第18話 急ごう。生鮮食品を優先して回収しなくちゃ

 楓と紅葉の言い争いが終わると、紅葉が戦利品を使って自分の武器の強化したいと言い出した。


 奏も楓も、紅葉の戦力が上がることに反対するつもりはないので、すぐに強化することになった。


「【再利用リサイクル】【再利用リサイクル】」


 地面に並べた素材を並べ、紅葉は2回連続で【再利用リサイクル】を発動した。


 それにより、2つの光が生じて、まとめられた素材のグループがそれぞれの光に包まれた。


 光が収まることで、新しく出来上がった物が奏達の前に現れた。


 1つ目は、赤みがかった黒い槍だ。


 槍の先端が、ジャンクランスVer.2よりも鋭くなっている。


 合成素材は、ジャンクランスVer.2とゴブリンランサーの槍2本、ゴブリンメイジの杖2本である。


 2つ目は、木に鉄板を張り付けた丸い盾だ。


 その中心には、黒い球が埋まっており、その球を囲むように三角形のマークがあった。


 見た目は、ジャンクシールドVer.1よりも小さくなっている。


 合成素材は、ジャンクシールドVer.1とゴブリンタンクの盾5つだ。


「できたわ。ジャンクランスVer.3とジャンクバックラーVer.2よ」


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、世界で初めてスキルが付与された武器を作成しました。初回特典として、<技師>の称号を会得しました》


「<技師>か。バアル、説明頼む」


『おうよ。DEXの数値が+30されるぜ。それと、生産系スキルの中でも、合成するスキルの成功率が上がるな』


「やっぱり、合成って失敗することもあり得るの?」


『当たり前だ。100%成功するなんて、神レベルじゃねえか。ヒューマンじゃ無理だろ』


「私、失敗しないので」


『奏、この姉ちゃんやっぱりヤベえよ。なんで根拠もないのにこんな自信満々なんだよ?』


「俺に訊くな」


 決め顔で失敗しない宣言をする紅葉に対し、バアルが足もないのに距離を取ろうとした。


 俺様キャラのバアルを引かせるあたり、紅葉が普通じゃないのは明らかだろう。


「紅葉お姉ちゃん、どんなスキルを使えるようになったの?」


「一緒に見ましょう。【自己鑑定ステータス】」



-----------------------------------------

名前:秋山 紅葉  種族:ヒューマン

年齢:25 性別:女 Lv:18

-----------------------------------------

HP:90/90

MP:70/90

STR:90(+15)

VIT:90(+10)

DEX:140

AGI:100

INT:100

LUK:90

-----------------------------------------

称号:<廃品回収ジャンク屋><不曉不屈><技師>

スキル:【自己鑑定ステータス】【再利用リサイクル

-----------------------------------------

装備1:ジャンクランスVer.3

装備1スキル:【火球ファイアーボール

装備2:ジャンクバックラーVer.2

-----------------------------------------

パーティー:高城 奏・秋山 楓

-----------------------------------------



 自分のデータを確認した途端、紅葉がニヤニヤし始めた。


「グフフ。私が魔法を使えるようになるとはね。しかも、【火球ファイアーボール】なんてテンプレじゃない。おっと、MP切れに気を付けなくちゃ」


 グフフなんて気味の悪い笑い方をするものだから、楓が実の姉に怯えて奏の腕に抱き着いた。


「奏さん、紅葉お姉ちゃんが怖いです」


「スイッチが入った時のあいつって、あんな感じだ。気にしたら負け」


「楓、私をダシにして奏君とイチャつくなんて、ズルいわよ」


「紅葉、そういうことは、鏡を見てから言ってみろ。目が軽く逝ってるから」


「・・・あら、失礼。これで戻ったかしら?」


「一応な」


 奏に注意され、紅葉は数回瞬きした。


 元通りになったので、奏は紅葉を視界から外した。


 その後、奏達はしばらく歩いて最短距離にあるスーパーに到着した。


 この場所に到着するまでの道のりは、瓦礫が多くて普段よりも時間がかかった。


 普通に歩けば徒歩5分圏内だったが、瓦礫で道が塞がっていたり、先程倒したゴブリンの集団もいたので20分は時間がかかった。


 そんな苦労をして到着したスーパーだったが、その前にはモンスターの群れが待ち構えていた。


「「「・・・「「アオォォォォン!」」・・・」」」


『グレーウルフだな。あいつら、連携するから気を付けろよ』


「了解」


「奏君、試して良い?」


「良いよ。でも、無駄撃ちすんなよ?」


 紅葉が【火球ファイアーボール】を使いたいのは理解しているので、奏はMP切れにならないように注意し手許可を出した。


「任せない! 【火球ファイアーボール】」


 ボッ!


「キャイン!?」


 紅葉の攻撃が、戦闘のグレーウルフに命中し、グレーウルフ達が怯んで動けなくなった。


 その隙を、奏は見逃さなかった。


「囲まれる前に倒す。【竜巻トルネード】」


 ビュオォォォォッ!


「「「・・「「キャイィィィィン!?」」・・・」」」


 パァァァッ。


 グレーウルフ達の足元から、竜巻が発生してそれらを渦に巻き込みながら空中へと打ち上げた。


 奏の攻撃に耐えられる者はおらず、どのグレーウルフも魔石となって消えた。


《奏はLv28になりました》


《楓はLv25になりました》


《紅葉はLv19になりました》


《紅葉はLv20になりました》


 シュゥゥゥッ。


《バアルはLv28になりました》


 モンスターカードやマテリアルカードは、今回の戦闘では1枚もドロップしなかった。


 だから、奏は速やかに魔石をバアルに吸収させた。


 戦闘が終わると、紅葉が奏に抗議した。


「ちょっと奏君、私にやらせてくれるんじゃなかったの?」


「紅葉の能力値じゃ、グレーウルフを一撃で倒せない。さっきのグレーウルフ、6体はいたが、まさか全部【火球ファイアーボール】で倒すつもりだったのか?」


「そんなことはないけど、もっと撃たせてほしかったわ」


 奏の言いたいことはわかるが、それでもオタクとしては【火球ファイアーボール】でバンバン敵を倒すプレイがしたかったので、紅葉は頬を膨らませた。


「紅葉、獣に囲まれて戦ったことないからわからないだろうが、舐めたことしてると、命落とすぞ。それに、お前が満足するために、楓を危険な目に遭わせるつもりはない」


「・・・わ、悪かったわよ」


 いつになく真剣な眼差しの奏に、紅葉は素直に謝った。


 自分の命だけをチップにするならまだしも、戦闘系スキルを持たない楓を巻き込むことを理解し、冷静になったからだ。


「奏さん、もっと言ってやって下さい。紅葉お姉ちゃんを、真人間に変えるチャンスですから」 


「楓、私のことどう思ってるか、よく話し合いましょうか?」


「えっ、良いの? 小一時間は潰れるよ?」


「やっぱなしで。遠慮しとくわ」


 自分の不利を悟り、紅葉は自分の発言を撤回した。


 それから、奏達はスーパーの中に移動した。


 グレーウルフ達のせいかはわからないが、スーパーの入り口は荒らされており、自動ドアのガラスは全て割れていた。


 プツッ。


 カートをそれぞれが手に取り、店内に入った途端、スーパーの照明が消えた。


「停電か? いや、電気が供給されなくなったのかもな」


「そ、奏さん・・・」


「急ごう。生鮮食品を優先して回収しなくちゃ」


 【道具箱アイテムボックス】の亜空間の中に収納すれば、時間は経過しないから鮮度の良いまま保存できる。


 それゆえ、奏達は生鮮食品を片っ端からカートの中に集めて収納することを繰り返した。


 小さいスーパーだったこともあり、生鮮食品の回収は30分もあれば完了した。


「はいはい! 次はお菓子が良いと思います! 先生、バナナはおやつに入りますか?」


「紅葉、何言ってんだ? バナナは回収済みだろ?」


「・・・ノリ悪いわね。冗談はさておき、次は缶詰かしら? 保存が利くから、こういう事態では必須でしょ?」


「そうだな。缶詰コーナーに行こう」


 紅葉もふざけ続けることはなく、奏達は缶詰コーナーに移動した。


 すると、缶詰コーナーの陳列棚には、ほとんど缶詰が残ってなかった。


「先に来た誰かが、持って行ったんですかね?」


「多分な。もしかしたら、このスーパーのどこかに立て籠もってる奴がいるかもしれない」


「あり得るわね。奏君、バックヤードに行きましょう。缶詰が残ってるかもしれない」


「そうしよう」


 奏達は缶詰を求め、この店のバックヤードに移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る