第22話 くっ、楓にイジられる日が来るとは、なんて日だ!

 一本道を進むと、奏達は早速モンスターの集団に遭遇した。


『ゴブリンランサー、ゴブリンタンク、ゴブリンアーチャー、ゴブリンプリーストが3体ずつか。バランスは取れてるぜ』


「相手を評価してどうする。【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】」


「「「ゴブッ?」」」


 バアルにツッコミを入れてすぐに、奏は【引寄アポーツ】を3連続で発動し、ゴブリンアーチャーから弓矢を奪い取った。


『ケケケ。弓矢を持たないゴブリンアーチャーなぞ、ただのゴブリンだ。やるじゃねえか』


「遠距離攻撃は潰した。紅葉、MPに気を付けて攻撃」


「了解! 【火球ファイアーボール】」


 ボッ! 


「ゴブッ!?」


 突進してきた先頭のゴブリンランサーに、紅葉の【火球ファイアーボール】が命中した。


 一撃で倒せなかったものの、そのゴブリンランサーの体は燃え、熱さに苦しんでいる。


「【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】【引寄アポーツ】」


「「「ゴブッ!?」」」


 ゴブリンプリースト達に回復させないように、奏はゴブリンプリースト達から杖を奪った。


「ありがとう、奏君! 【火球ファイアーボール】【火球ファイアーボール】【火球ファイアーボール】」


 ボボボッ! パァァァッ。


 先頭のゴブリンランサーに、【火球ファイアーボール】が命中して、火の勢いが強まると、すぐ後ろにいた2体のゴブリンランサーにも燃え移った。


 そして、駄目押しでそこから2回【火球ファイアーボール】が当たることで、ゴブリンランサーは全滅した。


 残りは、盾しか持っていないゴブリンランサーが3体と、丸腰のゴブリンアーチャーとゴブリンプリーストが3体ずつだ。


「紅葉、丁度良いから、槍の練習もしとけば?」


「うん!」


 武器さえなければ怖くないと判断し、奏にお膳立てされた紅葉は、少し遅れてやって来たゴブリンタンクにジャンクランスVer.3で攻撃し始めた。


 カァン! カァン! カァン! グサッ!


「ゴブッ!?」


 ダン!


「きゃっ!?」


 1体のゴブリンタンクに、紅葉の刺突が刺さったが、その隙に横から別のゴブリンタンクのタックルが紅葉を襲った。


「【回復ヒール】」


 すかさず、楓が【回復ヒール】で紅葉をフォローした。


「紅葉、加勢する。【聖撃ホーリースマイト】」


 ドゴン! ドガッ! パァァァッ。


 紅葉にタックルをかましたゴブリンタンクの側面に回り込み、奏は【聖撃ホーリースマイト】を当てた。


 そのゴブリンタンクは、残り2体にぶつかり、3体まとめてHPを全損した。


「待って、奏君。後は私がやるから」


「わかった」


 ジャンクランスVer.3を握り直し、紅葉は丸腰の生き残ったゴブリン達を次々に刺殺した。


 逃げるゴブリン達を追いかけ、一方的に攻撃する紅葉の方が悪そうに見えるのは、気のせいではないだろう。


 最後の1体を突いて倒すと、神の声が戦闘の終わりを告げ始めた。


《奏はLv31になりました》


《奏はLv32になりました》


《楓はLv29になりました》


《楓はLv30になりました。特典として、楓は【防御強化ディフェンスライズ】を会得しました。》


《楓の【自己鑑定ステータス】が、【分析アナライズ】に上書きされました》


《楓の職業が、今までの経験により”聖職者クレリック”になりました》


《楓の【回復ヒール】が、【中級回復ミドルヒール】に上書きされました》


《紅葉はLv24になりました》


《紅葉はLv25になりました》


《紅葉はLv26になりました》



「奏さん、私も職業に就きました! ”聖職者クレリック”です! 奏さんとお揃いで、神様系の職業ですね!」


 奏が退魔師エクソシストであり、自分が聖職者クレリックであることから、自分達に共通点があると気づき、楓は喜んだ。


 好きな人と共通点がある事実が、楓には嬉しかったのだ。


「そうだな。バアル、”聖職者クレリック”の説明を頼む」


『あいよ。”聖職者クレリック”ってのは、神の力を借りて味方を癒し、支援する者だ。攻撃する動作の効果が半減する代わりに、味方を癒す行動、味方を支援する行動の効果が2.0倍になるぜ』


「なるほど。じゃあ、【防御強化ディフェンスライズ】の効果は?」


『一定時間、術者のINTの数値分、対象者のVITを高めるスキルだな』


「・・・それって、奏さんのお役に立てますよね?」


 バアルと奏の話を聞き、楓が目を輝かせた。


 今までは、回復要員でしかなかったので、奏に守ってもらうだけだったが、【防御強化ディフェンスライズ】を使えるなら、奏の戦闘を手助けできる。


 楓はそれに気づいたのである。


『確かにな。奏が【嵐守護ストームガード】と【守護行動ガードムーブ】を使える今、楓嬢ちゃんが【防御強化ディフェンスライズ】を会得したのはでかい。奏のVITが上昇すれば、【嵐守護ストームガード】で無効化できる可能性が増え、【守護行動ガードムーブ】で楓嬢ちゃんと紅葉の姉ちゃんを守れっからな』


「そうなんです! 【分析アナライズ】」


 楓の言いたいことを、バアルは理解して口にしたため、楓が我が意を得たりとドヤ顔になった。


 そして、自分がどれだけ強くなったか確かめるため、楓は【分析アナライズ】を発動した。



-----------------------------------------

名前:秋山 楓  種族:ヒューマン

年齢:20 性別:女 Lv:30

-----------------------------------------

HP:180/180

MP:180/180

STR:175

VIT:175

DEX:190

AGI:175

INT:190

LUK:190

-----------------------------------------

称号:<救命者><先駆者>

職業:聖職者クレリック

スキル:【分析アナライズ】【中級回復ミドルヒール】【防御強化ディフェンスライズ

-----------------------------------------

装備:ヤドリギの杖

-----------------------------------------

パーティー:高城 奏・秋山 紅葉

-----------------------------------------



「奏さん、【防御強化ディフェンスライズ】でバックアップ頑張ります!」


「楓、ありがとう。ただ、ガンガン使い過ぎて、【中級回復ミドルヒール】に使うMPが足らないってことには気を付けてね」


「勿論です! 紅葉お姉ちゃんとは違いますから、安心して下さい!」


「くっ、楓にイジられる日が来るとは、なんて日だ!」


 額が眩しい芸人の持ちネタを真似するあたり、紅葉にはまだ余裕がありそうである。


 やれやれと溜息をつき、奏は散らばった魔石をバアルに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv31になりました》


《バアルはLv32になりました》


 魔石の吸収作業が終わると、奏は思い出したように紅葉に話しかけた。


「紅葉、戦闘中に弓矢と杖を奪ったけど使うか?」


「使うわ! 楓にばかりアピールさせてられないもの! ぜーんぶ頂戴!」


 額に稲妻のマークがある魔法使いの少年のようなセリフを口にして、紅葉は奏から弓矢と杖を貰い受けた。


 そのまま、紅葉は合成作業に入るらしい。


「【再利用リサイクル】【再利用リサイクル】」


 地面に並べた素材を並べ、紅葉は2回連続で【再利用リサイクル】を発動した。


 それにより、2つの光が生じて、まとめられた素材のグループがそれぞれの光に包まれた。


 光が収まることで、新しく出来上がった物が奏達の前に現れた。


 1つ目は、血が固まった後のような赤黒い槍だ。


 槍の先端が、ジャンクランスVer.3よりも鋭くなっており、穂の根本の仕込みとグリップにボタンが追加されている。


 合成素材は、ジャンクランスVer.3とゴブリンアーチャーの弓矢3つである。


 2つ目は、木に鉄板を張り付けた丸い盾だ。


 その中心には、黒い球が埋まっており、その球を囲むように3本の杖が三角形のマークを模っていた。


 その大きさは、ジャンクシールドVer.2の時と変わらない。


 合成素材は、ジャンクシールドVer.2とゴブリンプリーストの杖3本である。


「できたわ。ジャンクランスVer.4とジャンクバックラーVer.3よ。【自己鑑定ステータス】」


 上手くいった手ごたえがあったらしく、紅葉はドヤ顔で画面を確認した。


 そして、自分の思い通りになったことがわかり、ドヤ顔からニヤニヤした顔に変わった。


「紅葉、どうした?」


「フッフッフ。奏君、私は常に成長してるの。ジャンクランスVer.4はボタンを押せばパイルバンカーになるわ。そして、ジャンクバックラーVer.3のおかげで、私は【微回復マイナーヒール】を会得したのよ」


「紅葉お姉ちゃん、酷いです! 回復は私の専売特許のはずです!」


「甘い! 甘過ぎるわよ楓! そんなの、練乳入りのお汁粉よりも甘いわ! 私は万能型になって無双してやるわ!」


 悔しがる楓に対し、紅葉はそれを見下ろす。


 大人気ない紅葉を見て、奏はジト目を向けた。


「でもさ、【微回復マイナーヒール】って【回復ヒール】の劣化版だろ? しかも、楓は<救命者>の称号と”聖職者クレリック”の職業のおかげで、回復の効果が2.25倍になるんだから、楓と比べたらショボそう」


「・・・これからよ! ジャンクバックラーVer.3には将来性がある!」


「ないです! 紅葉お姉ちゃんの胸と一緒です!」


「なん・・・、だと・・・」


 予想外の一撃を受け、紅葉は地面に四つん這いになった。


 楓と紅葉の言い争いを聞いていても、ほとんど動じない奏だったが、流石に紅葉がかわいそうになる楓の一言に、心の中で合掌した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る