第3章 ゴブリンの巣
第21話 ケケケ。お前、ダンジョンに愛されてんな
大きな揺れと神の声により、奏と紅葉は目を覚ました。
ガタガタガタガタガタッ。
「地震か!?」
「大きいわ!」
テーブルや棚が揺れ、食器同士がぶつかる音が聞こえる。
跳ね起きた奏は、すぐに紅葉に指示を出した。
「紅葉、テーブルの下に入れ! 俺は楓を見に行く!」
「わかった!」
奏から指示を受け、揺れで立ち上がれない紅葉はハイハイで机の中に潜った。
レベルアップのおかげで、かなり鍛えられた能力値に助けられ、奏は大きく揺れている今でもどうにか自分の歩きたいように歩けている。
ドンドン!
「楓、入るぞ!」
奏が楓の部屋に入ったその時、横になったまま動けない楓の頭の上に、ベッドスタンドが倒れかけていた。
「【
楓を守ろうと、強く楓を引き寄せることを願って奏は前に手を伸ばした。
「きゃっ」
その瞬間、奏の目の前に楓が現れ、咄嗟に奏は楓をお姫様抱っこでキャッチした。
倒れたベッドスタンドは、それと入れ替わりで楓が頭を乗せていた枕の上に落ちた。
「大丈夫か、楓?」
「はぅ~。だ、大丈夫です~」
至近距離に奏の顔があるせいで、楓の顔は真っ赤だった。
楓をキャッチしてすぐに、揺れはゆっくりと収まった。
完全に揺れなくなってから、奏は楓を床に降ろした。
「無事で良かった」
「奏さん、ありがとうございます。また、助けてもらっちゃいましたね」
「気にすんな。それより、体調はどうだ? 寝てスッキリしたか?」
「はい。もう大丈夫です。奏さんのおかげで、私は完全復活しました」
元気になったとアピールするため、楓は両手を腰に当てて胸を張った。
その瞬間、楓の胸がポヨンと音を立てて揺れた。
奏はそれに照れることなく、楓の手を引いた。
「リビングに行こう。紅葉と合流したい」
「そ、奏さん、私に魅力はありませんか?」
あまりにもあっさりとした反応に、自分の女性としての魅力に自信を失いつつあった楓は、心の内にその疑問を溜めておけず、うっかり口にしてしまった。
「そんなことはない。楓は魅力的だ。でも、今はそういうことを考えてる場合じゃないから、自分を律してるだけ」
「・・・エヘヘ~」
魅力的だと言ってもらったことで、楓はデレデレになった。
そんな楓の手を引き、奏はリビングへと戻った。
リビングに移動すると、紅葉の潜った机の周囲に花瓶が落ちており、机の周辺以外も物が散乱していた。
「紅葉、大丈夫か?」
「なんとかね。ちょっと、奏君。楓に何したのよ? デレデレじゃないのよ」
「ん? 楓の質問に答えたら、楓がこうなった。以上」
「その質問の内容について、小一時間程問い詰めたいところだけど、まずは片付けが先ね」
「わかった。楓、正気に戻れ。片付けするぞ」
「は~い」
照明が点かないので、奏は懐中電灯を使って床を照らし、3人でリビングを片付け始めた。
片付けが終わるまで30分かかった。
しかし、ガラスや陶器の破片等もしっかりと掃除したので、足の踏み場は確保できている。
ちなみに、紅葉が【
片付けが落ち着くと、奏はようやく家の外に注意を向けた。
「ところで、外はどうなってる?」
「ちょっと待ってて。今、見てみるから」
ベランダの近くにいる紅葉に、奏が外の様子を確認するように言うと、紅葉はすぐにベランダに移動した。
そして、すぐにワクワクが止まらないといった表情でリビングに戻って来た。
「外が洞窟になってる! これ、ダンジョンよね!?」
その言葉を聞いた奏は、紅葉の言ったことを自分でも確かめるため、素早くベランダに出た。
すると、家の中よりも外の方が明るく、そこは奏が今朝目覚めた時と同じような光景が広がっていた。
スリープウェルパレスがすっぽり、洞窟の中に納まっていたのだ。
周囲は壁と天井、通路であり、両隣にあったマンションとアパートはその姿を消していた。
「マジか。また、ダンジョンじゃん」
シュイン。
『ケケケ。お前、ダンジョンに愛されてんな』
「そんな愛は願い下げだ」
突然現れたバアルが、余計なことを言うので、奏は苛立ちながら言葉を返した。
『それにしても、良かったじゃねえか?』
「何がだ?」
『ダンジョンの中は、その壁や通路が特殊な素材で構成されてるおかげで、灯りいらずなんだよ。電気が止まった今、この灯りは貴重だろ?』
「・・・確かに」
懐中電灯の電池だって、いつまでもあるわけではない。
いずれは切れてしまうのだから、バアルの言う通り、ダンジョンの中が行動するのに十分な光量であることに奏は感謝した。
「バアル、周囲にモンスターはいないのか?」
『今はいねえな。だが、どうするつもりだ? 行き止まりのここに攻め込まれたら、逃げ場はねえぜ?』
「退路を確保する必要があるな」
奏はリビングの中に戻った。
そこでは、テンションが上がり過ぎて、コサックダンスを踊っている紅葉を楓がおとなしくさせようと必死だった。
「紅葉お姉ちゃん、コサックダンスは止めて!」
「アハハ! ダンジョンだよ、ダンジョン!」
「何やってんだ、馬鹿」
「・・・痛い」
奏の手刀を脳天に落とされ、紅葉は涙目になりながら踊るのを止めた。
非常事態だというのに、危機感が欠如した紅葉を見て、奏はイラっときてしばいたのである。
「奏さん、外は本当にダンジョンなんですか?」
「間違いない。見覚えのある景観だったし、バアルもそう断言した」
「そうですか・・・」
折角脱出できたのに、またダンジョンに呑み込まれたので、楓はしょんぼりしてしまった。
「大丈夫。俺が付いてるから」
「・・・はい。でも、今度は私も役に立ってみせます」
「そっか。頼りにしてるよ」
「任せて下さい!」
「ぐぬぬっ。私が頭を痛めてる間に、イチャコラするなんて」
紅葉は頭を押さえつつ、頬を膨らませて抗議した。
それから、奏は行き止まりにスリープウェルパレスがある危険性を述べ、周囲の探索に出ることを提案した。
楓も紅葉も、昼寝で寝すぎたこともあり、眠くはなかったので奏に賛成した。
奏達は探索できる服装に着替え、外に出ることにした。
洗濯が終わり、しっかりと乾いていたので、奏は迷彩シリーズを着て準備万端だ。
楓と紅葉は、運動に適した服は持っていなかったが、比較的動きやすい服に着替えた。
そして、奏達はスリープウェルパレスの外に出た。
「バアル、今度こそ真面目にナビを頼む。目的地はダンジョンの出口だ。ダンジョンボスの討伐じゃねえぞ」
『そんなつまんねえこと言うなよ。ダンジョンボス、倒しに行こうぜ』
「断る。楓と紅葉のレベリングはするが、ダンジョンボスにぶつかるつもりはない。2人を危険な目に遭わせたくない」
『はぁ・・・。しょうがねえな。わかったよ。まずは脱出だ。俺様も、奏達に死んでほしい訳じゃねえからな』
不本意だが、バアルは奏の言うことを聞くことにした。
奏がその気になれば、ハイペースで自分の力を取り戻せるのは間違いない。
だが、奏が
まだ見ぬ他の神器に、奏を奪われるのはバアルにとって避けたいことなのだ。
だから、奏に嫌われて干されないようにするために、奏の好感度を稼ぐ必要がある。
バアルは奏の神器であり、ユニーク武器であるから、捨てられることはない。
それでも、ずっと姿を消したままにされれば、魔石やモンスターカードを吸収する機会を失うことに他ならない。
そうなると、いつまでたっても力を取り戻せないので、現状でバアルが選べるのは奏に従うという選択肢だけなのだ。
打算があるとはいえ、バアルは奏のことが嫌いじゃない。
なんだかんだ言いつつ、戦闘センスはあるし、魔石もモンスターカードもくれる良いパートナーだと思っている。
「そうしてくれ。バアルの索敵能力自体は、信頼してるんだ。だから、後は俺の気持ちも汲んでくれよな」
『・・・こいつはもう、ほんっとうにジゴロに向いてやがるぜ』
呆れた声を出すものの、自分のことを信頼していると奏に言われたことに、バアルは嬉しく感じるのだった。
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