第20話 お布団の誘惑には勝てなかった

 ゴブリンジェネラル達の魔石をまとめ、奏はそれらをバアルに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv29になりました》


《バアルはLv30になりました》


《バアルは【嵐守護ストームガード】を会得しました》


『ケケケ。【嵐守護ストームガード】も使えるようになったか』


「バアルが喜ぶスキルなのか?」


『おうよ。このスキルは特殊だ。攻撃を受ける瞬間だけ自動で発動し、発動した奴が嵐を纏ってそいつのVITの数値の8割以下の攻撃を無効化するんだぜ。神っぽいだろ?』


「使う俺はヒューマンだけどな」


『細けえことは良いんだよ。それより、奏は能力値を確認しとけ。どの程度の攻撃まで、無視して戦えるか把握しろ』


 バアルが真面目にアドバイスをしたので、奏は素直に頷いた。


「【分析アナライズ】」



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名前:高城 奏  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:男 Lv:30

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HP:230/230

MP:230(+230)/230(+230)

STR:230(+230)

VIT:240

DEX:230

AGI:240

INT:230

LUK:230

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称号:<疾風迅雷><喧嘩師><簒奪者>

職業:退魔師エクソシスト

スキル:【分析アナライズ】【中級睡眠ミドルスリープ】【引寄アポーツ

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装備:バアル Lv:30

装備スキル:【雷撃雨ライトニングレイン】【道具箱アイテムボックス】【聖撃ホーリースマイト】【竜巻トルネード

      【守護移動ガードムーブ】【火球ファイアーボール】【嵐守護ストームガード

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 (<簒奪者>の称号のおかげで、かなり強化されてるな)


  自分の能力値を確認した奏は、普通のLv30がここまで数値を伸ばせないことを理解しているため、<簒奪者>の称号に感謝した。


 モンスターを倒す度に、いずれかの能力値がランダムに+5されるという効果は、【嵐守護ストームガード】を会得した今、任意の能力値に振り分けられればベストだった。


 しかし、そうじゃなくても、十分に恩恵のある効果のため、奏はそこまでは願ったりしなかった。


 能力値の確認を終えると、奏は楓を気遣って声をかけた。


「楓、家で休むか?」


「は、はい。そうさせていただきます」


 くぅぅぅっ・・・。


「その前に昼飯だな」


「うぅっ・・・」


 安心したことで、緊張感が切れたらしく、楓から空腹を知らせる音が鳴った。


 邪魔者は消えたので、奏達は楓と紅葉の部屋に移動した。


 残念ながら、スーパーと同じで電気が止まっており、ガスも止まっていた。


 不幸中の幸いと言えば良いのか、水道だけはまだ止まっていなかったので、奏が家ごと持って来たカセットコンロを使って昼食を作ることにした。


 奏と紅葉は、スーパーで死体を見ても気持ち悪くなかったので、普通に食べれそうだった。


 だが、楓は気分がかなりマシになったとはいえ、がっつりとしたものは胃が受け付けそうになかった。


 念のため、楓は自室に戻って横になった方が良いという話になり、スーパーでの移動で汚れた体を拭くのは紅葉の仕事となった。


 その間、奏はキッチンを借りて、楓のためにお粥を作ることにした。


 当然、バアルを出していたら邪魔になるので、今は消している。


 楓達の家に、土鍋はなかったのだが、奏がカセットコンロと一緒に【道具箱アイテムボックス】から取り出したので、お粥を作る準備はばっちりだ。


 薄目ではあるが、しっかりとした味が付いた卵粥を作り、仕上げに葱を上に乗せたから完成である。


 卵粥ができるのと同時に、紅葉が楓の部屋から戻って来た。


「あら、良い匂い。奏君って、自炊するんだ?」


「昔からの習慣でな。一通りはできる。じいちゃんに仕込まれたから、ジビエ料理も作れるぞ」


「奏君、ワイルドよね。脱いだらすごかったし」


 浴室で見た奏の細マッチョな裸を思い出し、紅葉は顔を真っ赤にした。


「思い出して恥ずかしがるなら、水着で入って来なきゃ良かったのに」


「そっちじゃないわよ。私、適当に何か作っとくから、楓に食べさせてあげて」


「わかった」


 自分達の昼食の用意は紅葉に任せ、奏は楓の部屋に土鍋に入った卵粥を持っていった。


 コンコン。


「入るぞ」


「奏さん!?」


 まさか、紅葉ではなく奏が入って来るとは思ってもなかったので、楓は驚いて上体を起こした。


 乙女としては、好きな殿方を自室に入れるなら、万全の準備をしたいところだったが、自分が気分を悪くしてしまったせいで、片付ける余裕なんてなかった。


 幸い、楓は日頃から整理整頓をしっかりしてるので、いきなり自室に入られても問題はなかった。


 そうだとしても、やはり準備をしたかったというのが正直なところだろう。


 楓の部屋は、薄いピンクを基調とした若い女性の部屋そのものだった。


 ちなみに、紅葉の部屋はオタク趣味全開で、女性らしさは感じられないのだが、それは置いておこう。


「そのパジャマ、かわいいな」


「はぅ・・・」


 横になるために、パジャマに着替えたのは良いものの、奏にその姿を見られて楓は恥ずかしくなった。


 そんな楓の恥ずかしさなど気にせず、奏は土鍋の蓋を開け、中身を楓に見えるようにした。


「卵粥を作った。食べられそうか?」


「うわぁ、良い匂いですね。奏さんが作ってくれたんですか?」


「まあな。がっつりしたものは食べらんないだろうけど、これぐらいならいけると思ってな」


「ありがとうございます」


 奏が自分の体調を気遣い、わざわざ卵粥を作ってくれたことが嬉しくて、楓は笑顔になった。


「食べさせてやる。口を開けて」


「え?」


「早く」


「ふぁ、ふぁい」


 有無を言わせぬ奏の態度に、楓は嬉しさと恥ずかしさが半々になりながら、奏に卵粥を食べさせてもらった。


 食べている間に、恥ずかしさが消えて、純粋に嬉しそうに食べるようになったので、奏は親鳥が雛に餌を与えている気分になった。


 卵粥を完食すると、楓は満足した表情になった。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様だ」


「ふぁ~、あっ、ごめんなさい」


「食べたら眠くなったか?」


「は、はい」


 欠伸する姿を奏に見られ、楓の顔が赤くなった。


「それは当然だろ。無理に我慢する方が、体に良くない。寝ることは大事だ」


「アハハ、奏さんは眠るのが大好きなんですもんね」


「大好きだ。正直、もう寝ても良いんじゃないかと思ってる」


「奏さんらしいです。それで、その・・・」


 笑顔から一転、楓はモジモジし始めた。


「どうした?」


「私が眠るまで、手を握っててもらえませんか? 目を閉じると、あの死体が浮かんできそうで怖いんです」


「わかった」


 甘えるのは、病人の特権だ。


 それに、奏の中で楓は既に、庇護欲をそそられる保護対象だ。


 だから、奏は楓の望む通り、楓の手を優しく握った。


 楓には、恥ずかしい気持ちはあるけれど、しっかりと寝て体調を回復させなければ、奏達の足を引っ張ってしまうと理解できていた。


 その気持ちに加えて、自分が好意を寄せている奏が、自分が安心して眠れるように手を握ってくれたことが嬉しくて、楓の心の中は恥ずかしさと申し訳なさと嬉しさが入り混じっていた。


 そんな状況では、欠伸は出ても寝つけはしなかった。


 すると、楓の手を握っている奏の方が眠そうな表情になって来た。


 それを見た楓は、混乱する頭を制御しきれず、自分の本能に従った言葉を口にしてしまった。


「そ、奏さん、眠いなら一緒に寝ますか?」


「えっ、良いの? 失礼します」


「ふぇっ?」


 楓から許可が下りたので、奏は楓の上に載っている掛布団をずらし、自分もその中に入った。


 楓は自分が何を言ったのか、その時になってようやく気付き、大胆なことを口にしてしまったと恥ずかしさで顔から湯気が出るほど顔が真っ赤になった。


 そこに、事態をややこしくする来客があった。


 コンコン。


「入るわよって、何やってんの奏君!?」


「お布団の誘惑には勝てなかった」


「もう、奏君ってばお茶目なんだから~、とでも言うと思った!? 出なさい!」


「え~?」


 半分寝かけていたところを、無理やりベッドの中から引きずり出され、奏は不満そうな表情になった。


 ベッドには、恥ずかしさが降り切れて、幸せそうな顔で気絶している楓の姿があり、紅葉は自分の額に手をやった。


「寝たいなら、お昼を食べてからに昼寝すれば良いでしょ?」


「・・・それもそうか」


 紅葉に連れ出され、奏はリビングに移動した。


 それから、昼食と食休みを取ってから、奏は自分の布団を取り出してリビングに敷き、【中級睡眠ミドルスリープ】を自分に発動したら、一瞬で眠りについた。


 寝ることが好きな奏の寝顔を見て、紅葉も眠くなってしまい、ソファーでくつろいでいたものの、しばらくしたら紅葉も寝息を立てていた。


 この日、結局奏達はいろいろ動いた疲れで日が沈むまでぐっすりと寝てしまった。


 そんな奏達を起こしたのは、部屋を激しく揺らす大きな地震と神の声だった。


《地球の人口が半分を切りました。これより、ダンジョン侵食第二フェーズに入ります》

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