。


 奏達が戦った、ホブゴブリンはこちらに当てはまる。


 また、ゴブリンという種族名がなくなっても、ゴブリン系統のままのモンスターもいる。


 それは、海に特化したサファギンや、行き過ぎた殺人衝動を抱えるレッドキャップ等のことだ。


 そして、ゴブリンは雑魚として知られているかもしれないが、雑魚モンスターの中では進化する回数が多い部類である。


 ゴブリンカーストの上位の存在ならば、そこそこのモンスターだって余裕出倒せるぐらいだ。


 ゴブリンの中で、進化できるのは基本的にはゴブリン○○と種族名が変わった者達か、ゴブリンと種族名が外れた者達だけだ。


 ○○ゴブリンは、それ以上進化することはない。


 ゴブリン○○の進化先は、今までに出て来た進化済みのゴブリンを例に挙げると、以下の通りである。


 ゴブリンシーフは、ゴブリンアサシンになる。


 ゴブリンナイトは、ゴブリンアーマーナイトになる。


 ゴブリンライダーは、ゴブリンテイマーになる。


 ゴブリンアーチャーは、ゴブリンスナイパーになる。


 ゴブリンランサーは、ゴブリンハイランダーになる。


 ゴブリンタンクは、ゴブリングラディエーターになる。


 ゴブリングラップラーは、ゴブリンモンクになる。


 ゴブリンソルジャーは、ゴブリンジェネラルになる。


 ゴブリンメイジは、ゴブリンソーサラーになる。


 ゴブリンプリーストは、ゴブリンハイプリーストになる。


 以上のように、2回目の進化先はゴブリンから進化した時に決まっている。


 しかし、例外が1つだけある。


 それは、ゴブリンアーミーのことだ。


 同一種のゴブリンが一定数揃うことで、本来の進化先とは異なるゴブリンアーミーに強制進化するのである。


 個にして群、群にして個のゴブリンアーミーは、これ以上進化することはないが、統率が取れていて相手取るのに手間がかかる。


 上記以外でも、まだ進化先が出てきていないものもあるが、バアルの奏への説明は以上の内容だった。


『モンスターの進化ってのは、覚えんのが面倒だぜ。もっと知りたくなったなら、時間のある時にでも聞いてくれや』


「そんな研究する時間があるなら、俺は寝ることを優先するに決まってんだろ」


『ケケケ、違いねえな。それでこそ奏だぜ』


 終わり方は締まらない感じだったが、奏はバアルのおかげでゴブリンの進化について知識を深めることができたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る